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オールスター・・ウエストがイーストを「3-1」で粉砕・・(1998年8月16日)

いろいろな意味で見所の多い試合でした。

 立ち上がりは、両チーム互角といった展開。互いにさぐり合いを繰り返します。中盤での守備も、両チームともにまずまず。

 イーストでは、日本代表のボランチ、山口を中心に、ラモスと北沢が、攻守にわたって効果的に機能します。またウエストでは、いわずと知れたドゥンガを中心に、両サイドを森島と名波が固めます。

 ただ攻撃の中核になる選手でまず差が出てしまいます。それは、イーストの小野とウエストのストイコビッチです。この二人を比べるのは少々酷なのですが、それでも小野には、そこまで期待できるだけの才能がありますから、あえて比べちゃいましょう。

 完全にウエストの攻撃の中心として機能するストイコビッチは、素早く、そして広い組立を魅せます。それに対して小野は、どうしてもラモス、北沢のサポート要員という印象を拭えません。ボールを持ってもすぐにラモスや北沢にわたしてしまうなど、彼のプレーからは、まったく「自己主張」が感じられないのです。

 ウエストの攻めは、ストイコビッチを中心に、素晴らしいサイドチェンジや、ワンツー、はたまた、両サイドバックの爆発的なオーバーラップなど本当に変幻自在。それに対してイーストの攻めは、ショート、ショート・・ショート。それも、スペースへのスルーパスはほとんどなく、ほとんどが足元へのパスなのです。

 攻撃の中心が、ラモス、北沢、カズ、そして元ヴェルディーの武田ですから、それも道理・・とうなずけます。彼らは、ほとんどの攻めを、中央へ、中央へともっていってしまうのです。スルーパスを使った美しい中央突破をイメージしているのでしょうが、これでは攻めに変化が出てきませんし、相手守備も簡単に「次」を読んでしまえるに違いありません。左右のサイドには、日本代表の相馬と中西が控えているというのに・・。

 ということで、確かにボールのキープ率では五分五分といったところですが、攻めの危険度からすれば、完全にウエストがペースを握っているというゲーム展開です。

 そしてウエストが、何度か決定的なチャンスをつくり出します。典型的だったのが、前半22分の、大きなサイドチェンジからの突破でした。まず左サイドでボールを持ったストイコビッチが、右サイドの市川へ、それは美しいサイドチェンジのパスを送ります。スパッとトラップする市川。すぐに森島へパスを回し、自分は、前のスペースへオーバーラップする用意です。

 ただその意図を察したイーストの守備陣が右サイドに集結してきます。そこで森島は、今度は、その攻撃の起点になった左サイドのストイコビッチへ「折り返し」のサイドチェンジパスを送ったのです。イーストの守備陣は三人。そこでストイコビッチと名波の夢のような「ワンツー」が決まり、名波がフリーで決定的なスペースへ抜け出すのです。そこからのゴロのセンタリングは、楢崎のギリギリのセービングでコースが変わったためにゴールには結びつきませんでしたが、サイドチェンジでイーストの守備陣を振り回し、人数が薄くなった左サイドを素早いパス交換で突破するなど、本当に絵に描いたような素晴らしい攻撃でした。

 その後も、ストイコビッチからの、ピッタリのタイミングで抜け出た黒崎への超ロングスルーパスが通ったり、またまた、ストイコビッチと森島のサイドチェンジから、名波、ストイコビッチコンビのワンツーが決まるなど、とにかく「内容」ではウエストが完全に試合を制していました。

 ところがどっこい、そこはサッカー。先制ゴールを決めたのは、中央突破にこだわるイーストでした。それも、本当に中央を突破してしまったのですからオドロキ、モモノキ・・。

 右サイドでボールを持った小野。カズにボールをわたし、自分は中央へダッシュです。そこへ、ドリブルに詰まったカズからパスが出ます。そこからの小野のプレーは、彼の才能を証明するものでした。ほとんどダイレクト気味に、最前線にいる武田へ、それも相手守備がカットできないような浮き球のパスを出したのです。そのパスをシュートまでもっていった武田も大したモノなのですが、それにしても小野のパスは見事。これだけの才能かあるのですから、とにかく彼の今後の課題は「自己主張」のみということになりそうです。

