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ヨーロッパの日本人・・小野?・・そして高原直泰・・(2003年3月9日、日曜日)

まず小野から・・なんて思っていたら、アララッ、この試合では出番なし。「小野は、風邪で4日間も寝込んでいたから、まだアウト・オブ・フォームだ(コンディションが整っていない)・・」。ファン・マールヴァイク監督の弁です。

 ということで、この試合は、チリ代表で、フェイエノールトに新加入してきたアクーニャを注視していました。彼も、徐々に発展してきていると感じます。要は、チームに慣れ、安全に・・安全に・・というプレー姿勢から解放されはじめたということです。もちろん彼はスーパープレーヤーではありませんから、デビューしてからは、ミスをしないように・・とプレーしていたというわけです。

 そんな消極的なプレー姿勢が、前節(小野が風邪で出場できなかったゲーム)での途中交代につながってしまった・・。サッカーは、チャレンジしなければミスは目立たない(ミスをする状況に陥らない)という世界です。でもそんな姿勢は、チームにとってマイナス要素以外の何ものでもない。それは、本場での不文律なんですよ。だから彼の途中交代には、明確な背景があったというわけです。アチラでは、攻守にわたって(その目的を強烈に意識し)自ら仕事をさがしつづけ、勝負所では、バランスなんて関係なくチャレンジしていくというプレー姿勢のみが評価の対象になるということです。

 でもこの試合でのアクーニャは、そんな「評価メカニズム」をしっかりと意識した積極プレーを展開し、攻守にわたって、何度も目立つプレー(=フットボールネーションの現場で評価される実効プレー!)を展開しました。守備では、ポジションバランスをベースに、機を見て爆発的なアタックを仕掛けていくとか(でもボール奪取という視点ではまだまだ)、ボールがないところでの忠実マークを魅せるとか。また攻撃でも、スペースがあれば積極的に飛び出していくとか。まあ、このゲームの相手が、大きく格下のエクセルシオールだったこともあるのですがネ・・。

 ボールを持った時のプレーの質と実効レベル(ボール扱いや、攻撃の目的を達成するための効果レベルなど)を筆頭に、攻守にわたるプレーの総合的なレベルでは、「まだまだ」小野の方が明確に上。それでも、フェイエノールトのサッカーにもっと慣れ、攻守にわたるリスクチャレンジ(=現場の評価基準)が出てきたら・・。

 特に、ボールのディヴァイダー(分配役)としての評価が高い小野伸二。要は、攻撃の起点として(後方のゲームメイカーとして)の評価が高いというわけですが、その意味で、アクーニャは本当のライバルにはなり得ないのかも。どちらかというと、徐々にパフォーマンスが下降線をたどりつつあるベテラン、ボスフェルトのバックアップ要員かな・・。

 ともあれアクーニャが、小野伸二にとっても大いなる「刺激」になって欲しいと願っている湯浅なのです。今後の展開が楽しみになってきました。

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 さて高原直泰。この試合では、後半15分からの登場です。でもまず試合展開から。

 今節のハンブルクの相手は、ホームにめっぽう強いシュツットガルト。実際にシュツットガルトが、ゲームの立ち上がりからペースを握ってハンブルクを攻め立てます。バー直撃の惜しいフリーキック。ドイツの将来を担う若手ディフェンダー、ヒンケル(右サイドバック)の爆発的なオーバーラップからのキャノンシュート。そのヒンケルが右から持ち込み、これまたドイツの将来を担うべき若手ストライカー、クーラニーのアタマにピタリと合わせた先制ゴール(前半19分)。その後には、左サイドからの切り崩しからの決定的なラストクロスが入ったり、PKまでも取られてしまいます。このPKはクーラニーが蹴ったのですが、そこはハンブルクの守護神ピーケンハーゲン。ピタリと読みが当たって見事なセーブ。

 対するハンブルクですが、先制ゴールを入れられた後、やっと押し返しはじめます。まあ逆に、二度ほど危険なカウンターを仕掛けられちゃったのですが、それでも行くしかありませんからネ。とはいっても鋭さに欠ける。

 前節では、徐々にペースを上げ、うまくゲームをコントロールしていたカルドーゾの出来が良くない。動かず、足許パスを待つばかり。守備もおざなり。明確なチームのブレーキになっていると感じます。もちろんボールを持ったら、素早いコントロールからの正確な展開パスや勝負のタテパスなど、才能を感じさせる上手いプレーは魅せるのですが・・。

 それに対し、バルバレスとベンジャミンの、攻守にわたる積極プレーが光る、光る。この二人が魅せるタテのポジションチェンジもいい。今の「中央ゾーンのタテコンビ」バルバレスとベンジャミンは絶対に外せない・・。

 そんななか、中央ゾーンのやや後方でボールを持ったマルトリッツから、ピタリとロメオのアタマに合うラストタテパスが飛びます。スッと動き出し、急にタテへ爆発ダッシュしたロメオ。そこへ、マークする相手の頭上を正確に越えるラストパスが通ったのです。でもロメオが放ったフリーのヘディングシュートが、僅かに左へ外れてしまって・・。必然要素が先行した完璧なシュートチャンス。コレは決めなきゃ・・。

 それでもハンブルクは、前半で同点に追いつきましたよ。右サイドの鬼神、マハダヴィキア。前半43分のことです。

 マハダヴィキアの動き出しタイミングが良かった。右サイドで、その直前のパス回しにも絡んでいたバルバレスがパスを受け、ちょっと中へ切れ込む素振りから、抜け出したマハダヴィキアへ、スパッとタテパスを通したのです。そして素早くボールをコントロールしたマハダヴィキアが右足一閃! ゴールのサイドネットを揺らすボール。本当に角度のないところからのスーパーシュートではありました。

