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さて、準決勝の見所です(1998年7月6日)

 昨日(7月5日)の日曜日、(パリがバケーション時期に入っていることで)クルマが空いていることもあって、パリの市内をドライブしていました。

 周りのドライバーの運転は、相変わらずルール無視。私が中央の車線を走っているにもかかわらず、右車線から左折するために私の鼻先を横切ったり、タクシーとバスの専用レーンを爆走したり、はたまたオートバイは、クルマの間を蛇行運転です。まったく〜〜。

 とはいっても、パリの地元の人が少なかったこともあるのでしょう、普段と比べれば、比較的穏やか・・といった印象です。

 エトワール(凱旋門のある場所)から、シャンゼリゼ。オペラを通り、北へ上がってモンマルトル・・。二時間くらいは走り回ったでしょうか。何となく自分の神経もキンキンしてきていることを感じます。「もう、ドライブはやめにして、とにかく落ちつこう」。ということで、結局サン・ミッシェル(カルチェラタン)に戻り、気に入っているキャフェに腰掛けた次第。フ〜〜、疲れた。

 そこで、例によってラップトップを開き、カタカタとキーを打っていたのですが、そのとき右隣の親子に話しかけられました。英語です。それもアメリカン・イングリッシュ。久しぶりに聞く響きです。

 先日の「スリ被害の親子」がしゃべっていたのは、完全な「イングリッシュ・イングリッシュ」。そして今回は「アメリカン・イングリッシュ」。すぐに聞き分けられるくらいの違いがあります。

 余談になりますが、ビジネスミーティングの席で、こんなハナシになったことがあります。「英語は、確かに世界共通語になっているんだけれど、もしかしたら、もう英国イングリッシュや米国イングリッシュって、田舎英語になってしまっているんじゃないだろうか。世界の標準英語は、もう絶対に『ブロークン・イングリッシュ』だゼ・・」。

 これは、ドイツ人ビジネスマンとフィリピン人ビジネスマンが、異口同音に言っていたことなのですが、私も同感です。英語をしゃべる人々の絶対数は、確実に「ブロークン・イングリッシュ」人口の方が多いに違いないですからネ。言葉は「生き物」なのです。言語の専門家の方々・・ゴメンなさい。

 ということで、そのアメリカ人の親子。父親とその息子さん(ハイティーンかな・・友達みたいでいいんですよ、この親子の関係)なんですが、私が使っているマッキントッシュのラップトップコンピューターに興味を持ったみたい。

 「それって、日本語システムなんですか(もちろん日本語OS)」「そうです」「へー、わたしもマックを使っているんですが、他の言語の表示を見るのは初めてなんです。へー・・」「英語のシステムにも切り替わりますよ。英語システムだけだと、英語しか表示されませんが、他の言語のシステムだったら、確実に英語も表示できますからネ(自慢している湯浅)」

 「ところで、あなた方は、フランスはバケーションですか??」

 「そうなんですが、もちろんワールドカップも絡めてますよ」

 「へー、今までに何試合見たんですか・・??」

 「もう5-6試合は見たかな・・、もちろんアメリカの試合も含めてネ。昨日は、リヨンでドイツが負けた試合も見ましたよ。その日はリヨンで泊まり、今日の朝、パリについたんですよ。これから準決勝を観戦する予定なんです」

 「エッ?! あの、ドイツが負けたスタジアムにいたんですか?! 私もあの試合を観戦していたんです。私は、試合のあとスグに夜行の特別列車でパリに戻ってきましたがネ」

 その後、彼らがドイツ系アメリカ人であること、私がライターで、ドイツのプロライセンスを持っているプロコーチであることなどを互いに話し、昨日の試合にかなり落胆していることからはじまって、アメリカや日本の地域予選でのドラマのこと、日本の「J」やアメリカの「MLS(メジャーリーグサッカー)」のことなど、ハナシが弾んでしまって・・(私も、ドイツの敗戦についてだけは、誰かと話したかったんですヨ、ホントは・・)。

 「それにしても、こんなインターナショナルなスポーツイベントは、他にはないよネ。アメリカでもスポーツは盛んだけれど、国内で完結してしまっているものばかりだから・・。確かにオリンピックはあるし、私も何度も観戦したけれど、ワールドカップにくらべたらホントに小さなイベントだって感じてしまう。そんな風にアクティブに動き回り、見て回っているから、フランスの良いところや悪いところも、より明らかに見えてくるんだ・・」、オトーサンは言います。

