トピックス


ヨーロッパの日本人・・今週は、まず中田と中村から・・(2003年5月4日、日曜日)

まず、パルマ対ボローニャ。モティベーションとしては、チャンピオンズリーグのイスを狙うホームのパルマの方が、ほぼ残留を手中にしているボローニャよりも数段高くなければならないはずなんだけれど・・。

 特に前半は緊張感の欠けた緩慢なゲームになってしまいます。陽気のせいなんですかね。両チームともに、しっかりとボールを動かして(人が動いて)組み立てようとするのではなく、とにかく(例によっての基本ポジションを維持しつづける)局部的なキープから一発勝負パスを送り込むというリズムのオンパレードなのです。もちろんボールがないところでの動きも単調・・というか、基本的なポジショニングバランスに固執しつづけるイメージ・・。これだったら、局面でのガチガチの潰し合いになるのも道理じゃありませんか。

 中田英寿も、右サイドに張り付いたまま、ちょっと気抜けプレーの方が目立つ。攻撃でも、守備でも。もちろんボールに絡めば、例によっての創造的で力強いプレーは魅せてくれるのですが、どうもそれが(彼のイメージ通りには?!)周りと連鎖しない・・。そして後半12分にアドリアーノと交代してしまいます。フ〜〜。

 中田の一番の見せ場は、後半立ち上がりのシュートシーンでした。(中盤の)右サイドから中央へ持ち込み、パスをつないでそのままゴール前へ上がっていく中田。そして展開された後のクロスを受けた味方(たぶんジラルディーノ)が、決定的スペースへ抜け出した中田へダイレクトでラストパスを送ったのです。まったくフリーの中田でしたが、飛び込んできた相手GKをかわすまでいけなくて・・。残念。

 どうも、このところのパルマの攻撃が、あまりにも一本調子だと感じます。組み立てから仕掛けへ向けてのボールの動きをコントロールする選手がいない(パスのディストリビューターがいない)。ラムーシがいれば、後方からシンプルにボールを展開したり、後方から押し上げてコンビネーションの起点になったりと、少しは攻撃に変化が出てくるはずなんですが・・。もちろん、中田英寿とも仕掛けのイメージがシンクロするでしょうから、中田自身のプレーダイナミズムも高揚したはずです。タラレバは禁句ですが・・。

 やはりシュートチャンス(スペースである程度フリーでボールを持つ選手)の演出は、活発なボールの動きとフリーランニング(クリエイティブなムダ走り)の組み合わせが一番効果的なのです。だからこそ、後方からの押し上げ(タテのポジションチェンジ)が重要な意味を持つというわけです。私が言っているボールの動きは、もちろん「タテとヨコ」の組み合わせですよ。

 この試合ではアドリアーノがベンチスタートになります。代わりにジラルディーノが先発。これは、最前線のフタになってしまう傾向の強いアドリアーノを外したらどうなるかを確かめたかったのか・・。最終勝負シーンで「走り抜けて」もパスが出てこないから、徐々に勝負のフリーランニングに対するマインドが冷え込んでしまうなど、仕掛けシーンでの、アドリアーノの「フタの悪影響」が目立ち過ぎていましたからね。彼のポストプレー(ボールキープ)能力、ドリブル突破能力、シュート能力、ヘディング能力などは折り紙つき。それでも、その「個」の能力が、組織的な崩しアクションのブレーキになってしまっていることも確かな事実なのです。

 彼の「個の勝負能力」を最大限に活かすような組織プレー。要は「個と組織のハイレベルなバランス」がテーマなのですが、どうもアドリアーノは、いつまでたっても、そのバランス感覚が向上しない・・。それを向上させれば、結局は、彼の「個の能力」もよりよいカタチで発揮させられるのに(彼にとっても大きくプラスなのに・・レアルのロナウドの発展プロセスのように・・)。

 とはいっても、2-1とリードされた後に彼が魅せた「ごり押しドリブル&シュート」が、同点の大きなチャンス(それしかなかった?!)だったことも事実です。本当に、サッカーは難しい。

 あっと・・。ちょっとゲームの流れを振り返っておきます。前半は前述したように、ほとんど動きがない・・でも後半は、急にゲームが揺動する・・前述した、後半開始早々の中田英寿の絶対的なシュートチャンス(それも、中田英寿の忠実なフリーランとボールの大きな動きがあったからこそ演出できた!)・・その後もパルマがゲームを支配しつづける・・でも先制ゴールはボローニャ(後半15分ころでしたかね)・・シニョーリのここしかないというタイミングとコースのラストパスが見事に通ったというワンチャンスゴール・・でもその5分後には、ムトゥーがスーパーフリーキックを決めて同点・・でもその2分後には、またまたシニョーリに、このタイミングとコースしかないというラストパスを通されてしまって・・その後、「2-1」とリードされたパルマが渾身の攻めを展開するも、結局そのままタイムアップ・・。押し込んでいた最後の時間帯に中田がいれば、もっと変化をつけた効果的な攻撃が展開できたはずなのに・・なんて、またまた「タラレバ」をやっていた湯浅でした。

