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ダイナスティーカップ・・日本、香港に「5-1」で勝利(1998年3月5日)

 まずその前に、一試合目の韓国対中国について。

 試合当日、この試合に負けたら、チャ・ブンクン監督が更迭されるかもしれないという記事が、スポーツ新聞に載りました。それは、韓国協会の「旧勢力」とのせめぎ合いだけではなく、かなりの「管理主義」を貫くチャ監督に対する選手内部からの不満が表面化したことで取り沙汰されはじめたということです。それが、日常的な「勢力争い」なのか、すでに「政治的な決着」がついているのかは分かりません。

 それでも、ドイツのプロリーグ、ブンデスリーガ史上に残る「名外国人選手」でもあり、今回のワールドカップ地域予選におけるダントツ突破の立役者、チャ監督をそう簡単に切れるのかどうか。もし彼が本当に更迭されてしまい、古い勢力が再び幅を利かすようなことになれば、韓国サッカーの停滞につながってしまう危険性が出てくることは確実です。そうなれば、日本は「素晴らしいライバル」を失ってしまうわけで、そんな事態だけはさけて欲しいモノです。

 さて試合ですが、自力に勝る韓国が最初からゲームを支配します。それに対し、たまに中国も、危険なカウンターを繰り出すという展開。それでも、全体的に見た場合、両チームともに「モティベーションの低さ」が目に付いてしまったのは私だけではないはずです。観客は、(公式には三万八千と発表されたとはいえ)やっと「万」を超えたかどうかという寂しさ。これでは・・というのは一般的な見方であり、その背景には、もしかすると「政治的な駆け引き」の悪影響があったのかもしれません。スポーツとはいえ、巨額のカネが動くプロビジネス。どうしても「政治的なイロ」を消し去ることはできないということでしょうか。そんな錯綜した状況を生み出している人々には、「グランド上でのパフォーマンス」のみが、価値の源泉であることを、もう一度原点に立ち返って思い出して欲しいモノです。アララ、また「背景」の描写になってしまいしまた。

 試合は、まず中国が、「高さ」という特徴を生かし、前半19分に先制します。右サイドからのグッドタイミングセンタリングに、中央で待ちかまえる長身センターフォワードが、素晴らしいヘッドシュートを見舞ったのです。その後も韓国ペースで試合が進行します。そして、何度かの決定的チャンスをハズした後、やっと39分、チェ・ソンヨンが同点シュートを決めます。それは、左から持ち込んで、ズバッと決めた鮮やかなゴール。シュート場面では、「最後は個人の勝負能力が問われる」というセオリーを如実に示したゴールでした。そしてその三分後、今度は、イ・サンユンが、ペナルティーエリア中央の外から、マークする相手をハズして素晴らしいシュートをゴール右隅に決めます。これも、「個人・・」が証明されたモノだといえます。もちろんサッカーは基本的にはチームゲームですが、守備にしても攻撃にしても、「最終的な瞬間」には、個人の能力・精神力などが問われるということです。後半、中国が何度かの決定的チャンスを得ましたが、基本的にはゲーム内容に大きな動きはなく、結局「2-1」で韓国が試合を制しました。これで、チャ監督下ろしのノイズが消えるのかどうか・・。もし本当に「政治的」なものだったら、このまま収まるはずないですよね。これからの展開に注目です。

 さて、日本対ホンコンの対戦です。ホンコン代表には、ホンコン協会に所属していない選手が三人含まれています。ダイナスティーカップで、それが認められているのですが、そのシステムをキッチリと利用するホンコン。サスガというか、えげつないというか・・。どちらにしても、純粋なホンコン協会籍選手だけの場合よりはチカラは上のハズ。日本チームにとっては、準備という意味でポジティブな「えげつなさ」ではありました。

