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CL二次ラウンド・・ちょいと「視点」を変えて・・アーセナル対ヴァレンシア(0-0)・・(2002年12月11日、水曜日)

何でこうなんだろう・・。チャンビオンズリーグ二次ラウンド、アーセナル対バレンシアの試合を観ながら、ちょっとフラストレーションがたまってしまって・・。まあこれも需要(内容)と供給の関係がベースなんだろう・・。

 私が言っているのは、テレビ中継のカメラワークのことです。アーセナルのホームゲームですから、映像を作っているのは、たぶんイングランドのテレビ会社でしょう。そして例によって、ボールを画面の中心に置き、幅を20〜30メートルの範囲までしか捉えません(もちろんたまには40-50メートルまで広げることはありますし、画面上の「奥のシーン」は見えますがネ・・)。こちらはボールがないところでの駆け引きを見たいのに・・でもイングランドの視聴者は、(長い歴史を背景に?!)ボール絡みシーンを中心に見たいのだろうな・・なんて、ちょっと斜に構えていたというわけです。

 とにかくイングランドのテレビ映像の作り方は、ボールだけが(ボール周辺シーンだけが)中心。たまにはズームを「引き」ますが、それでもボールが画面の中央です。たぶんカメラマンの方々の「ウデ」の評価基準は、横幅を20〜30メートルに「抑え」、いかにボールをその「中心」に置きつづけるかということなんだろうな・・そしてボールの次の動き(次のパスレシーバー)を予測し、そこへ正確にカメラを振っていく・・。カメラを「引いた状態」だったら誰にでもできる・・それじゃオレたちのアイデンティティーがない・・ってか?!

 これには、イングランドの競技場がサッカー専用だということ(カメラとグラウンドの距離が近いということ)も関係しているんでしょうが、それにしても・・。「プレミア」を見るたびに、ちょっとフラストレーションがたまってしまう湯浅なのです。

 もちろん勝負所では、うまくカメラを振りますが(そんなカメラマンの予測能力はサスガ!)、それでもこちらは、(実際にボールが回されてこないことの方が多いにしても!)仕掛けを意図したボールがないところでのアクション「も」正確に観察したいですからネ。やっぱりサッカーは、スタジアム観戦しかないということか・・。

 とはいっても、全体的なサッカーの内容(流れ)や、個人のテクニックやチーム戦術的な意図は把握できますから・・。

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 ということで、アーセナル対ヴァレンシア。両チームともに、ヨーロッパ最高峰のチカラを備えています。だから、コンテンツも深い、深い。もちろん攻守にわたってネ。

 技術レベルはいうに及ばず、戦術的な部分でも見所がテンコ盛りなのです。でも、だから逆に、決定的チャンスの数はあまり多くはありません。お互いに、守備でのミスが少ないですかね。まあだからこそ、ボールのないところでの微妙な駆け引きを見たかったわけですが・・。

 とはいっても、やはりホームのアーセナルが明らかに優勢というゲームの流れです。そのなかでアーセナルが、基本的にはクロスから(浮き球やグラウンダー)何度かチャンスを作り出します。それでも、アンリのここ一発の飛び出しと、タイミングと種類&コース&強さなどが素晴らしくシンクロしたスルーパスとか、素早いコンビネーション等といったクリエイティブな崩しなどは見られず仕舞い。そして両チームともにノースコアで「0-0」の引き分けに終わってしまいます。まあ、ヴァレンシアのプラン通りの結果になったということです。

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 ここでちょっと視点を変えて・・。

 私は、先週末のプレミア、マンU対アーセナル戦で、こんなことを思っていました。やはり、ピレスやビエイラを中心に、アンリのスピードと個人勝負能力をうまく活用するというカウンターのツボにはまった時のアーセナルは特に強い・・でも逆に、組み立てからの攻めでは、相手守備ブロックを崩すシーンをうまく演出できない・・。

 この試合、マンUがワンチャンスの先制ゴール(ヴェーロン)を挙げるまでの展開はこうでした。攻め上がるけれども、堅牢なアーセナル守備ブロックを崩せないマンU・・逆に、押し込まれてはいるけれど、素晴らしくスピーディーで直線カウンターから、二本も決定的チャンスを作りだしたアーセナル・・。それでもアーセナルは、先制ゴールを奪われた後は、より積極的に攻め上がるけれど、うまくチャンスを作り出すことができなくなってしまう・・。

