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CL準々決勝(2)・・これまた興味深いコンテンツが詰め込まれていました・・ユーヴェントス対バルセロナ(1-1)(2003年4月10日、木曜日)

興味深いコンテンツが満載された勝負マッチでした。

 まず、バルセロナで先発したリケルメからいきましょうかネ。何といっても彼は、スピードアップし、全員に同等のディフェンスタスクが求められる(全員守備&全員攻撃)現代サッカーの潮流のなかで生き延びている(現代サッカーのベクトルから外れた?!)、数少ない「クラシカルタイプ」のチャンスメイカーですからね。

 アルゼンチンの天才。でも、代表チームでは使われないし、バルセロナでもまだ、絶対的なポジションを確保できているわけでもない。たしかに、以前から比べれば球離れは早くなる傾向にあるし、パス&ムーブも見られるようになっている。それでも・・

 彼のような天才肌の選手がいる場合、どうしても中盤での「汗かきタイプ」の選手を増やさなければならないし、全員がそこにボールを集めるというイメージでプレーするなど、彼をサポートするために周りの味方が動きまわる必要性に迫られます。彼が所属していたアルゼンチンのボカ・ジュニアーズのようにネ。そうでなければ、その才能が活かされないばかりか、逆に、チームプレーにとって邪魔なだけの存在になってしまう・・。天才であるが故の難しさ。

 よく、才能あるプレーヤーがチームに参加してくることは、コーチにとっての大いなるチャレンジだ・・と言われます。

 サッカーは組織的なパスゲーム。だからこそ、ボールのないところで勝負が決まる。現代サッカーでは、その傾向がより強まっているのです。そんな基本メカニズムのなかに、プレーイメージが異なる天才肌の選手が入ってきたら・・。コーチにとっての大いなるチャレンジと言われるのは、そこに、彼が持つ才能を殺さないように(!!)、守備も含め、いかに組織プレーマインドを植え付けていくか・・という難しいテーマがあるからなのです。それも、サッカーの歴史のなかで無限に積み重ねられた「真実」の一つというわけです。

 ボールに絡めば、すぐにでもレベルを超えた天賦の才を感じさせてくれるリケルメ。それでも「実効」という視点では・・。この試合でのバルセロナは、まさにそこに問題を抱えていました。

 (先頃終了した)サッカーマガジンの連載で、下記のコラムを発表したことがあります。今年の2月20日に書き上げた文章です。

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 そのとき溜息が出た。先日再開されたチャンピオンズリーグでの、バルセロナとインテルの激突。その立ち上がり7分、素晴らしくダイナミックなサッカーを展開するバルセロナが先制ゴールを決めた。

 センターサークル付近で、モッタからの横パスを受けたシャビ。素早くコントロールし、すぐに最前線へ目をはしらせる。そして間髪を入れずにタテパスを送り込んだ。そこには、巧みにインテル中央ディフェンダー二人の間にポジショニングを取ったサビオラがいた。

 相手に予測する余裕を与えないほど素早いシャビの動作。そこから放たれた、寸分の狂いもなくサビオラの足許へ向かう強烈なグラウンダーのボール。インテルのセンターバックを務めるカンナバーロが、パスの到達点(そのときサビオラがいた地点)に引き寄せられるのも道理だった。ディフェンダーとしての本能的なリアクション。しかし、それが命取りになった。その動きを察知したサビオラが、一瞬の判断でボールを「流し」たのだ。それは、カンナバーロの脳裏に浮かんだイメージターゲットが消えた瞬間だった。置き去りにされるカンナバーロ。

 そこからのサビオラのドリブルもまた見事だった。必死にターンして追い迫ろうとするカンナバーロの走るコースへ巧みに入り込んだのだ。こうなっては、もうどうしようもない。サビオラを倒せば、決定的な場面でのバックチャージということでレッドカードは必至。カンナバーロは、両手を大きく広げてバランスを取り、彼の身体を避けるしかなかった。そしてサビオラは、独特の低い姿勢を保ちながボールをコントロールし、目の覚めるようなシュートを左隅に決めた。

 このスーパーゴールシーンを演出したファクター。それは、相手との間合いを作り出したサビオラの巧みなポジショニング、シャビの素早いアクション、そして彼が放った、サビオラの「足許」へ正確に飛ぶ、地を這う鋭いタテパスだった。理想的なタイミングとコース。だからこそサビオラのプレー選択肢が増えた。だからこそ、カンナバーロの予測を超越し、「本能リアクション」だけを誘発した。

 この試合では、特にバルセロナに、タテへのチャレンジパスが多く見受けられた。それは、彼らの復調を如実に証明するものだった。

 相手に読みの余裕を与えないほど素早いタイミングで、最前線プレーヤーの「足許」へ強いグラウンダーパスを出す。それほど、相手守備ブロックの組織バランスを崩すのに効果的なプレーはない。サビオラのように直接シュートチャンスへつなげられるばかりではなく、コンビネーションベースの決定的スルーパスや、相手守備ブロックを振り回すサイド展開のキッカケにもなるのだ。

