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今度は、100%気合いが乗った「本気のイタリア」と勝負したいですネ・・日本vsイタリア(1-1)・・(2001年11月7日、水曜日)

日本代表は、強くなった・・!? たしかに彼らは、「世界」へ向けて、大きなステップを刻みつづけています。ボール際の攻防や仕掛けのプロセス、はたまた安定した守備ブロックを見ていても、そのこと(自信と確信レベルの発展)が感じられます。でも、まだまだ。今回の試合は、何といっても、イタリアが「最高の(勝負の)状態」でゲームに臨んでいなかった・・という「事実」に尽きるというわけです。

 最高の状態・・。それは、コンディション的(12時間のフライトの後、昨日に来日したばかり・・8時間の時差のなか、昨夜に選手たちが寝られたかどうかも疑問・・等々)、そしてモティベーション的な(シャカリキに勝ちにいく必要がない・・等々)ファクターのことです。

 それでも日本代表が、「あの」イタリアに対し、結果でも、「内容」でも、かなり良いゲームを展開したことは事実。ただそれを、「喜び過ぎ」てはいけないということです。これだったら、先月の欧州遠征でのセネガル戦、ナイジェリア戦の方が、よっぽど「実効ある学習機会」だった・・!? とにかく、今年3月のフランス戦、一ヶ月後のスペイン戦、またコンフェデレーションズカップ、そして今回の欧州遠征とは、比べモノにならない「勝負(モティベーション)レベル」であったことだけは「まず」言っておかなければということで、ネガティブな文章からスタートしたわけです。

 とはいっても、(斜に構えるのはここまでにして!?)とにかく日本代表が、立派なプレーを展開してくれたこと、そして「内容に見合った結果」になったことについては、心から喜んでいる湯浅だということだけは付け加えておかなければネ・・。

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 さて試合。

 全体的には、私が予想した通りの展開になりました。自分たちで(中盤での組み立てをベースに)ゲームのリズムを作り出すのは「あまり」得意ではないイタリア。何といっても「イタリアのリアリズム」は、この紙相手とはまったく異なったゲーム展開で発揮されますからネ。

 対する日本も、技術や戦術発想で大きく発展していますから、以前のように「名前負け」するなんてことはありませんし、持てるチカラを常に十二分に発揮できるようになっていることで、イタリアとはいっても、ゲームを完璧に掌握されることなどは決してない・・。

 そして、「見かけ」では五分といったゲームがはじまります。

 まず開始早々の2分、森島と柳沢のコンビで決定的なスルーパスが決まります。良いスタートを切った日本代表。それでも、ハングリーさがまったく感じられないイタリアのプレーからは、日本代表を「甘く見ている雰囲気」がアリアリ。何といっても中盤守備がルーズなんですよ。読めている(予測できている)のに「行かない(インターセプトやトラップの瞬間を狙ったアタックへいかない!)」・・、日本選手がボールをもってからチェックへいくというシーンがほとんど・・、またマークしているときに切り替えされて外されたら、そこで止まってしまう・・等々。そして攻撃でも、ボールを奪い返しても周りの動きが鈍重なことで、日本の守備ブロックのウラを突ける雰囲気さえも醸し出せない・・、ドリブル勝負などのリスクにチャレンジする意志も感じないまま足許パスに終始する・・等々。

 中盤守備がそれですから、日本代表も、ミッドフィールドで「起点」になった選手が、かなり余裕をもって(イメージを明確にした状態で)最終勝負を仕掛けていけるのも道理。前述した2分のチャンス、29分の小野から森島へ通されたスルーパスのシーンは秀逸でした。「あの」イタリア守備陣に、二本も「ウラ突きのスルーパス」を突き刺したんですから。

 まあ、中盤守備が甘いことで、最終ラインの「最終勝負のマーク」も散漫になってしまったということでしょう。柳沢の「見事」な先制ゴールのシーンでは(前半9分)、柳沢をマークしていた選手(たぶんユリアーノ)が、一瞬ボールウォッチャーになってしまい、その「一瞬のスキ」を、柳沢の爆発ダッシュ(柳沢の真骨頂=相手の視線と意識のスキを突いたフリーランニングスタート!)が切り裂いたというわけです(もちろん、その前段階での小野の粘りと稲本のラストパスは見事でしたが・・)。

