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立ち上がりで勝負を決めてしまったドイツ・・勝負強さ「だけ」はまだ健在・・WCヨーロッパ予選プレーオフ第二戦・・ドイツ対ウクライナ(4-1)・・(2001年11月15日、木曜日の早朝!)

もうこれで決まったな・・。前半の立ち上がり10分で二点目が決まったとき、そんなことを思っていました。

 そして「次」に考えはじめたことがありました。「たしかに、この試合でのドイツは、最高の集中力で闘っているし、一発のセンタリング勝負やカウンターでも決定力を魅せたけれど、クリエイティブな内容じゃ、やっぱり一流じゃない・・。勝負強いだけのドイツか・・。ドイツが本大会へ出場してくることは嬉しいけれど、それでも内容で存在感を発揮できないんじゃな・・」。

 人間の「欲」には際限がないということですかネ。もちろん今回も、電話で、何人かのドイツの友人たちと話しながらゲームを見ていたわけですが、そんな、急激な「感情の変遷」は彼らも同じ。

 最初は、「ドイツに負けは許されないんだゾ・・! でも一体どうなるのかな・・、勝ちにいったら、ウクライナのカウンターを浴びてしまうし・・、でもバランスを取りながら押し上げるのでは、ドイツの特徴が殺がれてしまう・・」等々、内心では「手に汗握っている」という心理だったろうに、開始早々に先制ゴールが決まり、そしてその数分後に二点目が決まったときから、急激に「心理の内容が変化」していったというわけです。

 そして、「ドイツのゴールは、パワー勝負ばかりじゃないか・・。しっかりとした組み立てから、ウクライナ守備陣を振り回した攻撃なんて、数えるほどしか出来なかったからな・・」。言葉の端はしに「ほくそ笑み」は感じるものの、勝負が決まってしまってからは(安心し、感情の高ぶりがおさまってからは)、「現実」を見つめる冷静な心理(例によってのドイツ的な批評精神!?)になったということです・・。

 まあ、そのことについては私も同様だったということです。何といっても、まだ湯浅のなかでは、1972年のヨーロッパ選手権(当時はネーションズカップと呼ばれていました)での「美しく、強い」ドイツ代表のイメージが生き続けていますからネ。「夢よもう一度」ってなわけです。だからこそ、その「イメージ」と「現実」のギャップに悩まされつづけている・・。1972年当時のドイツ代表・・。ネッツァー、ベッケンバウアー、ハインケス、ウリー・ヘーネス、(働き蜂の)ヴィンマー等々・・。決勝で、当時のソビエト連邦を敗ったときのサッカーは、とにかく「ドリーム」だったのです。

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 あっと・・ちょっとハナシが飛んでしまって・・。さてゲームレポートへうつりましょう。試合開始前、少し寝ただけで四時に起き出しましたから、ちょっと眠気まなこ。フワフワした「感じ」で観戦しはじめたのですが、立ち上がりのドイツの「勢い」に、すぐに100パーセント目が覚めてしまって・・。

 とにかくドイツは、最初から「行って」いました。もちろんグラウンド上の現象では、ダイナミックな中盤守備ということになるのですが、その「勢い」が、レベルを超えていたんですよ。それこそ、「集中力(=自分主体で考えつづけ、判断・決断・実効する姿勢!)」という、つかみ所のない「ファクター」が、グラウンド上に現出した・・!?

 そして開始早々の前半3分。ドイツが先制ゴールを決めてしまいます。スコアラーは「バラック」。

 ウクライナのペナルティーエリア際の中央ゾーンで、ドイツ最前線プレーヤー、ヤンカーとノイヴィルが協力プレスをかけつづけ、ルーズボールにしてしまいます(「守備をやり遂げる」という姿勢が素晴らしい!)。この、「前からの積極的な守備」の姿勢は、中盤だけではなく、もちろん最前線プレーヤーのイメージとも「有機的にリンク」していなければ、本物の効果など得ることができない・・。そしてその「コンセプト」を忠実に実行したヤンカーとノイヴィルが、先制ゴールの「チャンスの芽」を作り出したというわけです。

