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「J」チャンピオンシップ・・ジュビロ優勝(1997年12月15日)

「アッ」、中山が、ボールの処理にもたつくアントラーズGK、佐藤にアタックしボールを奪い返してしまった!「アッ」、シュートしちゃった!「アッ」、ゴールになっちゃった・・。

このゴールについては、もうこれ以上のコメントは必要ないのかもしれません。とにかく中山は「優勝」したかったのです。その意志が、「針の穴を通す」ような可能性に賭けたプレーとなって現れました。このゴールに、ジョホールバルで体感した「本物のソウル」が関係していたのでしょうか。少しはあるに違いない・・そう思いたい・・。そんな感動を呼ぶゴールでした。確かにチームの総合力では、誰が見てもアントラーズの方が上。ただそこには、やっぱり、悪戯好きの「サッカー・ゴッド」がいたのです。そして、また「ドラマ」を演出してしまいました。その二週間前に見た、オーストラリア対イランのドラマチックな逆転劇を見たばかりだったのに・・・。とにかくジュビロの感動的なまでのガンバリには大拍手です。

全体的な印象は、代表選手が揃い、ほぼベストメンバーということで、本来の「安定した強さ」がもどってきたアントラーズに対し、ドゥンガ、アレサンドロのいないジュビロが、本当によく頑張ったというものです。頑張った・・。もちろん、まず「守備」で・・。

わたしは、「鬼軍曹」が抜けたナビスコカップ第二戦の「試合内容」が、第一戦と比べてかなり落ちたことに不安をもっていました。ただそこからジュビロのプロたちが奮起したようです。それはそうです。プロともあろう選手たちが、「彼がいなかったら・・」などと言われ、黙って下を向いてしまうようでは失格です。「あんな出来じゃ、もう先は見えているよナ・・」と誰もが思っていたに違いないチャンピオンシップの第一戦。彼らは、何かがフッ切れたかのように闘いました。まるで、どん底まで落ち込んだ全日本の一人ひとりが、残りの試合で、感動的なまでの闘いを繰り広げたように・・。

その「闘う意識」は、彼らの守備に如実に現れていました。一人ひとりがドゥンガになったように、鬼のような顔になって闘ったのです。そこでは、アリバイタックルなどを仕掛けるプレーヤーは皆無。アントラーズ選手が「フリーでボールを持つ」ような状況は、ほとんど出てきません。ジュビロの選手たちは、一人ひとりが「オレがボールを奪い返すんダ」という強い意志を持っていました。そこまで選手たちをモティベートした桑原監督にも大拍手です。もちろん、奥、清水などの若手も含めて、ジュビロの選手たちが、そんな「高い意識」で試合に臨めた背景に、「あの」鬼軍曹、ドゥンガの「ソウル」があったことも確か。彼にも大拍手を送りましょう。

それでも試合内容はアントラーズのものでした。全日本最終守備ラインの四分の三を支えた秋田、相馬、名良橋。最後は出番がなくなってしまったとはいえ、リーダーシップとアクティブ守備の意識では傑出した能力を持つ本田。そして、ジョルジーニョ、ビスマルク、マジーニョのブラジルトリオ。それに、ナビスコ第二戦でスーパープレーを見せ、自信を深めている増田がクルクルとポジションチェンジしながらクリエイティブな攻めを仕掛けてきます。確かにジュビロの攻めは、爆発的なフリーランニング(パスを受ける動き)を繰り返す「スーパー・ワントップ」の中山だけではなく、二列目の清水、名波、藤田などがどんどんと最前線に飛び出してくるようなアクティブなモノですが、ただ「危険性」という意味では、やはりアントラーズに軍配が上がります。特に、ドイツプロサッカー、ブンデスリーガの雄、バイエルンミュンヘンでも大活躍したマジーニョの「マジック」や、ミュンヘン当時のチームメートだった「当時の世界一のサイドバック」、ジョルジーニョのクリエイティブな守備と「後方からのゲームメーク」は見ていて楽しいことこの上ありません。ジュビロの攻めは、素早いパス交換をベースにする組織的なものではありますが、最後のところでの「ひと味」が足りないのは誰の目にも明らかでした。中山の、人間業とは思えない「粘り」、「ガンバリ」以外は・・・。

これで、四つ目のクラブが年間チャンピオンになりました。「J」にとってはこの上ないポジティブなことです。サッカーの場合、一つのチームが勝ち続けることは不可能に近いモノがあります。それはサッカーが、本当の意味でのチームゲームだからです。確かに個人的な能力がベースですが、それはあくまでも基本的なものだということです。そして、その「才能」を十二分に生かせるかどうかは、クレバーなチーム・ゲーム戦術、そして、プロ選手一人ひとりの「個人事業主」としての意識の高さにかかっているというわけです。

素晴らしい内容のサッカーとドラマを見せてくれたジュビロに、もう一度感謝しましょう。これで来シーズンも、リーグ戦が盛り上がるに違いありません。




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