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ナビスコ決勝・・いや、なかなか面白い「構図」でした・・ジュビロ対マリノス(0−0)PK戦でマリノスが優勝!・・(2001年10月27日、土曜日)

いや、面白い一発マッチでした。「内容」では、明確に上回っていたジュビロ。でも、PK戦で不覚をとってしまう。まあ「PK戦」は、神様の領域ですから・・。たぶんサッカーの神様は、今日の試合のスクリプトを、エヘヘッ・・なんてほくそ笑みながら書いていたに違いない・・!?

 このゲームは、両チームの「構図」に特徴があったという意味で興味深い展開になりました。今回はまず、そこから入ることにしましょう。

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 守備については、忠実なマーク(人を見る傾向の強いディフェンス)を主体にする、堅実なマリノスに対し、あくまでも、ボールホルダーに対する忠実なチェックを基盤に、「互いのポジショニングバランス」を維持しながら、タイミングを見計らった「読みベース」の協力プレスを仕掛ける(インターセプト、次のパスレシーバーに対するチェックなども含む)という、バランス・オリエンテッドな(つまり、クリエイティブな)ディフェンスを展開するジュビロ・・という構図は、いつもの通りです。

 ジュビロの守備。彼らのディフェンスで特に目立つ「前方プレーヤーの追いかけ守備参加」については、来週のサッカーマガジン「1/4コラム」に載りますので、そちらを参照してください。そこでのキーワードは「後ろからの足音」。拙著「闘うサッカー理論」で用いたキーワードの一つです。

 このクリエイティブな中盤守備ですが、そのコラムでは、藤田の守備参加にスポットを当てました。彼の、相手ボールホルダーを慌てさせる「足音」は、特に「ノイジー」ですからネ。そんな「例によっての活躍」を魅せつづける藤田ですが、やはり中盤守備の主役は「服部」。

 彼については、そのパフォーマンスが、レベルを超えて「安定」していることで、今まで積極的に話題にすることはありませんでした(よくあることなんですが、いつもの、期待通りのハイパフォーマンス・・ということで済ませてしまう!)。それでも、この試合での彼のプレーが、あまりにもインプレッシブだったから、採り上げなければ・・。

 とにかく彼の運動量と「実効レベル」の高さが、目立ちに目立っていたんですよ。読みをベースにした、忠実でクリエイティブな「アタック」。ボールのないところでの忠実なマーキング。中盤守備でのリーダーシップ。そしてボールを奪い返した後の「組み立てプレー」。いや、素晴らしい。もちろんミスはありますが、例外なく「前向き(リスクテイク)」なミスですから、チームメイトにとっても、大いなる「刺激」になったに違いない・・。選手たちは、「あっ、ヤツは(勇気をもって)勝負に行ったゾ!」と感じているものなのです。

 また攻撃でも、後方からのゲームメイカー的なタスクもこなします。周りも、前が詰まったら、例外なく彼にボールを預けようとします(彼に対する信頼の証!)。そしてそこから、展開パス、仕掛けのタテパスやサイドチェンジパスが出るだけではなく、危険なコンビネーションプレーがスタートしたりもします。もちろんミスはありますが、それでも全体的なパフォーマンスは最高。私は、ディフェンス・ユーティリティープレーヤーである服部が、「2002」でも、戦術的に重要なタスクを担うと確信しているのです。

 私にとって、この試合の「MVP」は、(勝敗とは関係なく)間違いなく「服部」だったということをまず言いたくてネ。服部選手に、乾杯!!!

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 次に攻撃の「構図」ですが、私が言いたいことは、ジュビロが、最後の最後まで「組織的に仕掛けていく」のに対し、マリノスが、個人的な能力を「主体」に攻め上がる・・ということです。

 ジュビロでは、「中盤のクリエイティビティーのコア」になるべき選手が「三人」も欠けています。名波、福西、そして奥。そのこともあって、(特に名波をケガで欠いてから)彼らの攻撃に「組織色」がより強くなっていったのでしょう。クリエイターがいれば、ドリブル勝負、タメ等々の「個人の即興性(インプロビゼーション)」による変化が出てきますからネ。とはいっても、頻繁に「タテのポジションチェンジ」を魅せつづけるジュビロの「組織オフェンス」は、十分に危険(魅力的)ではありますが・・。サイドからのセンタリングや、一本のタテパスからの最終勝負シーンなど、何度も、マリノスの決定的スペースをえぐって決定的チャンスを作り出していました。

