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一部参入決定戦・・アビスパが一部残留(コンサドーレvsアビスパ=0-3)(1998年12月5日)

この試合は、アビスパがアウェーの常道戦術で完勝したという内容でした。

 それは、誰もが予想していたとおり、しっかりと守ってカウンターを狙うアビスパに対し、何とか先取点をもぎ取りたいコンサドーレが攻め込むといった構図。ただ、コンサドーレの攻めからは「危険な臭い」がほとんど漂ってきません。

 たしかにペースは握っているのですが、「ここが勝負!」という場面さえ作り出すことができないのです。逆に、ペースを握られているアビスパの方が、伸び伸びとしたカウンター攻撃を仕掛けていきます。

 コンサドーレでは、「ウーゴ」マラドーナのいない穴が、ことのほか大きかったようです。実兄である「世界の」ディエゴ・マラドーナとは比べようもありませんが、それでも彼はコンサドーレ攻撃の中心の一人。たしかにボールを持ちすぎる感はあります。ただ、彼の繰り出す「アイデア」が、日本人選手とはひと味違うことも事実なのです。

 マラドーナのような「天才肌ボールプレイヤー」がチームにいる場合、監督が頭を悩ませるケースが増えてきます。彼はボール周りのプレイが好きだし、そこそこうまいことで、どうしてもボールを持ちすぎてしまうのです。

 「ディエゴ」の場合は、持ち過ぎかな・・と感じても、そこから一発のパスで相手守備ラインを完璧に崩してしまったり、ドリブルで何人もの相手を抜き去ってしまうのですから、チームにとってプラス以外のなにものでもありませんし、監督だって何も言うことはできません。ただ「ウーゴ」の場合、効果的な「タメ」の頻度は低く、必ずそこから何かが生まれるというわけではありません。要は、単なる「持ちすぎ(ボールの動きの停滞)」というケースの方が多いということです。

 もちろん、ツボにはまれば素晴らしい結果につながったりするのですが、それ以外のマイナスのケースも同様に多いのです。となると、彼がボールを持った場合、周りの味方(パスの受け手)の動きが止まり気味になってしまうことになります。ディエゴだと、フリーランニングすれば、多くのケースで決定的なパスをもらえます。ただウーゴの場合は、単なる「無駄走り」に終わってしまうケースが多いのですから、それも当然の帰結でしょう。

 そんなところに、監督の悩みが隠されているというわけです。

 ただコンサドーレには、互いに信頼し合う(やっとコンビネーションがうまくいきはじめた?!)、バルデスという良きパートナーがいます。相手にとっては、ツボにはまったときのタメからのスルーパスや、ベストタイミングのワンツーなど、彼との「イメージシンクロ・プレイ」は大いなる脅威。だから、ウーゴがいなかったことは、中盤での落ち着きが演出できなかったこと、またチームの自信レベルの低下につながってしまったことも含め、確実にマイナス要因だったとすることができるのです。

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 この試合におけるアビスパの守備は、本当に素晴らしい出来でした。

 そのことは、コンサドーレが、一点を追いかける終盤における、守備をまったく顧みない攻勢を除けば、「プレーが流れている中」で作り出せた決定的なチャンスが、前半32分の棚田のヘディングシュートと、その直後のバルデスのシュートだけだったことからも伺えます。

 ところで、その両方の決定的チャンスに絡んだバルデス。最初は、ペレイラからのタテパスをトラップし、斜めにドリブルで持ち込むことでアビスパ守備を「集中させ(アビスパ守備陣の意識までも釘付け)」、空いた右サイドを超速でオーバーラップする田淵に、ベストタイミングのパスを出したことで生まれました。その数分後の二つ目のチャンスは、中盤でボールを持った深川からのロングパスを、「前で受けると見せかけ」、身体をスッと入れ替えるように、マークする古邊を置き去りにしてフリーシュートまでいった場面でした。

