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ゼロックスサッカー・・素晴らしいゲームは、アントラーズが辛勝(2-1)(1998年3月15日)

 この二チームの対戦は、完全に、リーグの看板カードになりつつある・・そんな印象をより強くした面白い試合内容でした。

 ただし、両チームともに、チームを引っ張る外国人選手がケガで出場していません。アントラーズでは、中盤のゲームメーカー、ジョルジーニョ(腓骨骨折?)、最前線のスーパー「タメ」プレーヤー、マジーニョ(肋骨骨折)、またジュビロでは、鬼軍曹、ドゥンガです。その影響が「より」大きかったのは当然アントラーズの方です。二人も、チームの「メイン・パフォーマー」が欠けてしまったのですからね。ということで、ゲーム序盤にペースを握ったのはジュビロでした。

 ジュビロの「ボールの動き」は見事。アントラーズ中盤、最終ラインの守備が、何度振り回されたことか。それを演出したのが、名波、藤田、奥、そして最前線のアレサンドロでした。中山は、例によって、最前線でのアクティブ突撃隊長。どんどんと、相手最終守備ラインとゴールキーパーとの間の「決定的スペース」へ向け、爆発的なフリーランニング(パスをうける動き・・スペースへの走り込み)です。この、タイプの違うプレースタイルの組み合わせがいいのです。名波、アレサンドロは、中盤、最前線でのタメからの組立を意識し、奥、藤田は素早い球回しから、決定的なパスや鋭いドリブル突破を試みます。「オプションの多さ」が、攻撃における「危険性の証明」といったところでした。

 そして、前半11分。藤田、アレサンドロのコンビで先制点が生まれます。中盤深いところからドリブルで前進する藤田。ペナルティーエリア内(つまり決定的スペース)へ抜け出たアレサンドロへ、素晴らしいタイミングのスルーパスを送り込みます。ギリギリの状況でそのボールをキープするアレサンドロ。そこで、相手との交錯から、彼らのウラへボールが出てしまいます。そこに走り込んでいたのが藤田でした。この、ボールへの詰めが見事。そこにボールがくるかもしれないで、パスを出した後に走り込んだのです。パス&ムーブの模範といった「ボールのないところでのプレー」でした。そして「運よく」、藤田の足元にボールが転がってきたのです。たしかに偶然という要素もありましたが、もしゴールにつながるのだったらそのスペースしかない・・。そう確信して走り込んでボールを奪い、落ちついてゴールを決めた藤田に拍手です。

 その後もジュビロペースで試合が展開します。ただ、そんな試合展開とは裏腹に、次のゴールを決めたのはアントラーズでした。それは、これまた「ここが勝負!」と確信した名良橋の爆発的なフリーランニング。それは、増田とのワンツーからのスーパープレーでした。右サイドでボールを持った名良橋。増田に「ワン」のパスでボールをあずけ、そのまま超速ダッシュでジュビロ守備陣を置き去りにします。そこへ、測ったような増田の、ダイレクトによる「ツー」のスルーパス。そこからの、柳沢へのラストパスも見事でしたが、実際には、もうここまでで勝負あり、といったところ。名良橋の、ココゾのスプリント力が生きたプレー。素晴らしく見応えのあるコンビネーションプレーでした。

 アントラーズですが、最前線にマジーニョがいないことは非常に大きな痛手だと感じます。たしかに柳沢、長谷川も、たまには危険な突破を見せますが、それでも、マジーニョのような最前線での有効な「タメ」を演出するまでにはいたりません。タメがないから、どうしても攻撃に変化がつかず、アントラーズらしからぬ、単純な「最前線への放り込み」を繰り返してしまうのです。彼らがチャンスをつくれるのは、二列目以降の選手たちが絡んでこられるような場面のみといった具合でした。

