トピックス


ジーコジャパン(25)・・この試合は、決定力というテーマに尽きますかネ・・(日本対ホンコン、1-0)・・(2003年12月7日、日曜日)

この試合でのテーマが「いかに多くのゴールを奪うか・・」というポイントに特化するのは仕方ないところです。日本とホンコンではチーム力に大きな開きがありますからネ。そして実際のゲーム内容も、まさにそのポイントに集約したような展開になっていったという次第。立ち上がりから、アレックスが、山田が、はたまた遠藤までもがどんどんと仕掛けの流れに乗っていく・・そして次々と決定的チャンスを作り出す・・ってな、ガンガンと日本が押し込んでいくという展開なのですよ。

 この試合での日本代表は、とにかく得失点差を「+4以上」にもっていかなければなりません。要は、(最終戦で)韓国が勝たなければならないという状況を作り出すことで、そこでの学習機会ファクターを引き上げるということです。韓国のレベルを超えた攻めの勢いを余裕をもって抑制できるか・・そしてそこから実効ある攻めを展開できるか・・。そんな明確なテーマがあってはじめて、東アジア選手権の最終日(韓国とのギリギリの勝負マッチ)が、効果的な学習機会になると思っている湯浅なのですよ。もちろん状況が「優勝するためには日本が勝たなければならない」ということになっても、学習機会ファクターは同じようにてんこ盛りでしょう。まあ、どちらにしても「決勝戦」の緊張感は極限まで高まることでしょう。

 さてゲームですが、私は、日本代表が仕掛けていく状況における彼らの「イメージシンクロレベル」に注目していました。仕掛けの流れがはじまったとき、何人の選手たちが、その流れに乗っていけるか・・ボールのないところで効果的な動きができているか・・。要は、仕掛けに乗った選手たちの有機連鎖レベル(どのくらい勝負イメージが同期しているか・・)に目を凝らしていたというわけです。もちろん、組織プレーと個人勝負プレーのバランスもテーマですけれど、日本の場合は、やはり組織プレーによる仕掛けがメインですからネ。

 前半の日本代表は、決定的なものも含めて、とにかくたくさんのシュートチャンスを作り出しましたよ。久保のヘディングシュートや個人勝負からの決定的シュート・・大久保やアレックスのドリブル突破からのシュート・・等々。たしかに三人目の動きのイメージはまだ希薄だとは感じましたが、それでも全体的には組織プレー(仕掛け)でのシンクロレベルはまあまあといったところです。

 それにしても17分のチャンスメイクは秀逸だった。キッカケになったのは、中盤でのワンツー突破。やはり、誰かがフリーで抜け出さなければ、相手守備ブロックのバランスを崩せないということです。このシーンでは、ワンツーで抜け出した選手へ、ホンコン守備陣の視線と意識が集中したことで久保へのタテパスがものすごく有効になったというわけです。目の覚めるようなコンビネーションでした。

 「まあ、こんな感じの仕掛けをつづけていればいつかはゴールが生まれるだろう・・」なんて楽観視していたのですが、徐々にフィニッシュシーンの頻度が低落していくのですよ。20分あたりからは、部分的に「動的な膠着状態」ともいえる雰囲気も出てきてしまって・・。たしかにゲームは動きつづけているのですが、ホンコンが日本のプレーに慣れてきたこともあって、徐々に落ち着いて日本の攻撃を受け止められるようになったということです。守備が安定したら次の攻撃も好転するというのがセオリー。ということで、ホンコンも、しっかりと押し返せるようになっていきました。

 そんな日本代表の沈滞傾向を見ながら、ヤツらは、攻めあぐむことで心理的な悪魔のサイクルに陥ってしまうかもしれないなんて心配になったものです。何せこのチームは、強力なリーダーシップを欠いていますからネ。でも、そんな心配は杞憂におわりましたよ。

 一度は、「膠着してしまうかな・・」なんて心配したこの時間帯で、久保が二度もつづけて決定的チャンスを得たり(一度はバー直撃シュート!)、アレックスが決定的シュートの体勢に入ったりと、再び日本代表がチャンスを作り出しはじめたのです。そんなところにも、「オレたちだってやれるんだぞ・・そのことをジーコに見せつけなければ・・」という国内選手たちの意地を感じたモノです。

 そして前半37分、日本が待望の先制ゴールを奪います。たしかにそれはアレックスのPKでしたが、相手のファールを誘った仕掛けプロセスが秀逸だったから、それは「流れのなかでのゴール」とも評価できるものでした。小笠原の爆発チェイシングをキッカケにボールを奪い返した日本代表・・すぐに左サイドのアレックスへパスをつなぐ・・ドリブルで突っかけていくアレックス・・そして最後は、小笠原が、素晴らしいワンツーコンビネーションからアレックスを決定的スペースへ送り込んだ・・というプレーでした。アレックスの、素晴らしいパス&ムーブと、小笠原が魅せた素晴らしい寄せと正確な「ツーの勝負パス」。ホンコン守備ブロックは、ズタズタに切り裂かれてしまいましたよ。

--------------------

 一点をリードした日本代表でしたが、そこまでの印象は、あれほどたくさんのシュートチャンスがありながら・・という不安要素の方が先行していました。決定力不足・・。

 いま前半がおわったところなのですが、やはり「決定力」というキーワードが、まず脳裏を駆けめぐっていたのです。とはいっても、決定力って、その大部分が「心理・精神的なファクター」で占められているから、つかみ所がない・・。