 「こんな楽しい旅行は生まれて初めてだね。とにかくサッカーを話題にすれば、どんな国のどんな人々とだってスグに友人になれてしまうんだからネ・・」。オトーサン(とはいっても私と同年代?!)は、エンスジアスティックに、ハナシ続けるのです。

 ワールドカップは、「異文化接点」としても、他と比べようがないほどのパワーを持っている・・っちゅうことですかネ。

 「それじゃ、ハヴ・マッチ・ファン!!」

 時計を見たら、もう二時間も話し込んでいました。特にドイツの敗戦について、互いに無念さをシェアできたことで、チョット、気が晴れた湯浅でした。

 アッ・・と、またまた余談が長くなってしまいましたネ。では、準決勝の見所です。

 まず、火曜日(日本時間では水曜日の早朝)に行われるブラジル対オランダから。

 この試合は、確実に歴史に残る闘いになります。それは、両国のチーム力がともに非常に充実しているからです。レオナルドがはいり、「チームプレーと個人の単独勝負プレー」のバランスが非常にうまくとれているブラジル。対するのは、内紛という火種を抱えつつ、それまでも心理的なステップアップのベースにしてしまったオランダ。

 それにしても、オランダがここまで調子を上げてくるとは・・。いつもだったら、チーム内のゴタゴタで最後はチームが崩壊してしまうのに。今回は違います。フランク・デブールがまとめる最終守備ライン。精神的支柱のヨンク。これ以上ないくらいにダイナミックな働きをする守備的ハーフ、ダビッツ(もしかしたら、彼のパフォーマンスの背景に、内紛があったりして・・十分に考えられます)。二列目で、バカウマ(大橋巨泉作・・バカにウマいの略・・)のアクセントを演出するロナルド・デブールとベルカンプ。そしてトップには、高さのコクと才能のクライファートです。

 対するブラジルですが、チームのラインアップが固定し、選手一人ひとりが、どのようなプレーをすべきかの明確なイメージをもっています。また控えには、試合展開に応じて使い分けられる、デニウソン、エメルソンなど才能もいます。そんなブラジルは、今回のワールドカップでは、理想的なチームにもっとも近い存在だとすることができるでしょう。守備には、まだ不安は抱えていますが、それもドゥンガ、サンパイオの「Jコンビ」がカバーしてしまうに違いありません。

 前回のアメリカワールドカップでも、この両国は素晴らしいゲームを展開しました。そのときはブラジルが勝ったのですが、私はその試合が、アメリカ大会のベストゲームだったと思っています。

 「今のチーム力で、実力が突出しているブラジルを破ることができるとしたらオランダしかいないかもしれない・・」。そのことでは、知り合いのヨーロッパ人エキスパートと意見が一致したものです。準決勝では、歴史に残る名勝負が期待できそうです。

 さて、地元フランスと、ドイツを破って勢いに乗るクロアチアの対戦です。

 サンドニ競技場は、フランス国歌で埋め尽くされるハズ。クロアチアにとっては厳しい戦いになります。準々決勝のドイツ戦では、多くのクロアチア人が駆けつけただけではなく、(ドイツと戦いたくない)すべてのフランス人観客も味方につけたクロアチアが、有利に戦うことができました。でも今回は・・。

 チーム力にしても、抜群の(個人能力ベースの)守備力をベースにしたフランスに一日の長ありといったところ。とはいっても、ルーマニア、ドイツと、非常に冷静に、そしてスマートに戦ったクロアチアも、戦力を充実させてきています。特に、各選手のプレーイメージの質が、大会期間中にどんどんと高まっていることを感じ、これはもしかしたら・・と思っている湯浅なのです。

 フランスは、準々決勝のイタリア戦のような攻め(ボールの動きが緩慢で、フリーランニングも希薄、そして場所と状況をわきまえない非効率な単独勝負)を展開しているようでは簡単にゴールを割ることはできません。そんな風に、停滞した攻撃をやっているうちに、クロアチアの「世界レベルの才能」をベースにしたカウンターにやられてしまったりして・・。

 なんといっても、クロアチアには、ボバン、アサノビッチ、シューケル、ヤルニ、スタニッチなどの世界の才能がいるのです。

 フランスは、大観衆の期待を一身に背負って「前へ」重心がかかるサッカーを展開するに違いありません。そこに、ワナが潜んでいます。自分たち自身で、攻守の(人数的、ポジション的)バランスを崩してしまう危険があるのです。そこでは、デシャンやジダンなどのチームリーダーによる「ゲームコントロール」の手腕が発揮されなければなりません。この試合、フランスにとっては、地元観衆の大声援は、両刃の刃ということになります。それは、味方であり敵でもあるのです。




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