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W杯レビュー(5)・・ブラジルについて・・(2002年7月12日、金曜日)

さて、明日は「J」。私は、レッズ対ジュビロを観戦します。またその後(深夜に放送)、テレビ埼玉の「レッズ・ナビ」に出演する予定です。

 もちろんこの試合についてもレポートしますが、プリントメディアで発表した文章をベースにした「レビュー」も継続します。ということで今日は「ブラジル」。

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 皆さんもご存じのように、スコラーリ監督になってから、チームの結束を高めるという目的で、得点源だったロマーリオを外すという英断を下します。そしてブラジルにまとまりが見えはじめてきます。

 ドイツ留学時代に知り合った南米コーチが、その経緯についてこんなことを言っていました。「ロマーリオは守備をやらない。たしかに得点力はあるけれど、あれだけ守備をやらないにしては、総体的なチーム貢献度としてはマイナス要因の方が大きいんだよ。だから選手たちの間に不満がつのるというわけさ。たぶんスコラーリは、その心理バランスを考えてロマーリオを外したんだろう。大正解だネ・・」。

 でも、まとまりが出てきたブラジル代表を、大きなアクシデントが襲いかかります。中盤の「重心」であるエメルソンが、試合直前に、怪我で戦線離脱してしまったのです。

 そして初戦のトルコとのゲーム。それについて東京中日新聞で下記のような文章を発表しました。

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(6月4日、東京中日新聞の夕刊)

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中盤の「重心」を欠いたブラジル・・(タイトルです)

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 ブラジルが「薄氷」の勝利を拾った。良かった。あれ程の選手キャパを擁する、大会主役の一人になるべきブラジルが勝利でスタートを切ることができて本当によかった。

 それにしてもブラジルは苦労した。相手のトルコがハイレベルなサッカーを展開していたこともあるが、それにしてもブラジルの攻撃では個人勝負が目立ちすぎた。彼らほどの才能集団なのだから、もっと活発にボールを動かせるはず。そうすれば、よりスマートな流れのなかでチャンスを量産できたはずなのに・・。

 周りのパスレシーバーが活発に動くことを前提に、ボールを広く、素早く動かす。そうすれば、相手の守備ブロックを振り回し、その「薄い部分(人数が足りないゾーン)」を突いていくのも容易になるだろう。それが、しっかりとパスをつなぐことの意味なのだ。そこに課題を抱えるブラジル。だから、早すぎるタイミングでの、強引ともいえるドリブル勝負が目立ち過ぎてしまう。それでも、複数の相手を抜き去ってシュートまでいってしまうのは大したものではあるのだが、それでは優勝は狙えない。

 それには、試合前日のトレーニングで肩を脱臼し、戦線離脱してしまったエメルソンの穴が大きい。彼が「中盤の底」にいることで、ボールの動きがスムーズにいっていたことは確かな事実なのだ。彼は、「チームの重心」ともいえる隠れたゲームメーカーだった。しかし、もう彼はいない。その「穴の充填」も含め、これからブラジルが、どこまで自分たちのサッカーを発展させることができるのか。そんなプロセスに注目するのも一興である。

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 私は、エメルソンの穴を埋めるために、ジウベルト・シウバのパートナーとして起用されたジュニーニョ・パウリスタに期待していました。そして彼は、その期待に見事に応えるプレーを魅せていた・・と思っていたのですが、結局ボランチのコンビは、ジウベルト・シウバとクレベルソンで固定されることになります。

 クレベルソンは、グループリーグの三試合目、対コスタ・リカの後半12分に初登場しました。そして、決勝トーナメント一回戦のベルギー戦では、後半36分にやっと交代出場しただけなのに、その後は決勝まで(準決勝の残り5分で交代したとはいえフル出場と同じ!)出場をつづけたのです。

 スコラーリ監督は、トーナメントが進むなかで、「やっと」エメルソンの穴を埋められるコンビを発見したということです。何といっても、ロナウド、ロナウジーニョ、リバウド、そしてロベカルとカフーという才能たちが展開する、「個」を主体にした、ブラジル「らしい」攻撃を支えるための頑強な守備ブロックが必要でしたからネ。

 この「コンビの発見」ですが、そのキーポイントになったのが、決勝トーナメント一回戦のベルギー戦だったと思います。

 このベルギー戦については、サッカーマガジンで、下記のような文章を発表しました。

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(6月21日に起こした文章です)

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彷徨するブラジル・・(タイトルです)

