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サッカー三昧の木曜日・・親善試合(ドイツvsブラジル、1-1)とW杯ヨーロッパ予選(オランダvsチェコ、2-0)・・(2004年9月9日、木曜日)

親善試合(ドイツ対ブラジル)は一回しか放送されないため、まずそちらから観ることにしました(W杯予選と同時刻キックオフ!)。そして見はじめてすぐに、「あ〜〜あっ、W杯予選の方にチャンネルを変えようかな・・」なんて気落ちしてしまって・・。

 私にとってドイツは第二の故郷。だから、ブラジルにもてあそばれる代表チームなんて見たくもないのですよ。それほど立ち上がりのドイツ代表のプレーは「オドオド」したものだったのです。まず何といっても、それぞれの守備プレー(守備イメージ)が、まったくといっていいほど有機的に連鎖しない・・そんなだから、ボールホルダーに対する「抑え」や次のパスレシーバーへのチェックがうまく連動するはずがないし、結果としてブラジルの上手さに翻弄されてしまうのも道理・・

 ドイツ代表の守備ブロックは、良いカタチでボールを奪い返せないだけじゃなく、ブラジル代表に、クルクルとボールを動かされるなかで、例によっての急激なテンポアップからの素早い最終勝負を繰り出されてしまう・・そしてどうしようもなくなって、ドリブルする相手を引っかけて、ペナルティーエリア際ゾーンでのフリーキックを取られ、それを、ロナウジーニョに見事に決められてしまう・・。前半の9分のことです。そんな展開を観ながら、「視るの止めようかな」なんてイージーな諦め心理に陥ってしまったというわけです。まあそれには、立ち上がりのドイツ代表のサッカーを観ながら、今回のヨーロッパ選手権での不甲斐ないサッカー内容に脳裏を占拠されてしまったということもあったけれど・・。

 でもそこからドイツが息を吹き返すのですよ。そのゴールでアタマをガ〜ンと殴られたドイツ選手たちが覚醒したというわけです。「このままじゃジリ貧だ・・このままじゃ終われない・・」。そして、攻守にわたるプレーに「ダイナミズム」が感じられるようになっていくのです。

 サッカーダイナミズムの源泉は、攻守にわたる積極的なプレー姿勢。そしてそのスタートラインは、やはり守備。ロナウジーニョに見事なフリーキックをたたき込まれたことをキッカケに、ドイツ代表の中盤ディフェンスが抜群に活性化していったのです。そのベースは、次のブラジルの展開に対する読みと、ボール奪取勝負を仕掛けていく気概。要は、オレがボールを奪い返してやる(オレが犠牲になって味方にボール奪取チャンスを作り出してやる!)という意志のレベルが、何倍にも増幅したということです。

 そしてそのことが、次の攻撃プレーにポジティブに影響しないはずがない。ちょっと文章では表現し難いのですが、要は、パスにしてもタメにしてもドリブルやキープにしても、「腰が引けた」状態と、どんどん突っかけていく攻撃的な(前がかりの)姿勢では、結果に雲泥の差が出てきてしまうということです。

 最初の時間帯のドイツ代表選手たちは、自信なく、まさに腰が引けた状態でプレーしていたのです。典型的な、受け身で消極的なプレー姿勢。だからこそ、内容でブラジルに凌駕され、そのことでより一層自信をなくしていくという心理的な悪魔のサイクルに陥ってしまっていた・・。その連鎖のクサリを断ち切るキッカケになったのが、ロナウジーニョのスーパーフリーキックゴールだったというわけです。

 その後のドイツは、今回のヨーロッパ選手権のオランダ戦(予選リーグ初戦)にも匹敵しようかという、素晴らしい内容あるサッカーを展開しました。ドリブルでもバスでも、それが「前向き」だからこそうまくいく・・逆にブラジルが、ドイツの勢いに押されて、守備で一歩遅れを取りはじめていった・・というわけです。

 この試合のブラジル代表は、ホッキ・ジュニオール、ジュアンのセンターバックの両サイドを、ロベカルとベレッチが固めるという強力な最終ラインの前に、エジミウソン、エドゥー、ジュニーニョが並び、攻撃はロナウジーニョ、ロナウド、アドリアーノが仕掛けていくという布陣。対するドイツも、フートとファーレンホルストで組むセンターバックコンビの両側を、新鋭のラームとヒンケルが固めるという最終ラインの前に、ダイスラー、フリングス、ベルント・シュナイダーが並び、バラック、クーラニー、アザモアが仕掛けていくという布陣です。

