トピックス


ヨーロッパの日本人・・最初は小野伸二・・でもまず、大宅映子さんの怒りのコメントから・・(2002年12月8日、日曜日)

「何で?! 何故あなた方は、そんなふうにネガティブなニュアンスばかりの報道するのよ! 改革をして欲しくないの?! 悪いことばかりじゃなくて、改革にとっていいことだってたくさんやっているじゃない! どんなことをやるにしても、100点満点なんてありっこないのよ。そんなことは分かっているはずじゃない!」。

 一昨日(金曜日)の「筑紫哲也NEWS23」で、道路関係四公団民営化推進委員会の委員の一人、大宅映子さんが、キャスターの筑紫さんを正面に見すえながら、そんな「苦情」を言っていましたよ。いや、素晴らしい。本当に、気分爽快の大拍手を送っていました。

 大宅さんの発言は、その直前の現地レポートで、「今井委員長の辞任によって、結局は委員会が全員でまとまった意見書を提出することはできなかった・・また、そのプロセスにおいて小泉首相も指導力を発揮することなく、これでまた改革路線が混迷の度を強めていくことになるのかも・・」といったニュアンスの発言をしていたことを受けたものでした。語気強い大宅さんの苦言に、筑紫さんも完全にタジタジ・・。

 私は、大宅さんの発言に、サッカー報道の姿勢も投影していたんですよ。要は、試合のコンテンツに関するレポートが、どうも、勝敗や、ゴールや、局所的な才能ベースのエスプリプレー等々(生活者にとって一番分かりやすい現象)」に左右され過ぎてしまう傾向が強いと感じているということです。サッカーに限らず、どんな社会的現象にも「白か黒か」なんていう明白な判断を下せるものなどありません。要は、全てを「グレー」だと観察する眼が必要だということです。負けた試合でも、良かった部分も多いだろうし、勝った試合でも、内容自体は褒められたものじゃない・・というケースも多いはずですからね。結果も含め、それらを「総体」として、できるかぎり正確に報道し、評価し、解説・批評することがジャーナリズムの使命だということです。

 社会的な現象の「目的」をクリアに見すえ、プロセス・コンテンツについて、論理的でニュートラルに評価できる「眼」を養う。それが一番大事だということです。もちろんサッカーでは「情緒的な部分」も強く作用しますから難しい作業ではありますが・・。だから私は、「現役」で現場に関わっている人たちとは、極力、距離を置き、グラウンド上で起きた現象のみを評価の対象にしているというわけです。とはいっても、たまには・・ネ。

 とにかく私は、本当に「100点満点」で出来ているかどうかは別にして、本来あるべき目的からはねじれた「思惑」などとは無縁なところで純粋サッカー的な「ニュートラル論理評価」のみを志向しているっちゅうわけです。このことは、選手たちの価値の源泉が、グラウンド上の現象に集約されるというメカニズムと同義だ・・なんてことも考えながらネ。

--------------

 あっと、またまた前段が長くなってしまって・・。とにかく小野伸二。

 「それだ!」なんて声が出てしまいましたよ。前半13分。ヘーレンフェーンが、右サイドでパスを回しているシーンです。

 オーバーラップが失敗したことで最前線から守備に入ったソン・ジョング。そのアタックが外され、タッチライン際の相手選手にパスが回されてしまいます。でもその瞬間、後方から「爆発ダッシュ」で寄っていった小野が、ドカン!と「読みベース」のアタックを仕掛けたのです。結局相手をブッ倒してしまいましたが、それこそが本物のディフェンス! もしそこでボールを奪い返したら、そのまま攻撃の最終勝負を演出できますからネ。もちろん小野は、それまでもイメージしてアタックを仕掛けていったに違いない。

 それ以外でも、攻守にわたって、ここ数試合とはまったく違う、ハイレベルなマインドで試合に臨んでいました。それだ!!

