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ヨーロッパの日本人・・どうもご無沙汰しました・・一週間遅れ、また二日間にわたっての「書き足し」になりましたが、中田英寿のパルマ、小野伸二、中村俊輔についてレポートします・・(2002年12月21日、土曜日)

「もっとシンプルなタイミングでボールを離せよ!」。やっぱり、そんな声が出てしまいますよ、本当に・・。もちろん、その対象は、アドリアーノとムトゥー。

 木曜日の夕方にバケーションから戻ったのですが、やはり「外国人」たちのプレーが気になって、スカパーでの録画放送にチャンネルを合わせてしまう。もちろんそれは、自分自身のデータベースを充実させなければ・・ということなのですがね。後になって、「さて、あの頃の彼らのプレーは?」と気になったときに、気軽に見返せるというわけです。

 そして見はじめたボローニャ対パルマ。両チームとも調子がよく、アクティブな中盤ディフェンスなど、全体的なゲーム内容は充実しています。それでも、どうもパルマ攻撃でのボールの動きの渋滞が気になってしまって・・。このことについては、今まであまり書きませんでした。それは、シーズン立ち上がり時期から比べれば、「そのこと」が好転していると思っていたからです。そうです、ムトゥーとアドリアーノが展開する、状況を考えない「個人プレー」のことです。

 まあ、パルマの全体的なゲーム内容の好転は、中田も含む中盤以降のパフォーマンスがアップしたことに依るという見方が妥当なんでしょうね。そしてそれをベースに、前線の二人の個の勝負能力もうまく噛み合ってきた・・。でもここにきて、どうも、この二人の個人プレーが、(チーム全体の、より大きなパフォーマンスアップにとって!)ネガティブに作用しはじめていると感じられてきた・・。

 最前線でボールを受けたとき、周りに味方がいるのに、どうしてもボールをこねくり回してしまう・・だから味方も、詰まった状態で、足許パスしかもらえない・・それでは、簡単に相手ディフェンスの餌食になってしまうのも当然・・。

 それぞれのステーション(ボールホルダー)でのプレーが「遅い」と、もちろん相手守備は、次のボールの動きを予想して組織を作ってしまいます。次のパスをインターセプトできないまでも、そのゾーンで守備の網を張ってしまうということです。もちろん攻めている方にしても、いつボールが出てくるか分からないから、どうしても動きが止まり気味になってしまう・・だから、相手が狙いやすい足許パスを受けざるを得なくなってしまう。

 もちろんムトゥーとアドリアーノの「個人突破能力」には素晴らしいものがあります。とはいっても、それを披露する「シチュエーション」に対するイメージがズレているということです。もっとシンプルにボール動かせば(もちろんシンプルプレー&ムーブですよ!)、彼らにしても、スペースである程度フリーでボールを持てるじゃありませんか。そうすれば、もっと彼らの能力が活きる・・。

 素早いボールコントロールからの「パスを前提にした」変化あるキーピングと、自ら抜け出そうとする意図を前提にすることで陥ってしまう「こねくり回し」とは、まったくコノテーション(言外に含蓄される意味)が違います。パスを前提にしたキープならば、周りの味方の動きも止まりませんからね。それに対し、「そんな」こねくり回しでは、どうしても詰まった状況での足許パスになってしまうというわけです。

 中田が中心的に絡むパルマの中盤での組み立て自体は確実にレベルアップしています。そのリズムに最前線がもっと効果的に絡むことができれば(そのリズムに適合するプレーイメージを持てば)、彼らの攻撃がもっと危険なものになるはずなのに・・。

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 さて中田英寿。

 この試合の数日後にマドリーで行われた、レアル・マドリー対世界選抜のゲーム。全体的なベースは完全にフレンドリーマッチそのものですし、二列目の中央ゾーンは、これまた「こねくり回し」が目立つリバウドが埋めてしまっています・・。

 それでも中田は、組織プレーの権化ともいえるドイツのバラックとクローゼとは、かなり高質にイメージがシンクロした「流れが途切れることのない」コンビネーションを決めていましたよ。全体としては、上質な存在感を魅せつづけたということです。