 とはいっても、それはリスキーパス。また、出し手と受け手とのイメージも明確にシンクロしていなければならない。だからこそボクは、そんな仕掛けのタテパスを繰り出す頻度が、攻撃における「発想の質」を測るうえでの重要なバロメーターだと思っているのだ。(了)

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 たしかにバルセロナは復調しています。それでもこの試合では、そんな効果的なタテパスが(それを起点にした素早いコンビネーションが)あまり見られない。そこでは、リケルメが描く「天才イメージ」がブレーキになっていた?!

 どうしても自分が最終勝負の起点になろうとする(ラストパスを送り込むのはオレだ!という意志を前面に押し出す)リケルメ。チームメイトたちが描く仕掛けリズムが、そこで分断されてしまう・・というシーンを何度目撃したことか。

 結局リケルメは、後半18分にメンディエータと交代。そしてバルセロナの仕掛けリズムに好転の兆しが見えはじめます。とはいっても、詰まり気味だった仕掛けリズムが選手のアタマにこびり付いているようで、「好転」の幅が広がっていかない。それでもバルセロナは、しぶとく同点に追いつきます。後半も残り12分というタイミングでした。

 リケルメが抜けたことで左サイドに張り出し、効果的な仕掛けプレーをはじめたモッタが、クロスと見せかける動作から、ペナルティーエリア内で一瞬フリーになったサビオラへの横パスを通したのです。それを、二人にアタックされながらもユーヴェントスゴールへ「ねじり込んだ」サビオラ(スライディングした相手の足に当たったけれど、ボールはそのままゴールへ転がり込んだ!)。

 この「同点アウェーゴール」は貴重です。何といっても次は、カンプ・ノウでのホームゲームですからね。

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 さてユーヴェントス。この試合での彼らは、ゲームを全体的に支配していました。要は、彼らのサッカーがツボにはまっていたということです。

 例によって、素晴らしくバランスした堅牢なディフェンス組織と、臨機応変&効果的&忠実なマーキング。また彼らは、リケルメのところで一度ボールの動きが止まるということも明確にイメージしていた?! ユーヴェの守備ブロックは、「そこも」ボール奪取のポイントだと意識していたということです。

 そんな彼らの組織的なディフェンスは、もちろん「次の蜂の一刺し」を繰り出していくためのイメージベースでもあります。ボールを奪い返した瞬間に、まさに直線的に相手ゴールへ迫っていくのです。

 彼ら中盤でのパスは、相手守備ブロックの薄い部分を突いていくという、組み立てのボールの動きというイメージではなく、あくまでも、次の仕掛け(最終勝負)をイメージした「タメのパス回し」というニュアンスの方が強い・・。

 ちょっと文章で表現するのは難しいのですが、要は、左右、そして中央ゾーンのどこを、直線的に「刺し通すのか」というイメージで、あくまでも蜂の一刺しの準備段階として中盤パスをつないでいるということです。

 そして一度「タテ」への仕掛けがはじまったら、それまでタメていたエネルギーが大爆発する。

 横パスを出す・・出した者は、そのまま全力で決定的スペースへ走り抜ける(忠実なパス&ムーブ!)・・とにかく脇目もふらずに走り抜ける・・そこへ「ワンクッション」置いた(一度横パスなどを織り交ぜた)勝負のパスが送り込まれる・・。ネドビェドのプレーがその典型ですかネ。

 また・・中央ゾーンで、タテにボールが動く・・同時に、どちらかのサイドに空いたスペースへ味方が全力で飛び出していく・・そのダッシュの勢いは、まったく衰えない・・そこへ測ったような勝負パスが送り込まれる・・。

 ユーヴェントスの攻撃は、とにかくタテへの仕掛けがはじまり、一度スピードアップしたら、最後までその(特にボールがないところで勝負のフリーランニングをする選手の)スピードがまったく落ちないのです。

 そんな、選手たちのイメージが完璧にシンクロする、爆発的なテンポアップを基調にした直線的な仕掛けコンビネーションのなかに、ダーヴィッツに代表される「ここぞのドリブルシュート」や、後方からの一発ロングパスも織り交ぜる。もちろんセットプレーでの勝負強さは言うに及ばない(素晴らしい集中力!)。セリエの優勝争いを一歩リードするユーヴェントスの「勝負強さ」のキーポイント・・。

 再来週カンプ・ノウで行われるリターンマッチ。私は、バルセロナの方が有利だとは決して思っていないのです。

 マンU対レアル。バルセロナ対ユーヴェントス。今から楽しみで仕方ありません。

 なお、アヤックス対ACミラン、インテル対バレンシアについても、内容があれがレポートしますので・・。




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