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これまた、「結局は」実力差が結果につながったゲーム・・日本代表vsタイ代表(3-1)・・(1999年10月17日、日曜日深夜)

「結局は・・」といったのは、試合の流れが日本に傾くまで、つまり日本が、守備を固めてくる相手に対する「正しい攻め方」をできるまで、そしてタイが「攻めなければならない」状況になるまでに時間がかかったということです。

 この展開は、カザフスタン戦と酷似しています。カザフ戦では、「中盤の王様」が、「自分主体」の素晴らしい判断の中距離シュートを決めたことで、相手の「守備重視戦術」を転換させ、守備を「大きく開けて」攻め上がる・・、それに対して効果的なカウンターを何度も仕掛ける・・など、うまく自分たちがイニシアチブを握る試合を展開できるようになりました。ただタイ戦では、前半ほとんどの時間帯、「タイ・ペース」の試合が展開されたのです。

 いくら実力の差があるとはいっても、敵が、「限りなくオールコート・マンマークに近い」守備戦術などで、まったくフリーな相手選手を出さないなど、「集中を切らさず」必死で守りに入った場合、「キレイ」に相手守備ラインを崩して(つまり相手のウラを突いて)「シュート・チャンス」を作り出すのは難しいものです。このことは、世界トップの試合でも同様です。

 試合後のインタビューで、トルシエ監督が、「選手たちには、マンチェスター・ユナイテッドでも、フランス代表でも、かなり実力の劣る相手に守り切られそうになった試合を何度も経験している・・という趣旨のことを述べた」と語っていました。まさに、その通りなのですが、だからこそ監督は、そんな「八方ふさがりの状況」を打開するための特別な戦術を与えなければなりません。

 前半だけを見ていた場合、とてもトルシエ監督がそんな特別な戦術イメージを選手たちに移植できたとは思えませんでした。それが、後半に平瀬が登場した瞬間から、展開がまったく違ったものになります。

 前半ではあまり見られなかった、ロングパス多用の大きな展開や素早いダイレクトパス、ドリブル勝負などのリスクチャレンジが増え、日本のチャンスが倍増したのです。

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 前半、日本代表は相手の「タイト・マーク」に苦しみました。中盤、最前線でフリーになる選手は全くといっていいほど出てきません。特にチャンスメーカーの中村に対するマークはハードの一言。どんなに走ってもそのマークを振り切ることができず、最前線に近い場所でパスを受けて振り向けたのは数回といったところ。ただ振り向けてもすぐに別のタイ選手にプレスされボールを失ってしまいます。思うようにプレーできない中村。

 素晴らしい精度のフリーキック、ドリブル突破(一回)、明神や本山へのロングパス(ロングスルーパス)など、何度か効果的な「組み立て・仕掛けプレー」は魅せますが、それでも総体的には「効果レベル」に達していたとは言い難い前半のプレー内容でした。

 中田と比べるのは酷ですが、彼のプレーからは、相手を背負っていても、しっかりとボールをキープしたり、逆に相手の「マークの勢いを使って」抜き去ってしまったりといった「力強さ」だけではなく、「次」を意識したシンプルなパスという「発想」もあまり感じられないのです(ちょっと中村は、ボールをこねくり回し過ぎ?!)。

 そしてフラストレーションがたまり、足が止まり気味になってしまう・・。要は、ボールを受けるまでの「動き(マークを振り切る動き)」に問題があるということなのですが、マークがきついなら、積極的に戻って守備に参加することで、ちょっと戻り気味のポジションから攻めをスタートする(攻めのスタートシーンに積極的に絡んでいく)のも一考です。そんな「工夫」を彼の「前半の」プレーから感じられなかったのは寂しい限りではありました。

