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欧州便り(5)・・長くなってしまいましたが・・チャンピオンズリーグ決勝レポートです・・レアル・マドリー対レーバークーゼン(2-1)・・(2002年5月16日、木曜日)

「あ〜〜アッ。完全にペースを乱しちゃってる。これはもう修復は不可能だな・・。それにしても、中盤のリーダーシップを発揮するべきバラックが、後半じゃ、まったく消えてしまって・・」。

 先週の土曜日(5月11日)、ベルリンで、ドイツカップの決勝が行われました。日本では天皇杯の決勝に当たるこの試合、シャルケ04とレーバークーゼンの対戦です。

 レーバークーゼンにとっては、「二つ目のタイトルチャンス」だったのですが、終わってみれば「4-2」の惨敗。前半と後半とでは、まったく違うサッカーになってしまったレーバークーゼン。前半にはあれだけ活躍した中盤ブロック(ベルント・シュナイダー、バラック、ゼ・ロベルト、バステュルク)が、後半では、まったく自分たちでペースを作れなくなってしまったんですよ。

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 今シーズンのレーバークーゼンは、どんどんと発展をつづけ、シーズンの終盤には、ブンデスリーガでも最高の「質」のサッカーを展開するまでに成長しました。そんな彼らの成長には、ブンデスリーガもそうですが、チャンピオンズリーグでの厳しい闘いも大きく貢献したと思います。

 特にチャンピオンズリーグの二次リーグでは、最初の段階でつづいた大敗をリカバーし、アーセナルやユーヴェントスといった強豪を蹴落としてトップ通過を果たします。そこでの発展が、彼らを決勝まで押し進めたといっても過言ではありません。でも逆に、厳しい試合日程が、自国リーグに暗いカゲを落としてしまって・・。

 ブンデスリーガでは、残り3試合という段階で、ライバルのドルトムントとバイエルン・ミュンヘンに、勝ち点で「5」という大差をつけていたのがが、次の二つの試合をつづけて落とし、結局、最終節を残すだけとなった段階で、ドルトムントに「勝ち点1」の差で逆転されてしまったんですよ。そして最終節・・。これについては、先日の5月5日にアップした「ブンデスリーガ優勝チーム決定!」というコラムを参照してください。

 そして迎えた、ドイツカップという「二つ目のタイトルチャンス」。でも結局は、一敗地にまみれてしまいます。

 ドイツカップ決勝の内容ですが、前半は、レーバークーゼンが内容でシャルケを大きく上回っていました。攻守にわたるクリエイティブプレーで、シャルケを凌駕していたのです。そしてレーバークーゼンが、「順当」に先制ゴールを決めます。また前半の終盤には、ベルバトフが、絶対的な「追加ゴール」のチャンスを迎えます。レーバークーゼンを応援する誰しもが「よし! これで2-0だ!」と思ったに違いありません。でも、ベルバトフが放ったシュートは、2センチ、左ポストを外れてしまって・・。そして、前半のロスタイムに、シャルケのベーメに、強烈なスーパーフリーキックを決められてしまうのです。

 前半が終了し、更衣室に引き上げるレーバークーゼン選手たちの表情がこわばっていたのが強烈に印象に残りました。

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 そして後半、レーバークーゼンの選手たちは、何かに縛られたような縮こまったプレーに終始し、逆にシャルケが、美しくはありませんが、抜群のパワーを伴った迫力サッカーでレーバークーゼンを圧倒してしまうのです。

 「レーバークーゼンのヤツらは、ベーメのゴールで心理的に落ち込んだんだよ。疑心暗鬼に陥ったと言った方が正確かもしれないけれどな・・」。ドイツの友人が言います。そういうことなんでしょう。レーバークーゼンの選手たちは、「王手」から滑り落ちることを経験し過ぎている・・。

 前々年シーズンもそうでした。つい先日、ドイツの裁判所が「罪を問わない」という判決を下したクリストフ・ダウム(これで彼は、再びドイツクラブの監督に就任できるのですが・・)。当時は彼が監督でした。そのシーズン、レーバークーゼンは、最終節までに、二位のバイエルン・ミュンヘンに「勝ち点3」の差を保っていました。にもかかわらず、最終節では、バイエルンが、ホームで、ブレーメンに「3-1」と完勝し、逆にレーバークーゼンは、アウェーで、シュツットガルトに「0-2」とうっちゃられてしまうのです(結局最後は、同勝ち点ながらゴールディファレンスで上回るバイエルンがチャンピオン!)。

 得失点差では、バイエルンに大きく水を空けられていたレーバークーゼン。「絶対に引き分け以上を勝ち取るぞ!」と意気込んでグランドへ出ていったにもかかわらず、結局は「縮こまった」プレーに終始し、まったくいいところなく敗れ去ってしまったのです。

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 レーバークーゼンは、何かに取り憑かれている・・!? その決勝の後、ドイツ国内では、まことしやかに、そんなことが流布されたりして・・。