 セットプレーやカウンター状況は別にして、やはり「流れ」のなかでのチャンスメイクでは、ペナルティーエリアの「角ゾーン」が攻防の主役になっているな・・そこで、なるべく余裕をもったカタチで(浮き球でもグラウンダーでも)クロスを上げられれば、「中の選手」もピンポイントを意識したアクションを起こすだろうから、必ずチャンスになる・・。

 この「アーセナル対ヴァレンシア戦」でも、押し込むアーセナルが、流れのなかで決定的チャンスを作り出したのは、やはり「ペナルティーエリア角ゾーンからの、色々なタイプのクロス」からだったのです。

 ちょっとここで、かなり以前にサッカーマガジンで発表したコラムを・・。

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(2002年8月28日に仕上げたサッカーマガジン連載用のコラムです)

 前々回に引きつづき、ドイツ国際会議で講演された内容を紹介しよう。テーマは、攻撃ゾーンの変化。1990年イタリアワールドカップからの時系列分析だ。

 それによれば、クロス攻撃からの(直接または半直接)ゴールの割合は、1990年大会が20.9%。その後は減少傾向にあったが(1994年=14.2%、1998年=12.9%)、今回は28.6%にまで跳ね上がった・・、ただサイドからの仕掛けを基調にしたゴールの数は、1994年大会から(1990年についてはデータなし)、38.9%、45.0%、55.9%と、継続的に上昇する傾向にある・・ということだ。

 クロス攻撃からの直接(半直接)ゴールの割合が大きく揺れ動いているのは、多分に、その大会で活躍したチームの攻撃タイプ(例えばドイツ代表!?)に因るだろうから詳細な分析は別の機会に譲るとして、守備ブロックの中央ゾーン密度が高くなっているためにサイドを活用する攻めが増え、そこを起点に、クロスだけではなく、臨機応変な最終勝負を仕掛けていく傾向が強くなっていることは読みとれる。サイドを活用した組み立てがより重要な意味をもつようになった現代サッカーでは、そこからの仕掛けに、いかに豊富なバリエーションを持たせるかがコアの課題になってきているということだ。

 また講演では、ペナルティーエリアの「角ゾーン」をめぐる攻防が熾烈を極める傾向にあるという指摘もあった。そこで、いかに最終勝負の「起点(=ある程度フリーのボールホルダー)」を演出するかもまた、攻撃での重要なテーマなのだ。

 フットボールネーションでは、その起点から仕掛けられる、選手のタイプや特性を十分に活かした最終勝負のイメージを、より明確にシンクロさせる作業に重点が置かれるようになっている。

 サイドから仕掛けていけば、相手のコンパクト守備ブロック「全体」が、そちらへ寄っていく。そんな状況でも、作り出した「起点」をベースに、クロスだけではなく、ドリブルやワンツー、はたまたタメからのラストパスなどを駆使する最終勝負は多い。しかし、もっとも効果的なのは、その起点から、鋭いサイドチェンジクロスでファーポストゾーンを突いていったり、素早くボールを動かして逆サイドでフリーになっている味方へ鋭いラストパスを通したり、はたまた戻し気味のラストパスでロングシュートを狙わせたりする最終勝負だ。攻撃の基本コンセプトは、相手守備の「薄い部分」を突いていくことなのである。

 ファーストステージでのマリノスは、14節でアントラーズに敗れるまで快進撃をつづけた。その担い手が、両サイドのドゥトラと波戸であったことは衆目の認めるところだろう。彼らは、ペナルティーエリアの角ゾーンを起点にするという明確なイメージをもっていたのだ。

 コンパクトになっている現代サッカー。そこでの攻防ゾーンが、中央からサイドへと移りつつあることだけは確かな事実である。(了)

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 アーセナル対ヴァレンシア戦で、「こんなこと」がアタマを巡っていたというわけです。

 本当は、もう少し早めに「オフへ出発」する予定だったのですが、どうしてもチャンピオンズリーグが見たくて、明日(木曜日)のスタートにしました。ということで、欧州時間で本日の水曜日に行われるゲームについても、見所があればレポートすることにします。では・・。




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