 さて試合です。ホンコンの監督が試合前から宣言していたことなのですが、その言葉どおり、彼らは、9人が常に守備に入るようなディフェンシブサッカーで試合に臨みました。とにかく、フリーになる日本人選手はまったく出てきません。案の定というか、前回の私のコラムでも書きましたが、「個人勝負プレー」が少ない日本は、「攻撃の真の目的」であるシュートまでまったくいくことができません。素早く正確なパスを回し(アクティブにボールを動かし)、(決定的なフリーランニングと)決定的なパスを狙う・・、それが日本代表の目指すところなのですが、実際には、タイトにマークされているチームメート同士で「足元のパス」をつなぐのがやっとという体たらくなのです。

 試合の「流れのなか」でチャンスをつくり出すことができない日本代表。その最大の原因は、攻撃に「変化」がないことです。ドリブル突破トライ、後方でボールを回し、機を見て「超ロングボール」を相手ゴール前へ送り込む、などの「変化」が日本チームの攻撃に見られないのです。初めて、日本がチャンスらしいチャンスをつくったのが、17分、ホンコンが少し日本陣内に攻め込んだことで「空いた」前方のスペースを、カウンターで、素早く、そして直線的に使った、中田、ロペスコンビでした。とにかく前半は、組織プレー(つまりパスプレー)「だけ」で攻め込もうとした日本が、守り重視の相手の戦術にまんまとはまり込んだ・・という内容でした。ただ、9人で守っている相手を流れのなかで崩すのは、どんなレベルの相手でも簡単ではありません。そんな時に威力を発揮するのがセットプレー。日本の得点は(PKも含めて)すべてセットプレーからでした。その意味では、「抜け目なさ」という意味も含めて、成果もあったとすべきなのでしょう。

 増田について少し。彼にとっては、「チーム内のポジション」を確固たるモノにできるかどうかという瀬戸際の状況です。そんなプレッシャーを跳ね返すように、非常に積極的なプレーを見せます。「落ちついてキープする状況」、「素早くボールを動かす状況」、そして「自分で勝負していく状況」、はたまた、最前線の決定的なスペースへ飛び出していく(フリーランニング)、ボールのないところでのプレーと、それらにメリハリがありました。私は、今日のプレーを見る限りでは、「日本代表の戦力」として合格点をつけたいと思います。ただ今日の相手はホンコン。ということで、中盤での「アクティブ守備能力」が、あまり見られなかった(その必要があまりなかった)ことは残念でした。これで、中盤での「汗かきプレー」から、クリエイティブプレー、そして積極的でクリエイティブな守備プレーがそろえば、完全に北沢の「ポジティブなライバル」となるに違いありません。

 さて後半です。だんだん疲れの見えてきたホンコン。日本チームの「組織的な攻撃」が破壊力を増してきます。それでもまだ、流れのなかからのチャンスを量産するというところまではいきません。最初の頃は、唯一、増田の右サイドでの勝負プレーが目立ったくらいです。それでも17分、中田が、センターサークル付近からドリブルで中央へ切れ込み、逆サイドにいる城へ、スーパーパスを送ったプレーは秀逸。そして、一人かわしてシュートまでいった城。惜しくもゴールにはなりませんでしたが、中田のドリブル突破という「個人勝負プレー」が、「攻撃の変化による、相手守備の乱れ」という効果を発揮した場面でした。その後、増田にかわって平野が入りましたが、前回の韓国戦同様、「ボールに触る動き」がカッタルイ。彼の特徴は、一対一で効果的な勝負(ドリブル突破)ができるということなのですから、とにかくまずボールに触ること、そして「マークからある程度フリーな状態でパスを受ける」ということが課題なのに・・。

 全体として、あまり納得のいく内容ではありませんでした。守備では、何度か、二列目からの走り込みを許すなど「集中」を切らせたプレーもありました。それは、「世界」相手では確実に失点につながってしまうシチュエーション。相手が弱いから、どうしても集中が切れてしまう。それは分かりますし、私が現場のコーチだったら、試合後に「別に、深く追求しようとは思わないが・・オレがいいたいことは分かるだろうし、本当の勝負の試合ではそんなとはないよナ・・」と、声をかけるはずです。もちろんそれは、間接的な「厳しい批評」であることはいうまでもありません。また攻撃については、前述のとおりです。

 ということで、次の中国戦に期待しましょうかネ。




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