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U22オリンピック代表・・またまた「同じ課題が」・・日本代表vsミャンマー代表(3-0)・・(2003年5月1日、木曜日)

「このゲームだったら、攻め込まれても大差で負けることは許されない。いや、勝てる可能性だって十分にある。諸君たちは、サッカーをよく理解しているはずだから・・」。

 1980年。私が参加していた、ドイツのプロコーチ養成コースでのこと。水曜日の夜、参加者による紅白ゲームがありました。プロコーチ養成コースの総責任者ゲロー・ビーザンツ(日本のS級ライセンスコースの生みの親)は、元プロや現役プロが主体のチームと、我々、無名のアマチュア参加者が中心のチームに分けました。個人のチカラの単純加算では大きな差のあるチーム同士の対戦。

 そしてゲロー・ビーザンツが、キックオフ前に我々のチームに対して、冒頭の言葉をかけたというわけです。それに対し我々も、「そうだ。戦術的な決まり事さえしっかりとこなせば、簡単にやられるはずがない・・」と、それぞれの役割(基本的なゲーム戦術)をしっかりと確認し、気合いを入れ直した次第。

 私は守備的ハーフ。それはもう大変な汗かき作業の連続でしたよ。相手ボールホルダー(もちろん次のパスレシーバー)には、決して安易にアタックせず、粘り強くマークをつづけて攻撃を遅らせる・・もちろんタイミングが合えば、相手トラップの瞬間を狙ったフェアなアタックを仕掛ける(まあ、相手はうまいからインターセプトは難しかったですけれどね)・・また、マークを受けわたしながら、前後左右から「二列目のフリーランニング」をするヤツを、その攻撃の流れが途切れるまでマークしつづける・・最終ラインの選手たちも、前後に入れ替わる相手選手たちを、最後の最後まで追いますから、そのカバーで最終ラインまで戻らなければならない状況の連続・・そして、何度も中盤ラインと最終ラインの選手たちが入れ替わるようなシーンのオンパレード・・。いやはや・・。

 それでも、「ウラ・スペース」を突かれてしまうシーンは皆無でした。パスとフリーランニングを駆使してウラへ入り込もうとする相手。でも我々は、決定的スペースや自分の背後スペースを完璧に防ぎ切ったのです。もちろん、何度かは、ブンデスリーガでも有名だったスーパードリブラー(クラウス・ヴンダーや他数名)にやられる場面もありましたが。でも事前に「ニオイ」を察知し、何人もが(前線から戻る選手も含めて!)ガーン!と、次のスペースへ急行しましたからネ。突破アクションを潰すたびに、仲間同士で「ヨシ!」と声を掛け合ったものです。

 結局うまく守りきり、「0-0」で試合を終えることができました。とはいっても、決して我々が押されっぱなしだったわけではありません。何本かは、決定的シュートシーンも作り出しましたよ。試合後は、全員が「どうだ!」と鼻高々でした。それからですかね、プロコーチ養成コースが一つの「チーム」になったと感じたのは・・。

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 何故そんなハナシから入ったかって?! それは、U22日本と戦うミャンマーの試合内容を観ながら、そのゲームのことを思い出したからです。私は、ミャンマーの戦い方に、当時の我々のゲーム内容を重ね合わせていたというわけです。

 ミャンマーは、クレバーなゲーム戦術をベースにしたアクティブなサッカーを展開していました。まあ、個人的なチカラでは、あきらかに日本代表の方が上ですが、決して下がり過ぎることなく(受け身の守備サッカーを展開するのではなく)、中盤での積極的&忠実&粘り強いディフェンスを基盤に、それは、それは立派なサッカーを展開したのです。

 それに対し日本代表は、立ち上がりから明らかに緊張感を欠いています。それはもちろん中盤ディフェンスに如実に現れてくる・・。

 相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対する最初のチェック(守備の起点)が甘い・・安易なアタックで置き去りされてしまう・・ボールがないところでのマークが(味方とのマークの受けわたし)が甘い・・だからボールを奪い返すのに四苦八苦してしまいゲームを支配することができない・・だから攻撃でも相手のウラを突くことがままならない・・。この試合での日本代表のテーマは、ゲームを支配し、納得のいくカタチで(自信と確信を、体感レベルで高揚させられるように)勝ち切るというものでなければならなかったのに・・。

