トピックス


ジーコジャパン(11)・・守備という視点で、アルゼンチン戦を分析してみました・・(2003年6月15日、日曜日)

ビデオを見返しながら、やっぱりアルゼンチンとのゲームが分析のオブジェクトとして価値がある・・と思っていました。

 何といっても彼らは、明確に日本代表よりも強かったですからね。それに対し、若手主体のパラグアイは、やはり力不足。まあ、ボールポゼッションでは大きく上回った日本代表が、パラグアイ守備ブロックをうまく崩していけなかったという視点では分析を深めることはできるでしょうが、やはりここではアルゼンチン戦だけにスポットを当てる方が意義が大きい・・それも、彼らのディフェンスに対する分析を・・ということでキーボードに向かった次第。

 とにかくアルゼンチンは強かった。もちろんその基盤は、選手個々のチカラを単純に足し算した個人の総計力ですが、彼らの場合、個のチカラが上回っているのに加えて、戦術的にもより高質なサッカーを展開している。個人戦術でも、グループ戦術でも、チーム戦術でも・・。もちろん攻守にわたって・・。だから、日本代表にとっても大いなる学習機会だった・・。

 ということで、まずアルゼンチンのディフェンスを軽く分析していきましょう。

 相手にボールを奪い返された瞬間からはじまる守備は、まず相手ボールホルダーへのチェック&チェイシング(決して安易なアタックではない!)がスタートラインになります。それを私は「守備の起点」と呼ぶわけですが、そのチェックのやり方が、次の守備での勝負所(周りのチームメイトたちの勝負イメージの組み立てプロセス!)に大きく影響してくるというわけです。

 サイド方向へ追い込んで協力プレスを仕掛けるのか、ウェイティングしながら徐々に次のパスコースを制限するポジショニングで周りの味方に次の勝負をゆだねるのか、はたまた・・。もちろん、ボール絡みのチェックには様々なタイプがあるわけですが、その内容(そのアクションが内包する意図)からしてアルゼンチンに一日の長があると感じます。

 また、パスを受けた相手に対するチェック(寄り)の勢いも尋常ではない。できる限り相手を振り向かせない・・振り向かれてしまったとしても、決して余裕を持ったキープをさせない・・。フムフム。

 そして、次のボール奪取プレーでも、ハードで粘り強いだけではなく、とっても上手い(この上手さには、タックルやスライディングのテクニックだけではなく、身体の使い方や、寄るときのコース取り等々、様々なポイントがあります)。パスを待つ日本選手に対する微妙な間合いの空け方(パスを出させるポジショニング)や、フリーランニングを仕掛ける相手への忠実なマーク等々、見所豊富です。

 特に、「ボールに左右されない勝負勘」が素晴らしい。要は、ボールがないところでのディフェンスの「質」ことなのですが、彼らは、どこが最終勝負ポイントになるかを明確にイメージできていると感じます。仲間が抜かれても、そこに一人の味方がカバーしてさえいれば、自分は、ボールがないところで勝負の動きをする相手選手へのマークへ向かう(最終勝負のスペースを抑える!)という判断が的確にできているということです。

 これは簡単な作業ではありません。昨日アップしたサッカーマガジン別冊の記事でも書きましたが、私はそれを「守備でのスペース感覚」と呼びます。最終勝負(シュートシーン)が展開されるスペースだけではなく、最終的な仕掛けの起点になるようなスペースに対する鋭い感覚。そこでは、アルゼンチンの選手たちが「無為なボールウォッチャー」になることがほとんどないと感じます。

 何度ありましたかね、ボールがないところでの忠実でクリエイティブなマーキング&チェッキングアクションが。左サイドで、中田とカンビアッソが対峙している(基本的には中田がキープ)・・その脇を、服部がタテの決定的スペースへ爆発フリーランニング・・その瞬間、中央寄りにいたガジェッティーが、中田とカンビアッソが競り合う「ボール絡みスポット」の脇をすり抜けて服部のマークへ急行する・・。このシーンでは、中田とカンビアッソの「競り合いスポット」を中心に、その左側を服部が上がり、その右側をガジェッティーがすり抜けてマークへ急行したのです。それこそ、本物の「実効ある守備意識」がチームに浸透していることの証明。フムフム・・。

 それは、ハイレベルなサッカーにおいて様々な失敗やミスを体感しつづけたことで培われた「ボールに左右されない勝負勘」。彼らは、勝負はボールのないところで決まるという真理を、心底理解しているということです。逆にその感覚が、攻めにも十二分に活かされている。だから世界の一流。でも日本代表は・・。

 日本選手たちは、アルゼンチンについて指摘したディフェンスでの優れた感覚が、すべてのポイントで甘い。もちろん、局面での競り合いシーンにおける個のチカラの僅差は仕方ないにしても、相手からボールを奪い返すという「本当の守備の目的」を達成するうえでの戦術的発想でも・・。

