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ヨーロッパの日本人・・さて今週の次は、中村俊輔と中田英寿・・また「レアル」についても少しだけ・・(2002年12月23日、月曜日)

まず中村俊輔から。

 これまた良かったですよ。ここ数試合では・・というよりも、イタリアにきてから最高のゲーム内容だったとさえ言えるかも。とにかく彼が、少なくとも明確な発展ベクトル上にいることだけは確かです。

 それにしてもレッジーナは、デカーリオ監督になってから、内容が大きく好転していると感じます。まあ、簡単には数字的な結果はついてきませんでしたがね。それまでは、どうも無計画なプレーイメージで、タテへ、タテへ・・そして勝負だ、勝負だ・・といった猪突猛進マインドばかりが目立っていた以前のレッジーナが、デカーリオ監督になってから、堅実なディフェンスをベースに、中盤でしっかりとつないで組み立てるというイメージが浸透してきましたからね。だから中村のプレーも高揚しはじめた。彼は、デカーリオ監督にも感謝しなければいけません。

 さてピアチェンツァ戦。ホームゲームだし、相手は直接的な「ランキング・ライバル」だし、2002年を締めくくるゲームだし、バケーションに入る前の最後の試合だし・・。これでモティベーションを高められなかったら、もうプロを辞めた方がいいですよネ。まあそんなこともあって中村の出来(プレーイメージ)も高揚したということでしょう。

 ディフェンスは例によって堅実なのですが、特にこの試合では、攻撃に「メリハリ」が出てきていると感じました。しっかりとボールを動かしながら、勝負所では吹っ切れた単独ドリブル勝負を仕掛けていく。ディ・ミケーレが、サボルディーが、コッツァが、はたまた、たまに後方から上がってくるモザルトが・・。そんな変化に富んだ組み立てからの「個の勝負シーン」を演出しているのが中村俊輔・・っちゅう構図ですかね。

 まあ相手がピアチェンツァだということもあるのでしょうが、とにかくレッジーナは、組み立て段階では、中村にボールを集めようという意識が等位されていると感じます。

 そんなメリハリのある攻撃が、後半になって実を結びます(3-1でレッジーナの勝ち!)。とはいってもゴールは、素早くシンプルなボールの動きから生まれました。

 一点目(同点ゴール)は、後方からのロングフィードを、ピアチェンツァのディフェンダーが「かぶって」しまい(要は、ヘディングの目測を誤ってアタマを越されてしまったということ)、ピタリとサボルディーの足許におさまったというもの。また勝ち越しゴールは、左サイドから、モザルトの素晴らしいサイドチェンジパスが決まり。それを受けたコッツァから、ここしかないという素早いタイミングの正確で鋭いクロスが、これまたサボルディーにピタリと合ったというもの。この試合でもっとも美しいボレーシュートゴールでした。

 さて、直接的にはゴールシーンに絡まなかった中村俊輔。それでも全体的な出来は、まさにプレーイメージの発展そのものでした。

 ボールをもったら、まさに芸術家。前節のローマ戦でも、強者たちが彼のボールキープを警戒して簡単に当たりにいけませんでしたからね。まあ、ちょっとパスを前提にしたボールキープ(タメの演出)ばかりがまだまだ目立ち過ぎてはいましたが・・。

 この試合での中村俊輔のプレーで「良かった」というポイントでは、何といっても「全力ダッシュ」が特筆でした。攻撃においても、守備においても。

 もう何度も書いていることですが、全力ダッシュこそが、自分主体の強烈な意志の表明ですからね。いつも同じ「トコトコ・・」というリズムでの動きでは、「刺激」を放散することなどできないから、周りの味方にしてもパスを回し難いし(自分でも仕掛けていけるのに、それを諦めて中村へボールを渡す・・という消極イメージになってしまう!)、相手守備の餌食にもなりやすい。また守備でも、全力ダッシュではなく、「仕方なく」寄っていくような姿勢じゃ、相手ボールホルダーや次のパスレシーバーの「余裕を消す」ことなんて全くできないから、邪魔なだけの守備参加・・っちゅうことになるわけです。

 それが、この試合での中村は、まさにイメチェン。まあこれまでも、傾向としては「やろう」という意志は感じてはいましたがね。それでも、これほどまでに、内包された「強烈な意志」が継続するとは・・(まあ後半はちょっとペースダウンしましたが)。

