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日本代表、ホームで韓国に敗れる・・全日本vs韓国(1-2)(1997年9月29日)

このコラムを読む方々は、試合の経過などについてではなく、試合の内容に関する意味づけ、特に、ロペスに替えて秋田を投入したことの意味について知りたいと思っているに違いありません。わたしは、まだ他のメディアの論調には一切触れていませんが、たぶん「秋田を投入したことが裏目に出た」というもので統一されているに違いありません。つまり、あの時点で秋田を投入したのは、それも攻撃の中核であるロペスに替えたことは間違いだった・・という、ベンチワークの失敗を指摘する論調です。確かに、試合結果だけを見れば、そう考えられなくもありません。それでもわたしは、結果がすべてであり、そこで為された全ての「変化(ここでは選手交代)」は間違いだった、などという短絡的なモノではなく、『結果に対する、本当の原因は何だったのか』ということを議論したいと思います。

試合後のインタビュー。確かに、プロ監督は、「結果としての失敗」に対しても責任を負わなければなりません。加茂監督の短いコメントの後、最初の質問が浴びせられました。「今日の交代の失敗、前回の二試合の交代の失敗。それに対して進退伺いを出すつもりはないのか・・」。それに対する加茂監督のコメントは、一言。「あの交代が失敗だったとは思っていない」。

ここで、ワールドカップ予選、3試合での「交代」について、わたしなりの考え方を述べておこうと思います。

まず初戦です。3点取られてしまったウズベキスタン戦では、確かに、後半に見せた相手の「捨て身の攻撃」に対して予測が甘かったところがあったと思います。中盤の、名波、中田の守備も甘くなり、そのことが原因で最終守備ラインのディフェンスも不安定なものになってしまいました。結論からすれば、本田を投入するタイミングが遅すぎたということです。ただし、城を下げて西澤を入れたことについては、わたしもそうしたに違いないと思っています。前半の勢いを後半も持続し、もっと点をとってやろうとするベンチの意図は、正しかったと思うのです。いつもとは全く違う、西澤の「鈍い」守備参加とキレのない攻めを、あの時点で誰が予測できたでしょうか。ただ、後半に見せた(守備をかえりみない)相手の猛攻、中盤守備の「鈍化」が原因で最終守備ラインが不安定になったことに対しては、すぐにでも「対処」が必要だったことは明らか。その意味で、ベンチワークが遅れたと思っています。

次のUAE戦ですが、そこでの、城に替えた本田の投入は、大正解だと思っています。「勝ち試合が、引き分けに終わってしまった」という考え方には同調できません。それほど、UAEで交代出場したバヒード・サードのプレーは危険なものだったのです。フレッシュなサードに、あの「異常な気候条件」で疲れ切っている山口や、他の選手を付けたところで、マークし切れるはずがありません。そして結局、サードを「消し去る」ことに成功し、UAEを「悪魔のサイクル」に陥れてしまいました。わたしは、その後の決定的なチャンスは、本田を投入しなかったら決して生まれなかったモノだと確信しています。もし本田を投入しなかったら、逆に決勝点を奪われていたに違いないとも思っているのです。これについては、ベンチワークに大拍手です。

さて韓国戦の結論です。わたしは、ロペスと秋田の交代は「あの時点・あの状況」では、間違った選択ではなかったと思っています。韓国は、キム・デイ(コ・ジョンウンと交代)、チェ・ヨンス、そしてソ・ジョンウォン(イ・サンユンと交代)による、ほとんどスリートップといってもいい布陣で攻め込んでいたし、ハーフのユ・サンチョルや、両サイドバックの、ハ・ソクジュとイ・ギヒョンも積極的に攻撃参加してきていました。秋田を入れてスリーバックにし、本田も含めて、前出のトップ三人をしっかりと「オールコート・マンマーク」すること、また中盤での積極守備をベースに、カウンター攻撃を仕掛けようというわけです。実際、交代後も、日本の攻守はうまく機能していました。ただ、韓国トップ選手たちのフリーランニング&ポジションチェンジ、またディフェンダーによる攻め上がりは、どんどんと強烈になっていきます。鬼気迫る精神力。

ロペスに替わって秋田が入ったわけで、カズはワントップ。日本チームが攻撃にうつったら、後方から、中田、名波、山口だけではなく、左からは相馬もサポートします。ただ、ボールを奪われた後の守備への切り替えが少し遅れ気味。ハ・ソクジュの50メートル・ドリブルからのシュート・トライなど、ボールを奪い返した韓国ディフェンダーが、そのまま超速で攻撃へ上がっていく動きに、すぐには付いて戻れません。また、日本の守備ラインでのマークも、「ファジーな受けわたし」気味になっていきます。そんなですから、韓国の攻めが、ことごとく何らかの「フィニッシュ」で終わってしまうのも道理。そうなれば、攻め上がった韓国の守備選手たちにも、戻る時間が十分にあるということになります。それでも、日本チームもまだ、攻守にわたって積極的なゲームを展開しています。試合の最後の時間帯。そこは、精神力の勝負という様相を呈していました。

