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今週の、小野伸二・・中村俊輔・・中田英寿・・(2002年10月21日、月曜日)

まず小野伸二からですが、さて、どのように書きはじめたらよいのか・・。

 とにかく、まず私が思っていたことから・・。全体的なプレーは、攻守にわたって「傍観」するシーンのオンパレードということで、とにかく低調でした。

 守備では・・。

 最終ラインに任せるところは任せ(最終ラインの人数バランスを確認しながら、タテに抜けていく相手を、そのまま行かせる)、自分は、中盤の底でポジショニングバランスを執りながら、高いところでのボール奪取と、相手の球だしポイントを抑制するという「発想」はいいのですが、実際には、相手が最終勝負を仕掛けていく場面で、「小野しかいない」のに、結局はマークをしつづけなければならない相手に走り抜けられてしまう・・とか、次の相手パスしレーバーへの「寄り」のスタートが遅れ、アタックタイミングを失してしまう・・などという中途半端なディフェンスが目立っていました。そんなプレーでは、彼がボールを奪い返すシーンがほとんどないというのも当然の帰結です(二度ほど、中盤での読みアタックでボールを奪い返しはしましたが・・)。

 追い「過ぎて」しまったら、次の攻撃の起点になりにくい・・。たしかに、中盤守備の「汗かき」であるボスフェルトというパートナーがいますし、チーム戦術における小野の基本的な役割からすれば、その方が効率的・効果的かもしれません。それでも危急状況では、走り込む相手をマークして最終ラインまで戻らなければならないことも確かなこと。この試合での小野は、中盤の底に「残って」次の攻撃に備える状況と、最終ラインまで「戻る(行く)」状況の判断についてのバランス感覚が乱れていたと感じます。そして彼の守備プレー(発想)は、「眼前でのボール奪取」だけになってしまう・・。またそれ以外でも、「予測アタック」が冴えないばかりか、相手ボールホルダーへのチェックにしても、間合いの取り方にメリハリがないから、前に立ちはだかるとはいっても結局は余裕をもってパスを出されてしまうというケースが目立ってしまって・・。

 戻らなければならないところでは忠実に「戻り」、(どんな厳しい状況でも!)次の攻撃では、前方への瞬間ダッシュで攻撃の起点(最初のパスレシーバー)になる(なろうとする)・・。そんな、豊富な運動量に裏打ちされたメリハリのある積極自分主体プレー(リスクチャレンジ)こそが、ワンランク上へのステップアップにつながるのです。ここ最近の小野伸二が、フェイエノールトで魅せつづけていたようにネ。

 まあ、いつも言っていることではありますが・・。

 またこの試合では、攻撃でも、彼が目立つシーンはほとんどありませんでした。何度か、ボールがないところでの、タイミングの良いフリーランニング(前方スペースへの走り込み)は魅せましたが・・。また、パス&ムーブで「仕掛けのコア」になるというイメージも明確に見えてこない・・。

 数日前に、オランダから9000キロ以上も離れた東京でゲームをこなした・・それも、前日に熱を出しながら・・確実に風邪をひいていただろうから、それがこの試合までに完全に回復するはずがない・・それも、18000キロも移動しながらじゃ厳しい・・。そんな事情は、もちろん分かります。

 またこの試合では、ボスフェルトも完調ではなかったようですし、得点源のファン・ホーイドンクもいない。また前後に入れ替わったソン・ジョングとエマートンのコンビが、これまたアウト・オブ・コンビネーション。そんなチーム内の事情もあったのでしょうがネ・・。

 自分自身の出来については、試合を「楽しめなかった」に違いない本人が一番感じていることでしょう。まあ彼のことだから、すぐにまた「フォーム」を回復させるに違いありません。

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 さて次は中村俊輔。

 後半23分くらいでしたかネ。中村が、爆発ダッシュでスペースへ抜け、そこへのパスを上手くトラップして中距離シュートを放ちます。素晴らしいボールコントロールと、力強いシュート。惜しくもバーを超えてしまいましたが、思わず、「それだよ!」という声が出てしまいました。また前半では、左サイドのレオンからの浮き球パスを受け、そのままパス&ムーブで爆発ダッシュをつづけたレオンへ、まさにフィーリングあふれるラストパス(リターンパス)を返します。これでレオンは、完璧なフリーシュート体勢に入れました。でも中村俊輔が魅せたシーンは、それくらい・・。攻撃では、単なる「中継プレー」に終始していたのです。

