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ヨーロッパの日本人・・今週は、稲本、小野、中村、そして中田についてチョットだけ・・(2003年10月20日、月曜日)

「ヘッッ??」 そのとき大きなクエスチョンマークが・・。味の素スタジアムの報道関係者用の控え室で、ある記者の方が読んでいたスポーツ新聞に「稲本が転職・・守備的ハーフからサイドハーフへ・・」なんていう見出しが踊っていたんですよ。それは、興味を引かれるのも当然という次第。

 要は、ペンブリッジという守備的ハーフが復帰したこと、また左サイドの必殺仕掛け人ボア・モルテがケガで出場できないということで、稲本が、マールブランクとともに前気味ハーフを務めることになったというわけです。右のサイドハーフ。ということで、普段は右のマールブランクは左へ。まあマールブランクは、右も左もないというオールマイティープレイヤーですから・・というか、それこそが現代サッカーに求められる能力なのですよ。左右両方いけるなんて当たり前・・攻撃でも守備でも実効ある仕事ができる・・基本的なポジションなくどこでも高質な仕事ができる・・もちろんGKは別だけれど・・やはりポジションなしのサッカーが理想型・・なんてネ。

 さてこの試合でのフルアム。中盤から前の基本的なポジショニングバランスはこうです。守備的ハーフコンビが、レグヴァンスキーとペンブリッジ・・前後左右に自由に動きまわるセンターハーフがクラーク・・左右の攻撃的ハーフがマールブランクと稲本・・そしてワントップがサーア。そんな(イメージ的な)基本ポジショニングバランスを見ながら、私はちょっと不安になっていました。

 守備的ハーフの場合、自分が攻撃のスタートポイントになれるか、タイミング的にそのポイントのすぐ近くから攻めの流れに乗れます。要は、自然とボール絡みプレーが多くなるポジションだということです。それに対して前気味ハーフはかなり違う。彼らの場合、とにかくまず後方からパスを受けなければ何もはじまらない(もちろん高い位置でボールを奪い返したらハナシは別!)。だから、プレーイメージをガラリと変えなければならない。

 もちろん、相手からボールを奪い返すために何をやらなければならないか・・シュートを打つために何をやらなければならないか・・という攻守の(本当の!)目的を達成するためのプレーイメージについては、大きな相違はありません。ただ、そのプロセスがかなり違う。そのポジションの場合、とにかく自分から(能動的・主体的に)動きまわることでボールに絡んでいかなければならないのですよ。守備においても、攻撃においても・・。

 ディフェンスでは、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対するチェイシングやチェッキング作業が増えるのは当然です。要は、いかに効果的に(次で味方にボールを奪い返させられるような)ディフェンスの起点になることができるかどうかというのがテーマになまるということです。それこそ、自分主体の積極ディフェンス参加・・。それがあってはじめて、(次の攻撃でも)多くボールに絡めるようになるというわけです。

 もちろんそこには、ディフェンスに戻りすぎたら、今度は自分のオリジナルポジションに(前方に)パスレシーバー(展開ステーション)がいなくなってしまうというネガティブ現象の危険性はつきまとうわけですが・・。ここでも、優れたバランス感覚が問われるというわけです。ポジショニングバランスを意識し過ぎたらプレーが縮こまってしまう・・でもバランスを崩しすぎても問題が起こる・・。もちろんサイドに張り付いて味方からのパスを待つだけでは(相手の守備イメージに組み込まれてしまうから!)効果的なプレーは望み薄ですけれどネ。いや、難しいのですよ前気味のハーフは・・。

 ということで稲本は、バランスを崩すような積極的な動き(リスクチャレンジ?!)と、次の「バランシングのための積極的なリカバリーの動き」をくり返すなど、自分主体で動きまわらなければ目立てないということだけは確かなのです。ところが・・。

 この試合での稲本は、心配したとおり、(パスレシーバーとして)ボールがないところで動きすぎても、また守備に戻りすぎても、結局は全体的なポジショニングバランスを乱してしまうというポイントを気にし過ぎていると感じます。だからどうしても「待ちの姿勢」でプレーしてしまう・・。これでは冴えたプレーが展開できないのも道理です。

 そのとき私は、「いいんだよ、バランスなんて考えなくて・・大事なのは、自分がボールを奪い返すんだとか、自分がパスレシーバーになるんだという強い意志を前面に押し出してプレーすることなんだ・・ここへパスを出せ!と、常に動きまわることが大事なんだよ・・そのダイナミズムさえあれば、おのずと次の実効あるプレーが出てくるものなんだから・・」なんてことばかりを考えていました。

 やはり、バランシングプレーと、バランスを積極的に崩すプレーをうまくコントロールする「バランス感覚」は難しいテーマ。相手からボールを奪い返すという守備の目的と、シュートを打つという攻撃の目的を達成するために、それぞれの状況でどうすればもっとも効果的なのかを常に考えつづけるという姿勢が、もっとも重要なテーマだということです。ちょいと錯綜したテーマではありますが・・。

 あっと・・稲本。結局は、上記の「バランス」を高い次元でコントロールすることができずに(現象面として、高い頻度で決定的な仕事に絡むことがままならずに)後半20分に交代ということになってしまいました。

 もっと彼は、(タテのポジショニングバランスを崩してでも!)ディフェンスに参加すべきだった!! それが私の意見です。何といっても守備が全てのスタートラインだし、効果的に絡んでいけば、必ず「次の攻撃」でも高い頻度でボールに絡めますからネ。とにかく、分からなくなったら(迷ったり、自分が効果的プレーができていないと感じたら!)常に爆発ディフェンスを意識する・・そうすれば、おのずと自身のプレーリズム(積極性)も高みで安定してくるものなのです。