 前回のコラムで書いたように、サッカーでは、「最初」からバランスを取ることに気を遣いすぎたら、確実にスランプに陥ってしまうものなのです。それはフットボールネーションでの不文律。「バランスを取る」という発想は、常に「それ」の崩れることが、サッカーメカニズムの大前提にあるからこそ出てきたものなのです。

 要は、次に何が起こるか分からず、最後は自分主体の判断と決断で、自由に積極プレーを積み重ねていくしかないサッカーにおいては、攻守にわたる「リスキープレー」にチャレンジしつづけることが発展するための「唯一」のリソース(資源)だということです。その発想を十分に理解できていなければ、結局は「使われるだけ」の存在に終わってしまう・・。

 逆に「バランス感覚」に優れた選手というのは、自らリスクチャレンジを狙いつづけながらも、もし攻撃や守備での最終勝負アクションの波に「乗れなかった」場合、間髪を入れず、「その次」に何が起こるか、自分が何をやらなければならないかを(次のバランシングを)明確にイメージできるということです。

 「はじめ」からバランスばかりを考えている選手は、結局は「何もやらない」、「リスクにチャレンジするマインドがない」ことで、単に使われるだけの存在に終わってしまう・・。もちろん、十分なリスクチャレンジマインドも備えた「汗かきタイプ」の選手が出てくれば、すぐにでもポジションを奪われてしまう・・。ここで言うリスクチャレンジとは、もちろん攻撃だけではなく、守備プレーも意味しています。

 さて小野伸二。良い出来でしたよ。とにかくプレー姿勢が格段に好転していると感じます(数週間前のレベルまで回復している?!)。

 守備では、中盤での忠実なバランシングプレー(ポジショニング&ゾーンバランスプレー)をベースに、前述したように、ココゾ!の場面では、しっかりと守備のリスキーアタックにもチャレンジするし、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)への爆発的な寄りも魅せるし(チェックプレー=組織守備の起点プレー!)、必要とあらば、最終ラインを追い越してまでもマークをつづけたりします。もちろん、まだまだ「守備のテクニック」には課題山積みだとしてもです。

 また攻撃でも、チャンスがあれば、どんどんと攻め上がっていく。ボールを持っても、才能あふれるエスプリボールコントロールからのシンプルプレーばかりではなく、相手を「抑えて」でもタメを演出したり、自らドリブル突破にトライしたりするのです。またボールがないところでの積極プレー(長い距離を走るフリーランニング等々)も目立ちます。もちろん、「その後」の決定的シーンの演出も含めてネ。

 とにかく、小野伸二のプレー姿勢の「回復」を心から喜んでいる湯浅なのです。とはいっても、チーム自体は「1-3」の惨敗だったけれど・・。

 第三GKの怪我で、交代したのは17歳の第四キーパー。そして、特に相手クロスでの不安定プレーを繰り返してしまいます。ヘーレンフェーンに奪われた、コーナーキックからの同点ゴールは明確に彼のミス。その後も、相手クロスでの飛び出しタイミングの判断と、空中での競り合いプレーが、味方ディフェンダーの不安をつのらせつづけます。キーパーの安定度は、直接的に守備ブロックの心理的な安定度とリンクしていますからね。まあとはいっても、この試合でのフェイエ最終ラインは、そのGK要素を抜きでも、出来はイマイチでしたが・・。

 そして、そんなネガティブ要素に、(交代枠を使い切った後での)ソン・ジョングの怪我が追い打ちをかけます。

 一度、グラウンド外で治療を受けたソン・ジョング。そして治療後に、再びグラウンドへ入ってきます。傍目にも、プレー続行不可能なことは明白なのに・・。この判断は、明らかなベンチのミスでした。あそこでは、ソン・ジョングはもうダメ・・ということで、チーム内のマインドを統一しておかなければならなかった!

 そして、ソン・ジョングの「中途半端な存在」と、リードされていることで攻めなければという選手たちのマインドがネガティブな相乗効果をもたらし、サッカーが(選手たちの攻守にわたる戦術的な発想が)バラバラになっていってしまう・・。もちろん攻め込んではいましたが、それが猪突猛進の力ずくオフェンスに成り下がってしまったのです。

 3-1の惨敗。チームにとっては厳しい現実です。また、自分自身のパフォーマンスアップを自覚しているに違いない小野伸二にとっても、(だからなおさら)厳しい現実だというわけです。まあ、それがサッカーだから・・。

 とにかく、優秀なファン・マールヴァイク監督は、この結果が尾を引かないように、これからの一週間をかけて真理マネージメントに腐心することでしょう。もちろん「グレーの発想」をベースにした、メリハリの効いたマネージメントをね。




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]