 とにかく、ボールがないところでの動きにメリハリがない(いつもジョギング!)。パス&ムーブの爆発ダッシュがまったくない。これでは、味方もボールを「付け」にくいでしょう。そんな「止まった選手への足許パス」じゃ、パスが届いた瞬間に「ガチンコ」のタックルを受けてしまいますからね。

 また守備参加もおざなり。ボールホルダーへのチェックには向かいますが、これまた単にコースを切るだけで、相手に、物理的&心理的なプレッシャーを感じさせるような「寄り」ではありません。だから結局は、「そこにいるだけ」という守備参加になって、相手に余裕をもった展開パスを出されてしまう。またインターセプトを狙うような意図もまったくといっていいほど感じない。フ〜〜。

 本当に、これじゃマズイぜ、中村俊輔・・。

 どうして、もっと走らないんだ・・。どうして、もっとメリハリのある動きを意識しないんだ・・。この試合では、互角以上にレッジーナがゲームペースを握っているのだから、彼が「コア」になって仕掛けユニットを演出する大チャンスだったのに・・。レッジーナへ移籍するまでにマリノスで魅せつづけていた、攻守にわたる積極プレーを思い起こして欲しい・・。真剣に、そう思っていました。

 もちろん守備で「追い過ぎる」必要はありません。でも、二列目を基本ポジションにして、高い位置で相手のパスを狙ったり、ボールホルダー(次のパスレシーバー)への爆発的な寄り(チェイシング)を忠実にこなさなければ・・。一発でパスカットするのは難しいでしょうが、味方が「次」を狙えるような、メリハリの効いた守備参加をしなければいけない。とにかく彼のプレーに、攻守の目的を達成しようとする強烈な「意志」を感じないのですよ。これでは、味方の信頼も得られるはずがない・・。

 選手の意志は、何といっても「全力ダッシュ」に現れてきます。それは、彼がチャンスメイカータイプだということには関係ありません。それについて書いたサッカーマガジンのコラムを・・。

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(10月2日に仕上げたサッカーマガジン用のコラムです)

 「ここだ!」。中田英寿が、全力ダッシュでアタックを仕掛けた。セリエの第4節。ユーヴェントス対パルマ、後半35分のことだ。攻め込んでいるユーヴェントスが、パルマのペナルティーエリア際を、右サイドから左サイドへと横パスをつないでいく。中田英寿は、その最後の横パスを「読み」、パスレシーバーへ向けて爆発アタックを敢行したのである。

 中田が動き出したのは、最後の横パスが蹴られる寸前。その寄りの動きが、パスを受けるユーヴェ選手の目に留まらないはずがない。トラップが微妙にズレる。その瞬間だ、中田が爆発したのは。素晴らしいボール奪取だった。そこからの迷いのない直線的なカウンタードリブル。例によって、背筋をピンッと伸ばしたルックアップ姿勢を維持する。そして相手を十分に引きつけ、左サイドでフリーになったムトゥーへ丁寧なファウンデーションパスを通したのである。最後は、ムトゥーから、タメにタメたラストパスがアドリアーノへ通されてパルマの追加ゴールが決まった。中田英寿が演出した完璧なカウンター。ため息が出た。

 この試合でも中田英寿は、ソリッドにまとまりはじめた新生パルマの骨格となるべき存在であることを証明した。そのバックボーンは、攻守にわたる明確な「意志」。それは、何度も繰りかえされた、攻守にわたるボールがないところでの全力ダッシュという現象に明確に投影されていた。そのダッシュこそが、自らが描く目標イメージを達成しようとする積極的な「意志(意図)」の現れなのである。

 特にミッドフィールダーについて、本物の良い選手と、単に上手いだけの選手との「差」が明確に見えてくるのは、ボールがないところでの動きの「質」。それも、実効ある全力ダッシュにあることは、フットボールネーションでの不文律だ。

 攻撃の目的はシュートを打つこと。守備のそれは相手からボールを奪い返すこと。得点を挙げたり、自軍ゴールを守るというのは結果にしか過ぎない。ポジションを修正しながら、常に攻守にわたる「勝負所」を強烈に意識する。そして、ねらい所のイメージにはまった瞬間、勝負を賭けた全力ダッシュをスタートする。直接的に「目的」を達成できないまでも、そんな意図が満載された全力アクションは、「次」への効果的なファウンデーションになるものだ。

