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ドイツ便り・・その(1)・・W杯レビュー(7)・・トルコについて・・(2002年7月19日、金曜日)

いまドイツです。色々やらなければならない仕事があり、HPのアップまでは手が回らず・・ってな具合でした。

 さてワールドカップレビューの第七回目。今回のテーマはトルコ。

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 ヨーロッパに到着した早々に、ドイツ留学時代の友人と再会しました。彼の名前は、ヒディール・アクバシュ。私のコラムでも何度か登場したトルコ人のプロコーチです。1980年からドイツへサッカー留学し、今は、プロコーチとして活動しながら、ケルン国立体育大学で、スポーツ心理学などの「博士課程」にも精を出しています。エネルギッシュなヤツ。

 彼は、私と同じ(ドイツの)プロコーチライセンスを取得した後、ミュンヘンを本拠地にするプロクラブ「トゥルク・グチュ・ミュンヘン(当時は、バイエルンミュンヘン、1860ミュンヘンにつづく、ミュンヘン第三位のプロクラブ=トルコ人を中心にしたプロクラブ!)」でのプロコーチ活動を皮切りに、ドイツのプロ二部リーグの監督、トルコプロリーグ1部、2部、3部の監督も歴任しました。先シーズンは、トルコプロ3部リーグの監督を務め、そのクラブを2部昇格へ導いたことで「3部リーグの最優秀監督」に選ばれとのこと。国際的に名の通った有名コーチではありませんが、優秀なプロコーチです。

 今回のワールドカップで大活躍した「マンスズ(イルハン)」ですが、ドイツ生まれの彼が最初にプレーしたプロクラブが、前述の「トゥルク・グチュ・ミュンヘン」。その当時、ヒディールが監督だったというわけです。だから、イルハンの活躍に、大喜びしていましたよ。

 「とにかくトルコは、ドイツから多くのことを学んだんだよ・・」と、トルコ代表の大活躍でハナシが止まらないヒディール。たしかに、マンスズ・イルハン、ダバラ、バスチュルクなど主力のなかにはドイツ生まれで、ドイツのプロで活躍してからトルコへ帰った選手もいますからネ。まあ、そのことについては、サッカーマガジンや週刊プレイボーイでもレポートすることにしましょう。

 ということで、今回のワールドカップでのトルコ。最初の彼らに関するコラムは、東京中日新聞に載せたブラジル対トルコ。でもそこでは、ハイレベルなサッカーを展開するトルコに、ブラジルは苦労させられた・・なんていう記述だけでした。その後トルコは、どんどんと調子を上げてグループリーグを突破し、日本代表、セネガルと連覇してベスト4まで勝ち進んでだのです。下記は、その時点で、サッカーマガジンに発表した原稿です。書いたのは、6月25日でした。

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・・・(6月25日に書き上げたサッカーマガジンの記事です)

 そのとき、右サイドをドリブルで駆け上がるダバラには見えていた。マンスズが、ニアポストスペースへ飛び出してくるのが明確に見えていた。それこそ、イメージがシンクロした「あうん」の最終勝負。そしてダバラの右足から、セネガルゴールのニアポストスペースへ向け、鋭いラスト・クロスが糸を引いていった。

 マンスズにとって、ダバラから送り込まれた低い弾道のラスト・クロスをダイレクトで叩くのは、そんなに簡単なものではなかった。ただマンスズは、受け身の姿勢でボールに合わせようとするのではなく、あくまでも突っ込んでいくエネルギーを球体にぶつけたのである。見事なゴールデンゴール。それは、トルコサッカーが織りなす、「組織と個」の高質なバランスの結晶でもあった。

 準々決勝、トルコ対セネガル。この勝負マッチに競り勝ったトルコは、彼らがヨーロッパ強豪国の一角にまでのし上がってきたことを如実に証明した。個人的な能力の高さ。スマートな組織プレー。それは、欧州エキスパートたちの間でも折り紙つきだ。そして、最高峰の勝負の場において結果を出し、その存在を世界中に強烈にアピールした。セネガル戦で挙げたマンスズのゴールデンゴールは、トルコサッカーが、世界サッカー勢力図のなかで確固たるポジションを築いたことの象徴でもあったのだ。