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 とはいってもそこはイタリア、この先制ゴールをキッカケに、心理ダイナミズムが活性化してきたことを明確に感じさせるまでに「回復」してきます。要は、柳沢のゴールに、目を覚まされた・・っちゅうことです。そして、「イタリア的」な実効ある攻めを展開しはじめます。

 イタリア的な攻め・・。一つは、アクティブ・プレーゾーンを、一瞬にして相手ゴール前まで移動させてしまうプレー(要は、自軍の深い位置からでも、正確なロングパスを出せる・・そして最前線も、そのロングパスを強烈に意識しているということです)。そしてもう一つが、セットプレーを起点にした、「次の勝負所(フィニッシュイメージ)」までをも強烈に意識した「アクション・ユニット」。要は、セットプレーから直接ゴールを決めるだけではなく、ヘディングやダイレクトパスで「落としたボール」や、競り合いからの「こぼれ球」を、攻め上がった全員が、まさに「世界レベルの忠実さ」でイメージしつづけているということです。

 前半にイタリアが作り出したチャンスまとめてみましょう。まず7分、コーナーキックからのザンプロッタの強烈なミドルシュート・・、14分、デル・ピエーロがタメ、オーバーラップしたココへのタテパスを通してラストセンタリングまでいったサイドを完璧に崩したシーン(最後はわずかに合わなかった)・・、20分、日本ペナルティーエリア際でのフリーキックを、(一瞬、息をついた日本守備のスキを突いて!)間髪いれずにスタートすることでシュートまでいったシーン・・、直後の同20分、左サイドのココから、逆サイドのファーサイドにいるインザーギへ正確なサイドチェンジ気味のラストパスが飛び、そこからの折り返しヘディングを、トッティーがダイレクトでシュートしたシーン・・、33分、左サイドのデル・ピエーロを中心にした組み立てから、最後は、右サイドで小野のウラに走り込んだザンプロッタへ絶妙のサイドロビングが決まり、そこからワントラップで小野を外したザンプロッタがシュートまでいったシーン・・、35分、コーナーキックからの展開で、一瞬のタメを演出したトッティーが、右サイドで一瞬フリーになったディビアッジョへ、ラスト横パスを決め、ディビアッジョがそのままシュートまでいったシーン・・、そして37分、日本最前線のオフサイドからのフリーキックから、すぐさま60メートルのタテパスが飛び、左サイドでフリーになったデル・ピエーロにボールがわたったシーン(これはシュートまではいけなかった!)・・。

 それらは、「イタリアの真骨頂チャンス」がほとんどじゃありませんか。ミドルシュートでも、例外なく強烈に、そして正確に、日本ゴールへ飛んでいきます。その全てが「曽ヶ端の正面」へ飛んだから事なきを得たモノの・・。フ〜〜

 そんなイタリアの「実効ある攻め」を見ていて、また、数本いいプレーはあったものの、すべてが「単発」で、クリエイティブな組み立てが「省略」された日本代表の攻撃を観察していて、やはり「世界との差」はまだまだ大きい・・と感じていた湯浅でした。

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 ただ後半は、中田ヒデが登場したことで、またイタリアが、少し「本気モード」入ってきたことで、日本代表にとっての「学習機会チャンス」が、かなり向上することになります。

 調子の出ないトッティー(ドーニ)、ディビアッジョ(ザネッティー)は交代してしまいましたが、それでも、イタリアの攻守にわたるプレーが活性化し、日本代表も、ヒデが入ったことで「組み立て」がうまくできるようになったのです。

 まず立ち上がり3分。柳沢と鈴木のアントラーズコンビが魅せたワンツーから、柳沢がフリーで抜け出し、そのままフリーシュートまでいきます。ブッフォンがやっとの思いでセービングで逃れる・・。日本チームが初めて(唯一!?)作りだした、コンビネーションベースでの「ウラ取り」から、決定的スペースを突いた絶対的チャンスではありました。惜しい!!