 それでも、リバウドが中盤でボールを持ったら、さあ大変。最初の頃は、中田やバラック等もパスを受けるためのサポートの動きを積極的に展開していたのですが、20分も過ぎる頃には、リバウドがボールを持ったら、そんな彼らにしても足を止めてパスを待つ傾向が強くなっていきます。まあ仕方ない・・。前述した、アドリアーノ&ムトゥーのプレータイプが原因の「心理メカニズム」というわけです。まあもちろん、リバウドにしてもロベルト・バッジョにしても、組織プレーをまったく意識していなかった・・ということはありませんでしたがネ。

 その試合は、昨日(木曜日)に観たのですが、とにかく中田のプレーは安定していると感じました。攻撃においても、守備においても。まあフレンドリーマッチですから、深い評価の対象外ではありますが・・。

 そしてボローニャ戦。後半の途中で交代してしまった中田ですが、攻守にわたる全体的な出来(プレーの意図)は、高みで安定していました。それでも、前には、個人での一発狙い「ばかり」をイメージする例の二人がいますから・・(何度も繰り返してゴメンなさい)。まあ、この交代には不満がつのるでしょう。

 ムトゥーとアドリアーノですが、もしドリブルで相手を抜き切ることができれば、そこから状況はまったく別なものにすることができるはずなのですが、どうもそこまでいけない。だから、マークする相手を引きずったカタチで、制限されたミエミエのパスしか出てきません。これではボローニャの守備ブロックを崩し切るところまでいけないのも道理だというわけです。

 もっと中田とラムーシを中心に(また、フィリッピーニ、ブリーギ、ボネーラ等の汗かきプレーヤーをうまく緩衝剤に使って!)、ボールを活発に動かすというイメージを発展させる必要がありそうです。もちろん、そのコンビネーションに最前線の二人も活発に絡むことで、ボールの動きを「縦横」に広げていくという意味も含めてね。

 一時期は、良くなったと感じられたパルマですが、どうも「そこ」で発展が足踏み状態に陥ってしまっていると感じます。あっと・・、攻撃陣のプレーリズムが良くなったのは、アドリアーノのケガで、ボナッツォーリが出ていた頃でしたかネ。そうか、そうか・・。

 最前線の個の才能に、いかに「組織イメージ」を植え付けていくのか・・(組織プレーと個人プレーのバランス!)。とにかく今後のパルマの動向に注目なのですが、中盤守備の発展をベースに、全体的なゲーム内容が好転しているから(数字的な結果は出ているから)、選手たちのプレーイメージを変える作業は簡単ではないでしょうがネ。

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 さて小野伸二。

 良かったですよ、本当に。まあ相手が格下ということもありますが、とにかくプレーの意図が、攻守にわたって積極的。特に、ボールがないところでの守備が、格段に発展していると感じます。

 最前線へ、まるで「影武者」のように飛びだしたかと思えば、すぐに(ときには脇目もふらずの勢いで!)所定のポジションまで戻り、正確なポジショニング、インターセプト狙い等々、優れたバランスプレーを展開するのです。またボールがないところでの決定的マークも忠実そのもの。何度、決定的シーンのマーキングで、最終ラインを追い越したことか。また「足りない」と思えば、自分で最終ラインの「穴埋め」までやってのけます。いや、安心して観ていられるじゃありませんか。

 守備での勝負所に対する感覚が、どんどんと研ぎ澄まされている小野伸二。それこそが、彼の攻撃での実効レベルを発展させる上でのベースになるというわけです。

 前節では、それまでの低調プレーから「イメージ的な復活」を遂げました。もちろん、攻守にわたる実際のプレーコンテンツでも、見るべき内容はありました。そしてこのAZ戦では、素晴らしく広い「アクション・ラディウス(活動範囲)」を基盤に、攻守にわたって、より一層の実効が伴うようになったというわけです。

 彼が挙げた2得点は、このゲームでの彼のプレー内容からすれば、まさに正当な報酬じゃありませんか。

 さて、発展につながる良いプレーの基盤(イメージ)を取り戻した小野伸二。ここから、守備でのボール奪取テクニックの研磨、自身がコアになった仕掛け(ドリブル突破トライや、彼が中心になったコンビネーション、はたまた最終勝負のタメなど)の頻度を高揚させること等々、彼の才能レベルに見合った最大限の発展へ向けたチャレンジをつづけなければ・・。ガンバレ、小野伸二。