 さて後半です。どうしたことか、イーストは、北沢をベンチに引っ込めてしまいます。替わって登場したのは吉原。確かに、森島タイプの彼のプレーにはダイナミズムはあります。それでも経験からいえば、まだまだ北沢の方が上。中盤の守備に穴ができなければいいのですが・・。ラモスに運動量を期待するのは酷だし・・。

 思っていたとおり、イーストの中盤守備に問題が出てきてしまいます。中盤から飛び出すウエストの選手に付いて戻るプレーヤーがいなくなってしまったのです。これでは、中盤から最終守備ラインにかけての守備に混乱をきたすのも道理。最終守備ラインの選手たちは、前の敵に気を取られますから、本来自分がチェックしなければならない相手に対するマークも甘いモノになってきます。そして、そんな状況のなか、ウエストの同点ゴールが決まってしまうのです。

 中盤でボールを持ったドゥンガ。イーストの選手は誰もチェックにいきません。素早くコントロールし、最前線の森島とアイコンタクト。そしてピッタシカンカンのタテパスを通します。素晴らしいタイミングで飛び出し、そのパスをトラップした森島は、ギリギリのところで右サイドのストイコビッチへパスを回します。これで万事休す。

 逆転ゴールは、左サイドの岩本からの素晴らしいサイドチェンジパスから始まりました。それは50メートルを超える距離だったでしょうか。こんな正確なキックができるだけではなく、ボール扱いにも才能を感じさせる岩本。このまま進歩せずに終わってしまうには惜しい選手です。少しの自覚で、自分のプレーが格段にアクティブで効果的なモノになるのに・・。このことは、ヴェルディーの前園にもいえます。若い才能の奮起を期待したいものです。

 そのスーパーサイドチェンジパスを右サイドで受けたのはストイコビッチ。あまりにも美しいサイドチェンジパスですから、彼はほとんどフリーといった状態です。そして余裕をもって、二列目から中央に走り込む名波へセンタリング。あまりにも正確なセンタリングでしたから、ギリギリのところで最初に触ることができた奥野(だと思ったのですが)も、確実なクリアができません。そしてこぼれたボールを森島が左足一閃・・というわけです。

 その後も追加点を奪ったウエストが、圧勝という内容で、98年のオールスター戦を制しました。

 この試合で気づいたことをもう一つ。それは、勝利にこだわった松木ということです。彼は、最後の最後まで、中盤から最前線の核になる選手たちを交代させませんでした。それは、ドゥンガ、名波、森島、そしてストイコビッチです。また前半の途中からは、調子の出ない永島に替えて、上り調子の伊東を投入しただけではなく、後半には、柳本をスイーパーに入れるような確実なシステム変更までやってのけたのです。

 伊東の出来は、本当にスーパー。彼が入ってからのウエストのパフォーマンスが、150%以上にまで跳ね上がったことは確かですからね。彼は、中盤でのダイナミックで忠実な守備だけではなく、攻撃の起点としても、十分にドゥンガを支援していました。

 松木はこう考えていたに違いありません。内容的には相手を圧倒している。何とか早く同点にしなければ・・。そのためには、ストイコビッチと森島をツートップに、伊東をドゥンガのパートナーに、そしてその間に名波を置く。逆に最終守備ラインは、柳本を入れて強化しよう。そんな算段だったに違いありません。そしてそれがモノの見事に的中します。

 私にとっては、松木采配も、この試合の見所でした。ナイスワーク、松木!!

 「このまま終わるはずがない。たぶん後半はウエストが四点入れて、結局は4-1でウエストの勝ちさ・・」。前半が終わったところで、隣のライター仲間にそう言っていたのですが、本当にそれが的中するとは・・。

 この試合は、世界のスター、ストイコビッチとドゥンガ、そして日本のスター、名波、そして彼らに引っ張られるようにベストパフォーマンスを披露した森島と伊東。彼らの勝利だったとすることができそうです。それにしても、やっぱり中心は「外国人」か・・。

 チョット寂しい思いにかられている湯浅でした。




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