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2004サントリーチャンピオンシップ第二戦のプレビュー・・(2004年12月9日、木曜日)

ここに発表する文章は、携帯&インターネットサイト「Reds Press」のためにまとめ直したものです。

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 一触即発のテンション(緊張状態)が最高潮に達し、そのまま最後まで推移したゲームだった。そんな我慢比べを制したのはマリノス。ワンチャンスのセットプレーで、そこまで蓄えたエネルギーを一挙に爆発させるかのような河合のヘディングシュートが勝敗を分けた。まさに、粘勝である。

 このレポートでは、まず敵を誉めることからスタートしたい。久保竜彦、アン・ジョンファン、ユー・サンチョル、それにリーグ最終戦では遠藤彰弘までも失ってしまったマリノスだったけれど、受け身の守備的サッカーに落ち込むのではなく、最後まで、吹っ切れた主体的な積極サッカーを魅せてくれた。「このチームは、後ろ向きになったら持ちこたえられない・・だから強いレッズに対しても、守りに入るのではなく、あくまでも攻守にわたって積極的にプレーする姿勢を鼓舞することが大事だと思った・・」。監督の岡田武史が、監督会見でそのような趣旨を述べていた。

 マリノス選手たちは、決して、レッズの攻撃力を抑えることをゲーム戦術のコアに置いていたわけではない。逆に彼らは、攻守わたって全力で仕掛けつづけた。だからこそ、試合のなかで確信レベルを高揚させることができた。敵ながらあっぱれ。まさに、相手にとって不足なしである。

 ゲームの立ち上がり15分、マリノスの攻めの勢いはレッズを凌駕していた。そこでは、レッズ守備のミスもあって、坂田がポスト直撃のシュートを放つという惜しいシーンも演出した。ただそんな展開にもかかわらず、レッズは、堅牢なマリノス守備ブロックの一瞬のスキを突いて決定的なチャンスを作り出してしまう。

 カウンター気味の展開から、右サイドでボールを持ったエメルソン。すぐに振り向き、ドリブル突破アクションに入っていく。チェックにきた河合は、例によって、エメルソンの右への抜け出しを抑えるような体勢で迎え撃つ。その瞬間だった、エメルソンが河合の逆を突いてズバッと左サイドを抜け出し、そのまま持ち込んで左足の決定的シュートを放ったのだ。ギリギリのタイミングでシュートコースに入った松田の身体に当たったことで事なきを得たが、そのときマリノス守備陣は凍り付き、自分たちが対峙しているリアリティーを反芻したに違いない。やはりエメルソンは凄い・・ヤツを抑えるのは並大抵のことではない・・。

 その後、徐々にレッズがペースを奪い返していく。両チームとも、攻守にわたってフルに実力を発揮しはじめたことで、ゲームの実質的なコンテンツが高みで均衡しはじめたのだ。こうなったら、個の能力で一日の長があるレッズに試合の重心が傾いていくのも自然な流れ。エメルソンが見せつけたレベルを超えた危険度に対する警戒心もあったのだろう、マリノス選手たちの意識が、徐々に守備ブロックの安定へと向かいはじめたと感じた。

 そしてゲームは、セカンドステージでの両チームの対戦と似通った展開になっていく。守備を固めてレッズ攻撃を受け止め、まずロングボールでレッズ守備ブロックの深いところで起点を作り、レッズ選手たちの戻りに応じてチーム全体で押し上げていくというイメージのマリノス。チャンスらしいチャンスは作り出せないけれど、とにかく忠実な攻めを繰り出しつづけながらワンチャンスを待つという辛抱強いサッカーを展開する。対するレッズも、マリノスの忠実で力強いディフェンスを相手に四苦八苦している。たしかに、最前線のプレイヤーの足が止まって前のスペースを潰してしまうというリーグ戦でのネガティブな展開には落ち込まないにしても、相手守備を振り回すというところまで仕掛けの効果レベルを高揚させられないのだ。選手たちの主体的な守備意識が「有機的に連鎖」しつづけるリーグ随一のマリノス守備ブロック。そんな強者たちを相手に、レッズもまた我慢のサッカーを展開せざるを得なかった。