 両チームの「個の単純加算」としてのチカラでは、たしかに日本の方がかなり上だと感じます。それでも、ゲーム戦術も含むプレーアイデアの内容、そして実践していく意志のチカラ(気合いレベル)等々を加算していけば、(このゲームのように!)その差は限りなく縮まっていく。フムフム・・。

 前半の立ち上がり、まず松井が、単独勝負から、ミャンマーゴールのバーを直撃する見事なミドルシュートを放ち、次には石川からのスルーパスに大久保が抜け出して決定的シュートを放つ(相手GKのスーパーセーブ!・・相手キーパーは本当に良かった!!)。よし、これが覚醒のキッカケになる!!なんて思ったのですが、その後は、まさに泣かず飛ばずの展開がつづいていしまって・・。

 守備は前述したとおりですが、攻撃でも、とにかくボールの動きが緩慢。もちろんそれには、相手の忠実な中盤ディフェンスがあったわけですが、それにしても・・。特に仕掛けていく段階において、ボールホルダーのイメージと周りのフリーランニングがうまくリンクしない現象が(連鎖しない現象が)目立ちに目立ってしまって・・。まさにボールウォッチャー。「見とれている場合じゃないぞ!」。何度そんな声が出そうになったことか。

 要は、パスとフリーランニング(パスを呼び込む動き)をベースにした、決定的スペースも含めた「ウラ取り」に対する意志が希薄に過ぎるということです。

 起点ができる・・まず一人がスペースへ仕掛けのフリーランニングを敢行する・・それを合図に(その前のタイミングでも!)三人目、四人目のアクションがスタートする・・もちろんイメージするのは、味方のボールがないところでの激しい動きによって作り出されたスペース!・・そして素早いボールの動きのコンビネーションから、相手のウラを突いていく(スペースである程度フリーでボールを持つ選手を演出する!)。こちらはそんなプレーをイメージしているのに・・。

 このチームについて、いつも言っていることですが、どうも「おとなし」過ぎる。要は、緊張感がない・・自己主張がない・・明確な意志の発露プレーがない・・だから互いに刺激し合うこともない・・ということです。

 したがって、膠着したゲーム展開において、自らペースをアップしていくことがままならないのも道理というわけです。目標は、アテネの「オリンピック本大会」で、世界を相手に存在感を発揮することなのでしょう?! それだったら、こんな「アナタ任せ」で緩慢なプレーをしていてはダメじゃありませんか。

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 とはいっても制空権は握っていましたからね(平均身長で、日本の方が7センチも高い! 平均年齢でも、ミャンマーよりも2歳も上!)、いつかはセットプレーをキッカケに・・とは思っていました。

 後半の立ち上がりも相変わらずカッタるかった日本代表でしたが、5分に、コーナーキックからのこぼれ球を、松井が低い弾道のシュートを決めてからは、ペースがちょっと上向き、仕掛けにも勢いが乗るようになっていきます(≒ボールがないところでのアクションの活性化!)。もちろんそれには、ミャンマーの押し上げが積極的になったという背景もありましたがネ。そして大久保の、「これぞ大久保!」というドリブル勝負が決まって「2-0」。その後は、やっと勢いの乗った波状攻撃も出てくるようになった。

 それでも私は、前述したように、自分主体で(能動的な意志のチカラで)膠着状態から脱却していくチカラに、彼らの大きな課題を見ていたというわけです。

 そこでのもっとも効果的なプロセスは、中盤ディフェンスの活性化しかない・・。「誰か」がコマンドを握り(指揮を執り=味方を叱咤激励して鼓舞し!)中盤での守備のダイナミズムを上げていかなければならないのです。もちろん、ボールホルダーへのチェックと、次、その次のディフェンスアクションの「有機的な連鎖」のことですよ。

 それがあってはじめて(相手のミスからではなく、自分たち主体でボールを奪い返せるようになってはじめて)、「自ら」ペースを上げていくことができるものなのです。サッカーの基本はディフェンスにあり・・。まあ、それについては、前回の「コスタリカ戦レポート」も参照してください。

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 さて、「味スタ」での第二戦が楽しみになってきたじゃありませんか。私は、上記の「視点」でゲームを観ます。そこで彼らは、自分主体で「課題」を克服していけるのか・・。

 どうも彼らには、緊張感の欠けた(アナタ任せの)仲良しクラブ的な雰囲気が感じられて仕方ない(チーム内で緊張感をギリギリまで高揚させることは期待薄?!)。彼らには、皆さんの「ブーイングの嵐」という刺激が必要なのかも・・。




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