 稲本は、ペンブリッジの復帰もあって、またまた難しいチーム内ポジションに陥ってしまう?! いやいや、それは違う。稲本にとってその状況は、より大きなステップを刻めるチャンス(=学習機会)でもあり、必ず彼は状況を好転させられるはずです。脅威と機会は、常に表裏一体なのです。

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 次に、ほぼ同じポジション(前気味ハーフ)でプレーした小野伸二と中村俊輔についてのショートコメント。

 結論から言えば、二人のパフォーマンスはどうもスッキリしない・・。局面ではいいプレーは魅せるのですが、どうも仕掛け演出プロセスでの貢献度が明確に見えてこないのです。もちろん「つなぎシーン」では確実なプレーは魅せますが、でも「つなぎ」の目的は単なる・・ですからネ。

 小野伸二は、立ち上がりは良かったですよ。高い位置からのチェイシングやチェックといった忠実な守備参加(ディフェンスの起点になるプレー)ばかりではなく、シンプルなパスプレーの合間に、タメを入れたり、勝負ドリブルで相手を振り回したり・・。でも結局は、時間の経過とともに目立たなくなっていってしまう・・。やはり彼の場合、ボールを受ける動きがテーマですよね。守備的ハーフの場合は、彼の基本プレーゾーンをボールが経由していくからボールタッチ頻度は自然と高くなる。でも前気味ハーフの場合は、とにかくタテパスを要求するとか、自分が積極的に戻らなければボールに触れない・・もちろん戻ったら、自分の本来の前気味ポジションに「穴」を空けてしまうことにもなる・・だからバランス感覚がもっとも大事になる・・でもとにかく、ボールに多く触ることをイメージターゲットに、しっかりと動きまわらなければならない・・というわけです。それが足りないから、どうしても単発の「ボール絡みプレー」に終始してしまうのです。まあ彼の場合も、稲本と同様に、前からの積極ディフェンスをもっと!!というのがテーマでしょう。それがあれば、必ずボール絡みシーンは増えていくはずです。

 中村俊輔の場合、ボールを持ったときの「勝負マインド」は素晴らしいですよ。ボールを持ちさえすれば、効果的な「攻撃の変化」を演出してしまう。そのほとんどは、「ボールのこねくり回し」とは次元の違うクリエイティブなプレーです。実際、彼の勝負ドリブル(タメのドリブル)を起点にして何度か良いチャンスが生まれました。それでも、まだまだ不満。積極的なディフェンス参加ももちろんですが、攻撃でももっと、ワンツー(パス&ムーブ)など、シンプルな仕掛けプレー(使われるプレー=パスレシーバーになるプレー)に精を出さなければ・・。それがあってはじめて、(結果的に)より高い頻度でボールに触れるようになるのですよ。

 とにかく両人とも、守備も含め、もっとボールがないところで動きまわることをベースに(全体的な運動量を上げ)、ボール絡みプレーでは、シンプルなパスレシーブからの忠実なパス&ムーブというイメージも進化させることを意識しなければいけません。そんな「ボール絡みのシンプルプレー」がアクティブになれば、シンプルなコンビネーションから、より効果的なカタチで多くボールに触ることができるだけではなく、結果として、より高い頻度で決定的な仕事にも実効あるカタチで絡めるようになるものです。

 とにかく二人とも、ボールタッチ頻度を上げられさえすれば、仕掛け状況での実効レベルも大幅に改善できるはずです(まあ中村の場合は、より個人勝負イメージ・・小野はコンビネーションイメージ・・)。そのことに対して工夫を懲らさなければいけません。

 より積極的なディフェンス参加を・・。そして、より積極的なシンプルボールタッチ(常に自分がパサーになるという意識を捨てる!)を・・。

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 最後は中田英寿。ローマ戦は先発からの出場です。

 そうか・・先発からの出場は二試合ぶり(?!)だったっけ・・。たしかに今の中田は、完全に自分のポジションを確保できているわけではありません。それについては、とにかく彼にとってポジティブな刺激だとしておきましょう。中田英寿は、そんな状況を、自分にとってプラスになるように「活用」してしまえるだけのインテリジェンスを備えていますからネ。そのことについては、これまで彼が証明してきたとおりです。

 そしてこの試合でも、「その評価」を強化してくれましたよ。攻守にわたって存在感あるプレーを魅せた中田英寿。それでも相手が悪かった。調子が最高のローマ・・。

 とにかくローマのサッカーは素晴らしい。もちろん彼らのホームということが一番の要因なのですが、とにかく攻めのアイデアが高質です。組織パスプレーと(ボールがないとろでの動きも高質)、個人勝負が抜群のバランスを魅せつづけるのです。

 パルマも調子がいいけれど、それを完璧に凌駕するローマ・・っていう展開です。シュート数でもパルマの倍は放っていたローマ。まあ順当なホーム勝利ということになりました。

 そんな不利な展開のなかでも、高みで安定した中田英寿のプレーは、存分に存在感を発揮していました。豊富なボールなしの動きを基盤にしたクリエイティブなパスレシーブプレー・・周りがよく見えている確実で素早いボールコントロール・・そこからのタテへの仕掛けパスや、タテのスペースをつなぐドリブル・・はたまた、たまには突破ドリブルにもチャレンジしていく・・また何本も通した決定的なタテパスも秀逸・・後半立ち上がり早々には、クリエイティブなタメから(キープドリブルから)、後半から交代出場したジラルディーノへ決定的なスルーパスを通したりする(ギリギリのところでGKに防がれてしまう!)・・等々。

 まあ、中田については心配ない・・。




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