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「U21」親善試合・・成熟した、プレーイメージの有機連鎖は感じるのですが・・中国代表vs日本代表(1-0)・・(2002年8月22日、木曜日)

「日本の若手代表は、本当にいいチームだな・・」。先日ドイツで行われたサッカーコーチ国際会議で、何人もの「仲間」にそう話しかけられました。

 国際会議初日のパネルディスカッションで(パネラーとして)話しまくったこともあって、その後たくさんのドイツ人コーチ連中から話しかけられました。もちろん話題の中心はW杯でしたが、今年5月にフランスのツーロンで行われた国際トーナメントでの「U21日本代表」の活躍を称賛する声も多かったんですよ。そのなかに、(ブンデスリーガ2部の監督をしている友人のプロコーチが)「それにしても、最終ラインのブロンドの選手はいいな。身体能力だけじゃなく、読みもいい。鍛えたら、十分にブンデスリーガでもやれるようになると思うよ・・」なんていう発言もありました。ちなみに、この「ブロンド選手」とは、FC東京で活躍する「茂庭照幸」のことです。

 ツーロン大会では、日本代表だけではなく、U21のイタリア代表、イングランド代表、ドイツ代表、ブラジル代表というブランド国も参加していました(結局、決勝でイタリアを2-0と下したブラジルが優勝!)。本格感のあるトーナメント。そこで、予選リーグでドイツ代表と対戦した日本代表が、内容的にドイツを凌駕してしまったんですよ。そのゲームは、私も「ユーロスポーツ」で観戦していたのですが(日本代表の欧州遠征に合わせて、私もヨーロッパにいたのです)、それはそれはインプレッシブな「組織サッカー」でした。結局最後は、ドイツ伝統の粘りに(忠実で激しいディフェンスからの、しつこいほどのクロス攻撃!)「3-3」と追いつかれてしまいましたが、東洋のチームに、あれだけ内容的に圧倒されたことは、ドイツ代表にとっては、かなりショッキングな出来事だったに違いありません。

 とはいっても、ドイツ代表の「あの世代」で期待されている選手は数える程。それよりも、3週間前までノルウェーで行われていた「U19欧州選手権」で準優勝したドイツ代表の方に、良い選手たちが集中しているのです。まあドイツのことはさて置いて、このツーロン大会での日本代表が、素晴らしいサッカーを展開したことは、ドイツ人コーチたちにも認知されていたということです。でも、彼らの多くが言う「本当に優れたチームプレーを展開したよな」という部分に、逆に、この世代の日本代表が抱える課題も含まれていることにまで気付いていた連中は少なかったと思いますよ・・。

 ちなみにツーロン大会での日本代表は、予選リーグで2勝1分け1敗(対アイルランド戦は2-0、つづく南アフリカ戦は3-0という勝利、3戦目のドイツ戦は3-3の引き分け、そして最終のイタリア戦で、はじめて0-2の敗戦)という立派な戦いを展開し3-4位決定戦に進出します。そして、PK戦で見事にイングランド代表を下して3位に食い込んだというわけです。

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 さて、U21日本代表と中国代表の試合です。ポイントだけをまとめましょう。

 試合は、開始早々からホームの中国がガンガンと押し上げてきます。それには、中国のプレスが厳しかったことで、日本代表の中盤でのボールの動きが鈍かったこともあります(ボールのないところでの動きがちょっと停滞気味=中国の前への勢いに、次の守備を意識しすぎていた・・)。

 それでも私は、日本の守備ブロックが、余裕をもって受け止めると思っていたのですが、中国の攻めは、思いのほか実効を伴っていました。パスは単純なんですが、前線でボールを受けた選手たちが、例外なく、その地点からリスクにチャレンジしつづけるんですよ。ギリギリのタメ。マーカーを抜き去るボールキープ(回り込みドリブル)。そして1対1では、常にドリブル勝負。もちろん、そこからのパスの可能性も残しながら・・。結果として、ドリブルシュートや中距離シュートなどがバンバン飛び出してくる。日本は、本物のピンチを何度も迎えてしまいます。