 それに対してイタリアも、直後の4分、そのピンチに刺激されたかのように、右サイドへ流れたドーニからのセンタリングを、インザーギが、強烈なヘディングシュートを見舞います。シュートが、曽ヶ端の正面に飛んだから事なきを得る・・。フ〜。

 そしてその数十秒後、イタリアの同点ゴールが決まってしまいます。コーナーキックを、(イタリアストッパーの)ユリアーノと、ファーサイドのゾーンで競り合った鈴木が、左足アウトサイドでクリアしたボールが(うまくアウトサイドに当たらなかった!)、ドーニの足許へ飛んでしまって・・

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 そしてそこからは、ダイナミックな「均衡状態」が続くことになります。

 そして23分、これまた「イタリアの真骨頂」とでもいうべきカウンターが飛び出します。日本の最終ラインが、最前線へ向けてロングパスを出したのですが(そのことで、日本代表の中盤守備ブロックの重心も前へ!)、それをカットしたイタリアが、素早く左サイドでフリーになっていたデルベッキオへパスを回したのです。そのままドリブルで上がるデルベッキオ。そこが勝負の瞬間でした。日本のゴール前には、インザーギが張っているのですが、そこへ、後方から、一人のイタリア選手が駆け上がっていったのです。ドーニ。

 そのとき、日本代表ディフェンスブロックの意識と視線は、完全にデルベッキオとインザーギに集中してしまって・・。後方から「中央ゾーン」を駆け上がるドーニを「捉えて」いたのは、小野だけ。その状況を考えれば、小野が、「守備ブロックの人数は合っているから大丈夫だろう・・」という心理になるのは分かります。それでも結局は、ニアポストに詰めたインザーギに、宮本、中田浩二が引きつけられ、その「後方にできたスペース」で、ドーニが、フリーでヘディングシュートを放ってしまいます。

 この状況で、最終勝負のマークができたとしたら、それは小野だけ。彼は、デルベッキオがセンタリング体勢に入った時点で、「もうドーニをマークできるのはオレしかいないのかも・・」と思っていたに違いありません(そのことは彼の戻りアクションから分かる!)。でも、その動きは「全力ダッシュ」ではなかった・・。

 難しい状況ではあります。とはいっても、それが、「守備における最終勝負のイメージを明確に描けなければならない状況」だったからこそ、小野が、結局はディフェンダーになり切れないことが証明された・・とも評価できる・・!? このことは、もう一人の「左サイドのクリエイター」、中村俊輔にも言えます。要は、ワールドカップ本大会では、(たしかに左サイドからの攻めの創造性は格段に向上するにしても・・)逆に「そのこと」が「危険ファクター」になってしまう可能性が大きいということです。フムフム・・

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 そして後半26分。この試合では「最後」になる、日本代表の「見せ場」が訪れます。クリエイターは、もちろん「中田ヒデ」。

 最終ラインでボールを持った中田浩二が、右サイドの波戸へ大きなサイドチェンジパスを送ります。このとき、(その直前のプレーで)最前線にいた中田ヒデが、スッと戻り、「同時」に、中田ヒデとは逆サイドにいた稲本が、中田が戻ったことで空いた二列目スペースへ上がっていきます。中田ヒデと、稲本が演出する、クリエイティブな「タテのポジションチェンジ」・・。

 シドニーや、その後の日本代表の試合でも何度も見られた、相手守備ブロックを不安に陥れる「攻撃の変化」。この状況で、波戸から、正確で「強い」パスが、中田へ送り込まれます。そして、その稲本の動きを「明確にイメージ」していたヒデから、正確な、本当にフィーリングあふれる「ロビングのタテパス」が、稲本へ飛んだのです。スパッとトラップする稲本。