 例えば、前半30分ころの久保の決定的チャンス。右サイドからの一発ロングサイドチェンジパスと、久保自身の素晴らしいトラップと切り返しによって作り出された完璧なシュートチャンスだったのに・・。迷わず振り抜いた久保の左足でしたが、結局はフルにボールをヒットしなかったばかりか、相手ディフェンダーの身体に当ててしまって・・。

 同じような「現象」はアレックスや大久保にも・・。要は、決定的なシュートチャンスで(自分自身も、アッ決定的だ!と感じるようなチャンスで)しっかりとシュートが打てていないということです。たぶんそれは、決定的シーンでの確信レベルが低いから、シュートする動作が安定しない(キックモーションがブレる・・)ということでしょう。

 決定的シュートチャンスでの確信レベルが低い?! だから決定的瞬間に、「ヨシッ、いたただき〜〜!」なんて余裕の心理状態ではなく、前述したように「アッ、決定的チャンスだ!」なんていう余裕のない心理状態になってしまう・・。もちろん「J」だったら余裕だけれど、ステージが変わったら、同じ状況でも、まったく違う心理状態になってしまうということもあります。

 この「確信レベル」引き上げるためには、もう「体感」を積み重ねていくしかありません。それも「冷や汗が出るようなギリギリ状況での体感」を・・。

 以前サッカーマガジンの連載で、「決定力」というテーマで、下記のような文章を発表しました。

=============

(2000年3月に発表したコラム)

 「ダメだ! 一本に集中しろ! 明確なイメージをもってシュートしろ!」

 ドイツの伝説的名監督、故ヘネス・ヴァイスヴァイラーが、ダミ声で檄を飛ばす。ケルン監督時代、彼は、個別に選手を呼び出して、そんなシュート練習をさせていた。シュート一本ごとに鋭い刺激を与えながらモティベートし続けるヴァイスヴァイラー。

 ハナシ変わって、先日の日本対中国戦。城や名波、はたまた望月のフリーシュートなど、相手守備ブロックを崩した決定的チャンスを何本も作りながら、結局ゴールを割ることができなかった。翌日のメディアには、例によって「決定力不足・・」などのタイトルが踊っていた。ところで、「決定力」って??

 「チャンスを作り出すことと、実際にゴールを決めることは別物なんだヨ」。ドイツサッカー史に残るストライカー、ルディー・フェラー(現ドイツ代表監督)がそう言ったことがある。「チャンスの瞬間、シュートまでのプロセスや、ゴールへ吸い込まれていくボールのイメージが鮮明に浮かんでくるんだ。それは体感に裏打ちされた自信とでもいえるのかな・・」。その意味は、チャンスを確実にモノにするためには、ハイレベルの「心理・精神的バックボーン」が決定的な要素になるということだ。

 瞬間的に脳裏を駆け抜けるゴールイメージ。それは、厳しい練習で積み重ねられた「成功体験」に裏打ちされたものである。

 チャンス! その瞬間、世界のストライカーたちは、「一呼吸」を意識できるくらい落ち着き払い、相手GKやディフェンダーのモーションを脳裏に描きながら、「よし、もらった!」と確信をもってシュートに入っていく。まるで、自らのイメージに誘われ、自然と身体が動くかのように・・

 ゴールイメージを研ぎすますためには、勝負の試合におけるゴール以外では、地道な反復トレーニングをこなすなかで、シュート成功の「体感」を蓄積していくしかない。それも、「本物ゴール」の体感を・・である。

 本場のプロは、それこそ血のにじむようなトレーニングを繰り返す。またそこでは、「本物ゴール」をどのくらい「体感」させられるかという監督のウデも問われる。鳥肌が立ち、冷や汗が出るような「限界状態」を効果的に演出するウデが・・

 ゴールは、技術・戦術能力と、体感ベースの自信・確信などが凝縮したクリスタル(結晶)である。一朝一夕でモノになるはずがない。

 気乗りしない雰囲気で「やらされる」シュート練習を繰り返す日本選手たちを見かける。そして「勝負」での決定的シュートミス・・。そんな気の抜けたシュートトレーニングを見るにつけ、「ダメだ! もう一度!」という、ヴァイスヴァイラーの「意味深」なダミ声を思い出す。(了)

===============

 さて後半の日本代表。立ち上がりは、前半のようにコンビネーションを主体に(部分的には三人目までも反応するような!)高質な仕掛けを展開していたのですが、ゴールが遠いということで(シュートチャンスをうまく演出できなくなったことで?!)、無理な状況での強引なドリブル突破トライなど、徐々に力ずくの仕掛けが目立つようになっていきます。こういう厳しい状況だからこそ、ボールがないところでのクリエイティブアクションと素早く広いボールの動きを積み重ねるコンビネーションという「日本の伝家の宝刀」に対して意識を集中しなければならないのに・・。これでは、いくらチカラに差があるとはいっても簡単に崩していけるはずがない・・。

 結局、日本のゲームペースが低落しはじめてからは、前半のような(組織プレーと個人プレーがうまくバランスした)スムーズなチャンスメイクが出てくることはありませんでした。そして結局そのまま「1-0」でタイムアップ・・。

 これで韓国との最終戦は、日本が勝たなければならなくなってしまいました(総得点で韓国の方が上!)。まさかそんなことになるはずがないと思っていたから、冒頭で、韓国が勝たなければならない・・という状況を(イージーにも)想定してしまいました。

 まあでも、学習機会という視点からすれば、追い込まれたことは、日本代表にとってポジティブなことだと思いますよ。国内組が、自分たちの存在価値を認識させなければならないという心理的プレッシャーのなかで(意地の)存在感を発揮することができるか・・。注目じゃありませんか。




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]