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03-04チャンピオンズリーグ第二節・・今回は、シュツットガルトの攻守にわたる組織パフォーマンスと、レアルの中盤ディフェンスにスポットを当てましょう・・(2003年10月2日、木曜日)

やった〜〜っ! VfBシュツットガルトが、マンチェスター・ユナイテッドに対し、まさに質実剛健という表現がふさわしい内容あるサッカーを展開して勝利をおさめたのです。

 いま、ドイツ・ブンデスリーガでトップをはしるVfBシュツットガルト。先日おこなわれた2003-2004チャンピオンズリーグ開幕ゲームでは、ホームのグラスゴー・レインジャースに逆転され、負けてしまいました。その内容を観ていて、たしかにチーム戦術の発想レベルは高質だし、実際に攻守にわたってアクティブなサッカーは展開するけれど、選手個々の能力レベル(選手たちのチカラの単純総計力)で欧州トップクラブに追いついていない彼らでは、やはり存在感を発揮するのは難しいのかもしれない・・なんて思ったものです。

 でも、その後数週間のブンデスリーガでのサッカー内容を観ていて、これは・・と期待がふくらんできました。とにかく彼らほど、試合ごとに、発展していることが目に見えるクラブはないのですよ。

 昨日(10月1日)アップしたナビスコ杯レポートのなかでもリンクボタンを付けたのですが、ここでも、スポナビの連載コラムにリンクしておきます。「湯浅健二の質実剛健ブンデスリーガ」。昨日アップしたコラムの中心テーマがVfBシュツットガルトであり、そこで彼らについてある程度の分析をしています。

 昨シーズン二位の成績でチャンピオンズリーグに参戦してきたシュツットガルト。クレバーな選手タイプのバランスを基盤にした堅牢な守備ブロック・・シンプルなプレーを積み重ねていく攻撃・・それでもしっかりと、組織パスプレーのなかに単独ドリブル勝負もミックスしていく・・はたまたベテランと若手の絶妙のバランス等々、様々な視点で「堅実」なチーム作りを進めてきたフェリックス・マガート監督の優れた仕事が、この試合で大きく報われました。「あの」マンチェスター・ユナイテッドに対し、立派なサッカーを展開して「2-1」という堂々の勝利を飾ったのですからね。

 ところでシュツットガルトの先発メンバー(基本的なポジションニングバランス&タスクバランスも!)。それは、ブンデスリーガも含めて、ここ3試合は不動でした。10日前のブンデスリーガ第6節(1-0の勝利をおさめたドルトムントとのホームゲーム)、先週土曜日の第7節(0-3の勝利をおさめた1860ミュンヘンとのアウェーゲーム)、そしてこの試合と、シュツットガルトは不動のスターティングラインアップで試合に臨んだのです(それについても、昨日アップしたスポナビのコラムを参照してください!)。

 特に、バイエルンからレンタル移籍してきた19歳の左サイドバック、ラームの活躍には目を見張ります。彼が先発メンバーデビューしたのはドルトムント戦。そして吹っ切れた活躍でポジションをゲルバーから奪い取ってしまう。そんな下克上が頻繁に起きていることもまた、チームが常にダイナミックに発展していることの証じゃありませんか。

 でも、マンU戦でのシュツットガルトは、最初の15分間、完全に「名前負け」していましたよ。ファン・ニステルローイ、ギグス、スコールズ、キーン、そしてヤングスターのロナウド等々・・。どうも、攻守わたる吹っ切れたチャレンジ姿勢が見えず、何かステディーにプレーしようとしているのが明確に伝わってくるのですよ(要は、様子見で受け身のプレー姿勢)。だから、内容でマンUに凌駕されてしまう。

 でも前半20分ころから、明らかにプレー姿勢が好転していったと感じました。多分ヤツらは、「こんな消極プレーじゃダメだ・・いつものように、もっとダイナミックにプレーしなければ・・」ってなことを感じていたに違いない。そして、キャプテンでもあり、実質的なグラウンド上のリーダーでもあるソルドーが、仲間を叱咤激励する・・。もちろんその背景に、シュツットガルト選手たちがマンUのプレーを体感していくなかで自信レベルを深めていったこともあるに違いない・・。「オレたちのプレーも十二分に通用するじゃないか・・いつものように、もっと自信をもってチャレンジしていくぞ・・」ってな具合。

 特に、後半5分と7分に立てつづけにゴールを奪った後のゲーム展開が秀逸でした。誰もが、「これから、失うものが何もなくなったマンUが、ガンガン押し込んでいくだろう」と思ったに違いない。でも実際には、シュツットガルトが、最後の最後まで実質的なゲームペースを握りつづけたのです。その現象面はこうです。マンUの仕掛けが、シュツットガルトゴール前のスペースをうまく使えない・・ドリブル勝負でも相手を抜き去るところまでいけない・・要は、ウラのスペース(ボールを中心にした遠いゾーンのスペース!)をうまく突いていけず、うまくシュートチャンスを作り出すことができないということです。

 それは、シュツットガルトのボールがないところでの守備がしっかりとしているからに他なりません。守備ブロックが、単独ドリブル突破で「崩し切られる」というシーンは、現代サッカーでは希。最後の瞬間には、何らかの組織パスプレーをミックスすることでウラを突いていくのが常道なのです。だからこそ、ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対するチェイス&チェックだけではなく、その周りで展開されるボールなしのアクションをいかに掌握するかが勝負の分かれ目になるというわけです。まあそのキーポイントは、昔も今も変わりありませんがネ・・。

