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2004ヨーロッパ選手権(8)・・ラトビアの術中にはまったドイツ(ドイツ対ラトビア、0-0)・・コメントなど必要ない世界屈指のハイレベルマッチ(チェコ対オランダ、3-2)・・(2004年6月19日、土曜日)

本当に不器用だよな・・。ドイツのサッカーを観ていて、まずそんなことを感じていたのは私だけではなかったに違いない・・。まあそれは、フランスとか、チェコとか、オランダとか、「昨日の」イタリアとか、「今のこの時点での」一流どころと比べたらのハナシではありますが・・。

 相手のラトビアが守備を固めてくることは分かりきっていたはずなのに、人数をかけた相手守備ブロックに対して、立ち上がりのドイツは、まったくといっていいほど効果的な勝負を仕掛けていけないのですよ。ボールをもった選手の「エスプリプレー」のレベルが低級・・。まあ平たく言えば、ボール周りのプレーに「上手さ」が感じられないということなんですがね。だから、しっかりとボールをキープしたり、効果的にボールを展開したりできない。またパスにしても、ボールホルダーが余裕をもってプレーできないだけではなく、味方のパスレシーブの動きも緩慢だから、相手にパスを読まれてうまくアタックされてしまう・・。

 3日前のオランダ戦では、相手が攻め上がってきたから、ボールを奪い返した後の仕掛けを自分たちのリズムで繰り出していけた・・でもこの試合は、守備を固めてカウンターを繰り出してくるラトビアが相手だから、自分たちが主体になって仕掛けを繰り出していかなければならない・・とはいっても、ラトビアの9番(ベルパコスキス)と10番(ルビンス)のスピーディーなドリブルは、まさにスピアヘッド(矛先)の鋭さがあるから、ドイツ最終ラインも、積極的にラインを上げられない・・だから中盤ゾーンをコンパクトにできずに、攻撃ブロックと守備ブロックが間延びしてしまう・・これでは、組織プレーを主体にするドイツの攻撃に必要な「人数をかける」ことがままならなくなるのも道理・・また、ラトビア守備ブロックのクレバーなポジショニングと忠実なチェックアクションが、ドイツのスピードアップをうまく抑制している・・もちろんドイツには、局面を「個のチカラ」で打開していけるような才能もいない・・。そんなフラストレーションがたまる展開を見せられたことで、冒頭の呟きになってしまったというわけです。

 それでも、前半も25分を過ぎたあたりから、やっとドイツの守備プレーに勢いが戻ってきます。要は、前方ゾーンでボールを奪い返せるようになったことで、次の攻撃にも、人数をかけ、スピードを乗せられるようになったということです。そして、得意の(唯一、勝負イメージが高質にシンクロしている仕掛け?!)正確なクロスからクーラニーがヘディングシュートを放ったり、二列目からバラックが危険な中距離シュートを飛ばしたりなんていうチャンスが連続するようになる・・。

 「やっぱりディフェンスこそが全てのスタートライン・・自分主体の積極守備が機能しはじめなければ、決して次の攻撃に勢いを乗せることはできない・・」。前半での展開の変化を見ながら、またまたサッカーの基本的な概念を反芻していたものです。

 そこには、ドイツの先制ゴールが決まるのはもう時間の問題だろうと確信できるくらいの勢いがありました。そして、そんなドイツのポジティブな流れが、後半の立ち上がりも持続しつづけたのです。でも・・。

 好調な立ち上がりだった後半ですが、時間の経過とともに再びドイツのサッカーが停滞してしまったのですよ。今のドイツチームは、「個のチカラ」では決定的なチャンスを演出できない(まあ、左サイドを駆け上がるラームのドリブル勝負だけは冴えていたけれど・・)。だから彼らは、クロス攻撃や中距離シュートをターゲットに、あくまでも組織プレーを主体に仕掛けていかなければならないのに・・。