 それらは彼の才能の証明といったプレイだったのです。

 ただそれ以外は、まったく驚きのない単調な攻めを繰り返していたコンサドーレ(当然、アビスパの守備が良すぎたという要因もある)。

 やはりこんな緊迫したゲームでは、勝負のドリブルや「タメ」など、誰かが攻撃に変化をつけなければ、相手守備陣の対応が楽なモノになってしまいます。残念ながら、効果的な攻めを繰り出さなければならないコンサドーレは、特に中盤で、攻撃に変化をつけられる人材を持っていなかったのです。単調なリズムのパスを繰り返す攻めは、傍目にも明らかに「次の展開」が読めてしまうほど無害でした。そして最後には、中盤の組み立てを省略し、バルデスの「アタマ狙い」のロングパス攻撃に終始するようになってしまいます。

 対するアビスパは、共通する「イメージ(ゲーム戦術=この試合のための特別な戦術)」をベースに、全員が一枚岩となって戦っていました。それは、相手からボールを奪い返した地点から、なるべく早く相手ゴール前へ攻め込んでいくというカウンター攻撃(速攻)です。もちろん、参加できる者はすべて最後まで参加し続けなければならないという決まり事もあったに違いありません。

 「カウンターチャンスになったら、(その時点で)参加できる者は全員が攻め上がり、必ず最後は、(シュートまでいければ理想だが・・)何らかのアウトオブプレイ(ゴールキック、フリーキックなど)で終わる(そのことで戻る時間ができる)・・」、そんな強い意識付けがあったことを感じます。特に後半は、最初から何度も危険なカウンター攻撃を仕掛け続けました。

 中盤守備を厚くしているアビスパ。だから、中盤の高い位置(相手ゴールにより近い位置)でボールを奪い返すケースが目立ちます。そして、そこから素晴らしい早さで相手ゴールまで迫ってしまうのです。そしてそこに、常に何人ものディフェンダーが参加しています。それは、彼らのモティベーションの高さを如実に証明していました。

 そして結局、「グラウンド上での決まり事」を、忠実に、勇気をもって実行し続ける彼らのプレイ姿勢が先制ゴールに結びつきます。

 味方のクリアボールを、センターサークル付近で奪ったデュカノビッチ。その瞬間、守備の西田が、全力で上がってきます。彼は、直前の守備プレーで、上がり気味のポジションにいたから、「チャンスだ!」とカウンターに参加したわけですが、そんな積極性も、味方のカバーリングを信頼してのものです。そこにもう一人、これまた基本的にはディフェンダー(ボランチ)であるフェルナンドも参加しています。

 デュカノビッチからパスを受けた西田は、そのまま、右サイドのスペースへ開く久藤へパスを出し、自分は脇目もふらずに相手ゴール前へ。それはフェルナンドも同様です。結局この二人は、アビスパのツートップ、上野、デュカノビッチまでも追い越してしまいました。

 最初にボレーシュートを見舞ったのは、フェルナンド。そしてそのこぼれ球をシュートしたのが西田です。たしかにこぼれ球を決めたのはセンターフォワードの上野でしたが、それを演出したのは、西田、フェルナンドという基本的には守備主体の選手たちだったというわけです。そんなところにも、アビスパの、チームコンセプトの深い浸透度(コーチスタッフによる事前の意識付け)を感じた湯浅でした。

 この瞬間、アビスパの選手たちは、完全に心理的プレッシャーから解放されました。その後のアビスパの2ゴールは、守備組織を「開け放って」攻め上がるコンサドーレの試合内容からすれば必然的な結末でした。

 アビスパの、非常に落ち着いたプレイぶりが目立った試合。それも、フロンターレとの「死闘」が彼らを「心理的に成長」させた結果だとすることに異論をはさむ方は少ないに違いありません。

 サッカーは心理ゲーム(前々回のトピックスコラムを参照)。身体、技術、戦術的な能力(を十二分に発揮するため)のベースは、心理・精神的な部分なのです。




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