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 「おいおい、いい加減にしろよ・・」。ブラジルの攻撃を見ていて、思わず声が出た。ボールをもった選手たちが、中盤の低い位置からでも、どんどんとドリブル勝負を仕掛けていく。リバウドが、ロナウドが、ロナウジーニョが、はたまた交代出場したデニウソンが。まさに例外なく・・。

 ブラジルは、決勝トーナメント一回戦でベルギーと当たった。そこでのサッカーは単独勝負のオンパレード。「組織」で守備ブロックを崩していこうというマインドのカケラさえ感じられない。グループリーグ、コスタ・リカ戦でみせた高質な組織プレーは一体どこへいってしまったのだろう・・、コスタ・リカがフォアチェックを仕掛けてきたから、自然発生的に素早いボールの動きが出てきたということなのだろうか・・、そんなことを考えていた。

 ボクは、中盤の底を構成するコンビに注目していた。この二人が、怪我で脱落したエメルソンの穴を埋め、チームの重心としてうまく機能しはじめていると感じていたのだ。前が詰まれば、すぐにパスが戻され、そこから素早く次へ展開される。この「前後のボールの動き」がいい。それがあるからこそ、アーチストたちの才能も十二分に活かされる。「ブラジルは、完全な優勝候補になったな・・」。グループリーグでレベルアップしていった彼らのサッカーを観ていて、そう思ったものだ。

 ところが、ベルギー戦では、南米選手権で苦労していた頃のサッカーに逆戻りしてしまう。勝利はおさめたものの、あまりにも「個」が強調され過ぎるサッカー。勝ったからこそ、そのプレーイメージがより強化されてしまう危険性も高い。そして彼らは、自分たちが一番やりたいサッカーに固執しつづける・・。

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 攻撃の目的はシュートを打つことである。ゴールは、単なる結果にしか過ぎない。たしかにドリブルで相手を何人も抜き去ることができれば、目的を達成できるだろう。だが、そんなプレーは至難の業。それが、組織プレーをベースに、スペースをうまく使ったチームが最終的には勝利をおさめると言われる所以だ。

 スペースをうまく使う・・。それは、シュートに至るプロセスでの「イメージ目標」であり、最終勝負エリアのスペースで、ある程度フリーでボールを持つ「起点」を作り出すことと表現できる。その目標を達成するためには、ドリブルで相手を外してもいいし、パスを受けてもいい。ただやはり、組織パスプレーがもっとも効果的なことは言うまでもない。

 彼らは、最終勝負の起点になるために、中盤からでもドリブル勝負を仕掛けていく。成功率は高くはないが、抜け出して起点になれたら、もう誰も止められないほどの魅惑的な最終勝負が披露される。そのままドリブルで突破していったり、ワンツーで抜け出したり、はたまたタメからの決定的スルーパスを通してしまったり。彼らは、そんな美しい仕掛けイメージの虜になっているということか。そのイメージが、まさに両刃の刃だということを十二分に承知しているにもかかわらず・・。

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 彼らはイングランドとの準々決勝にも競り勝った。前半22分に先制され、強力なイングランド守備ブロックを崩せないという時間帯がつづいたときには、不安が増幅していったことだろう。しかし、前半もロスタイムに入ったところで、素晴らしいカウンターが飛び出し、同点に追いつく。ロナウジーニョのスーパードリブルとラストパスが演出した「蜂の一刺し」。また後半4分には、これまたロナウジーニョの直接フリーキックで逆転した。その後は、ロナウジーニョが退場になったことで一人足りないにもかかわらず、イングランドの拙攻を守り切るだけではなく、何度も危険なカウンターを繰り出すなど、余裕のゲーム展開になった。

 そうか、ブラジルの狙い目はそれだ! 相手を押し込みつづけるのではなく、まず守備ブロックを強化し、相手を攻め上がらせる時間帯を多くして蜂の一刺しカウンターを見舞う・・。それだったらドリブル突破能力が最大限に活かされる。彼らほどの才能集団だったら、意図的に「攻めさせる」ことだって出来そうな気にさせられるのだが・・。

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 ・・ってなことを書いたのですが、いま考えてみると、ブラジルのスコラーリ監督は、この試合で意を決したのだと思えてきます。

 「ボランチのコンビは、ジウベルト・シウバとクレベルソンが一番うまく機能する・・。ヤツらがいれば、両サイドと、前線の三人の才能攻撃も、うまくバックアップすることができる・・」。

 この試合でクレベルソンが出場したのは(上記したとおり)後半も押し詰まった36分でしたが、そこでのジウベルト・シウバとのコンビを見たスコラーリ監督が(その前のコスタ・リカ戦でのクレベルソンのプレー内容も含め!)確信をもったと思うのです。