 まず、守備のスタートラインとしてのチェック&チェイスアクションが甘い(勢いがなくタイミングも遅れ気味)。ボールがないところでのポジショニングも、どうも「味方同士のバランス」に気を取られすぎ、肝心なところ(パスが回されてくる瞬間)での詰めが甘くなってしまっている。また、パスをトラップした相手へのチェックも、(抜かれたり外されたりするのが怖いから?!)ウェイティングと「間合い詰め」アタックのメリハリがしっかりとせず、中途半端なモーションに入って外されたり抜き去られたりしてしまう。逆に、勝負のアタック(もちろんスライディング!)を仕掛けなければならない状況で逡巡してしまうケースも目立つ。そして、直接シュートにつながる最終勝負シーンでの「ボールがないところでのマーク」も甘い(ボールウォッチングが目立つ!)。

 もちろん、これらの守備アクションを、ボール奪取の「プロセス現象」として明確に分類することはできません。どこでボールを奪い返せるか分かりませんし、相手のミスもありますからね。とにかく、そのような様々なプレー(ディフェンスでの戦術的な発想)を、常に「有機的に連鎖」させようとする選手たちの「自分主体の意志」が重要なポイントになると言いたい湯浅です。一カ所でも綻んだら(甘くなったら)、当然「連鎖プレー」も機能しなくなるのは当然の帰結というわけです。

 まず「ボール絡みの守備プレー」がスタートライン。それに、ボールがないところでの守備アクションを臨機応変に、そして効果的に適合させていく。だからこそトレーニングにおいて、守備での「プレーの連鎖イメージ」を確固たるものにしなければならないというわけです。そう、守備におけるスペース感覚の活性化です。それがあれば、前述したように、攻めでのアイデアも自然と発展していくものです。

 そして、小笠原に代わってアレックス、中田浩二に代わって福西、そして中山ゴンに代わって大久保が登場した後半。日本代表のサッカーが大幅に改善されます。福西と稲本で組む守備的ハーフコンビに、右は中田英寿、左はアレックスが控える中盤守備ブロックがうまく機能しはじめたことで、守備と攻撃の善循環が回りはじめたのです。まあそれには、リードしているアルゼンチンが、ちょっとペースダウンしてきたこともあるわけですが、それにしても・・のペースアップだと感じていました。

 相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)へのチェイス&チェックアクションが格段に活性化したことによって、周りのディフェンスも効果的に連動しはじめる。もちろんミスはあるし、彼らがイメージする高い位置でのボール奪取はままならないにしても、チームの自信レベルを高揚させるに十分な「意図的な」ボール奪取シーン(=成功体感)がくり返されるようになったのです。もちろん、そんな守備ダイナミズムの高揚が、彼らの攻めに勢いを与えないはずがありません。前半では、ほとんど相手ゴールへ迫ることができなかったのが、アルゼンチン守備ブロック全体が下がらざるを得ないくらいの活発な攻めを展開できるようになったのです。もちろんその背景は、中盤ディフェンス(=実効ある守備意識)に対する確信レベルの高揚。だからこそ、攻めに「より」多くの人数が絡んでいけるようになったということです。

 アレックスと大久保という、「個」で仕掛けていける選手を投入したから? もちろんそれもあるでしょうが、私は、ディフェンスの活性化と(もちろんその背景にも、選手交代による心理・精神的な刺激があった!)、この二人の積極的な「仕掛けマインド」が相乗効果を発揮したと思っているのです。

-----------------

 ディフェンスこそが全てのスタートライン。それがあってはじめて(守備を、ダイナミック&攻撃的に安定させることができてはじめて)、次の攻めにも勢いを乗せることができる。そのメカニズムを明確に理解しているからこそ、中田英寿は、攻守にわたって(特にディフェンスにおいて!)光り輝く実効プレーを展開できる・・だからこそ、フットボールネーションのエキスパートたちに高く評価される・・。

 まあとはいっても、日本代表の攻撃では、選手たちが描写する仕掛けイメージのシンクロレベルを高揚させていくためのベースとなる「明確な指針」が必要でしょうが・・。何といっても、まだまだ日本サッカー(選手個々)のレベルは一流ではありませんから、「自由に・・」といって、ボール扱いが上手いパサータイプばかりを揃えてもネ。

 基本的には非定型の攻撃。それでも、選手たちに共通する(個の才能やタイプなどをベースにした)方向性だけは明確にしておかなければ、次のプレーに対するイメージの描写に(互いのイメージをシンクロさせる作業に)迷いが生じてしまうのも道理というわけです。明確な「概観イメージ」をベースにした「局面での非定型プレー」というのが、攻めの基本線なのです。

 このテーマについては、また機会を改めて・・。

 さて今夜は「マドリッド・ダービー」。もちろん、レアル・マドリー対アトレティコ・マドリーによるローカルダービーマッチのことです。ヨーロッパで唯一、まだリーグの勝負が決着していないリーガ・エスパニョーラ。楽しみで仕方ありません。

----------------

 あっと・・。コンフェデレーションズカップですが、いろいろな事情があって、今回はテレビ観戦ということにせざるを得ませんでした。まあ、グラウンド全体を「俯瞰」するイメージビルドアップは難しいでしょうが、テレビの中継技術も上がっているということで(映像を作るのはフットボールネーションのテレビ局ということで)、そこそこのレポートはできると思います。また全試合観られますしね。

 ということで、そちらも楽しみで仕方ありません。もちろんわたし自身の学習機会としてネ。では・・




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]