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チャンピオンズリーグ準決勝(3)・・エキサイティングな局面勝負シーンが豊富な一発マッチでした・・インテル対ACミラン(1-1、ミランが決勝進出!)・・(2003年5月14日、水曜日)

そのときミラン監督アンチェロッティーの心臓は、一瞬凍り付ついた違いない・・。

 後半43分。状況は「1-1」。このまま試合が終われば、アウェーゴール二倍のルールでミランが決勝へ進出なのだ。ところが・・。

 インテルCKのシーン。そこで、こぼれてきたボールを拾ったインテル攻撃の影武者、エムレが、まさに絶妙のラストクロスを上げたのです。狙うは、もちろんファーポストスペース。まさにピンポイントというボールが、クロスを送り込むエムレと、シューター役のコルドバが明確にイメージする(イメージシンクロ!)勝負スペースへ糸を引いていく・・。そしてコルドバの完璧なフリーヘディングシュート!

 正確に右ゴールポスト際へ飛んだボールが地面を叩く。もちろんGKの足許の地面を・・。ヘディングシュートはGKの足許を狙って叩きつけろ! 自分の眼前でバウンドするボールは、GKがもっともセーブし難い(バウンドするボールのコースを予測して反応するのは難い)シュートだ! そんな教科書通りの強烈なヘディングシュート。

 誰もが、「アッ、決まった!」と思ったに違いありません。何せこのカタチは、もっともゴールが決まる確率が高いケースの一つですからネ。そのことは、誰もが「体感」として知っているというわけです。そしてその瞬間、鳥肌が立ったに違いないアンチェロッティー監督の脳裏から「決勝」という文字が霧散する・・。ミランにとっては、まさに悪夢の瞬間だったというわけです。

 でも、ミランGKアッビアーティは素晴らしく冷静でした。クロスボールに合わせた正確なポジション移動から、決して慌てることなく、最後の瞬間には両足を地面に付け、自らの身体を「かぶせる」ように、叩きつけられバウンドするボールを抑えたのです(それも手で弾いた! )。この状況では、もうそれしか対処方法がない。はじめから手で防ごうとするアクションだったら、確実にボールは「すり抜けて」ゴールへ入っていたことでしょう。そんな反応もまた「体感レベル(記憶効果)」というわけです。だからこそ、最後は手で弾くことさえできた。まあ、コルドバのヘディングシュートがアッビアーティのほぼ正面に飛んだという幸運(偶然要素)もありましたが・・(逆にそれは、アッビアーティの正確なポジショニング移動の結果だから「必然的な結果」だと考えることもできる!)。

 私は、そのシュート場面を見ながら(正確には、エムレのクロスボールのコースを体感した瞬間!)、「アッ、インテルが決勝だ!」と小さく叫んでいましたよ。それこそ、イタリアのツボ勝利・・なんてことまでネ。でも結局は・・。

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 ゲームは、第一戦と同じような展開になります。ポールポゼッション(ボールキープ率)では大きく上回るミラン。それに対し、人数をかけた守備ブロックを敷き、早い段階からマンマークに入ることで(そんな守備イメージがうまく機能しつづけていたことで)、まったくウラを取られる気配さえない感じさせないインテル。

 まあ守備主体の(チーム戦術が優先する)ゲームを展開しているという意味では両チーム共通だと言えるでしょう。要は、全員が「次のディフェンス」を意識しながら攻撃を組み立てている・・というわけです。

 だから両チームともに、ほとんど、後方からのオーバーラップが見られない。要は、タテのポジションチェンジがない(それをベースにした仕掛けイメージを持っていない)ということです。あくまでも、(スリーライン、左右のポジショニングバランスなど)基本的なポジションを崩さずに攻守にわたってプレーする両チーム。

 そんなイタリアだから、強烈な「わたし攻める人」というプレーイメージをもつ「才能」による、「個」が主体の最終勝負ばかりに偏っていく・・。

 彼らがもっている仕掛けイメージは、「個のドリブル突破」「カウンター気味の状況での一発勝負(ロング)パス」「ロングシュート」そして「セットプレー」が主体になっているというわけです。もちろんサイドからのクロスボールというイメージもありますが、イタリアでは、その勝負所となる「ペナルティーエリア角ゾーン」での攻防が激しすぎるから、そこで最終勝負の「起点」を作り出すのは容易ではありませんから・・。

 そんな全体的な展開ですが、やはり「個のクオリティー」ではミランの方が少し上。まあピルロ、セードルフ、ルイ・コスタ、ガットゥーゾ、シェフチェンコにインザーギという、ハイレベルな才能を揃えているということです。それがボールポゼッションの差に現れていた・・。もちろんその背景には、しっかりと守って必殺カウンターという、インテル選手たちの「ゲームイメージ」もありますが・・。

 そして前半13分。インテルが、まさにそのイメージにピタリとはまる一発カウンター攻撃を成就させ「かけて」しまう。後方左サイドから、(ズバッと、タテのスペースへダッシュした)クレスポへ向けた、50メートルはあろうかというラスト・ロングバスが決まったのです。フリーでシュートを放つクレスポ。それはGKの正面に飛んでしまいましたが、それは、まさに彼らのイメージがピタリとツボにはまったというチャンスメイクではありました。

 これは、より「イタリアのツボイメージ」に忠実なインテルが・・なんて思っていたのですが、前半24分には、まったく同じようなチャンスを、今度はミランが作り出してしまうのです。最後尾のマルディーニから、これまた決定的スペースへ飛び出すシェフチェンコへの、60メートルはあろうかというラスト・ロングバス。そしてシェフチェンコの強烈なフリーシュート(わずかにゴール左へ外れていく)。