 さて、彼らに残された最後のタイトル戦がキックオフされます。結局私は、移動することに疲れたため、オスローでテレビ観戦することにした次第。

 レーバークーゼンとレアルの実力を比べれば、試合に行方について、ほとんどの意見が一致するに違いありません。ただ一発勝負の決勝は、かなり趣が違います。チカラで劣るレーバークーゼンが、まったく集中を切らすことなくガチガチのディフェンスから入っていく・・、逆に、ペースを握れるからこそ「バランス」に気を遣いすぎ、プレーに開放感が感じられないレアル・・。やはり、「いつもと違う雰囲気」のゲームになることだけは確かなことです。

 「もう失うモノは何もない・・タイトルなんて取れなくてもいいじゃないか・・とにかく自分たちが納得する戦いだけはしなければ・・」。そんな「自分主体の姿勢」を維持できれば・・なんて、レーバークーゼンを応援する湯浅は考えているのですが・・さて・・。

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 試合前、ウクライナの「伝説」、ロバノフスキー監督の死去に対し黙祷がささげられました。私は、感動していました。たしかにロバノフスキーは、ソ連時代、ウクライナ時代を通じ、世界のサッカーを、ある意味で「イメージ的」に引っ張った存在でした。それでも、主流の国の人間ではない・・。

 やはりフットボールネーションでは、その人がサッカーの発展に対して為した「実効ある貢献」をフェアに評価する・・。そのことに感動していたのです。私も、黙祷!

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 さて、試合がはじまりました。前述した「仮想」に近い展開のように見えます。早い段階に飛び出した両チームのゴール、そしてレーバークーゼンが、想像以上に、危険な攻めを構築できているということ以外は・・。何といっても、ベストメンバーのレアルに対し、レーバークーゼンでは、ノヴォトニーとゼ・ロベルトという主力の二人が欠けているんですからネ。

 8分にレアルが挙げた先制ゴール。素晴らしいの一言に尽きます。常人の「イメージ」を超越したゴールでした。何といっても、ハーフラインをちょっと越したところからのロベカルのスローインに合わせ、最前線のラウールが、決定的なフリーランニングをスタートしたんですからネ。これでは、ラウールをマークしていたルシオのスタートタイミングが、一瞬遅れてしまったのも仕方なかったのかも。あの状況で、スローインを決定的パスにしてしまうなんてことは、まあ、あまり予想できませんからネ。そしてラウールの、例によっての素晴らしい左足ダイレクトシュートが炸裂します。でもシュートは「コロコロ」。それが良かったようで、レーバークーゼンGKのブットは、完全にタイミングを外され、飛びつくことさえ出来ませんでした。

 ただその9分後には、セットプレーから、失点の原因になったマークミスを犯したルシオがヘディングシュートを決めてしまいます。1-1の同点!

 ちょっと試合は、私の予想を超えた展開になりそうな雰囲気です。一点を先制されたにもかかわらず、また局面ではレアル選手たちの「うまさ」に振り回される場面があるにもかかわらず、果敢に攻め上がり、何度も決定的チャンスを作り出してしまうレーバークーゼン。たぶん彼らは、レアルから同点ゴールを奪った時点で「吹っ切れた」のでしょう。「よし、やれるぞ! とにかく、何がなんでも思い切り、全力を尽くして闘うぞ!」。

 この「失点」と「同点ゴール」が、レーバークーゼンの選手たちにとって、もの凄くポジティブな刺激になったと思うのですよ。それ以降は、レーバークーゼンの守備にも、確たる自信が盛り上がっていったと感じますしネ。局面ではコケにされるシーンがあるにもかかわらず・・です。これは面白くなってきた・・。

 もしかすると、チャンプリーグ(チャンプカップ)の歴史のなかでも最高レベルの決勝になるかも・・なんていう期待が沸き上がってきたものです。

 前半30分をまわった時点での私の印象です。とにかくこの試合は、試合を追い、リアルタイムで書きつづけようと思っている湯浅なのです。私は「ブラインドタッチ」だけではなく、コンピュータのディスプレーを見なくても確実にキーをうち続けられますから・・。

 あっ、また自慢してしまった・・。たまにはいいですよネ。とにかく、私のレポートが素早いことに対し、「何故・・どうやって??」なんていう質問が多いモノで・・。

 要は、試合中でも、グラウンドに目をはしらせながら、どんどんとと「内容」をキーボードからメモしているというのが、私の「早さ」の秘密の一つだということです。

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 さて、試合が拮抗してきました・・というよりも、「攻守にわたるダイナミズム」という意味では、レーバークーゼンの方に、どんどんと流れが傾いているような・・。

 レーバークーゼンが展開する、中盤からの忠実でダイナミックな守備によって、レアルの軽快なボールの動きが「かなり」抑制されているんですよ。だから、レアルの攻撃ではあまり見られないロングパスや、中盤からのドリブルが目立ってしまって・・。いや、興味深い展開じゃありませんか。