 中田英寿。たぶん彼は、いまのチームメイトたちのプレーイメージ(パスのイメージとリズム)に対してフラストレーションをためているのかもしれません。純粋プロの彼だから、そんなことは口が裂けても言わないでしょうがネ。シンプル&エスプリプレーの才能に(組み立てと仕掛けイメージの描写才能にも)あふれた中田英寿のフラストレーションを感じ、また「個と組織のバランス」がうまく好転しないパルマサッカーに、こちらも欲求不満がたまりつづけたものです。

----------------

 さて中村俊輔。ちょっとレポートが難しい・・。

 たしかに守備での実効レベルは上がりました(意識が高揚している!)。ボールがないところでの忠実なマーキング。それも、今までのように無責任にフリーで行かせたりはせず、「最後まで」マークをつづけます。また、次のパスに対する読みをベースにした『全力ダッシュ』からのアタックも、何度かは成果を出しました。

 これまでの、「そこにいるだけの(周りにとって)邪魔な存在」から、中盤ディフェンスの全体的な機能性における「実質的な関与度」も上がりはじめた中村。それでも・・。

 ディフェンスのプレー姿勢はたしかに向上しました。それでも、結局は「実効レベル」が十分ではない。ボールがないところでマークしていても、相手の全力ダッシュについてゆけず、結局は振り切られてしまう(そこへパスが通れば決定的ピンチ!)。また1対1でも、相手のドリブルに振り切られてしまう。たしかに何度かは、トラップの瞬間を狙ったアタックでボールを奪い返しはしましたが、守備における全体パフォーマンスのレベルという評価の視点では・・。

 身体能力とディフェンステクニックに劣る彼は、中盤守備では、やはり「起点や勝負パーソン」にはなり難いということです。もちろん「守備の起点の周り」で、次のパスを狙ったり(その時点でマークする相手へのチェック)、協力プレスに参加したりするプレーでは(目的に対する意志の高さがキーポイント)実効あるプレーを展開できそうですが・・。

 この試合では、中盤ディフェンスに気を割いていた中村。だから、どうも次の攻撃の流れにうまく乗っていけない。周りも、彼らにボールを預けて「後方からのゲームメイクを任せる」という意識もまだ希薄。

 パスが回されてくるタイミングが遅いから、どうしても相手に詰められた状況でボールを持つシーンが多くなってしまう・・だから、安全な横パスなど、シンプルにパスを展開せざるを得ない・・でも、その次の段階で「パスが戻されてくる」ことは希・・だから、仕掛けの流れをコントロールするところまで行けない・・。

 流れに乗れないのは、ボールがないところでの全力ダッシュというアピアランスが少なすぎるから・・。全力ダッシュでの前方スペースへの入り込み。全力ダッシュでのボールホルダーへの寄り。はたまた、ワンのパスを出した後の全力ダッシュ(パス&ムーブのアクション!)。

 守備では、何度も全力ダッシュでのアタックを敢行していたのに(全力ダッシュシーンが増えたのは、彼のディフェンスでの意志が向上した証!)、次の攻撃では様子見になってしまう(足を止めて横パスを待つという)シーンが続出してしまって・・。

 下がり気味の基本ポジションからスタートした中村。「守備に対する信頼度が低い・・」というチーム内の評価を覆そうと(見返そうと)必死の忠実プレーをつづけます。そして、ある程度の成果を示した。それはそれでポジティブな傾向ですし、彼が発展するためのベースです。ただそれで、彼の「コア・クオリティー」である攻撃への貢献度が減退してしまっては元も子もない。難しいテーマですが、とにかくもっと運動量を・・そしてもっと攻守にわたる貢献を・・ということです。サッカーは走るボールゲームなのです。それについては、先週アップした「Jリーグ・レポート(ジェフ市原)」も参照してください。

 それでも、ローマに「3-1」と大逆転されてしまった後からは、攻撃における彼のプレーダイナミズムも好転していきます(まあ、あのゲーム展開だったから当然の成り行きではあったのですが・・)。

 たしかに彼がボールを持ち、仕掛けの中心に入ったときには、レッジーナの攻撃クオリティーも確実に上がる・・。チームメイトたちも、そのことを再認識したようで、どんどんと中村にボールが集まるようになっていきます。もちろんそれには、中村のボールがないところでの動きが(走りが)活性化したこともあります。

 本当に彼のキックは正確だ・・。それも、ボールコントロールが巧みだから、パスタイミングも素早い。だから、ボナッツォーリやディ・ミケーレなど、最前線で勝負パスを待つ味方の勝負の動きにも(パスの意志とタイミングを明確にイメージできるからこその)ダイナミズムが出てくる。たしかにまだ中村は、「パスを出した後のアクション」が遅いという課題を抱えてはいますが・・(仕掛けパスの後に全力ダッシュで絡んでいけば、もっと決定的な仕事ができるのに!)。

 この試合内容で、中村俊輔が、自らの発展にとって大事な「何らかのイメージ的なキッカケ」を掴み取ってくれたことを願って止まない湯浅です。

 最後に、レッジーナの2点目になった中村のスーパーフリーキックに乾杯!




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]