 やっと日本がペースを握れるようになったのは前半も15分を過ぎたあたりから。それには森崎浩司が放った、バーを直撃するミドルシュートが刺激になったと思います。それをキッカケに、日本代表のボールの動きが抜群に活発になったのです。もちろん、中国の中盤守備の勢いが落ちてきたこともあったんですけれどネ。

 やはりサッカーは心理ゲームなのです。相手サッカーのペースが上がれば、それに呼応するように、守備に対する意識がより強調されるように(強調され過ぎるように!?)なってしまう(ポジショニングが戻り気味になってしまう!)。だから中盤のスペースが空き気味になり、パスコースも空くようになってしまう・・。

 それらの「メカニズム」に対する鋭い感覚のことを、人は「経験」なんて呼ぶのかもしれません。欧州トップリーグの選手たちは、「あっ・・ダメだ、このままじゃ相手にペースを握られてしまう・・」なんてことを敏感に感じ取り、(リーダーが中心になって!?)味方同士で「刺激し合う」ことで、相手の勢いに呑み込まれるのではなく、自分たち自身で、再びペースを上げることができる・・。もちろん中盤でのディフェンスをベースにしてネ。

 さて、互角の展開になったゲーム。そこで目立っていたのが、やはり、日本選手たちの「個の勝負」に対する意識の希薄さ。たしかにサッカーの基本はパスゲーム。最終勝負シーンにしても、パス「だけ」で演出することはできます。それでも、「そればかり」では、相手に「崩しのリズム」を把握されてしまうものなのですよ。だからこそ「変化」が必要なんです。

 たしかに日本のパスは軽快。それでも、最後の勝負所では、決定的なレシーバーが完璧に抑えられてしまう・・。そんなシーンが連続したものです。

 一本くらいでしたかネ。素晴らしいコンビネーションで、中国の最終ラインを完璧に崩し切ったのは。前半39分。右の田中隼磨から、中央の野沢へ・・野沢が「スルー」し、同時に超速の決定的フリーランニングを右サイドの決定的スペースへ向けてスタート・・そこへ中山からダイレクトでラストパスが通った・・というシーンでした。でも野沢のフリーシュートはGKの正面に飛んでしまって・・。

 中国の攻めは、「個」が目立ちすぎる強引さばかりが前面に押し出されていました。それに対し日本代表は、「組織」ばかりが目立ち過ぎることで、攻撃の変化を演出することがままなりません。もちろん、パス中心の日本代表の攻めでも、ボールのないところでの動きが「有機的に連鎖」しさえすれば、世界のどんな最終ラインを相手にしても「ウラ」を突けるに違いありません。でも、その「仕掛けリズム」を相手ディフェンダーにしっかりとイメージされてしまったら・・。

 スマートな組織サッカーが展開できる彼らだからこそ、変化としての「個の勝負」が、より重要な意味をもってくるのです。前半では、「個のアクセント」を感じさせてくれたのは、右サイドの田中隼磨くらいでしたかネ。

 それでも、後半に石川が登場してからは、かなり「組織と個」がハイレベルにバランスしてきたと感じます。石川の個人勝負が刺激になって、右サイドの田中隼磨のドリブル勝負も、より活発になっていきましたからネ。それでも、今度は、「前が詰まった状況」での無理なドリブル勝負が目立つようになってしまって・・。「スマートな組織プレー」で、相手守備の「薄い部分」へ素早くボールを動かすべきなのに・・。

 でも、まあ、(人数をかけた)後半の中国守備ブロックが、うまくポジショニングバランスを保つように守備を固めてきたから、薄い部分を探すこと(意図的に作り出すこと)自体が難しかったのは確かなことではありますが・・。

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 優れたユニットとして、素晴らしい機能性を魅せるU21日本代表チーム。彼らからは、長い間「一緒」に成長してきたからこその高い成熟度を感じていたのですが・・。

 とにかく彼らには、イヤという程の「イメージトレーニング」をベースに(一流ゲームのビデオや、ポイントを編集したビデオを集中して観察する等の手法)、これからも、頂点レベルを目指す努力を積み重ねて欲しいものです。




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