 こんな書き方をしたら、「湯浅はレーバークーゼンを応援しているから、偏った見方をしている!」なんて言われそうですが、試合がはじまってからは、自分でも驚くほど冷静に「ニュートラルな眼」でゲームを追っているんですよ。いや、本当に・・。

 持てるチカラを100パーセント以上発揮しはじめたレーバークーゼン。それに対し、良さを消され、ちょっと受け身のプレーになっているレアル・・といった展開ですかネ。でも、そんなことを思っていた前半44分、ほとばしりましたよ「天才」が・・。

 ソラーリのタテパスで抜け出した左サイドのロベカルが(セベッスケンのマークが遅れる!)、「中」の状況を、驚くほど冷静に判断した、素晴らしく正確なセンタリングを上げ、それを、中央でフリーになっていたジダンが、「これぞ天才!」としか言いようがない「左足」のボレーキックで、ドカン!と、レーバークーゼンゴールにたたき込んでしまったんです。これで、レアルの2-1!(両ゴールのアシストはロベカル!)

 いや、すごい・・、すごいゴールでした。脱帽!

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 さて後半。まあレーバークーゼンにとっては、「やるしかない」という状況は同じ。焦りなんて、まったく感じさせない、攻守にわたる積極的なサッカーをつづけます。ドイツカップのときと同じ、前半終了間際の失点。でも、この試合では、彼らが放ちつづける全体的な雰囲気が違います。中盤での厳しいディフェンスをベースにした、その時点でチャンスがある者が、どんどんと攻め上がっていくという(その攻めの波に乗れなかった者が残って次の守備に備える!)吹っ切れたサッカーを展開するレーバークーゼンなのです。フムフム・・

 でも56分には、レアルが、見事なボールの動きをベースに決定的チャンスを作り出します。それを、ギリギリのところで防ぐレーバークーゼン。まあ、レアルも、徐々に、本来のイメージでプレーができるようになってきているということです。そんなレアルに対しても、一歩も引くことなく、吹っ切れつづけるレーバークーゼン。いや、面白い。

 60分。フィーゴが交代してしまいます。たしかにトップフォームからすれば・・なんて感じてはいたんですが・・。落胆の表情アリアリで更衣室へ引き上げていくフィーゴ。最後までやりたかっただろうに。でも、そんな「冷徹な決断」こそが、監督のお仕事のコアなんですよ。フィーゴに変わって登場したのは、マクマナマン。さて・・

 64分、今度はレーバークーゼンが動きます。不安定なプレーをつづけていた左サイドのセベッスケンに代え、特異なシュート感覚を持つ、ベテランのキルステンをグラウンドへ送り込んだのです。これで、シュナイダーが右サイドに下がり、キルステンとベルバトフのツートップになります。

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 最後の15分間。レーバークーゼンが攻めつづけ、レアルがカウンターを狙うという流れになります。極度の緊張感が支配する展開。

 レアルは、このまま守りきりたい・・チャンスがあれば、危険の少ないカウンターで追加ゴールを・・。でも、頼みのカウンターに勢いがない・・変化を演出できない・・。

 対するレーバークーゼンは、大きなリスクを背負いながらのチーム全体の押し上げで、何とか同点ゴールを・・という積極姿勢を維持しつづけます。とはいっても、こんな状況でも、レーバークーゼンの攻撃に、ある程度の「落ち着き」が感じられるのです。しっかりと組み立て、最後はセンタリングから一発・・または、ロングシュートを狙う・・。全員が、そんな統一されたイメージで、レアルを攻め立てます。

 この最後の時間帯、両チームともに大きなチャンスがありました。ノイヴィルが上げたセンタリングからのベルバトフのヘディングシュート。カウンターからのソラーリのシュート(唯一のレアルのチャンス!)。セットプレーで、レアルゴール前まで上がったレーバークーゼンGKのブットが放ったヘディングシュート(ワンバウンドで、ギリギリのところでバーを越えてしまう!)。ドリブルからのバステュルクのシュート(レアルGK、カシージャスがギリギリのセービングで防ぐ!)。その後の、二度続いたレーバークーゼンのCKでは、どうしてこれがゴールにならないの??なんていうビッグチャンスもありました(両チャンスともに、レアルに、ゴールライン上ではね返されてしまう!)。

 そしてタイムアップ。見所十分の決勝でした。あ〜〜、面白かった。

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 結局、「三冠」に王手をかけ、全てに敗れたレーバークーゼン。ただ「このゲーム」では、最後の最後まで諦めない積極姿勢をベースにした、吹っ切れたハイレベルなプレーを魅せつづけました。

 立派なゲームを展開することで、ポジティブな「何か」を体感したに違いないレーバークーゼン。この試合は、確実に彼らの自信につながったことでしょう。もちろん、来シーズンでの「ジンクス払拭」のために・・。

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 さて湯浅は、明日ドイツへ移動し、何人かの関係者と会談してから帰国します。次は、日曜日に行われる「セネガル対柏レイソル」の試合を、藤枝で観戦する予定。内容に応じてレポートするかもしれません。ではまた・・




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