 前半も半ばを過ぎる頃には、バルバレスとベンジャミンが、完全にチームのゲームメイカーとして機能しはじめていました。まあベンジャミンは、ここぞの押し上げ(フリーランニング)に威力を発揮しますから、ディヴァイダー(上記参照)はバルバレスということになりますかね。上手さはありませんが、忠実なディフェンス参加やシンプルなボールの扱いなど、実効という視点では、かなりのレベルにある。

 前半は、ツキもあって同点で終えることができたハンブルク。さて後半は・・

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 後半の立ち上がりは互角の展開。それでも勢いでは、やはりシュツットガルトに軍配が上がります。またバルバレスは、より後方からプレーをスタートするというイメージを強くしていると感じます。逆にカルドーソの存在感がどんどんと希薄になっていく。そしてヤーラ監督が決断します。カルドーソに代えて高原を投入する。後半16分。

 そしてハンブルクのサッカーが格段に活性化していきます。役割が明確になったバルバレス。そこへ、どんどんとボールが集まる。上手いことをやろうとするのではなく、あくまでもシンプルにボールを展開するバルバレス。そのリズムがいい。だから次のパスレシーバーたちも、動き出しタイミングを測りやすい。そんな好調な「イメージの流れ」のなかで、動きまわる高原にパスが通り、二人に囲まれながらもボールをしっかりとキープして、マハダヴィキアへ確実なバックパスを返すなんていう、チームの自信レベルを高揚させる(元気パワーを与える)プレーも飛び出してくる。いいぞ、いい雰囲気になってきた・・。

 そして後半20分、高原が完璧なゴールチャンスを迎えます。右コーナーキックから、右サイドのペナルティーエリア角ゾーン(もう何度も書いている、現代サッカーでの仕掛けの勝負ゾーン!)でボールを持ったバルバレスが、アイコンタクトからの完璧なイメージシンクロに誘われるようにタテへ走る高原へ、素晴らしい浮き球のラストパスが送り込こんだのです。

 完璧なタイミングとコース。高原のアタマが鋭く振り切られる。「やった!!」。その瞬間、思わず声を出していました。それほど完璧なシュートチャンスだったのです。でも、高原が放ったヘディングシュートは、シュツットガルトGKに弾かれてしまう。まあ、ちょっとコースは甘かったですが、それでも、後方へコースを変えるヘディングシュートですからね。難しいのに、よくあれだけ強いヘッドが飛んだ・・。

 その後も、積極的な守備参加だけではなく(自軍ゴール前まで戻って、積極的にボールを競り合う!)、攻撃でも、しっかりとしたキープからの「展開パス&ゴー」とか、ヘディングでの競り合いに勝って勝負のパスを飛ばすとか、可能性を感じさせる積極プレーを展開します。

 そんななかで、こんなシーンを目撃しました。押し込まれる展開から、最終ラインからタテパスが出される。それを中央ゾーンでしっかりとキープした高原が、相手のアタックを落ち着いて「感じ」ながら、ベストタイミングで、右サイドのタテスペースへパスを出したのです。でも、そこへ走っているはずのロメオは、中央ゾーンを動かず・・。その瞬間、高原から怒りのジェスチャーが出たんですよ。

 「それだヨ、それ!」。ここでも思わず声が出ていました。まあ日本語で、「何やってんだよ!」なんて腕を振り回したんでしょうが、彼の怒りは正当でしたから、テレビカメラも高原を大写しにしていましたよ。やっぱり本場。カメラマンも見所を分かっている。最高にインプレッシプ(印象的)なシーンでした。グラウンド上の自己主張。それがなければ、特にストライカーの場合は、決して発展することはありませんからネ。

 その後も、ヘディングで競り勝ってタテパスを飛ばしたり、こぼれ球を拾ってシュートしたり。このシュートですが、相手に囲まれていたから無理ではありました。でもそのシュートモーションはものすごく素早く、ハッとさせられました。

 そんな積極プレーを積み重ねることで、前節同様、チーム内での存在感を高めつづけた高原。もちろん、自らがコアになったコンビネーションを仕掛けていくための動きや、得意なカタチ(1対1の勝負で、コイツさえ外せばシュートや決定的パスの状況に入れるという最終勝負のカタチ!)に入るための動き、はたまた安全パスか勝負パスかの判断や、パスかドリブル(キープ)かの状況判断など、個々のプレーでは課題はまだ頻繁に見えてきます。それでも彼のプレーに、着実に発展するための「心理的・物理的なベース」が十二分に備わっていることだけは確かな事実。とにかく攻守にわたり、様子見に入ってしまうのではなく、自分が絡める状況では、その全てにチャレンジしていこうとする強烈な意志が素晴らしい。だから、攻守にわたって全力ダッシュのオンパレード。もちろん交代出場だったという状況もありますが、そんな「自己主張に対する強い意志」こそが、すべての発展ベースだということです。

 世界トップレベルの突破力を天から授かったわけではない高原。自分自身も、「ボクは、組織プレーを基盤に勝負を仕掛けていくタイプ」という明確なイメージを持っている。だからこそ期待がふくらむというわけです。

 結局ゲームは「1-1」の引き分け。ゲームの全体的な内容からすれば、ハンブルクにとっては願ってもない結果でしょう。

 さて次はホームでのシャルケ04戦。どんな状況でも、今の高い意識とプレー姿勢を維持していれば、必ず結果はついてくると確信している湯浅です。




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