 イタリア最終ラインの意識は、稲本へ引きつけられています。そして、ワントラップし、そのまま「短いリズム」で、左サイドでフリーになった(もちろん稲本が、相手の中盤守備ブロックを追い越してオーバーラップしたからですヨ!)鈴木へ、ラストパスを通したのです。そのまま持ち込み、「ほぼ」フリーな状態で決定的シュートを放つ鈴木。でも結局は、イタリアの守護神、ブッフォンの正面に飛んでしまって・・。目の覚めるようなチャンスだったのに・・。

 そしてそこからは、互いに「ギリギリのリスクチャレンジ」が影を潜めるようになり、そのままタイムアップ。

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 この試合でのイタリアには、三つの「心理的な流れ」があったと思っています。まず、日本が先制ゴールを決めるまでの「イージーな心理(まあ、日本代表にはチャンスは作れないだろう・・でもオレたちは、必ず数本はチャンスを作り出す・・それを決めりゃ御の字さ・・ってな心理!)」。一点ビハインドで、「こりゃ、マズイ! とにかく同点にはしなければ!」という、やる気モードが大きく向上した時間帯(それでも、スタート心理がアレでは、最高レベルまで、心理ダイナミズムを高められるハズがない!)。そして同点ゴール後の、「もうこれでいいさ・・フレンドリーマッチなんだから・・」という心理・・。

 とはいっても、そこはイタリア代表。前述したように、「イタリア的リアリズム」をベースにした、ここ一発のチャンスを何度も作り出したことに対しては脱帽なのです。

 今度は、彼らのホームで(つまり、3月のフランス戦と同じレベルのモティベーション状態の彼らと)リターンマッチをやりたいものですネ。そこではじめて日本代表は、究極の「学習機会」を得られる・・。でも、もちろんもう無理でしょうがネ。

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 最後に、中田ヒデが「ベンチスタート」になったことについて一言。

 試合前のウォームアップで、こんなシーンがありました。中田ヒデと、ローマでチームメイトだったトッティーが、センターサークルで挨拶したときのこと(もちろんイタリア的な抱擁も含めてネ)。何やら話し合っていたときに、トッティーが、「エッ、冗談だろ!?」という顔をしたんですよ。それが、スタジアムのオーロラビジョンに大きく映し出されてしまって・・。そのときヒデは、「オレ、今日はサ、サブスタートなんだよ・・」と言ったに違いない・・。

 まあ、コンディション的な問題もあったのでしょうが、とにかく前半と後半の、攻守における「中盤の出来」を比較すれば、中田ヒデが、名波とともに、日本代表にとって欠かせない存在であることは一目瞭然です。

 もちろん、チーム内の「テンション」は常に必要ですから、ヒデを特別扱いすることはありませんが(彼に関する攻撃的なコメント=ヒデとチームに対する刺激!)、でも私は、その「緊張関係」が、互いの不信にまでふくれ上がらないことを願って止みません。とにかく中田ヒデは、たしかにプライドは「ヒマラヤのごとし・・」なんでしょうが、インテリジェンスがハイレベルなこともまた、疑いのない事実ですからネ・・(そろそろフィリップは、ヒデのことを、グラウンド上のビジネスパートナーとして考えてもいい頃なのでは・・!?)。

 この、チーム内の「微妙なテンション(心理メカニズム)」については、様々な「メディア」に書きつづけていますので・・

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 埼玉スタジアムで、2330時ころまで書きつづけ、その後「単車」で自宅にもどって仕上げました。ちょっと「長すぎる」かも・・。ということで本日はここまでにします。

 この試合については、来週発売のサッカーマガジン「1/4コラム」でも、ポイントを絞り込んで取り上げようと思っていますので・・

 さて、「肉を切らせて骨を断つ、本物の闘い」が数日後に迫ってきた・・。もちろん、ドイツとウクライナによる「プレーオフ」のことです。これについても、土曜日の「J」の後に、気合いを入れてレポートしますので(この、プレーオフの二試合については、「スポナビ」でもレポートする予定!)、ご期待アレ。

 もう、書きすぎ・・。ア〜〜、疲れた。ではまた。

 




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