 それがあったからこそ、例えばディフェンスでは、彼の「チェック・アクション」が、味方による次の守備につながるというわけです。あっと・・彼自身がボールを奪い返したシーンも何度かありましたよ。要は、それこそが「実効ディフェンス」と呼べるプレーだということです。

 また攻撃でも、自分がシューターになるための決定的フリーランニングも含め、ズバッという全力ダッシュの頻度が上がったと感じます。もちろんフリーで良いポジションにいるときは別ですがね。とにかく、流れのなかでメリハリのある動きをつづけているからこそ、仲間からボールが集まるというわけです。それにしても、(繰り返しになりますが)彼のボール扱いは魅力的ですよね。とはいっても、それも、以前よりは「良い状況」でボールを持てるようになっているからこそ。だから彼の才能が、より光り輝くというわけです。また、ワンツーなど、パス&ムーブにも鋭さが出てきていると感じます。

 もっと多く、良いカタチでボールに触るために、運動量を多くするだけではなく、動きの「質」にもメリハリをつける・・。また仲間の信頼を勝ち取るために、より実効あるディフェンスを意識する・・。

 そんな意識の高まりがあったからこそ、足が速くないにもかかわらず、タイミングのよい全力フリーランニングや、相手の動作のウラを突く全力ドリブルで相手を振りきり、ある程度フリーで(スペースで)ボールを持つシーンを、より多く現出させられるようになったというわけです。

 チーム全体のリズムが高揚してきたレッジーナ。それに伴って、明確に発展ベクトル上に乗った中村俊輔。さて来年も楽しみになってきた。

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 さて次は、ホームでインテルに惜敗してしまった(1-2)パルマの中田英寿。

 まだまだフラストレーションがたまるシンプルプレーの天才・・というところですかね。レアル・マドリーのロナウドもそうですが、どうもアドリアーノが、最前線のフタになってしまっている状況が頻発し過ぎる。タテに動いてパスターゲットになるなんていう動きもミックスしていけば、彼自身の突破能力をもっと活かせるのに・・。

 何度ありましたかね、彼が中盤の高い位置でボールをもった状況で、中田英寿が決定的スペースへ飛び出しているのに、パスを出さずに(周りが見えていないからパスを出すという発想自体がない?!)潰されてしまったシーンが・・。

 ムトゥーについては、突破チャレンジに関する状況判断は良くなっているように思いますよ。まあ、しっかりとパスをつないで(組織プレーベースで)組み立てていくというプランデッリ監督の意図が、徐々に浸透してきているということでしょう。とはいっても、まだまだ突破トライに入ってからの「選択肢」が、限りなく「それだけ」になってしまっていると感じます。あれだけの能力を備えているのだから、ドリブルに入ったときに「選択肢を広げる」という意識さえ持てば、相手にとっての怖さが何倍にもなることで、彼のプレーの可能性も広がるのに・・。

 またもう一つ目立つのが、アドリアーノの、最前線からのチェイスが緩慢に過ぎるということです。相手ボールホルダーに寄る動きが鈍いから、(中村のところでも書いたように)相手の余裕を制限するという効果はまったくない・・。

 まあ、そんな課題はあるものの、もう何度も書いているように、パルマは、堅牢な守備ブロックをベースに、チームとしては発展していますよ。もちろんこのブロックには、中田も含まれます。味方が、彼の守備参加を完璧にイメージして次の守備アクションに入っていると感じるのですよ。

 ここでも一つの「例えば」を・・。それは後半28分のプレー。パルマ右サイドで、タテパスを受けたエムレが、安易なタイミングで当たりにきたベナリーボを外してフリーになったシーン。そこへ、まるでベナリーボが外されて置き去りにされることを明確にイメージしていたかのように、中田英寿が爆発ダッシュでカバーリングに入り、フェアでダイナミックなタックルでタッチラインへボールを蹴り出したのです。思わず「やった〜〜っ!」なんていう声が出てしまいましたよ。何せ中田は、その直前には、エムレへタテパスを出したインテルの左サイドバックへ、10メートルは全力ダッシュしてプレッシャーをかけていたんですからネ。そこから素早くターンして、今度はエムレを追いかける。フムフム・・。