 第二戦では、強固な守備ブロックを基盤に、セットプレーやカウンターからのワンチャンスを狙うマリノスに対し、あくまでも攻撃的なブレッシングサッカーを押し通していくレッズというゲームの構図は、より先鋭化するだろう。

 だからこそレッズにとって、相手のリードを追いかけるという状況を、吹っ切れた闘うマインドの高揚へとポジティブに転換するだけではなく、自らの攻撃にどれくらいの変化を演出できるかというテーマも決定的な意味を持ってくる。サイド選手たちだけではなく、守備的ハーフもどんどんと最前線スペースへ飛び出していくようなタテのポジションチェンジ。また素早いタイミングでクロスを送り込んだり、より積極的に中距離シュートを狙う等々、マリノス守備ブロックが驚き、心理的に不安定になるような攻撃の変化が必要なのだ。それがあってはじめて、レッズが抱える個の勝負能力も最大限に活かされるようになるのである。

 とにかく、あれだけのハイレベルで最高テンションの勝負マッチをもう一ゲーム観ることができるのだから、これはもうとことん楽しむしかない。(了)

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 骨子は、まず何といっても、マリノスが魅せつづけた吹っ切れたサッカーは称賛に値する・・とはいっても、ゲームが落ち着いてきたら、やはり「個のチカラの差」によってレッズに流れが傾いてくる・・そしてゲームの構図が、予想されたモノへと変容していった・・だからこそ、第二戦でのレッズは、特に攻撃の変化をテーマにしなければならない・・といったところですかネ。

 ゲーム戦術では、いかに相手の予想の裏をかくかというテーマがメインになります。相手が「サッカー内容の変化」にビックリし、その対応に四苦八苦しはじめたらこちらのモノ。その状況でどんどん押し込んでいくことで、相手のリカバーも遅れてしまう・・というわけです。

 でも、どうもレッズの場合は、「両刃の剣」が大きな壁になって立ちはだかっている・・。要は、エメルソンに代表される個の能力が「高すぎる」という事実もマネージしなければならないということです。だから、どうしても仕掛けの中心イメージが「そこ」に集約してしまう。もちろん最後まで「それ」で押し通す方法はあるけれど、やはりそこはサッカーだし、相手は、フォックス(したたかな勝負師)岡田武史が率いるマリノスですからネ、難しい・・。

 あとセットプレー。第一戦の決勝ゴールシーンでは、最初から勝負スポットを意識して爆発スタートした河合に、マークしていた長谷部が「行かれて」しまったわけです(長谷部は、二度も味方選手とクラッシュしそうになった!!)。このシーンで、マリノス選手全員の意識が集中していたニアポスト・スポット(マリノス選手全員が明確にイメージしていた勝負スポット)へ抜け出すべき選手は、戦術プランでは中澤だったのですが、彼がアルパイに完璧にマークされていたことで、中澤自身が、河合に対して、目で「オマエが行け!」と合図を送ったということです。フムフム・・。

 中澤は、前半30分の、アレックスのスローインからトゥーリオが胸でラストパスを「置いた」決定的シーンでも抜群の存在感を発揮しました。このシーンで中澤は、アレックスのスローインがまだ空中にある間から、ゴール前スペースへ移動をはじめていました。だからこそ、走り込んだ田中達也のシュートに追いついたというわけです。これもまた、体感(ミス?!)の積み重ね(=学習能力)が為せるワザというわけです。

 そんな「瞬間的な自主判断と決断」もまた、フォックス岡田が選手たちに植え付けたプレー姿勢。もちろん、攻守にわたる主体的なプレー姿勢という視点では、レッズのギド・ブッフヴァルトも優れた仕事をしています。監督の仕事における具体的ターゲットを突き詰めたら、選手たちが自主的に「考え、勇気をもって行動する」ようになることだとも言えるのです。規律厳守の雰囲気と、クリエイティブなルール破りに対する積極姿勢が同居する「高質バランスのチームモラル」とでも表現できる心理・精神的なベース。その意味でも、両チーム監督は良い仕事をしているということです。

 とにかく、あれほどハイレベルな勝負マッチは、そうそう観られるモノじゃない。お互い、とことん楽しみましょう。

 



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