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ヨーロッパ便り(3)・・最後の瞬間にドラマが・・WCヨーロッパ予選9組・・(2001年10月6日、土曜日)

「冗談じゃネ〜〜よ、あのオランダ人のレフェリーは・・」

 電話口で、親友のウリ・ノイシェーファーが怒鳴るように喋りつづけます。ここは、ロンドンのホテル。所用が重なったことで、マンチェスターまで行くことができずに、結局ホテルでのテレビ観戦になってしまいました。もちろん、ワールドカップ予選9組の「最終日マッチ」のことです。この日、マンチェスターでは、イングランド対ギリシャの、予選グループ最終戦が行われていたのです。

 ご存じのように、予選9組では、イングランドとドイツが、勝ち点が並んだ状況で予選最終日を迎えていました。それでも、これまたご存じのように、「あの」スキャンダラスな「5-1」の敗戦によって(ドイツが、それもホームで、イングランドに歴史的な大敗を喫した!)、得失点差では、ドイツが大きく引き離されています。

 ということで、ドイツが予選グループを「一位」で突破するためには、ドイツが大量ゴールで勝利をおさめるか、ドイツが勝ち、イングランドが引き分けか負けるしかないという状況なのです(二位の場合は、予選5組の二位、ウクライナと決定戦を行わなければなりません)。

 ドイツの相手はフィンランド。そしてイングランドの相手はギリシャ。ともに「ホームゲーム」ですから、誰しもが、強豪のホームチームが勝つことを信じて疑わないという状況にあるというわけです。

 私が今いるのはロンドンですから、ドイツの試合は見ることができません。ということで、イングランド対ギリシャの試合をテレビ観戦しながら、ドイツ対フィンランドの途中経過を、ドイツの友人からの電話レポートで、逐次追いかけていた次第。そして、試合直後に掛けてきた電話で、ウリが、冒頭の「怒りの言葉」を発したというわけです。

 私も怒っていました。こんなに「入れ込んで」ゲームを観戦したのは久しぶりのこと。とにかく、ドイツが「奇跡の大逆転」を完成しようとしていたんですからネ。それが最後の最後になって・・

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 イングランドの試合経過は、まさに「プレッシャーに負けたホームチーム」という展開。内容でギリシャに凌駕され、先制ゴール(前半)まで奪われてしまいます。

 中盤での守備が思うように機能しない・・、だから最終ラインも不安定そのもの・・、また攻撃にしても、ボールが動かないから(ボールのないところでのフリーランが停滞しているから)、ギリシャ守備ブロックを崩せる雰囲気を醸しだすことができない(もちろん何本かは、放り込みから、惜しいチャンスは作り出しまたがネ)。とにかく、「これがあのイングランドかい・・??」と誰もが疑問を持つような、足の止まった低級ゲームしか展開できないのです(この試合では、天才オーウェンがケガで出場していませんからネ)。

 対する、「失うモノのない」ギリシャは、見るからにクリエイティブ!という高質なサッカーを展開します。守備においても、攻撃においても・・。

 一人ひとりの技術では、完全にイングランドを上回っている・・、それでもテクニックにおぼれることなく、しっかりとボールを動かすことをベースにした組織プレーに徹する・・、もちろん周りも、その基盤となる「汗かき」のフリーランニングに労を惜しまない・・、そして勝負所では、個人の能力を最大限に活かした「単独勝負」へチャレンジしたり、決定的なパスによる最終勝負(もちろん決定的フリーランニングとのイメージシンクロプレー)を仕掛けていく・・、また守備でも、素晴らしい組織バランスと「次の仕掛けに対する読み」から、面白いようにイングランドの「攻めの芽」を摘み取っていく・・、エースのベッカムも完全に抑え込んでいる・・。前半を短く表現すれば、そんなレポートになるでしょうかネ。

 ただ後半は、一点ビハインドのイングランドがゲームを支配はします(もちろんそれはギリシャが守備を固めてきたから!)。それでも、最終勝負へのプロセスがあまりにも「単調(稚拙=クリエイティブなアイデアなし!)」だから、ラストパスや、ドリブル勝負の仕掛けを事前に読まれて、パスカットされたり、タイミングの良い集中プレスを掛けられてしまうのです。ということで、イングランドがチャンスらしい雰囲気を作り出せるのは、セットプレーからだけ。要は、ベッカムの「天才的なキック」に頼るしかない・・ということです。

 対するギリシャは、押し込まれていながらも、逆に何度も、決定的チャンスを作り出してしまいます。前半から数えると、ゴールにつながらなかったものの、「流れの中」で作り出した決定的チャンスは、最低でも「四本」はありましたかネ。そのうちの二本は、イングランドGKと「一対一」という絶対的なチャンス!

 それでも、後半も25分が経過したタイミングで交代出場した「シェリンガム」が、しぶとく同点ゴールを決めます。もちろん、ベッカムのフリーキックから。それは、(マンUの)チームメイトでもあるシェリンガムとベッカムの「最終勝負のイメージ」が、完璧にシンクロした場面でした。

 ベッカムが、左サイドのタッチライン際でゆっくりとボールを置いているとき、その右側の中央ゾーンを、交代したばかりのシェリンガムが、ゆっくりと上がっていきます。そして彼がペナルティーエリアの際まで進んだタイミングを見計らって、ベッカムが助走に入ります。それが勝負の瞬間でした。シェリンガムを「最初から最後まで」マークしていたギリシャ選手の視線がベッカムへ向けられ、その「一瞬のスキ」を、シェリンガムが突いたのです。急激に方向転換し、「ニアポストスペース」へ向けて爆発ダッシュ! もちろん彼は、完璧にフリー。そしてそこへ、ベッカムからの「勝負イメージが込められたボール」が、正確に糸(意図!)を引いていったというわけです。