 再びドイツのサッカーが停滞してしまった背景には、ラトビア守備ブロックの自信レベルがどんどんと高揚していったこともありました。何せ、局面でのボール奪取勝負プレーの内容が、時間を追うごとに実効レベルを高揚させていったのですからね。とにかく、ボールを動かそうとするドイツの組織プレーが、全力ダッシュ守備プレーのオンパレードというラトビア守備ブロックの強烈なディフェンスによって寸断されてしまうのです。そしてドイツ選手たちの足が止まり気味になり、仕掛けプロセスにタイミング良く絡んでいく人数も減退していったというわけです。

 逆にラトビアは、効果的なディフェンスを基盤に、攻撃にも勢いが乗っていきます。ボールを奪われた後のディフェンスが、とにかくダイナミック・・だからこそ、次の攻撃エネルギーを倍増させられる・・というわけです。

 後半も半ばを過ぎてからの時間帯は、ラトビアの運動量が、ドイツの倍以上に増大したなんていう印象までありました。まさにドイツのお株を奪ったラトビアというわけです。

 「0-0」という最終スコアは、まさに順当な結果だったといえるでしょう。とにかく、足が止まったドイツの最低パフォーマンスにフラストレーションがたまりつづけていた湯浅でした。

 これで最終戦のチェコに勝たなければならないというギリギリの状態に押し込められてしまったドイツ。でもまあ、追いつめられなければ全力を出し切れないというヤツらのことだから、逆に良かったとは思っているのですがネ・・。

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 さて、今大会屈指の注目マッチ、チェコ対オランダ。見終わったときの感想は、いったい何なんだ、このゲームは・・ってなものでしたよ。両チームが作りだしたハイレベルなシュートチャンスや、2点ビハインドをひっくり返したチェコの大逆転劇など、歴史に残る闘いを展開したチェコとオランダ。そのコンテンツは、まさに世界の頂点と呼ぶにふさわしいものでした。私にとって、スタジアムで観られなかったことが心から悔やまれた最初のゲームでした。

 攻め合う両チーム。ともに、組織プレーと個人勝負プレーが高質にバランスしています。そしてもちろん、局面での個人勝負プレーのレベルが違う・・。一人ひとりの名前を挙げるのもためらわれるほど、全員が、惜しみなくボールのないところでアクションをつづけ、ボールを持てば、シンプルパスプレーと個の勝負プレーをメリハリよく使い分けるのです。

 一体ヤツらは、何本の決定的チャンスを作り出したのだろうか・・。もちろん両チームともにですよ。とはいっても、ノーガードの殴り合いというわけじゃない。両チームともに、しっかりとした守備ブロックは健在なのです。にもかかわらず、互いの仕掛けのコンテンツが、それを上回っていく・・。まさに全員守備、全員攻撃というトータルサッカーを展開しつづける両チーム。こんなハイレベルな仕掛け合いは、そうは見られるものじゃない。まさに、コメントが必要ない(コメントが陳腐にみえる)ゲームというわけです。

 この試合でのオランダは、ドイツ戦とはまったく違うダイナミックサッカーを展開しました。まあ「あの試合」は、相手の良さを消すことでは世界一ともいえるドイツとの対戦でしたからね。この試合でのオランダは、まさに解放された強さを発揮したということです。

 とにかく帰国したら、まずこの試合のコンテンツをビデオで確認することにします。何らかの創作エネルギーが湧いてくるはずです。

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 これでD組の二位争いが混沌としてきました。最終節では、勝ち点「1」同士のオランダとラトビアがぶつかり、グループ一位通過が決定したチェコとドイツが対戦します。表面的には、トップ通過を決めた(勝ち点6の)チェコと戦う(勝ち点2の)ドイツが有利のように見えるけれど、さて・・。最終節は同時中継になります。たしかにオランダの高質なトータルサッカーやラトビアのレベルを超えたカウンターも魅力的だけれど、やっぱり私はチェコ対ドイツをメインに観戦することにします。




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