 トルコとの準決勝。そこでは、天才ロナウジーニョが出場停止でした(準々決勝のイングランド戦で一発退場をくらった!)。そしてブラジルが、ジウベルト・シウバとクレベルソンのボランチコンビの活躍もあって、またロナウジーニョが出場停止だったこともあって(!?)今大会「最高!」のサッカーを魅せるのです。それをレポートしたのが、下記のサッカーマガジンの記事でした。

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(6月29日に起こした文章です)

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決勝戦の見所・・(タイトルです)

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 「よし!」。そのとき思わず声が出た。瞬間的に状況を把握したエジウソンが、鋭い切り返しからシンプルな展開パスを出した。準決勝のトルコ戦。前半17分のことだ。

 後方からのパスを受けたエジウソン。前にはスペースが広がっている。すぐにドリブルで上がろうとするが、トルコ選手がそのスペースを潰し、彼へもプレスを掛けてきたことで、一瞬の切り返しから、チョン!と、押し上げてきたジウベルト・シウバへ横パスを出したのだ。このシンプルな「展開パス」が良かった。この短い横パスによって、「次のシーン」で絡んでくる数人のブラジル選手たちの仕掛けイメージが明確になった。そう思う。

 そこから、タテでフリーになっていたリバウドへ素早くパスが送られる。そして一度トラップし、前後から迫るトルコ選手を引きつけたリバウドが、最前線のポジションからスッと下がることでフリーになったロナウドへタテパスを通す。それが勝負の瞬間だった。ジウベルト・シウバからリバウド、そしてロナウドへという「タテのボールの動き」によって、トルコ選手たちが、そのゾーンへ引き寄せられ、右サイドを上がってきたカフーが、完璧にフリーになったのだ。

 リバウドからのタテパスを受けた段階で、ロナウドには、その状況が明確に見えていたに違いない。リラックスした姿勢でトラップし、(ほんの、コンマ数秒)イメージ的な「タメ」を演出したロナウドから、柔らかなファウンデーション・ラストパスが、カフーの走り込むスペースへ糸を引いていった。

 カフーのワントラップシュートは、トルコのスーパーGK、レクベールに弾かれてしまった。ただそれは、素晴らしい「組織ベース」のチャンスメイク。今大会最高ともいえる、「組織と個」が絶妙にバランスしたブラジル攻撃を象徴するシーンだった。

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 韓国との準決勝に、横綱相撲で勝利をおさめたドイツ。しかし大黒柱バラックが通算二枚目のイエローカードを受けてしまう。これで決勝は出場停止。それに対しブラジルには、準決勝のトルコ戦では出場停止だったロナウジーニョが復帰してくる。ブラジルに追い風が吹いている!? いや、ボクの見方はちょっと違う。

 ロナウジーニョを欠いた準決勝でのブラジルの攻撃には、前述したとおり素晴らしいものがあった。中盤でのボールの動きに活力が戻ってきたのである。ボクは、もしかしたらそれは、ロナウジーニョがいなかったからなのかもしれないと感じていた。

 誰もが認める天才、ロナウジーニョ。ただそのプレースタイルは、極端に「個」に偏りがちだ。ボールをもった彼は、ほとんどいっていいほどドリブルでの最終勝負を仕掛けていく。そのイメージは、眼前の敵を抜き去って「次」の相手ディフェンダーを引きつけ、フリーになった味方へラストパスを出すか、そのまま自分がドリブルシュートを打つかのどちらかに集約されているとさえ感じる。だから、彼がボールを持ったとき、味方の足も止まり気味になる。そして、選手たちがバラバラに個人勝負を仕掛けていく等、組織プレーに陰りがみえるようになってしまう。

 それに対し、バラックを欠くことになったドイツは、完全に吹っ切れたに違いない。「バラックのためにも、チーム一丸となって必ず勝利をおさめる」。選手たちは、口々にインタビューで述べていた。少なくとも彼らは、まとまりのあるソリッドなサッカーを展開するに違いない。ブラジルの個人勝負にターゲットを絞ったクレバーな守備をベースに、数は少ないだろうが、ドイツのツボともいえる、動きのなかでのピンポイントクロス攻撃や、中距離シュートをイメージした攻撃を仕掛けていく。そうなったときの彼らは、無類の勝負強さを発揮する・・はずだ。