残り時間もわずか。そこらへんから、日本チームの守備ラインが、やや「引き気味」状態になってしまいます。相手が、三人から四人も最前線に張っているから当然なのですが、そうなれば、「中盤での攻防」が勝負の行方を決めてしまいます。日本のミッドフィールダーたちは、最後のチカラをふりしぼって中盤での積極守備を維持し、韓国の波状攻撃にも、最終守備ラインが崩されてしまうような場面はありません(つまり、ボールを持つフリーな相手が出てきていないということ)。ただ結局は、こぼれ球に対する執念から、ゴールを割られてしまいます。それは、名波よりも早く、日本の左サイド、コーナーフラッグ近くにこぼれたボールに反応した韓国の右サイドバック、イ・ギヒョンが演出しました。彼からのセンタリング。日本のディフェンダー二人に競り勝ったチェ・ヨンスが折り返し、「ボール・ウォッチャー」になってしまっていた他の日本ディフェンダーのアタマを超えたボールは、無情にも、ビッタリとソ・ジョンウォンのアタマに合ってしまいます。同点ゴ〜〜ル!そして、次の勝ち越しゴールも、韓国ディフェンダーです。それは、ストッパーの、イ・ミンソン。左足での、豪快なロングシュートでした。

わたしは、秋田を投入したこと自体は、間違った選択だとは思っていません。何度も書きましたが、そのことで、チーム全体のプレーが停滞したり、守備が機能しにくくなったことなどはなかったと確信しているのです。日本代表の勇士たちは、最後まで、攻守にわたって全力を出し切ってプレーしていました。ただ一つだけ、最後の時間帯に「足が止まり気味」になってしまったことが残念でなりません。つまりボールに意識が引き寄せられ過ぎ、マークが甘くなってしまったということです。守備では、予測からの積極守備が原則。自分のマーク相手と、ボールとの関係から、「あそこにボールがくるに違いない」、「この選手は、こう動くに違いない」、などの予測をベースに、積極的に相手からボールを奪い返そうとするのが守備の原則なのです。それまでは、そんな守備の姿勢を維持できていたのに、最後の最後で、相手の動きに「反応」するだけになってしまった・・。特に、あんな状況ですから、中盤守備が重要。そこで、最後の最後の時間帯だけ、「受け身の守備」になっていたことは残念でなりません。また攻撃では、韓国よりも、「途中」でボールを奪い返されてしまう場面が多くなってしまったことも事実です。精神力。集中力。執念。いろいろな表現はあるでしょうが、勝負を決めたのは、結局そんな「論理では説明できない人間的な部分」だったのかもしれません。韓国の選手たちが、最後まで「自分で何とかするんだ!」という意志を貫徹したことは感動的でもありました。

まとめます。フォーバックとはいっても、相手が、チェ・ヨンスだけのワントップでくることが分かっていた全日本は、井原をリベロに、小村を、ヨンスのマークにつけます。つまり、秋田のかわりに、「中盤に上がったストッパー役」として本田を投入したということで、 基本的にはスリーバックと同じ守備システムで試合に臨んだということです。たぶんいくつかのメディアは、「フォーバック」から「スリーバック」に試合途中で変えたことも問題だった・・、などというニュアンスを伝えるに違いありませんが、実際には、秋田が入ったからといって、守備のやり方が変わったわけではありませんでした。

両チームとも、素晴らしい集中を見せ、極限の「ハイ・テンション」の中、試合が進行します。ただ、シュートチャンスは、韓国の方に軍配が上がります。彼らは、何度失敗しても、「勝負の場面」では必ずチャレンジしてきます。「コイツを抜けば、シュートチャンス(決定的なセンタリング・チャンス)」!そんな場面では、必ず、イチカバチカの勝負を仕掛けます。「針の穴」のようなチャンスでも、ロングシュートにトライしてきます。それに対して日本は、そんな場面でも「パスを出す味方を捜す」などの消極的態度を見せる場面が目立っていたのです。ボール絡みのプレーだけではありません。韓国は、「ボールのないところでの動き(パスを受けるためのフリーランニング)」でも、日本を上回っていたのです。それらのことも、広義では「精神力」だとすることが出来るのでしょう。

確かに、技術的・戦術的な力量は日本の方が上です。それでも、チームの総合力となると、昨日の試合を見る限りでは、韓国の方に軍配が上がります。そして、その背景にあるものの中で最も重要なモノが、「勝つことに対する意志の強さ」とでも表現できるものだったのです。

日本代表チームは『疑似ドーハの悲劇』を体験しました。それが、『極限を体験した人の、精神的な強さ』につながることを願ってやみません。日本チームは、追い込まれました。そこで問われるのが、選手一人ひとりの意識の高さ、意志の強さなのです。いま、ネガティブになっても何も生まれません。「まだ5試合もある」。「本当のドラマの場、ワールドカップ予選では何が起きるか全く分からない」。「だから、一つひとつのゲームに全神経・全能力を傾注する」。「積み上げていけば、必ずチャンスは復活する」。そんな、ポジティブ・シンキングを維持していれば、必ず結果はついてくるものなのです。

「月並みですが、とにかくいまは、気持ちを切り替えるのがもっとも大事だと思います・・」。試合後の山口のコメントです。




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