 中田英寿は、攻守にわたり、強烈な「意志」が迸る(ほとばしる)全力スプリントを繰りかえしていた。相手ボールホルダーや次のパスレシーバーに対する鋭い「寄り」ばかりではなく、ここだ!と確信したときのスペースへのフリーランニング。冒頭のシーンでは、ボールを奪い返した後のカウンターシーンまでもが鮮明に脳裏に描かれていたに違いない。素晴らしい。

 自分主体で描く「明確なイメージ」を象徴する全力ダッシュ。今度「J」を観戦するとき、特にボール扱いに優れたミッドフィールダーたちについて、本物の良い選手と、単に上手いだけの選手との違いを観察してみるのも面白いだろう。(了)

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 とにかく中村俊輔は、運動量とボールタッチ回数を、いまの「倍」にする意気込みで、攻守にわたる吹っ切れたプレーにチャレンジしなければなりません。少なくとも、局面での「全力ダッシュ」の数を増やす意気込みで試合に臨まなければ・・。前述したとおり、それこそが、攻守にわたる「意志」の象徴ですし、それさえあれば、彼の類い希なる才能も格段ニラ活きてくるはずです。

 本場では、「実効プレー」が満足するレベルに達しない場合、それまでの論調がすぐにでも「表裏反転」してしまいますからネ。

 でもまあ彼の場合は、もっと「追い込まれた」方がいいのかも・・。とにかくガンバレ、中村俊輔。

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 さて最後は中田英寿。

 良かったですよ、本当に。例によって、攻守にわたるダイナミックプレーを魅せてくれました(前述したサッカーマガジンのコラムを参照!)。数日前に「19000キロ」を移動し、自国代表のゲームをこなした選手には、とても見えない。とはいっても、中田自身は良かったのですが、チーム自体は、まだまだ「課題」も多いと感じていました。

 この日、モデナのホームで戦ったパルマの基本的な「選手のポジショニング・バランス」は、最終ラインが四人、その前に守備的ハーフトリオ(右にブリーギ、中央にラムーシ、左にフィリッピーニ)の三人が並び、二列目の右が中田英寿、左がムトゥー、そしてワントップがアドリアーノという布陣です。

 1998年フランスワールドカップで優勝したフランス代表の基本的なポジショニングバランス(4-3-2-1)というわけです。今のところ、この「役割分担(チーム戦術的な発想)」は、ある程度うまく機能しているようです。まあ、守備に限ったハナシではありますが・・。

 「こんな」攻撃のシーンを何度も目撃しました。(例えば)後方のラムーシから、下がり気味に動いたアドリアーノへ鋭い「足許パス」が付けられる。その瞬間・・というか、ラムーシがパスを出した時点で、既に中田英寿は、右サイドの決定的スペースをイメージして全力ダッシュ(決定的フリーランニング)を仕掛けています。彼がイメージするのは、もちろん、アドリアーノからのダイレクトでの勝負パス。でも結局は・・。

 中田英寿がイメージしつづける「仕掛けのコンビネーション」が機能したのは、ほんの数回でしたかネ。要は、仕掛けイメージについて、パルマの「個の才能」たちの脳裏は、まだまだ「単独勝負」が占拠しているということです。もちろんムトゥーとアドリアーノのことです。たしかに彼らの(特にムトゥー!)単独勝負能力は素晴らしいレベルにある。でも「それだけ」では、当然相手に抑えられてしまう。だからこそ、組織プレーの発想も強化しなければならないのです。その発想「も」あって初めて、彼らの「個の能力」が最大限に活かされてくる・・。

 モデナとのチーム力の差は歴然。もちろんパルマの方が上です。だから、全体的にはゲームを掌握している。それでも、決定的なシーンは、後方からブリーギやフィリッピーニが押し上げ、「前」の味方とのコンビネーションがうまく機能したときに限られるんですよ。そして攻めあぐんでいるうちに、カウンター二発を食らって逆転負け・・。

 まあ、そんな課題を抱えているパルマが、これからどのように発展していくのかに(私自身の学習機会として)注目していくことにしましょう。




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