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 ドイツは、トルコから多くの労働者を受け入れてきた。そんな素地があったから、ドイツ留学中には、たくさんのトルコ人と知り合った。今でも多くの友人がいる。

 彼らは、ドイツに対して良い感情をもっているわけではない。下級労働者として蔑まれてきた歴史が、その背景を如実に物語る。それでも彼らは、サッカーに限っては、ドイツ的な考え方を受け容れてきた。またそこには、優秀なドイツ人プロコーチたちがトルコで活躍し、有形無形の影響を与えてきたという素地もあった。それが、彼らが本来もっていた「優れた個のチカラ」を組織的に活かせるようになった背景にあるのだ。

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 大会前のトルコに対する評判は、まあ、ダークホース程度だった。ただ初戦のブラジル戦を終えたところから評価がうなぎ上りになっていった。彼らのスマートなサッカーに、世界中が注目したのである。

 「今回は、オレたちの歴史からしても最高のチームになったと思うよ。個人的にも高い能力をもっているし、何といってもヤツらは長い間一緒にやってきているから、あうんの呼吸で組織プレーを展開できるからな」。友人のトルコ人プロコーチ、ヒディールが、昨年のプレーオフでオーストリアに勝った後、そう言っていた。たしかに今回のトルコ代表は「チーム」になっている。

 彼らが本当の意味で世界デビューを果たしたのは、2年前のヨーロッパ選手権だった。準々決勝で、ポルトガルに「0-2」と涙をのんだが、それでも彼らが魅せたハイレベルなサッカーに、エキスパートたちは称賛を惜しまなかった。それは、はじめて彼らが「ヨーロッパ圏の仲間」として認められた大会だったのかもしれない。

 その後、選手たちの多くがイタリアやイングランド、ドイツやスペインなど、フットボールネーションへと移籍していった。ただそこで、絶対的なレギュラーというポジションを獲得できている選手は少ない。そのことに一抹の不安はあった。ただ彼らは、トルコ代表として集まったとき、一人ひとりのチカラが「総体以上」のチカラを発揮する。それこそ、今のトルコ代表の強さの秘密なのだ。一人ひとりのイメージが、有機的に連鎖するサッカー、それである。

 そして彼らもまた、肉を切らせて骨を断つという本物の勝負の場において、調和のとれた「チーム」だからこその成長を遂げたのである。

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 ブラジルとの準決勝は、グループC初戦の再現になった。そこではブラジルが「2-1」と勝利を飾ったわけだが、今度は、まったく違ったゲーム内容になるはずだ。この号が発売される頃には既に結果が出ているわけだが、いまのボクの脳裏には、今大会屈指のエキサイティングマッチが映し出されている。

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 ・・ということで、ブラジルとの準決勝は、予想したとおりのエキサイティングマッチになりました。その試合をレポートした東京中日新聞の連載の書き出しでも、『もう一つの準決勝。ブラジル対トルコのゲームは、互いに積極的に攻め合う、これぞエキサイティングマッチ!・・という展開になった。今大会では、これほど時間が経つのを早く感じた試合はなかったかもしれない。攻守にわたるハイレベルな内容が凝縮されたサッカー。結局最後はブラジルが攻め勝ったわけだが、トルコの健闘にも心からの拍手を送りたい。』なんて書いたモノです。

 三位決定戦については、私のHPでしかレポートしていません。そちらを参照してください。

 ほとんど初出場に近いトルコが、ワールドカップで三位という結果を残したことは、ご立派。でもそれ以上に世界のエキスパートたちは、彼らが展開した「組織と個」が高質なバランスを魅せるサッカー内容を高く評価していました。

 トルコサッカーの発展にかかわったドイツ人プロコーチたちも、鼻高々に違いありません。

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 本日は、チューリッヒで、サッカー関係者と懇談です。ということで、今週のサッカー関連アクションは、ヒディールとのインタビューと、その懇談だけ。来週は、バケーション明けということもあり、できる限り多くのサッカー関係者と懇談する予定です。ではまた・・




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