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20年ぶりに地元チームが決勝へ・・フランス対クロアチア(2-1)(1998年7月8日)

 いま、命からがら、文化放送のパリスタジオにもどってきました。

 今日の試合は、サンドニ競技場からすぐの駐車場にクルマを停めて観戦し、試合終了後、すぐにクルマにもどってパリ市内へ向かったのですが、そこで遭遇した光景・・。それは、素晴らしくもあり、恐ろしくもあるものでした。

 たぶん、テレビ観戦していたパリの人々のほとんどが、試合終了とともに外へ繰り出してきたに違いありません。私は、凱旋門からシャンゼリゼを通って帰ってきたのですが、何千台というクルマのほとんどが、クラクション鳴らしっぱなし、ハザードをつけっぱなし、乗っている人は窓から乗り出してフランス国旗を振りっぱなし・・ってな具合なのです。もちろん凱旋門のロータリーでは、人垣ができクルマの流れをストップします。それはシャンゼリゼ通りでも同じ。

 昨日は「斜に構えるフランス人・・」という内容のことを書きましたが、そんな、「現実のフランス代表の実力を考えたら・・」というロジックの部分を全面に押し出していた、チョット斜に構えるフランス人(この表現が適当かどうかは分かりませんが・・)が、今度は素直に喜びを表現している。それも、世界最大の大衆文化であるサッカーのパワーの証明といったところでしょうか。

 これまで、地元チームが決勝に進出したのは「7度」。ということで、今回が8度目ということになるのですが、過去7回の地元チーム決勝進出のうち、5回、地元が優勝しました。ちなみに、最後に地元チームが決勝に進出したのは、1978年のアルゼンチン大会。このときはアルゼンチンが、ケンペスの活躍でオランダを振り切りました。さて今回は・・。

 これで、イヤがおうにも大会の盛り上がりは最高潮に達するに違いありませんし、世界での注目度も格段に高いものになるでしょう。サッカーの発展のためには願ってもない対戦ということになりました。

 さて、試合の分析です。

 内容的には、クロアチアの方に分があったことは見ていた皆さんも感じたことと思います。そこでのキーワードは「ボールの動き」。

 クロアチアのそれは、完全にフランスを凌駕していたのです。フランスが、ボールの動きが停滞してしまうことで、攻めに四苦八苦しているのを後目に、クロアチアは、素早く、広く、そしてクリエイティブにボールを動かしてフランスゴールに迫ります。これでは、フランス守備が簡単にボールを奪うターゲットを絞り込めなかったのも道理といったところ。

 確かにフランスがボールをキープしている時間は、比較的長いものでしたが、それでもチーム内で「キープしているだけ」といったもの。クロアチアの守備にとっては、次のボールの動きが読めるから、まったく恐なかったに違いありません。

 フランスの攻めの問題点については、これまで何度も触れてきましたが、それが改善される兆候は、この試合でも、ほとんどといっていいくらい見あたりませんでした。

 前方のスペースへ超速のフリーランニングをするリザラスがいるにもかかわらず、ボールを持ったジョルカエフは、まずこねくり回し、結局詰まってしまい横パスです。フランスが狙っているのは、美しいスルーパスなのでしょうが、そのためには、クロアチアのように、ますスムーズにボールを動かすことで相手守備を翻弄し、「穴」をつくり出さなければなりません。その準備作業なしで、いきなりスーパースルーパスが通るハズがないのです。

 そして、パス回しに詰まったところで、お決まりの「不正確なロングシュート」。これでは・・。

 ボールがないところで勝負が決まってしまうサッカーでは、ブラジルのレオナルドが見せるような「クリエイティブなムダ走り」が、美しい攻撃のベースなのです。

 フランスに厳しいコメントが続きますが、それは、彼らの守備ブロックが世界最高なのに、惜しいな・・と思うからです。彼らが、クロアチア戦に勝利し、決勝に駒を進めたことは確かなことなのですが、それでも「勝てば官軍」では進歩がありませんからネ。

 それに対し、クロアチアは立派な戦いを展開しました。最初は、フルパワーで攻め込むフランスの攻撃を、しっかりと、そしてスマートに抑え、チャンスを見てのカウンターを仕掛けます。そして、徐々にフランスの攻めがスタックしてきたところで、攻撃のパワーをアップしてくるのです。何とスマートなことか。

 私は、彼らの熱くなりやすいメンタリティーをよく知っているものですから、ドイツ戦同様の冷静でスマートなプレーぶりに、チョット違和感を覚えたものです。それも、社会主義が崩壊し、西側とのサッカー交流が盛んになったことの賜なのでしょうね。

 シューケルの先制ゴールですが、それは本当に絵に描いたような「ボールのないところでのプレー(つまり、フリーランニング=パスを受ける動き)」から生まれました。

 まずボールをキープするシューケルが、相手に詰められたことで、仕方なくアサノビッチにパスを回します。アサノビッチは、そのまま左サイドへ向けてドリブル。そして、そのサイドに引きつけられるフランス守備ブロック。その瞬間、右サイドで空いた「決定的なスペース」へ、シューケルがフリーランニングをスタートしたのです。そしてそのスペースへ、アサノビッチからスーパーなスルーパスが、ベストタイミングで通ってしまうのです。

 もしかしたら、アサノビッチの左サイドへのドリブルは「意図したワナ」だったのではないだろうか・・。それでなければ、シューケルのフリーランニングのスタートがあまりにも完璧すぎる・・。もしそうだとしたら、このゴールは、「ボールを持った状態でのルックアップ」、「クリエイティブなフリーランニング」が完璧に機能した、世界最高の才能によるスーパーコンビネーションゴール?!

 もう一度ビデオで確かめてみたいプレーではあります。

 対するフランスの二点は、現在、世界最高のディフェンダーの一人であるテュラムが挙げたもの。二点とも自らボールを奪い返して決めてしまいました。同点ゴールは、ジョルカエフとのワンツー。そして二点目は、ヤルニから奪い返したボールをそのまま左足で、クロアチアのゴール左隅に叩き込んだゴールでした。

 フランスの二点とも、ディフェンダーが、最初(ボールを奪い返す場面)からフィニッシュまで主役を演じてしまう・・。現在のフランスが抱える攻撃の問題点を皮肉るようなゴールではありました。




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