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予選グループの「A組」と「B組」の決勝トーナメント進出チームが決定(1998年6月23日)

 サンドニで行われた、イタリア対オーストリアの試合をスタジアム観戦しました。

 決勝トーナメントへ進出するためには、オーストリアはどうしても勝たなければなりません。もし彼らが引き分け、チリとカメルーンも引き分ければ、チリとの総得点の勝負になりますからオーストリアが不利ですし、この試合に勝負がついてしまえば、どちらに転んでも決勝トーナメントに進出できません。

 またイタリアにしても、この試合に負ければ、その時点で二位以下に転落。そしてチリ対カメルーンの勝負がついてしまえば、予選リーグ落ちになってしまう可能性が限りなく大きくなります。

 ちょっと複雑ですが、そんな状況でゲームが始まりました。イタリアは、当然引き分け狙い。彼らが一番得意とする戦術です(そこにイタリアの永遠のジレンマが潜んでいる?!)。対するオーストリアも、最初は用心深く、守備的に試合を進めます。ということで前半は、いくつかのチャンスがあっとはいえ(特に43分の、オーストリアのスター、ポルスターのゴールチャンスは決定的でした)、全体的にはほとんど見所のない試合になってしまいました。

 ただ後半早々の、コーナーキックからの、イタリア、ビエリのヘディングゴールからゲームが動き始めます。こうなったら、オーストリアは前へ行くしかありませんからね。バスティッチ、プファイフェンベルガー、マーリッチ、そしてポルスターを中心に、しばしば怒涛の攻めを見せますが、簡単にはイタリアの堅守は崩れません。

 攻め込むオーストリアの守備は、どうしてもバランスを崩してしまいます。守備の人数、ポジショニングがうまくバランスしないのです。案の定、イタリアのカウンターを食らい、モリネロからのセンタリングをバッジオに決められ万事休す・・ということになってしまいました(最後に、ヘルツォークがPKを決めましたが時すでに遅し)。  このグループのトップは、イタリア。二位には、カメルーンと引き分けたチリが入りました。

 イタリアですが、今回のチームも、守備主体です。攻撃で個人勝負を仕掛けられる人材が不足しているだけではなく、決定的なフリーランニング、決定的なパスを出す人材にも不足しています。

 この試合では、デル・ピエーロが先発で出場しましたが、ほとんど良い仕事ができず仕舞。最後は、ロベルト・バッジオと交替です。そのR・バッジオ、確かに出場した時間は短いものでしたが、それでも、彼がイタリア攻撃の強烈なアクセントになっていたことだけは確かです。とはいっても、イタリアの攻撃の人材不足は深刻。これでは、どこまで勝ち進めるのか疑問・・という、ワールドカップが始まった当初からの印象をより深くした湯浅でした。

 イタリア、セリエAクラブの攻撃陣のほとんどは外国人が占めています。それが、イタリアの攻めの人材が育ってこない要因になっているように感じます。同じようなことが以前にもあり、一時は外国人プレーヤーを制限するという荒療治で、徐々に、自国の「攻撃の才能」を育てていた時期もあったのですが、最近はまた逆戻り。というわけで、イタリアの問題の根は深いように感じます。

 さて次は「A組」です。

 この組では、一位は既にブラジルに決定していますから、二位争いが注目の的です。

 状況は、勝ち点「2」のノルウェーが、最強軍団、ブラジルと当たるということで、勝ち点「1」同士のモロッコとスコットランドにも大いなるチャンスがあります。私は、ノルウェーがブラジルに勝つのは難しいということで、組織プレーと「個人能力プレー」がうまくミックスし、優れたサッカーを展開しているモロッコに、二位の可能性が一番高いと思っていたのですが・・。

 3-0でスコットランドを破り、これで二位はいただき・・と期待していたモロッコの選手たちは、ノルウェーが勝ったことを聞いて落胆の表情。中には泣き崩れる選手もいました。これもワールドカップにける「日常の落胆のドラマ」にしか過ぎないのです。

 ということで、史上最強のノルウェー代表が、私の予想を見事に覆してくれました。それは、本当に素晴らしい試合。テレビで観戦したのですが、とにかく目はブラウン管に釘付けでした。これこそ、予選リーグ最終戦における、典型的な一発勝負のドラマだったのです(このことについては、前日のコラム、最後の部分を参照してください)。

