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2004ヨーロッパ選手権(13)準々決勝・・まず、観られなかったイングランド対ポルトガル戦についての友人との会話・・そして再びセンセーションを巻き起こしたギリシャについて(フランス対ギリシャ、0-1)・・(2004年6月25日、金曜日)

「何だ観られなかったのか・・それは残念だったな・・ものすごくエキサイティングなゲームだったぜ・・イングランドが姿を消したのは残念だったけれど、まあ地元のポルトガルが生き残ったのは大会にとってはいいことだよな・・」

 昨日は移動日だったため(日本へ一時帰国)、準々決勝の初戦イングランド対ポルトガルを観られなかったのです。だから、帰国してからドイツの友人に電話を入れて、ひとしきりそのゲームの内容を話し合ったという次第。彼は、私が信頼するプロコーチの一人、フランツ・デュルシュミット(これまでに何度か私のコラムにも登場しています)。ヤツもまた、イングランドが展開したサッカーコンテンツの高揚を感じていた一人でした。

 「とにかくイングランドは順調に発展をつづけたよな・・ルーニーやランパードという新しい風が吹き込んだこともあったけれど、とにかくチーム全体が底上げしたと感じるよ・・組織パスプレーもうまくシンクロするようになったしな・・それに比べてオレたちの代表チームは無様な結果に終わってしまった・・たしかにオランダ戦の内容が良かったから希望を持てたわけだけれど、結局は守るラトビアとチェコのセカンドチームを崩しきれなかった・・チェコやオランダやフランス、それにイングランドに比べても、明らかに個人のクリエイティブな能力で劣るということだよな・・オランダ戦のようにツボにはまったら、ドイツ本来のダイナミックサッカーを展開できる・・でも、自分たちが主体になって相手を攻め崩すという展開になったら、途端に様子見で足が止まっちゃうから得意のスピーディーなコンビネーションが出てこない・・また、そんな寸詰まりの状態になったときに頼れる個の突破能力もない・・とにかく、オマエといつも話しているように、若手の創造性を伸ばさないことにはドイツの将来はないよな・・」。

 まさにその通り。このテーマについては、私の新刊(新潮文庫)で、ドイツサッカーについて加筆した項を参照してください。でも、ここでのメインテーマは、イングランド対ポルトガルだぜ、フランツ・・。

 「おっと、そうだった・・イングランドは、立ち上がりの3分にオーウェンの先制ゴールが決まった後はちょっと引いてしまった・・だから、フィーゴ、クリスティアーノ・ロナウド、マニシェ、ヌーノ・ゴメス等がチャンスを迎えるなど、ポルトガルに攻め込まれたわけだけれど、それが良い刺激になったよな・・10分を過ぎたあたりから、イングランドが、頬をひっぱたかれて目を覚ましたように押し返していったからな・・それも、スマートな組織プレーを基盤にしてだぜ・・とにかくヤツらは、スムーズにボールを動かしつづけるんだよ・・まさにイメチェンだぜ・・これまでのパワーサッカーじゃなく、スマートな組織プレーでイングランドが押し返してペースを握り返したっていうのが、この試合でのキーポイントだったのかもしれないな・・それは、ヤツらの発展を如実に証明していたってわけさ・・」

 「それでもイングランドにとっては、前半の30分ころにルーニーが怪我で退場してしまったことは痛手だったよな・・ルーニーは、前線から中盤にかけて動きまわってボールに触ることで明確な仕掛けの起点になっていたからな・・またこの試合では、やっとオーウェンとのコンビネーションも良くなっていることを感じさせてくれたしな・・とにかく観ていて楽しいコンビだったから、ルーニーの負傷退場は残念で仕方なかった・・そしてそこからは、まあ観てのとおりのエキサイティングな仕掛け合いになったというわけだよ・・とにかく両チームともに積極的に攻め合ったから、最後の最後まで時間を忘れてしまうようなドラマチックな展開がつづいたというわけだ・・もちろん、ポルトガル、ルイ・コスタの逆転ゴールや、イングランド、ランパードの粘りの同点ゴール、またPK戦でのベッカムの失敗なんかも含めてね・・」

 フランツとは、30分くらいは話していたと思います。ここで紹介したのは、彼の発言をまとめたものですが、その行間にはもちろん、「・・の意味は?」とか「・・現象の背景は・・だったんだろ?」なんていう、もっと深い分析をうながすための、私からの「合いの手の質問」という刺激が入っていたというわけです。まあ、落ち着いたらゲームを見直してみることにしましょう。さて、前置きが長くなってしまったけれど、ここからはフランス対ギリシャ戦のレポートです。

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 それにしても、本当によくトレーニングされたチームだ・・。ギリシャの、忠実でクリエイティブな守備プレーを観ていて、まずそんなことを思っていました。

 もちろん彼らの守備チーム戦術にしてもポジショニングバランスがスタートライン。そして、ボールの動きと相手の動き(味方のチェイス&チェックアクションによる守備の起点の演出プロセス)に応じて、そのポジショニングバランスを、まさにカミソリの鋭さで「ブレイク」してマンマークへ移行し、次のボール奪取勝負に狙いを定める・・もちろんフランスの危険な最前線(アンリとトレゼゲ)についは、受け渡しながら早めにマークを決め、そしてピタリとマークしつづける・・。

