トピックス


ワールドユース(5)・・成長をつづけ、ブレイクスルーというレベルまで到達したU20日本代表でしたが、やはり世界の壁はまだまだ厚い・・日本対ブラジル(1-5)・・(2003年12月13日、土曜日)

あららっ・・。ここまで、個人プレーにはしりがちでチームの調子が上がってこないブラジルが相手だから(ブラジルについては、そのような報道ニュアンスが外国メディアの主流)、もしかしたらと期待してはいたのですけれど・・。

 立ち上がり2分の、見事なフリーキックゴール、13分の、日本守備ブロックをズタズタに切り裂くスルーパスからの(決定的スペースを突いて挙げた)二点目、そして前半15分の、コーナーキックからの(ヘディングでの競り合いに勝った)三点目。まあこの時点で、試合の行方が決まってしまったといっても過言ではありませんでした。

 立ち上がりから完全にブラジルペース・・というか、とにかくすべての局面でブラジルが圧倒しつづけるのです。まさに、攻守にわたって完全に凌駕された日本の若武者たちといった状態。とにかく、まさに全員守備、全員攻撃といったダイナミックサッカーを展開するブラジルの迫力は尋常ではない。

 ブラジルの守備が強いのは伝統だから(選手たちの全般的なテクニックレベルが高いからこそのディフェンス能力の発展!)、まあ驚きはなかったのですが、それでも、ボールを奪い返してからの圧倒的な攻撃力(ハイレベルな攻めのコンテンツ)に目を見張りました。ボールの動きが尋常じゃない・・ボールなしの選手の動きも素晴らしい・・そして勝負所での、パスとドリブルのバランスも秀逸・・。

 彼らが魅せつづけた高質なボールの動きですが、その背景には、もちろん戦術的なイメージ基盤があります。要は、ブラジル選手たちの「とにかくしっかりとボールを動かすぞ!」という意識が、ものすごく強かったということです。これまでの低級なゲーム内容によって(ネガティブ現象という刺激によって!)、彼らもまた、トーナメントのなかで大きく発展した(成長した)ということです。とにかく、組み立てから仕掛けプロセスへかけてのスムーズな流れに、ほれぼれと見入っていました。

 また、仕掛け段階に入ってからのパスプレーとドリブル勝負のバランスも特筆モノでしたよ。日本選手が(グループ戦術として)ドリブル突破に備えた集中ディフェンス陣形をしてきたら(ボールゾーンに人数を集中させてきたら)、すぐに、勝負ゾーンを動かすようにパスを回してしまうし(ディフェンスの薄い部分へボールを動かしてしまうし)、ディフェンダーの集中が途切れたら、すかさずドリブル勝負を仕掛けていく・・。そんな的確な判断にも、両チーム間の大きなレベル差を感じたモノです。まあ仕方ない。

 もちろん、そんな高質な攻めのバックボーンは、前述したダイナミック守備。とにかくボールを失ってからの攻撃から守備への転換の早さと、ボールを奪い返す意志の強さが尋常ではない。それこそ、選手たちの高い守備意識の証明というわけです。それがあるからこそ、誰もが攻撃に参加していける・・。そんな、互いに使い・使われるメカニズムに対する理解の深さも、このブラジルチームからは感じられるというわけです。

 もう一つ。ブラジルが、明らかに、最初から「行く!」というゲーム戦術イメージで試合に臨んだということも指摘しておかなければなりません。そんなプレー姿勢が功を奏した。これまでは、慎重に立ち上がろう・・という姿勢でゲームに入ったことで、膠着状態から抜け出せなくなったという試合展開が目立っていたということだったらしいですからネ(これまた外国メディアの報道ニュアンス・・)。要は、選手たちの試合経験が、ゲームペースをコントロールできるレベルまで至っていないということなのでしょう。だから、落ち着いたプレーペースを「アレグロ」へ転換させるなど、チーム全体の意志を統一させるのに四苦八苦してしまう・・。まあこのブラジルチームの場合は、この試合のように、最初からフルスロットルで立ち上がるという、分かりやすい「イメージ」でゲームに入っていった方が正解だということです。その意味でも、ブラジルにとってこの日本戦は、貴重な、感覚的ブレイクスルーを達成できたゲームということになったと思っている湯浅なのです。

 ちょいとブラジルを褒めすぎだとは思いますが、とにかく、それほどチカラの差が歴然だったというわけです。前半の日本チームは、そんなブラジルの潜在能力の高さだけではなく、彼らの積極的・攻撃的プレー姿勢からも心理・精神的に圧倒されてたと感じました。自分たちの攻守にわたるプレーが、本当に小さく縮こまってしまっている・・。もちろんそれでは、このゲームを学習機会として活用することなど出来るはずがない。せっかく「世界の壁」に全力で立ち向かう最高の学習機会(ブレイクスルー機会)なのに・・。たしかに前半20分過ぎからは前への勢いが少しは加速しました。でも逆に32分には、カウンター気味の攻めから四点目を奪われてしまって・・。

 それでも後半は、日本代表も持ち直します。もちろんそれには、四点リードしたブラジルの、攻守にわたるプレーペースが大きく減退したという背景もありますが・・。とにかく、失うモノが何もなくなったことで、攻守にわたって吹っ切れた解放プレーを展開する日本の若武者たち。たしかに、積極的に仕掛けていったからこそ、ブラジルとのチカラの差(個のチカラの差!)をより明確に体感させられたシーンもあったわけですが、逆に「やれるぞ!」と体感できた(成功プレーイメージとして蓄積できるような)場面も多々あったわけで、その両方が、かけがえのない「体感」として脳内イメージ倉庫に蓄積されるというわけです。

 だからこそ後半は、よい学習機会としてうまく活用できたと高く評価できる。積極チャレンジのないところに、決して発展もない・・。それは、長いサッカーの歴史が証明している普遍的コンセプト(概念)なのです。

 結局は世界の壁にはね返されてしまった若武者たち。とはいっても彼らが、トーナメントを通じて大きく成長したことはたしかな事実です。ブレイクスルーとまで表現できる発展。そのプロセスは、私も含め、日本サッカーにとっても大いなる刺激になったはずです。




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]