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 最後は、出来が悪かったと聞いていた中村俊輔。試合を観ていて、フムフム・・と思っていました。

 レポートするニュアンスは難しいですね。彼自身は、ここ数週間コメントしているように、全体的な運動量は増えていますし、ボールに絡もうとする意志は安定していると感じるのですよ。それでも相手が・・。サッカーは、より「相対性」が強調されるボールゲーム。だからこそ、中村が抱える「課題」が、より鮮明に見えてくる・・。

 そうなのです。ローマ選手たちは、復活を懸けて、必死のサッカーを仕掛けてきているのです。もちろんトッティー等の主力も復帰してきていますしネ。高い個の能力レベルを基盤にした強い相手が、必死のダイナミックサッカーを展開している・・だからレッジーナは、守備に重きを置かざる得ない・・もちろん攻撃も、うまく展開することができない・・要は、完全に相手にペースを握られているということです。

 これでは、攻守にわたって、中村のボール絡みプレーが減るのも道理です。ということで、このレポートでは、そのロジックをベースにすることにしましょう。そしてだからこそ、常に書いている、中村俊輔の「ここからの課題」が明確に浮き彫りになってくる・・というわけです。

 全体的な運動量は多くなっているし、自分からボールに絡んでいこうとする意志も明確になっている・・それでも、相手が強く、自分たちのペースでゲームを運べなくなったら、実効プレーが「極端」に落ち込んでしまう・・。

 この試合でも、ボールをもったら何度かは良いプレーは魅せました。それでも、その頻度はガタ落ち。その「凋落度」は、強いローマが相手だという要素をベースにしても、大きすぎる。だから全体的な評価が高まるはずがない。

 より鮮明になってきた彼の課題・・。

 攻守にわたって、意図が満載された全力ダッシュがほとんど出てこない・・ボールをもっても、ドリブルで仕掛けていったり、自分がコアになったコンビネーション(パス&爆発ムーブ!)を仕掛けていったりするのではなく、相手アタックを「かわす」だけのコントロールプレーに終始してしまう・・ローマ守備は強いから、決定的パスもままならず、結局は中途半端なプレーに終始してしまう・・また守備参加も、おざなり・・もっと強く行けば、少なくとも相手を心理的に追い込むことができるのに・・完璧に行けるタイミングであるにもかかわらず、アタックアクションがおざなりだから、結局は、相手に余裕をもってパスを出されてしまう・・等々。

 この守備プレーのパッシブな(消極的な)姿勢は大きな問題です。まあこの試合では、ローマのペースが素晴らしかったので、それが目立ちに目立ったということなのですが、「あれ」では、周りの味方にも、「アイツは、ボールを奪い返したり、少なくとも相手のプレーを制限しようとする意志がない!」」と思われても仕方ない・・。

 また、ボールがないところでの全力ダッシュですが、いつも言っているように、それこそが「意志の表明」ですからネ。それが少なければ、どうしてもパッシプ(消極)プレーヤーと見られてしまうというわけです。要は、攻撃のダイナミズムを演出することができないプレーヤー・・。

 もちろんチームの出来が良ければ、流れのなかで、全力ダッシュを仕掛けられる状況は増えてくるわけですが、このローマ戦では、どうもね。とはいっても、様子見プレーが多くなってしまったら発展のキッカケを掴めるはずがありませんし、味方から信頼されるハズもありません。

 クリエイティブなムダ走り(全力ダッシュ)。それなんですよ、大事な発想は。

 強い相手が、必死のサッカーを仕掛けてくる・・。それこそ、最高の「学習機会」ではありませんか。それなのに・・。ちょっとフラストレーションがたまりました。それは監督も同じだったようで、後半23分に交代させられてしまって・・。

 とにかくセリエという「場」を、発展機会として最大限に活用して欲しいと思っているのは私だけではないに違いありません。ガンバレ・・中村俊輔。




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