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天皇杯決勝・・「変化コンテンツ」満載のエキサイティングマッチでした・・京都パープルサンガ対鹿島アントラーズ(2-1)・・(2003年1月1日、水曜日)

「やったぞ、ゲルト!」。思わずそんな声が出てしまいました。ラジオ文化放送の生放送ですから、ニュートラルに・・ニュートラルに・・とは思っていたのですが、やはり挑戦者の方に肩入れしてしまって・・。監督は、ゲルト・エンゲルスですしね。

 それにしてもサンガは、立派なゲームを展開しました。前半の半ば過ぎにはどうなることかと思ったのですが、後半、本当によく持ち直しました。まあその背景には、アントラーズの気の弛みもあったことでしょう。何といっても、前半の先制ゴールの後は、完璧にアントラーズがゲームを牛耳っていましたし、サンガの攻撃が実を結びそうな気配さえありませんでしたからね。

 とはいってもゲームは、サンガが完璧に支配するという展開から立ち上がりました。普通だったら、そんな相手の勢いを「余裕を持って」受け止め、蜂の一刺し攻撃でスキを突いていくアントラーズ・・という構図になりそうなものですが、この試合は、ちょっと様子が違いました。何も失うモノがないサンガが、何度か、あの堅牢なアントラーズの守備ブロックを崩しかけるところまで攻め込むなど、本当の意味で「ゲームペース」を握っていたのです。これはもう「勢い」だけの現象ではありません。それは、サンガが展開するサッカーに、「実効あるコンテンツ」が詰め込まれていることの証明でした。

 準決勝でもレポートしましたが、本当にサンガは、良くトレーニングされたチームです。監督のゲルト・エンゲルスに、心からの拍手を送っていましたよ。

 ただアントラーズは、そんな立ち上がりの時間帯でも、二度、名良橋が惜しい場面を演出します。最初は、思い切りの良いシュート。そして次は、これまた思い切りの良いクロス。誰もが、「オッ」と思ったことでしょう。もちろんアントラーズの選手たちが、そんなチャンスに刺激を受けないはずがありません。そこらあたりから、(トニーニョ・セレーゾの指示もあったのでしょうが)アントラーズの最終ラインが、より積極的に押し上げるようになったと感じました。そしてゲームが拮抗していく・・。

 そんな雰囲気のなか、それまで、大きく、メリハリのあるフリーランニングをくり返していた柳沢のボールがないところでのアクションが見事に報われます。小笠原と柳沢が描く勝負イメージが、一瞬、ピタリとシンクロしたのです。左サイドで小笠原がボールをコントロールし、ルックアップした瞬間、最前線の柳沢がアクションを起こす。それこそ、決定的パスを呼び込むダッシュ! そして、柳沢が狙う決定的スペースへ、小笠原からのラストロングパスが飛んだというわけです。その後は、皆さんご存じのとおり、柳沢の見事なループシュートがバーに当たり、跳ね返ったボールを、よく詰めていたエウレルが、アタマで押し込んだという次第。このゴールでは、柳沢が「0.8点」ですね。

 そしてそのゴールを境に、ゲームの流れがアントラーズへと傾いていきます。タイミングの良い押し上げをベースに、よりコンパクトになった守備ブロックが展開する効果的なディフェンス。それをベースに、どんどんと相手を押し込んでいくアントラーズ。対するサンガは、ボールがないところでの動きに「広さとスピードの変化」が失われていったことで、ことごとく次のパスレシーバーが潰され、アントラーズのゴール前まで攻め込むことさえ出来なくなってしまう・・。そしてアントラーズが、例によっての「ワンクッション・イメージ」をベースに、フリーキックから、何度かのチャンスを作り出します。秋田のアタマに合わせ、そこから「落とされた」ボールを、三人目が叩く・・。

 アントラーズのゲームペースが上がっている・・サンガの選手たちは、アントラーズの「老練な壁」に勢いを殺がれ、心理的に沈滞しはじめている・・このままではジリ貧だ・・。ゲーム展開を観ながら、そんなことを思っていました。

