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2004ヨーロッパ選手権(10)・・「このイングランド」は、彼らの新しいサッカーイメージを形づくる・・(イングランド対クロアチア、4-2)(フランス対スイス、3-1)・・(2004年6月21日、月曜日)

リーグ最終戦がはじまる前のBグループの状況はこんな感じ・・。まだ四チームすべてに準々決勝へ進出する可能性が残されている・・もちろん勝ち点「4」を既に確保しているフランスが有利だけれど、最終節で対戦するスイスに負けたらグループリーグ敗退ということになってしまう・・もう一つの対戦ペア、フランス対クロアチアでは、クロアチアは勝たなければまったく先がない・・対するイングランドは、引き分けでも大丈夫という確率が高いという状況・・この「かもしれないという状況」がくせ者・・要は、イングランドにしても勝つことが(勝ちにいくというマインドが!)求められているということ・・とにかく、すべてのチームが勝利を目指して仕掛けていかなければならないという状況は健康的だし、まさにスポーツのエッセンスそのもの・・勝ち点の駆け引きなんて誰にとっても楽しいものじゃない・・。

 このグループの最終節は、やはりイングランド対クロアチアを観戦するしかありませんでした。フランス対スイス戦では、両チームの間に実力差があり過ぎますからね。案の定、フランスが「3-1」で完勝しました。まあスイスも頑張ったようですが、結局はアンリにやられてしまったということらしい・・。

 ということでイングランド対クロアチア。まさに願っていた通りのエキサイティングマッチになりました。このゲームを、予想以上に盛り上げたのは、何といっても立ち上がり5分にクロアチアが挙げた先制ゴール。セットプレーからのこぼれ球を、ニコ・コバチが押し込んだ粘りのゴールでしたが、それが、ゲームの緊張感を、思いっ切り限界まで引き上げたというわけです。

 その先制ゴールを見ながら、すぐにこんな考えがアタマに浮かびました。さて、ここからイングランドはどんなサッカーをやってくるのだろうか・・相手に先行されたことで、以前のような単純な放り込みに奔ってしまうのか、それとも、今大会で魅せつづけている、組織プレーと個人勝負プレーがうまくバランスした高質なサッカーにこだわりつづけるのか・・もちろんすぐに変化は出てこないだろうけれど、時間が経つにつれて、彼らのチーム戦術イメージの浸透度がわかってくるだろう・・。

 だから私は、彼らのプレーイメージに目を凝らしていましたよ。そして感じたものです。ヤツらのサッカーは、本当に一皮も二皮もむけた・・失点にまったく動ずることなく、しっかりと高質なチーム戦術を維持しつづけている・・素早く、広い人とボールの動きをベースにして、組織パスプレーとドリブル勝負が絶妙にバランスした最終勝負を仕掛けていくイングランド・・フランス戦とスイス戦での高質なサッカーから感じ取れたプレーイメージの大きな変化は、彼らのメインストリーム(主流)として強固なカタチを形成しはじめているということなのだろう・・サッカー内容が大きく進化したイングランド・・それは、今大会でのキーポイントの一つに違いない・・。

 先日のコラムに書いたように、スコールズ、ベッカム、オーウェン、ジェラードといった古株のパフオーマンスが底上げし、そこに、ランパードとルーニーという、格の違う新風が吹き込んだということです。もちろん、彼らをつなぐ接着剤としての「チーム戦術イメージ」の確固たる浸透をベースにしてね。エリクソン監督の確かなウデを感じます。

 さて、新風。そのなかでは、もちろんルーニーに世界中の目が集中するでしょうね。「やっとイングランドに、世界トップレベルの攻撃のスターが出現した!」なんてね。フランス戦とスイス戦でも実効ある活躍を見せつけたし(とにかく積極的に仕掛けていくプレー姿勢に実効が伴っていることが凄い!)、この試合でも、強豪のクロアチアを相手にスーパーゴールを決めただけではなく、チャンスメイクでも非凡な能力を魅せつづけたたのですからね。もちろんルーニーのチカラは大会前から広く認知されてはいました。でもやっぱり、「本番」での活躍こそが、その前評判に「実」を充填するということです。イングランド代表の古株たちがルーニーを探してボールを預けるシーンを目撃しながら、とにかくヤツは本物だ・・なんて思っていました。

 でも私は(もちろん多くの皆さんも)、もう一人の新風も、ルーニーに優るとも劣らない効果レベルにあると高く評価していたことでしょう。ランパード・・。素晴らしくクリエイティブな汗かきプレーヤーですよ。ジェラードとのコンビがとにかく絶妙。この二人が中心になって演出するタテのポジションチェンジがあるからこそ、イングランドの攻めに大きな変化が演出されたといっても過言ではありません。

 もっと言えば、ワントップのオーウェンと、右サイドからのクロス要員であるベッカムを除いた、中盤からトップにかけての四人(ルーニー、スコールズ、ジェラード、そしてランパード)が展開する、まさに渦巻きのようなポジションチェンジこそが、彼らのスムーズなボールの動きのベースにあったということです。そしてそれが、イングランドサッカーの新しいイメージを形づくっていく・・。

 予選B組では、完全に「内容と結果」が一致しました。我々コーチにとって、心地よいことこの上ない現象でした。昨日は、実力ではグループトップのスペインがうっちゃられてしまったから、特に心安まる結果だったというわけです。でもまた明日は・・。




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