 そんなギリシャ守備ブロックの一体となったディフェンスプレーは、まさに有機的なプレー連鎖の集合体という表現がピタリとあてはまるじゃありませんか。またまたドイツを代表する監督の、オットー・レーハーゲルに対し心からの拍手を送っていた湯浅なのです。もちろん、総合力で明らかに上回るフランスを相手にしても一歩も引くことのない(受け身や消極的になることのない!)プレー姿勢をモティベートした、彼の心理マネージメントことに対しても・・。

 そしてもう一つ。自分たちの守備が素晴らしく機能していることが、ギリシャ選手たちにものすごい自信を与えているという事実もあります。全体的にはフランスがゲームを支配しているとはいえ、特に前半では、チャンスの質と量ではギリシャの方が上回っている・・。忠実&ダイナミック&自分主体のクリエイティビティーあふれる守備が、彼らの次の攻撃にも大いなる勢いを与えているということです。だからこそ、人とボールの活発な動きをベースにした組織パスプレーと、局面での、個人のエスプリ勝負プレーが抜群のハーモニーを奏でる仕掛けを繰り出せているのですよ。彼ら一人ひとりは非常に上手い選手たちであることは衆目の認めるところですからね。

 対するフランスは、ボールなしの動きを封じられていることで(素晴らしく忠実で創造的なギリシャのマンオリエンテッド守備が機能している!)、どうしても得意の仕掛けリズムを奏でることができません。そしてフラストレーションがたまり、ボールなしの動きの勢いも減退していく・・。これって、擬似「心理的な悪魔のサイクル」じゃありませんか。要は、そんなゲームの流れにしてしまうことこそが、ギリシャのオットー・レーハーゲルが画策した「トーナメント用のゲーム戦術」だということです。

 とはいっても、やはりフランスの芸術家たちの「個のパフォーマンスレベル」は高い。たまに魅せるアンリやトレゼゲ、ジダンやピレス、交代したサーアやヴィルトール等のドリブル突破、はたまた両サイドバックのオーバーラップなど、ヤツらのシングルアクションの危険度は、やはり世界トップ。それがツボにはまったときの破壊力の凄いこと。一つのドリブル突破が決まったとき、複数の決定的フリーランニングが重なり合い、ギリシャ守備ブロックのウラスペースをズバッと突いてしまったり、守備ブロックの壁をものともせずに突き破ってしまったり・・。とはいってもこの試合では、ギリシャ守備ブロックの機能性が素晴らしいから、そんなフランスの才能ベースの仕掛け頻度がうまく抑制されてしまっているということです。

 それでも、フランスが本当に負けてしまうなんて思いもよらなかった。特に後半は、得意のリズムでの流れるようなコンビネーションや、爆発的なこのドリブル勝負が出てくるなど、どんどんと調子を上げていましたからね。でも逆に後半20分に、カリスティースにヘディングゴールを決められてしまう・・。

 このゴールシーンでは、右サイドでうまく抜け出したザゴラキスが、完全なる余裕をもってラストクロスを送り込める状況になったことがキーポイントでした。だからこそ、ザゴラキスが余裕をもってルックアップしたとき、後方からカツラニスが、中央ゾーンへ飛び出していけたのです。彼がイメージしていたのは、もちろんニアポスト勝負・・。そしてその動きが、テュラムを引き寄せ、ギリシャの9番カリスティースをフリーにしてしまう・・。完全なる余裕を得ていたザゴラキスが、その状況を見誤るはずがない。そして彼の右足から放たれたボールが、カリスティースのヘッド目がけて美しい糸を引いていったというわけです。

 この試合でのジダンは、完全にプレーペースを乱していましたよね。もちろんそれは、ギリシャのシステマティックな組織守備に呑み込まれてしまったからです。ほとんどフリーでボールを持つことが出来ず、ワンツーコンビネーションを活用しようにも、とにかくボールがないところでの「スッポンマーク」に遭ってフリーになれず、モティベーションがどんどんとダウンしていましたからね。それでも彼のことならば、自ら活路を見いだせるはずだと思っていたのに・・。考えてみたら、この大会を通じた彼のプレーコンテンツは、どちらかといえば「足許の芸術家」に成り下がっていたのかもしれない。以前の「流れのなかのエスプリプレー」がない・・ボールがないところで活発に動きまわることに対する意志が、ギリシャ選手たちの忠実でクレバーな守備プレーによって完全に減退させられてしまっている・・これでは、いくら彼の才能がスーパーだとはいっても、チカラを発揮できるはずがない・・。

 それにしても、前半から後半にかけてアンリが得た決定的チャンスや(特に三本のヘディングシュートと二本のドリブルシュート!)、試合時間のこり数分で作り出した何本かの決定的チャンスは、本当に何故決まらなかったのだろうか・・。神様もイタズラも過ぎるよな・・いくら、めくるめく歓喜と奈落の落胆が交錯する本物のドラマだとはいっても・・。これで、スペイン、イタリア、ドイツ、イングランド、フランスといったブランド国が姿を消してしまった・・。フ〜〜ッ!

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 さて、これからちょっと仮眠して「J」最終節の観戦へ出掛けることにします。たぶん横浜国際。またレッズの試合もビデオで確認してレポートする予定です。




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