 とにかく、互いのクレバーなポジショニングバランスを基盤に、スッ、スッと、ボール絡みと、ボールなしの守備アクションをつづけるシュツットガルト選手たちの、自分主体に仕事を探しつづけるプレー姿勢に感心していた湯浅なのです。まあ私も「ドイツベースのサッカー人」ですから、その時点で彼らを誇りに思っていたとしても言い過ぎではないと思いますよ(ある意味で、私のアイデンティティーとして・・?!)。

 彼らのキャパについて甘くみていた湯浅ですから、これからも、彼らの発展プロセスに注目し、レポートをつづけていこうと思っていた次第です。

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 さて、レアル・マドリー。昨日のポルト戦は、勝利をおさめたとはいえ、ベッカム抜きのゲーム内容はどうだったのか・・中盤ディフェンスはどうだったのか・・。

 この試合での「選手タイプバランス」は、こんな感じだったでしょうかネ。最終ラインは、パヴォンとラウル・ブラボーのセンターバックの両側に、例によってどんどんと押し上げるサルガドとロベカルが張り出している。守備的ハーフのコンビは、エルゲラと、この試合でキャプテンを務めたグティー。その前の左サイドには、守備意識の強いソラーリが入ります。そして攻めは、ジダン、フィーゴ、ロナウドが中心。さて・・。

 全体としてみたら、レアルはツイていたとすることができるのかも。何といっても、立ち上がりの6分に、ホームのポルトが先制ゴールを挙げてしまったのですからね。強烈なフリーキックが直接レアルゴールへ飛んでいく・・それをレアルGKカシージャスがパンチ・・でもそのボールが、直接ポルトのコスティーニャへ飛んでしまう・・それをコスティーニャが直接ヘディングでたたき込んだという先制ゴール。そしてホームのポルトのプレー姿勢が「落ち着き」、逆にレアルのプレー姿勢が「吹っ切れた」。そんな心理背景だから、レアルの才能が「より」解放された?!

 まあそんな見方もできそうですが、でもやっぱり中盤ディフェンスが甘い。完敗を喫したバレンシア戦でも、とにかく中盤守備が甘いから、どうしても高い位置でボールを奪い返すことができずに相手に攻め込まれてしまっただけではなく、バレンシが仕掛けてくる最終勝負でも、ボールのないところでのマーキングが甘いから(特にアイマールに)簡単にウラをフリーで突かれてしまうシーンのオンパレードになってしまった・・。

 そんな傾向は、ポルト戦での守備的ハーフコンビがエルゲラとグティーのコンビになっても解消せず・・といったところです。何といってもグティーは、ボールがないところでの忠実マークとか、中盤守備での「潰れ役」とかいった泥臭いディフェンスプレーは「やりません」からネ。でも、エルゲラの「泥臭さ」は、確実にカンビアッソを超えているから(それが、カンビアッソもボール絡みのディフェンスへ意識が引っ張られすぎているという表現になったという次第!)まあまあバランスは取れていた?! まあ、相手のポルトは既に一点リードしているから、シャカリキの攻め上がり(人数をかけて・・どんどんと追い越しフリーランを仕掛けていくようなダイナミックな仕掛け)をみせているわけではありませんでしたからネ(だからレアルはツキにも恵まれた?!)。

 この試合でのエルゲラは、まさに「往年の・・」という活躍でしたよ。何も「影武者オーバーラップ」から同点ヘディングゴールを決めたから言うわけではありません。とにかく、中盤の底へ「再び上がった」ことで、攻守にわたり、水を得た魚のような積極プレーのオンパレードなのです。

 この28分の同点ゴール以降は、ゲームがレアルペースに傾いてきます。それは、相手が、吹っ切れた攻め上がりができないくらいに、心理・精神的に押し込んでしまう・・というゲームペースのこと。何せ、どんな相手でもビビるくらいの「個の才能」がほとばしりますからね、そんな天才たちのプレーに、次の攻撃で勇気をもって押し上げる(リスクにチャレンジしていく)ことは、心理・精神的に、どんなチームにとっても難しい作業だということです(まあバレンシアは、チカラがあるし、レアルに慣れていますからハナシは別ですが)。

 そんな(相手の心理パワーを奪い取ってしまうような)展開だから、レアルの天才がより光り輝くという善循環に入っていくのも道理。もちろんそこには、もう一つの真実があります・・だからこそレアル守備の弱点が見えにくい・・。そこなんですよ、サッカーではバランスのとれた評価が難しいといわれる所以は。何せサッカーでは、常に相対的ファクターがせめぎ合っていますからネ。

 さて、前半で「2-1」と逆転したレアル。後半は、再びポルトの前への勢いに、守備ブロックが不安定になっていきます。それでも、まあ15分くらいまで、ジダンの三点目が決まったこともあってその後ゲームが落ち着いたことで(ポルトの仕掛けに、追い越しフリーランニングとか、ドリブルでの突っかけとかの変化が乏しくなり、足許パスが目立ちはじめてしまう!)、完全にレアルが余裕をもってしまったというわけです。

 終わってみればレアルの完勝。それも敵地で・・。これでまた問題点が見えにくくなった?! まあレアル首脳陣は、しっかりと認識しているとは思いますけれどネ・・。

 個人的な能力も高い相手がしっかりと組織的に仕掛けてきた場合(各ステーションでのハイレベルなエスプリプレーをベースにした、パスとフリーランによるコンビネーションなど)、どうしても守備ブロックの「穴」が目立ってしまう・・。もちろんその「穴」とは、ボールがないところでの忠実マークが欠如した状態のことですよ。

 まあ、今シーズンのレアルを観る場合は、中盤ディフェンス(ボールホルダーとパスレシーバーに対する抑え!)というポイントに絞って観戦するのも一興だということです。




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