 そして日本代表は、ショート、ショートの組み立てが、ことごとくタイ守備陣の餌食になってしまうようなプレーを繰り返します。相手が守備的な戦術で臨んでいる場合、『タイミングを見計らう』効果的なロングパスを多用した大きな展開、中盤でのスペースをつなぐドリブルや勝負のドリブル、はたまた、最前線と中盤が入れ替わってしまうくらい激しい「タテのポジションチェンジ」などが有効なのに(相手守備のバランスを崩せる)、日本代表のボールの動きは、スローで狭く・・、ボランチの押し上げも鈍く、タテのポジションチェンジどころではない・・これでは・・

 それでも、前半の半ば頃からは、少しずつロングボールを多用した大きな展開や、ワンツーなどの素早い展開を見せるようになってきます。とはいっても、まだ「ヨッコラショ・・」という、相手に完全に分かってしまうロングパスタイミングだけではなく、中盤選手たちのポジションが「下がり気味」ということもあって「こぼれ球」を効果的に拾うことができず、逆にタイにカウンターのチャンスを与えてしまうという悪循環を繰り返します。

 前半では、中村のドリブル突破からのシュート・・、30分の、中村、本山が絡んだコンビネーションから本山にスルーパスが通り、そこから惜しいセンタリングを中央へ返したシーン・・、37分の、宮本から、長距離の「ウラ・パス」が通り、高原がシュートまでいったシーンが目立った程度でした。

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 ただそんな沈滞したサッカーが、平瀬が入った後半が始まり、急に大きく、ダイナミックなものになっていきます。ロングボールあり、大きなサイドチェンジあり、ドリブル突破トライあり、はたまた、遠藤、稲本、本山、明神が交代に最前線まで顔を見せるなど、アクティブな「タテのポジションチェンジ」も頻繁に出てくるようになります。

 これには、後半立ち上がりのタイが「これは行けるかも・・」と、前半よりは「前に重心がかかった」ことで、それまで「忠実&タイト(密着)」だったマークがちょっと「アマク」になってしまったこともありました。

 そして、コーナーキックからの平瀬の先制ゴール。これ以降は、タイが守備を開いてしまったこともあって、日本代表にとってまったく危なげない試合展開になり、二点目、三点目と得点を重ねていきました。

 ということで、中村に対するタイトマークも「オシマイ」。彼本来の、クリエイティブなプレーがもどってきます。それでも「タイトにマークされた」前半の出来が、「世界を目指すための大きな課題が見えた・・」という内容だったことは変えられない事実。優れた才能に恵まれた彼には、どんな相手、どんな試合展開でも、自信をもって「柔軟に自分のプレーができる・・」という、より高いところを目指し、飽くなきチャレンジを続けて欲しいものです。

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 最後に、特に前半の試合展開で気付いたことをつけ加えます。これは私の「感覚的な評価」です。念のため・・

 それは、短い時間単位で、両チームの「心理的な勢い」が変化していったということです。

 立ち上がりは、完全にタイの(守備の)勢いが日本を凌駕します。いくら押し込んでも、まったくチャンスの糸口さえ掴めない・・そんな展開に、日本代表の心理状態が「不安定・受け身(消極的)・ネガティブ」になっていったと感じました。

 そんな「心理的な流れ」が、前半10分の、中村のフリーキックからの大きなチャンスをキッカケに、急に日本に傾きはじめます。そこを境に、10分間くらいでしょうか、日本代表のプレーに「行けるゾ!」という「心理的ダイナミズム」が見えはじめたのです。それでも、彼らの積極的なリスクチャレンジ(中村のドリブル突破など・・)も、タイの堅守に阻まれ続け、そして逆にタイのプレーに、「行けるゾ!!」という雰囲気が充満してきます。そして日本の攻めが「また」停滞気味に・・

 そして今度は、前述した、30分あたりの日本の惜しいチャンスをキッカケに、再び日本に勢いが戻ってきます。それでもタイの守備ブロックを完璧に崩すところまでいかない。サイドからのクロスも正確性に欠けて・・

 「何らかの心理的な刺激」をキッカケに、チームの「勢い(攻守にわたる積極プレーレベル?!)」が大きく変化してしまう・・。まさに、「サッカーは生き物」・・?!




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