 でも逆に、「いや、ハーフタイムでのミーティングさえうまくいけば、失うモノのないサンガが再び勢いを取り戻すはずだ・・前半のアントラーズは、サンガの攻撃を抑えきれるという確信を高めたはず・・だからこそ、そんな心理的なスキが、サンガにとっての大いなる機会になるはずだ・・」なんていう希望的観測も描いたものです。

 不確実な要素がてんこ盛りのサッカーだからこそ、「機会と脅威は表裏一体」という普遍的な真理にも、より強いバックボーンが備わるというわけです。

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 さて後半。

 実のことをいうと、本当にビックリされられていた湯浅だったのです。ハーフタイムでの意志の統一が、こんなにうまく機能するとは・・。前半のサンガ選手たちは、アントラーズの壁の厚さを体感していたはず。「これは崩すのは難しいな・・」。にもかかわらず、後半での彼らのリスクチャレンジパワーが、まさに倍増したと感じたのですよ。何度はね返されても、どんどんとリスキープレーにトライしつづける。素晴らしい・・。

 前述したように、その背景には、アントラーズ選手たちの気の「張り具合」がちょっと弛んだこともありそうです。そして、サンガの勢いに、最終ラインを押し上げる意志のチカラが殺がれていくアントラーズ。

 そんな全体的な展開に追い打ちをかけたのが、サンガの同点ゴールでした。鈴木慎吾のフリーキックに、ここしかないというポイントに走り込んだパク・チソンが、見事にアタマで合わせたのです。後半5分のことです。まさにピンポイントという攻撃ではありました。

 見事だったのは、その後もサンガの勢いが落ちなかったことです。彼らは、試合展開などはまったく気にかけず、攻守にわたるギリギリの積極プレーをつづけたのです。そして後半35分に、黒部の逆転決勝ゴールが飛び出したというわけです。まさにそれは、彼らが展開したアクティブサッカーに対する正当な報酬でした。

 またリードした後のサンガのゲーム展開も見事でしたよ。一点を守り切ろうとするのではなく、あくまでも攻める姿勢を堅持する。まさに快勝という表現がピタリと当てはまるグッドゲームでした。

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 左サイドの仕掛け人、サンガの鈴木慎吾。

 この試合では、小笠原、名良橋、はたまた中田浩二等が、彼の攻撃参加に対して明確なイメージを描いていました。だから、ボールを持っても、リズム良く攻め上がることがままならない。それに対し、この試合で存在感を発揮したのが、逆サイドの富田でした。特に後半は、パク・チソンが中央に入り、富田は、まさに右ウイングというプレーを展開します。もちろんそれはゲルトの指示でしょう。もちろん、彼が上がった後の後方スペースについては、斉藤と石丸がしっかりと埋めていました。

 また、この試合がサンガでの最終ゲームとなるパク・チソン。前半はペースダウンしてしまいましたが、後半で魅せたギリギリの闘う姿勢は、まさにW杯での活躍を彷彿させましたよ。来年からはオランダのPSVで、小野伸二の敵になるパク・チソン。素晴らしい「イメージ資産」を残してくれた彼の、オランダでの活躍を願って止みません。

 対するアントラーズにも、名良橋の爆発的なオーバーラッピングと危険な勝負プレー、中田浩二が魅せつづけた、攻守にわたる効果的な「影武者プレー」、労を惜しまない柳沢の「クリエイティブなムダ走り」等々、人々を感動させるに十分なパフォーマンスはありましたが・・。

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 関西勢が初めて手にしたビッグタイトル。

 サンガが魅せた、一人の例外もない「全員守備、全員攻撃」プレーは、関西地方でのサッカー文化の浸透に大きく貢献したに違いありません。

 来年は、ガンバだけではなく、パープルサンガ、また一部に復帰したセレッソなど、関西勢の存在感が格段に上がってくるに違いない・・。この試合でのサンガのコンテンツは、それを予感させるに十分なパワーを秘めていました。

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 さて湯浅は、明日から一週間ほど「完全オフ」に入ります。そして、1月10日ころから再びアクション開始。今年も、皆さんと一緒に、とことんサッカーを楽しみたいと思います。

 最後に・・。明けましておめでとうございます。今年が、皆さんにとって良い年でありますように・・。




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