トピックス


地元のフランスがワールドカップ初優勝!!(対ブラジルに3-0)(1998年7月12日)

パリが狂喜乱舞する。

 シャンゼリゼが、コンコルド広場が、人々で埋め尽くされ、いたるところで花火が上がる。準決勝でクロアチアを破ったときもそうだったが、今度は、終わりがないに違いない・・。

 試合が始まる前から、パリは、ワールドカップという世界最大の文化イベントの底知れないパワーに揺り動かされていました。

 クルマが、フランスやブラジルの国旗をはためかせ、クラクションを鳴らしっぱなしで走り抜けます。道行く人々も、それに呼応するかのように、それぞれの国の応援歌を合唱したり旗を振ったります。たぶんこの場に居合わせた人々は、街が落ちつきを取り戻す明日には、経験したことがないような、巨大な文化ドラマの渦中に、出演者として巻き込まれていた自分を見いだすに違いありません。そしてワールドカップの本当の主役が、自分たちだったことも・・。

 ところでこの試合前のエキサイティングな雰囲気ですが、これってもしかしたら、フランス人の「冷静な分析」から、どうせ最後は実力で上回るブラジルにやられちゃうヨ、と思っていた彼らが、盛り上がれるのも試合が始まるまでだから・・ということだったのかも・・。

 ワールドカップの雰囲気を演出するのは、世界中の一般生活者の「参加意識」。その意味でも、フランスワールドカップは大成功だったとすることができるのです。

 さて試合です。

 決勝は、両チームともに中盤守備を固めるような「注意深い」立ち上がりでした。そして試合が完全に膠着状態に陥ってしまいます。確かにブラジルの方に、一つひとつのプレーでは一日の長を感じますが、試合の流れの中では、ほとんどといっていいほど、チャンスのキッカケが見いだせないということでは、両チームともにまったく同じ状況なのです。

 中盤のスペースがないからボールを楽につなぐことができない。だから、ボール周りのフリーランニングも停滞してしまう。たまに出てくるドリブルも、すぐに敵が集まってきてストップさせられてしまう。こんな緊迫した試合展開では、そんな膠着状態を打開するために必要な「リスクチャレンジ」が出てこないのも道理といったところでした。

 これでは、フリーキックやコーナーキックなどの「セットプレー」からしかチャンスが出来ないナ・・。たぶんそれは観戦しているほとんどの人々の共通した思いだったに違いありません。

 そしてコトが起きてしまいます。それは前半の27分。コーナーキックから、ジダンが目の覚めるようなヘディングシュートを決めたのです。また、ロスタイムに入ってからのフランスの追加点も、同様にコーナーキックからのジダンのヘディングゴールでした。

 この両ゴールともに、ブラジル守備陣のジダンへのマークの甘さ、そしてジダン自身のゴール前の動きが決定的な要素でした。特に一点目は、コーナーキックが蹴られる瞬間、ジダンが前方にダッシュしたことで、彼のマーク役が置き去りにされ、最後は、競り合ったレオナルドよりも「アタマ一つ」出て決めたゴール。レオナルドにとっては、背後から急に出てきたジダンに競り勝つことは無理な体勢です。そんな「ここしかない」というスポットに飛び出したジダンの、「必然的」に生まれたゴールでした。

 後半のブラジルは、当然大攻勢をかけようとします。その象徴が、レオナルドに代わったデニウソンのはずだったのですが・・。

 確かに、全力で攻め込むブラジルに、簡単には攻め返せないフランス。ただそこには、「押し込まれている」といった雰囲気がありません。フランスは、ブラジルの攻めを、まるで「さあ、おいで・・」とでも言っているかのように余裕をもって受けとめてしまうのです。

 ブラジルの攻めが、中央へ行きすぎる。一人ひとりが、ボールの動きの停滞につながってしまう単独勝負を仕掛けすぎ。デニウソンにしても、左サイドを突破するドリブル勝負に何度もトライしますが、それに時間をかけ過ぎるため、スグに、もう一人のディフェンダーが戻ってきて「1対2」の状況にされてしまいます。そうなっては、いくら天才とはいっても・・。

 この試合では、フランスの守備の強さに拍手を送りたいと思います。その堅牢さは、デサイイーが退場になった後もまったく変わりません。特に、守備的ハーフの二人、デシャンとプティーの活躍は、フランス守備の心臓ともいえるものでした。もちろん、テュラム、デサイイー、リザラス、そして出場停止のブランの穴を埋めたルブーフで構成する最終守備ラインも強固そのもの。あのブラジルが、大攻勢にもかかわらず、つくれたチャンスは本当に数えるほどだったのです。

 やはり守備は集中力だ・・、そのことを再確認されられました。ボールがないところでのブラジル選手の動き(フリーランニング=パスを受ける動き)をしっかりとマークする。だから、ブラジルのボールの動きが封じ込められてしまう(パスが回されるところは全てしっかりとマークされてしまっている)。ブラジル選手の魔法のよなフェイントにもまったく動ぜず、抜きにでようとする瞬間にタイミングの良いアタックでボールを奪い返してしまう。こんな、フランスの素晴らしい集中力も、地元パワーのお陰だったに違いありません。

 もう一つ。昨日のコラムで書いた、「悪戯好きのサッカーの神様」が演出する「シナリオのないドラマ(必然と偶然が織りなすドラマ)」についてですが、この試合にも、それを象徴するシーンがありました。

 それは、ジダンの先制点が入るちょうど4分前。ブラジルのコーナーキックから、セザール・サンパイオが放った決定的なヘディングシュートです。フランスGKのバルテスが、神憑り的なセービングで防いだのですが、あれが入っていたら、試合はまったく違った展開になったに違いありません。アッ、昨日のコラムで自分で禁句だと書いた「・・たら、・・れば」を言ってしまった。

 これで、ワールドカップ優勝国が一つ増え、七ヶ国になりました。サッカーの発展にとっても、素晴らしい結果になったとすることができそうです。変化がなければ(優勝国がいつも一緒では)、どんな魅力的な文化(サッカーのこと)でも衰退してしまうに違いないですからネ。

 今回のワールドカップは、地元フランスが初優勝を遂げたことも含め、過去20年間で、もっとも盛り上がり、もっとも内容のある大会のひとつだったと思います。

 また日本にとっても、本場のエキスパートからもある程度評価される内容で世界デビューを果たしただけではなく、逆に問題点も明らかになるなど、色々な意味で実りの多い大会でした。

 盛り上がりの主役は、なんといっても初優勝を遂げたフランス代表。決勝の相手が、個人の才能をベースにした「チームとしての実力」が今大会屈指のブラジルだったこともよかったと思います。

 また内容的には、ブラジルをはじめ、地元パワーと堅牢な守備をベースに、最後はこれ以上ないというレベルまでチームがまとまったフランス、クレバーなチーム戦術で勝ち進んだバルカンの才能集団、クロアチア、そしてオランダなど、「その時点」での実力チームが最後まで勝ち残ったことも、大会を盛り上げた要因でした。

 ちょっと疲れ気味でまとまりがないように感じますが、次には、大会の総評、そして来週ドイツで行われる、ドイツサッカーコーチ連盟の国際会議での討論内容を報告したいと思います。では・・




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]