 この原稿は、決勝戦の前に書いているのだが、とにかく、「天才集団」と「職人集団」が織りなす、偶然と必然が交錯するドラマを心ゆくまで楽しもうと思っている。

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 決勝戦の全体的なレポートについては、昨日アップした「レビュー・・ドイツ・・その2」でご紹介した、東京中日新聞の記事(決勝戦のプレビューとレビュー!)を参照してください。

 ということで、ここでは、決勝戦について書いたサッカーマガジンの記事をご紹介します。

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(7月3日に起こした文章です)

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勝負はボールのないところで決まる・・(タイトルです)

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 そのとき、ロナウドとロナウジーニョのイメージが完璧にシンクロした。2002年ワールドカップ決勝、前半18分。この試合で唯一、ブラジルが、堅牢なドイツ守備ラインを完璧に崩し切った。

 左サイド後方からのスローインを受けたリバウドが、クレベルソンへバックパスを送る。ドリブルで進みながら、最前線の状況を正確に把握するクレベルソン。ドラマの序章。そして右足アウトサイトから、最前線に張るロナウジーニョの足許へ向けて鋭いパスが飛んだ。同時に、左前方にポジションをとっていたロナウドが、パスコースへ向け、戻り気味のフリーランニングをスタートする。そして転がるボールを「またぎ」ながら、パスを受けたロナウジーニョを回り込むように、決定的スペースへ飛び出していった。

 ロナウジーニョに対し、「パスを出せ!」という無言のシグナルを放つ決定的フリーランニング。このロナウドの動きこそが、すべてだった。

 それが、ロナウジーニョを中心に円を描くような動きだったことで、最初マークしていたラメローは、最終ラインに残らざるを得なくなった。メッツェルダーと平行に並んでしまう。それも、ロナウドとロナウジーニョと間合いを空けた状態で。スルーパスの餌食になる陣形だ。

 ロナウジーニョは、ロナウドが放つ強烈なシグナルを受信し、そのフリーランニングの軌跡を完璧にイメージしていた。そして、一瞬フェイントを入れることでディフェンダーたちの視線と意識を引きつけ、落ち着いてスルーパスを放った。

 ロナウドの走り込みを明確に意識していたメッツェルダーだったが、一瞬ロナウジーニョのフェイントに対応したこともあって、結局はそのスピードについてゆけず、オフサイドを期待しながらのスルーパスカットに切り替えるしかなかった。

 このとき、最終勝負のアクションを起こしていたもう一人のドイツ選手がいた。スーパーGK、オリバー・カーン。彼には見えていた。ロナウドの動きとスルーパスの交差するポイントが明確に見えていた。ベストタイミングで、ゴールマウスを飛び出すカーン。両手を、下方へ一杯に広げ、両足を揃えるように、ススッと前進することでシュートコースを狭めていく。身体の輪郭を、二重、三重におおうオーラを放散しながら。

 まったくフリーでシュート体勢に入るロナウド。ただ結局、左足アウトサイドからダイレクトで放たれたシュートは、カーンが放つオーラに勢いを殺がれるように弱々しく、ドイツゴールの左ポストを外れていった。

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 偶然と必然が織りなす最終勝負のドラマ。たしかにその主役は、スルーパスやクロスなどといったボールかもしれない。しかしその背景に、周辺で繰り広げられる決定的スペースをめぐるせめぎ合いという「演出家」がいることを忘れてはならない。勝負はボールのないところで決まる・・のである。

 ロナウドの「パスを呼び込む動き」が演出した美しいコンビネーション。そして、シュートミスを誘発したオリバー・カーンの飛び出し。それは、このゲーム最高の攻防だった。堪能した。

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 また、朝日新聞では(土曜版「be」)、下記のような、スコラーリ監督を視点に中心においたコラムも発表しました。

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(7月1日に起こした文章です)

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 「嬉しい・・。我々は、個人のチカラで、ドイツの組織をうち破った」。決勝戦後のインタビューで、ブラジルのスコラーリ監督がしみじみと語っていた。

 「才能集団」と「職人集団」の激突とになったワールドカップ決勝。ブラジルが「2-0」というスコアで5度目の優勝を果たした。しかし、個人的な能力レベルではブラジルが凌駕しているにもかかわらず、実際のゲーム内容は、まさに薄氷だった。スコラーリ監督の言葉に実感がこもっているはずだ。それは、才能ある選手たちを多く抱えることが、監督にとって「諸刃の剣」であることを如実に物語っていた。