 まあ、大したものだ。そんな中田だから、チームメイトから信頼される(尊敬される=レスペクトされる)はずです。とにかく、そんな攻守にわたる自分主体の「仕事を探しつづける姿勢」こそが、中田のプレーイメージを広げるリソースだということです。日本の若手プレーヤーたちには、そんな中田のプレーを見習わなければいけません。目立つボール絡みのプレーばかりじゃなくネ。もう一度くり返しますが、それこそ(考えつづけることをベースに、攻守にわたって自分主体で仕事を探しつづける姿勢!)が、クリエイティブプレーを発展させるための本物の「イメージ・リソース(資源)」だということです。

 昨シーズン苦しんでいた中田英寿が、イメージ的に復活したベースになったのも、守備でも積極的に仕事をさがしはじめてからでした(守備プレーに実効が伴いはじめてからでした)。ここでもう一つの「例えば」を・・。

 忘れもしない、今年3月にウッジで行われたポーランド代表対日本代表。その前半でしたかネ、自陣内でボールを持ったポーランドのエース、オリサデベがドリブルをはじめたシーンです。左サイドから、右サイドのスペースへ向けた全力ドリブル。その彼を、後方からスタートして最後までチェイシングをつづけた選手がいました。そのチェイシングの迫力は、もう世界レベル。それが中田英寿だったのです。最後はボールを奪い返すところまではいけませんでしたが、とにかくオリサデベの仕掛けドリブルからの攻撃の流れを断ち切ったことだけは確かでした。そんなプレーを見せつけられた日本代表のチームメイトたちのプレーが、そこを境に、もう一段ギアアップしたと感じられたものです。

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 さて試合。「1-1」という互角の展開のなか、最後は、個のクオリティーの僅差にやられてしまいます。レコパやエムレのドリブルに翻弄され、最後は、エムレの「挑発ドリブル」に引っかかって彼を倒してしまったのです。PK!! レコパが決め、インテルが「1-2」と勝ち越しです。

 その後も、パス出しの鈍いアドリアーノが最前線にフタをしてしまっているために、どうしても決定的スペースへ突いていけないパルマ・・という展開がつづきます。でも最後は、中田が魅せてくれましたよ。

 後方からのロングボールに競り勝ったアドリアーノからのヘディングパスを胸でトラップした中田。アドリアーノがヘディングするタイミングと同時に(その少し前のタイミングで)動きはじめ、中央の決定的スペースへ走り抜けたマルキオンニへ、スーパーなスルーパスを決めたのです。まったくスピードを落とすことなく、フリーで、それもダイレクトでシュートできるような、まさに「そこに置くパス」。素晴らしい・・。

 でも結局マルキオンニのシュートは、ほんの僅かに、ゴール右ポストを外れてしまいます。そのとき思ったものです。全体的な内容からしても、神様は、それを同点ゴールにしてもよかったんじゃないのか・・。

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 さて、この週末のゲームを2002年の最後に、欧州サッカーもクリスマス休暇に入ります。とはいってもまだ日本には天皇杯があります。明後日(25日)の準々決勝は、アントラーズ対フロンターレを国立競技場で観戦しようと思っています。もちろん内容があれば、レポートしますので・・。

 あっと・・もう一つ、レアル・マドリーですが、もちろんこの週末に行われたマラガ対レアルの試合も観ています。アウェーにもかかわらず、「最前線のフタ」が好転していないにもかかわらず、はたまた2点もリードされてしまったにもかかわらず、最後はレアルが大逆転で勝利をおさめました。

 この試合については、次のサッカーマガジンで、エッセンスだけをまとめようと思っています。まあその内容を大まかに書くと、こんな感じですかネ。

 「最前線のフタ」プレーの典型例(たぶんこのプレーには図表が入る)・・ロナウドには、「組織」を意識することが、結局は自分のためにもなるというメカニズムを理解させなければならない・・そのポイントでも、監督のウデに注目している・・勝ちつづけているレアルの「内容」をネガティブに分析するのも(課題を指摘するのも)、彼らの総体的なキャパシティーに対する期待をベースにしているからに他ならない・・それにしても、後半のレアルは、最前線のフタを、うまくオトリとして使って逆転してしまった・・それはそれで素晴らしいのだけれど、だからこそ、世界サッカーのイメージリーダーとしての彼らの発展を期待して止まない・・等々。

 まだ、完全には時差ボケから解放されていない湯浅でした。




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