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『前を向いた』全日本・・・韓国vs日本(0-2)・・・そして『自力二位』までも戻ってきた!!(1997年11月3日)

今回は、「UAE対ウズベキスタン」の試合結果を待ってから・・ということで、アップデートが少し遅れてしまいました。

わたしにとっては、今回のワールドカップ予選シリーズでの、はじめての「アウェーゲーム観戦レポート」になります。テレビ観戦には限界があります。ですから、アウェーゲームではどうしてもフラストレーションがたまってしまっていたのですが、今回の韓日戦の「結果」、「内容」が、それまでの不満を吹き飛ばしてくれたようです。日本は、本当に素晴らしい内容のゲームを展開しました。それでも「タイムアップ(試合終了)」までには、戦術的、心理的などなど、様々な紆余曲折があったのです。

ソウル・オリンピックスタジアムでの、韓国サポーターと日本サポーターが演出するエキサイティングな雰囲気。それはもう大迫力でした。そんな雰囲気をかもし出せるのは(グランドや観客、ゲーム自体の規模、自由にならざるを得ないサッカーの性格なども含めて)、世界で最もポピュラーなサッカー、特に、国家代表同士が闘うワールドカップ予選しかない・・そう、つくづく再認識させられました。

私は、この数週間、「ホンモノの個人事業主になり切れないプロ選手たち」、「リスク・チャレンジのないサッカーで勝とうとすること自体おこがましい・・」、「悪魔のサイクルを自分から断ち切れないようでは、いつまでたっても世界の仲間入りなどできない・・」と、自分のホームページだけではなく「2002 Japan」でも書き続けてきました。選手たちの「自覚」、「自信」の、リ・バイタライズ(再活性化)を願ってのことです。自力二位がなくなった全日本。それでも、UAEにプレッシャーを与えるためにも、この試合には「それなりの結果」が求められていました(もちろん「引き分け」でも、まだ可能性は残されていたのですが・・)。その「結果を出す」のは、結局は選手たち自身だということです。

全日本は、立ち上がりから、素晴らしい「闘志」だけではなく、「前を向いた積極性」を見せます。『一人の例外もなく』、アクティブに考えながら、攻守にわたってリスクにチャレンジするサッカー。少なくとも攻撃では、その一週間前に行われた、「厚く守られて足が止まってしまい、消極的な横パスに終始した」UAE戦とは、本質的に「別物」のサッカーでした。

まずは守備のシステムから簡単に分析することにします。最終守備ラインは「ライン・フォー」。秋田が、チェ・ヨンスを密着マークし、井原がリベロに下がる・・というのではなく、四人の「ポジション・バランス」を最優先させる「受けわたしマン・マーク」です。選手一人ひとりの「意識の高さ」と「最高の集中力」が問われるなど、比較的難しい守り方なのですが、それが、驚くほどうまく機能します。最終守備ラインの四人は、一人ひとりが「マーカー」として、また「リベロ」として理想的に機能していたのです。彼らは、いままでのように「ビビッ」て下がりっぱなしになるのではなく、どんどんと押し上げてきます。また、韓国の「二列目」の選手が抜け出ようとしても、中盤の山口、名波、中田、北澤や、「最終の四人」のうちの余った一人が、ことごとくケアーしてしまいます。そして、決定的な場面では「最後まで」マークし続けます。その典型的な例が、前半11分、韓国、下がり目の中盤から上がり、最後はチェ・ヨンスまでも追い越して「決定的スペース(日本に最終守備ラインとGKとの間のスペース)」へ走り抜けたヨー・サンチョルを、最後までマークし続けた名波です。案の定、コ・ジョンウンから、決定的スルーパスが出ましたが、名波はギリギリのスライディング・タックルで防いでしまいます。スーパー守備プレー!あのプレーを見たときに、これは素晴らしい内容の試合になる・・そう確信しました。

最終守備ラインの前では、「ダブル・ボランチ」の山口と名波が、素晴らしいカバーリングだけではなく、積極的な「リスク・トライ」で相手のパスをインターセプトしたり、チャンスを見計らい、効果的な「プレス」をかけます。もちろん、後の二人、中田と北澤も、素晴らしい運動量と、リスク・トライを心がける積極性で、守備にも大活躍。彼ら中盤選手たちは、常に最終守備ラインの前で、積極的な守備を展開することを心に誓っていたようです。守備において最終ラインに「吸収」されることは(後半での一部時間帯を除けば)、ほとんどありませんでした。