 でもそれ以外では、両チームともにチャンスの雰囲気さえ感じられない。そしてグラウンド中央ゾーンで繰り広げられる、次の仕掛けに対する(攻撃側、守備側の両者による)読み合いをベースにした潰し合い。それはそれで見所満載ではありましたが・・。

 「まさに我慢比べだな・・」なんて思っていた前半ロスタイム。これこそまさに「唐突」という印象がピタリと当てはまる先制ゴールが決まってしまうのです。決めたのは、ミランのシェフチェンコ。

 中盤で一人、二人と相手アタックをかわしたセードルフからのタテパスが決まったのです。この瞬間、ミラン最前線では、シェフチェンコとインザーギが、左右にクロスするようにポジションを入れ替えました。それに正確に対応するようにマークを受けわたすインテルのセンターバック。だから、セードルフからのタテパスが通された瞬間でのシェフチェンコは、コルドバにピタリとマークされていました。それでも、切り返したボールがコルドバの股を抜けてしまって・・。最後は、シェフチェンコのスライディングシュートが、飛び込んでくるインテルのスーパーGKトルドの身体をすり抜けてインテルゴールへと吸いこまれていったという次第。

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 さて、これで「自ら仕掛けて」いかなければならなくなったインテル。後半からは、攻撃の「個の才能」であるダルマとマルティンスを投入します(レコバと、ディ・ビアージョとの交代)。そしてエムレが中央ゾーンへ入る。

 やはりゴールが、ゲームを(チーム戦術を)動かす。もちろん後半は、インテルが押し上げ、ペースを握ります。あっと・・、ここではペースを握るという表現よりも、ボールポゼッションが逆転したという表現の方が正確でしょう。なんといっても、ボールを支配するけれど、例によってタテのポジションチェンジがなく、素早く、広いボールの動きも見られないことで、どうしてもミラン守備ブロックを崩せないインテルですからネ(ドリブルで押し上げたサネッティーのロングシュートはありましたが・・)。

 その後インテルは、セットプレーからもチャンスを作り出します(エムレが直接ゴールを狙う・・ミランGKアッビアーティが弾いたボールをセルジオ・コンセイソンが中距離シュート・・大きく枠を外れていく)。それでも、どうもゴールを陥れるという雰囲気を醸成することができない。「まあ、アウェーゴール二倍のルールがあるから、もうミランだろうな・・」なんて、例によっての安易な雰囲気に呑み込まれていく湯浅・・。でも・・。

 そうなんですよ、インテルが同点ゴールを奪ったのです。得点者は、抜群のスピードを誇るマルティンス。後半39分のことです。

 インテルのタテパスがこぼれ、浮き球になったところを、ミランのコスタクルタが大きく足を上げてキックします。たぶん、GKか、味方の最終ラインへのバックパスをイメージしたんでしょうが、あろうことか、そのボールが、インテルのマルティンスとミランのマルディーニが並列してポジションしていたバイタルゾーン(ペナルティーエリア際の半円ラインが引かれたゾーン)へ飛んでしまって・・。

 ここでの競り合いのコンテンツも見物でした。

 ハイボールが飛んでくる。背の高さでは、マルディーニの方が大きく上回っている。そのときマルディーニは、助走を付けられたのに、マルティンスの行動を見定めたことで、まったくジャンプしませんでした。それはマルディーニが、先にジャンプしたら、その勢いをマルティンスに「うまく利用されてしまう」と思ったから(強者の体感!)。そのジャンプエネルギーが、マルティンスが身体を寄せてくることで逆に利用され、うまくマルティンスに「互角の競り合い」に持ち込まれてボールが「こぼれて」しまう・・そこでもしマルティンスにボールに触られたら、次のアクションスタートが遅れてしまう(このような『微妙な状況』では、先にジャンプアクションに入った方が、こぼれ球の処理では負けてしまうという体感レベルの勝負勘(感)!)。マルディーニは、体感の経験ベースで、一瞬のうちにそう判断したというわけです。

 でもその判断が裏目に出てしまいます。身体を上手く寄せ、ちょっとマルディーニを「押した」マルティンスの方がボールに触ってしまったのです(マルディーニは、マルティンスも同じことを考えているに違いないと警戒していたのに、先にボールが落ちるポジションに入ったのが裏目に出てしまって・・)。

 この瞬間マルティンスは、明確に「次のこぼれ球」をイメージして反転アクションに入っていました。先にボールに触ったマルティンスは、そのボールを意識的に背後へと送ったのです。「よし! オレがこぼれ球をコントロールした!!」と確信したマルティンス。だからこそ、次のアクションスタートが、一瞬マルディーニよりも早かったのです。

 いや、ものすごい「最終勝負の競り合いコンテンツ」ではありました。

 そこから、俄然ゲームが白熱してくるのです。当たり前です。インテルは、あと一点さえ取れば・・というところまで状況を進めることができたのですから・・。

 後半41分には、タテへのスルーパスから、カロンが抜け出してシュートを打ちます。決定的な場面でしたが、無情にもボールは、ゴール左へ外れていってしまって・・。そして冒頭の決定的シーンへつながるというわけです。

 徹底した「戦術サッカー(規制方向へ振れたサッカー)」・・それでも、プレーしているヤツらの「個の能力」はレベルを超えているから、互いの「読み合い」や、個人戦術コンテンツが詰め込まれた局面勝負など、見所が豊富だった・・。

 あ〜〜っ、面白かった。




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