 ブラジルは、例によって「局面での個のエスプリ勝負」をベースに仕掛けていくというイメージ。後半に魅せたロナウドのドリブル勝負は絶対的なチャンスでした。対するドイツは(調子を取り戻してからのドイツは)、頻繁なタテのポジションチェンジをベースに、人とボールが活発に動きつづける組織プレーで攻め上がる。その絶対的基盤は、例によっての高い守備意識。特に、フリングス、ダイスラー、シュナイダーの臨機応変の実効カバーリングは見所満載でした。

 またこの試合では、両サイドのヒンケルとラームも、そのドリブルクオリティーの高さを証明していました。何度、彼らのドリブル突破が最終勝負の流れを演出したことか。この二人と最前線のクーラニー、またストッパーのフートは(それだけではなく、交代出場した右サイドのゲアリッツと、攻撃的ハーフとして期待される天賦の才ポドルスキーも!)まだ20歳そこそこですからね、頼もしい限りじゃありませんか。とにかく、ユルゲン・クリンズマン新監督には、世代の交代と、彼らの自信の回復を期待しています。

 これで、今年12月に日本代表とドイツ代表が対戦するフレンドリーマッチが楽しみになってきました。これだったらヤツらも良いプレーができるだろうし、逆に日本代表の良いところも引き出されるだろう・・。

 最後に・・たしかにゲームの全体的な内容ではホームのドイツに軍配が上がるけれど、決定的チャンスの数(勝負という視点)では、明確にブラジルのモノだったという事実を書き添えておかなければフェアじゃない・・。南米選手権でも、内容でアルゼンチンに圧倒されながらも、数少ないチャンスをものにして引き分け、PK戦で勝利をもぎ取ったブラジル。その、「個のチカラを主体にした最終勝負をベースにした勝負強さ」は本当に並はずれています。

 どこかの国の代表監督さんも、個のチカラ(上手さ)を前面に押し出す攻撃布陣をイメージしています。でもそれって、ドリブルで相手を抜き去ったり、「タメ」で決定的パスチャンスを作り出すなど、シュートを打つという攻撃の目的にとっての「個のチカラ」の実質的な貢献度こそが絶対的な「評価基準」でなければいけませんよね。「彼の国」は決してブラジルではないし、「彼の選手」も、決してブラジルのレベルには到達しているわけではないのですよ・・。

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 さてW杯ヨーロッパ予選のオランダ対チェコ。先日ポルトガルで開催されたミニワールドカップ(ヨーロッパ選手権)でのベストゲームの再現ということになるか・・。

 戦前の予想では、ネドビェドやポボルスキーなど、何人もの主力を欠いているだけではなく、アウェーということもあって、チェコの苦戦が予想されていました。でもフタを開けてみたら、まったくそんなことはなかった・・。「2-0」でのオランダ勝利という結果だけをみたら、やっぱりメンバー落ちが痛かったのかな・・とか、アウェーだしな・・なんていう考えが先に立ってしまうでしょう。でもね、実際のゲーム内容は、結果の数字とはまったく違っていたのですよ。それは、内容でチェコがオランダを圧倒したゲームだったのです。そんなゲームコンテンツを観察しながら、サッカーの理不尽さと、サッカーの限りない魅力を演出する背景ファクターに思いを馳せていた湯浅でした。

 素早いカウンターから・・人とボールが本当によく動く組織的なサイド攻撃から(クロスからコレルの頭狙い)・・はたまたロシツキーやバロシュが仕掛ける超速ドリブル突破からと、変化に富んだ仕掛けで何度も何度も決定的チャンスを演出しつづけるチェコ。その高質サッカーを支えているのは、言わずと知れた、実効ある中盤ディフェンスです。互いの距離がいい(臨機応変なポジショニングバランスがいい!)・・臨機応変な「集散メカニズム」がいい・・。とにかく、様々な守備プレーが、見事な有機連鎖を魅せつづけるチェコの守備に、大きな拍手を送っていました。まさに、究極の「守備意識」といったところ。

 ちょいとこれから外出しなければなりません。この試合については、あまりにもコンテンツが多いから、ヨーロッパ選手権での対戦をもう一度見直すことで「5秒間のドラマ」風にまとめ直してみようかな・・なんて思っています。もちろん自分自身の学習機会としてね。良いサッカーを何度も見返すというイメージトレーニングは、観戦テクニックを磨いてくれるのです。

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 ところで、ここのところプリントメディアではあまり書かなくなった湯浅ですが、明日発売予定の「サッカー批評」では(前回につづいて)文章を発表します。内容は、数値データを駆使した「ジュビロとマリノスの比較」。数値データでサッカーの何が表現できるのか・・。たしかに限定的ですが、発想によっては、かなり深いところまで活用できるかもしれないとチャレンジすることにした次第。一度ご覧アレ。また、大幅に加筆した「サッカー監督という仕事」の文庫本(新潮社)も好調に売れているようで、来月のオマーン戦までには増刷の報告ができそうです。それではまた・・。

 



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