 とはいっても、ベストメンバーから比べれば、ちょっと「攻撃の変化を演出する隠し味」が足りない。この試合で先発した中山、清水、藤田、金沢、西は、相手守備ブロックの「薄い部分」を突いていけたとしても、そこからの単独ドリブル勝負や「タメ」など、「攻撃の変化」のソースとなる個人の能力に関わるプレーでは、マリノスのドゥトラ、ブリット、中村などと比べて、明らかに劣っていたということです。

 逆に、マリノスの攻めでは、彼らの「個人能力」に頼り過ぎの傾向がアリアリ。彼らがボールをもった状況では、周りの選手たちが、「一体なにをやるのかな・・」と、様子見になってしまう心理が明確に見て取れました。

 ということで、マリノスの攻撃では、決定的スペースを「パス」で突いていくプレーが少なすぎる。中村俊輔という「天才」がいるにもかかわらず・・。私はここだと思っているんですよ、最近の中村俊輔が、以前ほどの機能性を魅せられないことのポイントが・・。城にしてもブリットにしても、はたまた平間、ドゥトラにしても、また後方から抜け出していくべき「三人目」にしても(まあこの試合では、守備的ハーフコンビの遠藤、永山は、ジュビロの素早いカウンターに備えて、後方支援に徹していましたが・・)、ボールのないところでの決定的なフリーランニングがない・・、イメージ・シンクロプレーがない・・。

 マリノスがチャンスの芽を作り出せるのは、ドゥトラ、平間のドリブル(前半には2-3本ありましたかネ・・)、はたまたブリットのドリブル、そして中村俊輔が演出するフリーキック、コーナーキックくらい。「流れのなか」での「組織的な最終勝負」は、まったくといっていいほど見られませんでした。

 個人的な「才能」に(ちょっと)欠けるジュビロ・・、個人の才能「ばかり」が前面に押し出され過ぎるマリノス・・。とにかく、ちょっとバランスを欠いた「相違する攻撃タイプ」の激突・・という意味でも興味を惹かれて観戦していた湯浅だったのです。

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 その意味では、前半は面白かったですよ。

 何度か、マリノス守備ブロックの「ウラ」を突いた攻めを魅せるジュビロ。それに対し、ここ一番の個人勝負で決定的シーンを演出するマリノス。

 ドゥトラの爆発的なドリブルからのシュートが飛び出した後の前半26分、今度は平間が、ドリブル勝負から決定的シュートを放ちます(ジュビロの左ポストを直撃!)。逆にジュビロも、前半34分に、素晴らしいカウンターから決定的チャンスを作り出します(中山へのタテパスが通り、そこからの素早いセンタリングから、オーバーラップした金沢がシュートまでいく・・でも最後は、堅実なマリノスディフェンダーのチェックで、ボールはタッチラインの外へ・・)。

 後半。最初の時間帯は両チームともに勢いに欠けていましたが、それでも15分を過ぎたあたりからジュビロが攻勢に転じます。とはいっても、どうも「スパイス」が・・。そんなことを思っていた後半22分、それまで「サイドライン沿いの対決」で、ドゥトラに翻弄されていた(ドゥトラが怖く、積極的に攻めあがれない)西に代わって川口が登場し、右からの攻めが活性化します(ドゥトラのコンディションに疑問が・・)。そしてそこから、何度か惜しいセンタリングが上がります。それに対しマリノスは、ほとんどといっていいくらいチャンスを作り出せない・・。前半は上回っていたマリノスのシュート数ですが(6本・・対するジュビロは4本)、後半は、もう激減(2本だけ・・対するジュビロは8本のシュートを放つ!)。でも両チームともにゴールを奪えずに延長へ・・

 延長では、マリノスの永山が退場になったこともあって、ジュビロがゲームを支配し、惜しいシュートも放ちますが、結局はノーゴールで「PK戦」へ突入した次第。

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 神様の微笑みを独り占めしたマリノス。前述したように、まだまだ攻撃はチグハグですが、堅実な守備をベースに、勝負強さは健在です。

 さて、そのマリノスも参入を余儀なくされている「降格リーグ」ですが、ヴェルディーがエジムンドを獲得するなど、その行方が注目されるところ。マリノスには、この「栄冠」が、実効ある追い風(特に心理的な部分で!)になることを願わずにはいられません。

 「J」のセカンドステージ。優勝争いだけではなく、降格リーグも風雲急を告げてきたではありませんか。さて、ここからですネ。いや、血わき、肉おどります。

 
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 昨日(10月26日)にアップした「チャンピオンズリーグのコラム(レアル・マドリー対ローマ)」の冒頭で、一橋大学の学園祭での「講演」を告知しましたのでご参照ください。

 




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