 さて後半です。ここで目立ってプログレッシブだったのは(改善されたのは)、アントラーズ、熊谷のプレーぶりです。前半は、攻守にわたって中途半端だった熊谷のプレー。それが、後半は見違えるほど、攻守にわたってメリハリの効いたプレーを展開し始めます。それには、アントラーズ、カルロス監督の指示が背景にあります。「もっと前でプレーしろ・・」。行けるところは、もっと思い切って前線へ飛び出して行け、という指示です。これによって、熊谷の心理的な「バリアー」が解き放たれたのでしょう。

 守備に入れば、しっかりと「次」のターゲットを絞り込んで相手の「パスを狙う」。そして攻撃でも、積極的に「前」に絡んだり、たまには味方の攻撃ラインを追い越してフリーランニングにトライしたりします。彼のような若い選手は(22歳)、とにかく、どんな状況でもリスクにチャレンジしなければなりません。結果として(現象的に)失敗したとしても、目的をもったチャレンジだったのですから、それ自体は成功だと捉えるべきなのです。そしてそれが、プロとしてもっとも重要な心理要素である「自信」につながります。「自」らを「信」じなければ進歩がないことはサッカーの歴史が証明していますからね。彼は、カルロス監督から与えられたチャンスを、しっかりとモノにしなければなりません。

 さて、ということで、後半の試合内容は、完全に互角ということになります。前半とは違い、両チームともに、中盤からのしっかりとした守備をベースにサッカーを展開。惜しいところまではいきますが、決定的なチャンスは数えるほどという、ガップリ四つの展開です。シュート数は、両チームともの「四本」。見ている方にとっては、チョット物足りなさが残るかも知れませんが、それでも、両チームの中盤での攻防には見応えがありました。

 それでも、後半30分過ぎからは、それまで「中央突破」ばかりを繰り返して失敗していたジュビロの攻撃が、中山の惜しいシュートなど、「外からの」崩しも織りまぜた、危険なモノに変身しはじめます。その時間帯は、完全にジュビロペース。何度も、外からの攻めや、コーナーキック、フリーキックなどでアントラーズゴールを脅かします。ただ、GK、古川の好守もあって、しのぎ切ったアントラーズが、まさかのロスタイム・ゴールで、勝利を手中にしてしまうのです。

 それは、中盤でのボールの奪い合いの後、自分のところへきたボールをトラップミスした福西から始まってしまいました。ボールを奪い返したのはアントラーズの増田。小さくキープし、左サイドをフリーランニングする相馬へパス。ただそれは、いわゆる「ケツパス」でした。要は、ミスパスだったということです。相馬の走るスピードとコースを考えると、「後ろ過ぎる」パスだったのです。そのままパスが通っても、相馬は、一度止まらなければなりませんからね。ただそのボールが、こともあろうに、ジュビロのディフェンダーの膝に当たり、理想的なパスコースへと変化してしまうのです。走り込み、ボールを拾ってドリブルする相馬。そして思い切りのいいシュート。ジュビロゴールの右サイドネットへ、決勝ゴール!!あっけない幕切れではありました。

 さて、来週から「J」が開幕します。そこでは、アントラーズとジュビロが優勝戦線を引っ張っていくことは確かなことでしょうが、わたしはこの二チーム以外に、落ちるところまで落ちたヴェルディー(ここまで落ちたら、後は這い上がるしかありませんよね)、ハンス・オフトが復帰し、大幅な補強をしたサンガ、エムボマを擁し、中盤でのアクティブディフェンスを中心にチーム力も安定してきているガンバ、「日本を代表するチャンスメーカー」中田を中心にしたベルマーレ、小野という「若く、レベルを超えた才能」が入ったレッズ、そして二年目になるアスカルゴルタ監督率いるマリノスにも注目しているのですが・・。ということで、初日は、ベルマーレvsヴェルディー、マリノスvsフリューゲルスと、できれば二試合の連続観戦にチャレンジしようと思っています。わたしは単車で移動しますから、もし「雨」が降らなかったら・・という注釈が入りますが・・。

 「J」各節のゲームに関するコメント(コラム)を、「J-ワンポイントコーナー」に、その都度アップデートします。ご期待あれ・・。




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