 試合は、ブラジルのスーパーペースで始まります。ガンガンとノルウェーを押し込んでしまうブラジル。対するノルウェーは、ほとんど限界状態で、ブラジルの激烈な攻撃をしのいでいます。

 ただ、徐々にブラジルのペースがダウンし、攻撃が中央に集中してきてしまいます。ロナウド、ベベト、リバウド、デニウソンを中心に、どうしても「美しい中央突破」にこだわった攻めをしてしまうのです。そこは、素晴らしいアクティブ守備を展開する五人の中盤守備と「ライン・フォー」を敷くノルウェー最終守備ラインが集中しているところ。そこを突破するのは至難の業です。それでも何度か決定的なカタチにしてしまうところは流石なのですが、あまりにも中央突破にこだわり過ぎ。これでは・・と思っていたところ、案の定、中盤プレーヤーも含めた、ノルウェーの守備陣が、ブラジルの中央突破の「リズム」をつかみはじめ、結局は、まったくチャンスを作らせないくらい安定してきてしまうのです。

 対するノルウェーは、ワントップの「T・フロ」を中心に、ときたま危険なカウンターを仕掛けます。それにしてもこのフロ。イングランドのプレミアリーグ(一部プロリーグ)、チェルシーで活躍しているのですが、とにかく素晴らしいプレーヤーです。一人で突破してしまう能力と勇気だけではなく、タイミングのよいスルーパス(組織プレー)にも才能を見せます。彼が、最前線で頑張っているから中盤の選手たちも、思い切りよく上がっていくことができるのです。そんなこんなで、前半の中盤からは、本当に拮抗した試合内容になってしまいました。

 アウダイールとサンパイオを欠くブラジルは、アウダイールの代わりにゴンサウベスを、またサンパイオの代わりに、レオナルドをそのポジションに入れました。ただそこからブラジル守備に大きな問題が発生してきてしまいます。

 もともと、最終局面での確実なマークに問題をもっているセンターバックのジュニオール・バイアーノですが、そのパートナーになったワールドカップ初出場のゴンサイベスも、守備が不安定。ココゾという場面でのマークが甘くなってしまうだけではなく、一対一での競り合いにも、「強い!」といった印象を与えません。そしてそれが、フロの同点シュート、PK(逆転ゴール)の原因になったマークの甘さにつながってしまいます。

 もともとブラジルのセンターバックは強いのが伝統。ですから「前気味のリベロ」もうまく機能するし、攻撃もよりアクティブなものになります。ただ、この試合でのセンターバックコンビは、どちらかというと「穴」。ここが勝負!という場面でも、自分のマークする相手が定まらないだけではなく、マークしていても、十分なチェックができません。そんなこともあって、ダブルボランチの、ドゥンガ、レオナルドのプレーも不安定になったと感じます。

 守備は、強いチームのベースです。そこに問題が発生したブラジル。アウダイールが帰ってきたら、またある程度は安定するのでしょうが、それでも、マークの受け渡しの決まり事、最終守備ラインでのポジションバランスに関する決まり事など、ブラジルの守備には本質的な問題点があるように感じます。

 もちろん、予選リーグの時点で問題が発生した方が、対処しやすいし、その後の「チームの成長」につながる、という見方もありますが・・。ザガロ監督のことですから、決勝トーナメントまでにはしっかりと調整し直してくるに違いありません。

 それにしても、ノルウェーのガンバリには感動しました。それは、90分の中で「心理的に成長し(自信を持ち)」最後まであきらめずに、中盤でのアクティブ守備、攻撃チャンスでのリスクチャレンジにトライし続けた結果です。

 この試合を見て、ノルウェーのファンになってしまった湯浅でした。

 明日は、ランスまで、スペイン(勝ち点=1)対ブルガリア(勝ち点=1)の試合を見に行きます。「D組」なのですが、ここの二位争いも混戦模様(トップは、勝ち点「6」のナイジェリアに決定済み)。もう一つの試合は、ナイジェリア対パラグアイ(勝ち点=2)です。

 ということで、スペイン対ブルガリア戦では、勝った方に、十二分に二位のチャンスがあります。激しい試合になることは確実。さて、予選リーグのドラマを楽しみましょうかネ。




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