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 ブラジルは、様々な紆余曲折を経て日韓ワールドカップの決勝まで駒を進めてきた。彼らのイバラの道がスタートしたのは、2000年3月28日にコロンビアと対戦した南米予選の第一試合目だった。過去の地域予選では、1試合しか負けたことがなかったブラジル。その彼らが、このコロンビア戦での「0-0」の引き分けを皮切りに、まさかの浮沈をくり返すことになる。五試合目のパラグアイ戦では、史上二度目の敗戦を経験し、7試合目のチリ戦でも「0-3」という惨敗を喫してしまう。それは、彼らにとって屈辱以上の何ものでもなかった。

 その間、監督も次々と交代した。そして最後に就任したのが、現スコラーリ監督だった。彼は、強い意志でブラジルの戦術を変えていった。伝統的なフォーバックからスリーバックへ変更し、その前に、二人の守備的ハーフを配置することで守備ブロックを固めた。それには、両サイドのロベルト・カルロスやカフー、またリバウドやロナウジーニョ、そしてロナウドといった前線プレーヤーたちの才能を存分に活かそうという意図が込められていた。そしてブラジル代表は、その後も苦労したとはいえ、結局は南米予選をギリギリで勝ち抜き、本大会へコマを進めたのである。

 たしかに厳しい予選を通じてチームの結束は高まった。それでも、まだ構造的な問題が残されていた。才能集団であるが故の「諸刃の剣」。彼らの攻撃は、まだまだパスやボールがないところの動きなど、組織プレーに大きな課題を抱えていたのである。スコラーリ監督も、そのことを十二分に分かっていたに違いない。それでもブラジルは、「個」を前面に押し出すサッカーで決勝まで勝ち進んできた。

 決勝戦では、「職人」たちが、ブラジルの弱点を突いていく。ドイツ選手たちには、ブラジル攻撃の「リズム」が明確に見えていた。だから、相手ボールホルダーへ安易なアタックを仕掛けずに攻撃を遅らせる。そしてブラジル攻撃のスピードダウンに乗じた協力プレスや、ボールのないところで動く選手へのハードマークによって次々とボールを奪い返してしまうのである。

 そんな、職人技の忠実ディフェンスを基盤に、徐々にドイツの攻撃にも、危険な雰囲気が漂うようになっていった。それでも最後は、ブラジルの才能が、職人たちの忠実プレーを振り切った。スコラーリ監督は、現時点で最良だと確信する「やり方」にこだわりつづけ(変えることのリスクの方が大きいと判断!?)、そして栄光を勝ち取ったのだ。それはそれで、大したものだ。

 しかし、だからこそ逆に、世界のサッカー界は、再び永遠のテーマと向き合うことになった。組織プレーと個人プレーが高質なバランスを魅せる、美しく、強いサッカーの実現。世界のエキスパートたちは、今回のブラジルのサッカーには限界があることを知っている。彼らはまた、才能ある選手たちに組織プレーをやらせることの難しさや、早い段階で敗退したフランスやアルゼンチンが示唆したように、「組織と個のバランス」をハイレベルに保つことの難しさも同時に心底理解している。

 ワールドカップだからこその普遍的テーマとの対峙。私も含めたサッカー監督たちの、「究極の目標」を志向する旅にはこれからも終わりはない。

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 本当に長くなってしまいました。でも、「乗った」ときに仕上げなければ・・と、書き上げた次第。

 最後に、ブラジルの守備について、少しだけ。

 グループリーグでは「不安定さ」丸出しだったブラジルの守備ですが、それが、準々決勝以降は、抜群の安定感を魅せはじめます。それには二つの要因があると思っている湯浅です。

 一つは、上述したように、ジウベルト・シウバとクレベルソンのボランチコンビが確立したこと。そしてもう一つが、ブラジル守備ブロックが、相手を「甘く」見なくなったこと。

 特に「コスタ・リカ」戦では、(中央ゾーンに三人いることもあって・・)ボールがないところでのマークが、いい加減の極みでしたからネ。「どうせラストパスなんて来やしないサ・・」ってな心境がミエミエ。そして、「あっ! パスが来ちゃったゼ・・」と反応するも、時すでに遅し・・ってなシーンがてんこ盛りでしたからネ。

 まあそれも、サッカーが本物の心理ゲームだということの証明ではあったのですが・・。このことについては、ビデオで確認し、また機会をあらためて具体的にレポートすることにしましょう。

 昨日も書いたとおり、来週はヨーロッパ出張。ドイツ代表のコーチングスタッフとも「深いディベート」をする予定。機会を見てレポートしますので・・。

 さて明日は「J」だ!!




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