日本の中盤選手たちは、技術的・戦術的な「攻撃の才能」のカタマリです。その「才能たち」が、基本的には「受け身」の守備を「能動的・積極的」にやりはじめたら最高の中盤になる。その証明が、この試合での、山口、名波、中田、北澤だったとすることができるでしょう。「他の」、守備を忘れてしまった「攻撃の才能たち」は、この試合での彼らのパフォーマンスを、謙虚に見習わなければなりません。

さて全日本の攻撃です。何が素晴らしかったかといえば、とにかく彼らの「何かフッ切れたような」思い切りのよい「リスク・チャレンジ・プレー」を挙げるしかありません。それは、超アクティブな「ボールのないところでの動き(フリーランニング)、針の穴を通すような「タテへの」スルーパス・トライ、両サイドバックのオーバーラップ、中盤選手たちの、最前線を追い越して「決定的スペース」へ抜け出る「(二列目の)決定的フリーランニング」、そして、相手を抜き去ってしまうような「勝負のドリブル」への積極トライなどとなってグランド上に現れてきます。「オレがやってやる」という、強い意志をベースにしたリスク・チャレンジ。この試合では、まさに『一人の例外もなく』、その意識を持ち続けていたようです。前半は、日本の「積極的な」リスク・チャレンジ・プレーが、完全に韓国を圧倒していました。

「リスク・チャレンジ」には、もし変なカタチで失敗したら(ボールを奪い返されてしまったら)、それがスグに味方のピンチにつながってしまうような攻撃プレーも含まれます。例えば左サイド。そこでは、名波と相馬の両方が、一緒に上がってしまう場面が何度かありました。もちろん、後ろには山口(この試合では、上がるな、と指示されていたに違いありません)、井原などが、カバーリングしています。それでも、名波と相馬の間でかわされるパスが直接インターセプトされ、ダイレクト・タイミングで「そのスペース」に出された場合は、大ピンチに陥ってしまいます。実際、前半では二度ほどうまくスペースを使われ、ピンチをまねいてしまいました。そんなピンチに陥った場合、「次」には、どうしても「後ろ髪を引かれるような感覚」に襲われ、だんだん消極的になってしまうのが常。例の悪魔のサイクルです。ただ今回はまったく違っていました。基本的には、名波と相馬のあいだで、交互に「フィニッシュ」までいくようにしていたとはいえ、彼らは、とにかく何度でも、そんなリスク・チャレンジを繰り返したのです(結局、日本の二点は、相馬の決定的な仕事から生まれました)。名波と相馬の、クレバーで積極的な、互いのカバーリングプレーが光ったということでしょう。また、自分たちの方から積極的に仕掛けていくことで、韓国、右サイドの、イ・ギヒョン、ソン・ジョンウォンのプレーが「守備に押し込まれる」ようになってしまったことも特筆モノでした。結局サッカーは心理ゲーム。積極的なリスク・チャレンジを繰り返すことで、相手を「悪魔のサイクル」に落とし込むことだって可能だということの証明です。

また右サイドにおいても、名良橋が、何度か決定的なオーバーラップにトライしていました(彼の、フルスプリントでのオーバーラップは気持ちのいいことこの上ありません・・)。ただ、頻度は相馬の方が上回っていました。それは、韓国左サイドの「ハ・ソクジュ」「コ・ジョンウン」を止めることにかなりの神経を使ったことと、基本的に右サイドでプレーする中田が、「自分自身でも、積極的に突っかけていくタイプ」だからだったのでしょう。それでも、後ろに、コ・ジョンウンがフリーで残っているにもかかわらず、爆発的なオーバーラップでセンタリングを上げにいったプレーは感動モノでした。「何らかのフィニッシュまでいけば、戻る時間は十分にある・・」という、確信ベースの積極プレーです。前半は、韓国選手たちのおカブを奪うような積極的でリスキー・チャレンジ・プレーが随所に見られたのです。

また、 ロペスの、「最前線での、自信にあふれた正確なポストプレー」や、カズや北澤の、攻守にわたるアクティブ・プレーも特筆モノでした。特に北澤。彼の、豊富な運動量をベースにした『正確なつなぎプレー』や『二列目からの飛び出し』は、相手にとって大きな脅威になっていたに違いありません。