 「シュン!」と、ヘディングで「スリップ」させるように、ギリシャゴールへシュートを放つシェリンガム。そのボールが、鈍い放物線を描き、ギリシャGKの頭上を越えてゴールへ転がり込んだというわけです。

 それでもその3分後には、センタリングから細かくパスをつないだギリシャが、再び勝ち越しゴールを奪ってしまいます。試合の残り時間、15分というタイミング。

 ここからイングランドがパワープレーを展開します。選手の、人数バランスや、ポジショニングバランスなどは無視し、全員がどんどんと押し上げていくのです。球際の競り合いにも、それまでの二倍以上の「リキ」が入っているように感じたりして・・。

 そんな状況のなかで、イングランドが、ギリシャのペナルティーエリアの際で、何度もフリーキックを得ます。身体をぶつけるような「力まかせ」の競り合いを仕掛けつづけることで、何度もギリシャディフェンスのファールを誘ったのです。これも彼らの「戦術」の一部。イングランドには、フリーキックからの「絶対的な武器」がありますからネ。そう、ベッカム・・。それでもギリシャは、あくまでも冷静に、ボールを奪い返しては、危険なカウンターを仕掛けていくのです。

 そして、ロスタイムに入った残り2分のタイミングで、オランダ人レフェリーが(ゴメンなさい名前を忘れてしまって・・つい最近まで「J」でゲストレフェリーを務めていた優秀にレフェリーの方です!)、すべてのドイツ人を怒らせるホイッスルを吹いたというわけです。ロングボールを競り合ったイングランド選手が倒れ、それを、ギリシャのファールだと判定したのです。どう見ても、フェアな競り合いだったにもかかわらず・・。首を横に振りながら、あからさまな「ホームタウン・ディシジョン(ホームチームに有利な判定を下すことです)」を、苦々しく思いながらも、冷静に「壁」をつくるギリシャ守備陣。でも、そのフリーキックが・・

 8本目だったと思います。ゴール正面ゾーンからの、ベッカムの「直接フリーキック」は・・。そしてそれが「8本目の正直」になったというわけです。見事な、本当に見事なフリーキックゴールではありました。

 右足から放たれたボールが、まるで魔法のように、ギリシャGKの「鼻先」で、クイッとコースを変えたんですからネ(ゴール裏カメラには、その魔法の軌跡が明確に映し出されていましたヨ)。そしてボールが、ギリシャゴールの左上角に吸い込まれていったという次第。あのフリーキックでは、GKは、まさに「ノーチャンス」。

 それまで多くのフリーキックチャンスを得ながら、外しつづけたベッカムが、最後の最後になって、それまで中途半端なキック動作ではなく、しっかりと蹴り足を「振り抜いた」のです。彼も、最後の最後になって、フリーキックのチャンスを「大事にしよう!」という中途半端な心理から解放されたということですかネ・・。

 選手たちは、「他会場(ドイツ対フィンランド)」の結果を知っていたのでしょう。試合終了のホイッスルと同時に、グラウンド上で喜びを爆発させていました。

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 そんなイングランドの苦しい展開を知ってか知らずか、ドイツもまた、見ている方にとってはフラストレーションそのままという緩慢なゲームを展開していたと聞きます。期待の若手、ダイスラーは消極プレーに終始して目立つことができず・・、この試合でツートップを組んだ、ノイビル、ビアホフも、まったく期待はずれ・・、最終ラインにしても、ボールを奪い返しても余裕を持ったボールキープ(後方からの効果的な組み立て)ができない・・、中盤のゲームメーカーがいない、チャンスメーカーがいない・・。たしかにショルやマルコ・ボーデといった、クリエイティブな「質」を備えた選手たちが欠けていたとはいいながら、あまりにもヒドイ出来だったと、友人の怒りはおさまるところを知りません。

 「たしかにオレも、オランダのレフェリーの笛には納得していないけれど、それでも、ドイツが勝ってさえいればオーケーだったわけだろ・・? ホームだし、相手がフィンランドだったことを考えれば、引き分けてグループ二位になったのは自業自得っちゅうことじゃないか・・」。そんな私の言葉に、友人も、少し落ち着いた声で、「そうだよな、まあ全ては自業自得っちゅうことだな・・。それに今のアイツらのサッカーじゃ、本大会に出たとしても恥をさらすだけだしな・・」。まあ、それはちょっと言い過ぎだとは思いますがネ・・。とにかく、ドイツ全体が、自国代表チームの「ゲーム内容」に悲嘆にくれているということだけは確かなようです。

 ドイツは、2006年に自国でのワールドカップを控えています。ウクライナとの、二位同士の決定戦に負けるわけにはいきません。私は、まあ彼らのことだから、追いつめられたら・・、という期待は持っているのですが、反面、いまの彼らには、昔のような「勝負強さ」が感じられなくなっているとも感じています。結局は、ドイツサッカーの「体質的な問題」が、ここにきて、グラウンド上の現象に、顕著に現れてきている・・ということなんでしょう。もちろんそれは、一朝一夕に解決できるものでもありませんから、長い目で見れば、今回のワールドカップ予選に負けて、すべての「ウミ」を出し切る方が、彼らの将来にとって良いことなのかも・・なんて危険なことを思ったりもするんですよ。

 このことについては、スポナビや「2002クラブ」、はたまた本HPでも、過去に何度も取り上げています。彼らには、何らかの「新しい風」が必要なんです。そう、イングランドのように・・

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 さて明日は、ナイジェリア戦。しっかりと寝て、スッキリした「アタマ」で見極めることにします。

 




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