ただ後半は、様相がガラッと変わります。前半の韓国チームは、北澤と中田の運動量の多さや、韓国の予想のウラを突いた、『名波ボランチ』というクレバー戦術についていけず、中盤の守備がルーズになってしまっただけではなく(そこには、予選一位突破が決定した・・という心理的な要因もあった?!)、攻撃の押し上げもニブイなど、攻守にわたって「受け身プレー」に終始していました。それが後半になって、本来の「爆発的なアクティブプレー」を取り戻してきたのです。何度も、何度も、日本ゴール前へ肉薄する韓国チーム。そこには、絶対に点を取ってやるという意志の強さが見えます。ただそんな状況でも日本チームの『前を向いた積極さ』に陰りは見えません。確かに、日本チーム、両サイドバックのオーバーラップはめっきり減りましたが、それでも、山口や名波が最終守備ラインに吸収されてしまうことは希(そうなってしまえば、人数だけを合わせる消極守備プレーになってしまう危険性が大)。それも、何度も、最終守備ラインの人数と、相手オフェンスの人数が「同じ」になってしまうような状況だけではなく、相手の決定的な「飛び出し(決定的なスペースへのフリーランニング)」に、マークが振り切られてしまうような状況が見られたにもかかわらずです(井原を中心とした最終守備ライン全員の、『読みベース』のカバーリングに拍手!)。それでも日本チームは、とにかく中盤で、相手からボールを奪い返そうとする、「高い位置での」積極守備を展開しました。そこには、「最前線にパスを出させない」という意味もあります。またボールを奪い返した後も、積極的にシュートまで(つまり、何らかのフィニッシュまで)行こうと、チャレンジを繰り返します。見ているベンチは、気が気ではなかったに違いありません。それでも岡田監督は、最後まで我慢しました。あの場面では、守備固めを意図した「交代」が、「心理的なマイナス効果」を呼び、結局は、命取りになりかねない「悪魔のサイクル」にはまってしまう・・ということを経験から学びとったのでしょうか。最後まで、選手たちの「前向きなリスク・チャレンジ姿勢」にブレーキをかけるようなことはしませんでした。とはいっても、インタビューでは、とにかく「悩みに悩んだ」とは言っていましたが・・・。

日本チームの勇士たちは、やっと、『サッカーは、有機的なプレー連鎖の集合体』だということを再認識したようです。一人でも「プレーに参加しなければ」、それが悪魔のサイクルを呼び込んでしまう・・。チームゲームとはいえ、最後は、選手一人ひとりの『意識の高さ』が勝負の分かれ目になるということです。もちろんそれは、『ホンモノの個人事業主』としての意識の高さです。

さて韓国チーム。「日本に勝たせてやろう」などという意識がまったくなかったことは、(特に後半の)内容を見れば一目瞭然でした。ただ、当面の「目標を達成」してしまったことでの、モティベーション(やる気のポテンシャル)・ダウンの幅と、「対日本」ということでのモティベーション・アップの幅に差があったということだったのかもしれません。この状況で韓国チームを「最高レベルまでモティベート」するのは、「あの」チャ・ブンクン監督にとっても難しい仕事だったということです。かつて、ワールドカップ(これはドイツ代表チームですが、その6人までもバイエルン・ミュンヘンの選手が占めていた)、ヨーロッパチャンピオンなど、ほとんどすべてのタイトルを総なめにした「バイエルン・ミュンヘン」が、次のシーズンの開幕戦で、二部リーグから昇格したチーム(オッフェンバッハだと記憶してします)に、(正確な点数は忘れましたが)ビックリするような大敗を喫してしまった試合を目の当たりにしたことがあります。まあ、サッカーは心理ゲームということの証明なのですが・・。心理・精神的な状態で、チーム力が20%に落ち込んだり、逆に150%にまで跳ね上がってしまうのがサッカーだということです。

さて、最後になりましたが、UAEとの二位争いについてです。UAE対ウズベキスタン戦は、「何でゴールが入らないの??」と何度もクビをかしげたくなるような試合でした。それほどUAEが攻め続けたのですが、最後のところで「ゴールに嫌われて」しまいます。この試合の分析などやるつもりは毛頭ありません。私の、試合後の正直な感想です・・・『信じられない!!でも、これがサッカーだ』。

「本当の」ツキがもどってきた・・!!そう実感せざるを得ません。フィジカル(選手のチカラ、チームのチカラ、戦術的・体力的なチカラなど)、サイコロジカル(精神的・心理的なチカラ・・何度も『ドーハと地獄』を経験したチームは強い!!)、そして「アン・ロジカル」(単純にツキのことです)。三拍子揃った「岡田ジャパン」に怖いモノなし・・・だといいのですが。「自力」が戻ってきた日本チーム、そこでも、今回のような「フッ切れたサッカー」が出来るか・・カザフスタン戦に注目です。




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