 そのルーズボールを拾ったのが、第一戦でも大活躍した、右サイドのシュナイダー。

 彼は完璧に「状況を把握」していました。「ゴール前へ上がったヤンカーには、ウクライナの選手が三人ついている(ヤツが、相手ディフェンダーを引きつけた!)。またその背後のノイヴィルもマークされている。でも、そのまた後方のスペースへは・・」。そうです。そのスペースには、バラックが、後方から「大外」を回って走り込んでいたのです。ドカン! そんな派手な音がしたに違いありません。それは、「周囲のノイズ」を消し去るかのごとく強烈なヘディングシュートではありました。

 そして、直後の前半10分には二点目のゴールを奪ってしまう・・。右コーナーキックから、まず(ドイツ最終ライン・ストッパーの)レーマーが、ファーサイドでヘディングシュートを放ちます。そして、相手GKがはじいたところに、最後はノイヴィルが詰め、そのまま押し込んだという追加ゴール。これで、試合は決まってしまった・・なんて思っていました。もちろんそこから、自分自身のなかの「心理内容」が大きく変化しはじめたというわけです・・。

 そして前半14分の三点目のシーン。

 まず、「右」からの「グラウンダー」のコーナーキックを、ハマンがシュートします(素晴らしい正確なシュート! 相手GKが、ギリギリのところでセービングで防ぐ・・でも、逆サイドのCKになってしまう)。そして次の「左」からのコーナーキックを、二点目でも「キッカケ」をつくったレーマーが、今度は「直接」、これまた「ドカン!」というヘディングシュートを直接決めてしまうのです。ゲームがはじまってからまだ15分も経っていないのに・・。

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 ウクライナも、ドイツ先制ゴールの後「目を覚ました」ようでしたが、それでも「ドイツの前への勢い」を十分に受け止めることができません。「勢いを受け止める」とは、ドイツの、攻守にわたって抜群に勢いのある「前へのリズム」を正確に把握した上で「次のパス」を止めたり、ボールを奪い返したら、ドイツの前への勢いの「逆を突く」ように「ボールを動かして」しまうなんていう、クレバーなプレーのことなのですが、ウクライナは、完全にドイツのペースにはまり込んで萎縮してしまっていたようで・・。まあ、あれだけ屈強な大男たちが、「鬼の形相」でアタックをつづけてきてはネ・・

 「鬼の形相の大男たち」ですが、それでも、攻守にわたる「戦術的な発想だけ」は、ある程度はクリエイティブでしたヨ。その中でも、特にハマン・・、とにかくハマン。彼の「バランサー」としての能力は本当に傑出していると感じます。イングランドの「リバプール」でも、中盤での実質的なリーダー(ゲームメーカー)ですし、彼がいるからこそ、ジェラード、オーウェンといった「才能」も光り輝くというわけです。

 また彼のパートナーであるラメローも、第一戦、そしてこの試合でも、フィンランド戦の汚名を返上しました。また第一戦同様に「二列目」に入ったバラックも、ところ狭しと動きまわり、攻守にわたって鬼神のダイナミズムを演出します。とにかく、彼らの「縦横無尽」のポジションチェンジは秀逸でした。もちろんその背景にある「意味」は、「オレがボールを奪い返してやる!」、「オレが、次の攻撃のコアになってやる!」という意志のことなのですが、それでも、一つひとつの「攻守ユニット」のなかでコアになれないと感じたら、今度はすぐに「汗かきプレー」に徹してしまう・・。この三人の、中盤における「使い・使われる」というメカニズムに対する深い理解は、本当にインプレッシブだったというわけです。

 そしてこの三人の活躍をベースに(彼らに対する信頼をベースに!)、右サイドからはツィーゲ、左サイドからはシュナイダーが、どんどんとオーバーラップしてきます。

 またこの試合では、最終ラインのリーダー、ノヴォトニーの「リベロとしての発展」も、特筆ものでした。何度、彼が、最終ラインを飛び出してディフェンスの勝負を仕掛け(ボール奪取に成功し!)、そのまま最前線へ絡んでいったことか。それは、ドイツの「伝統の一つ」ですからネ。そうです・・、ベッケンバウアー、マテウス、そしてマティアス・ザマーという「天才リベロ」たちが培った伝統・・。

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 それでも、クリエイティブな組み立てという意味では、ウクライナの方に「一日の長」があったことは確かな事実です。前半だけでも、クリエイティブな「仕掛け(組み立て)」から、二度ほどシェフチェンコが決定的シュートを放ちましたし、後半にはグシンが、決定的なヘディングシュートを放ったりしました。試合終了間際に飛び出したシェフチェンコの一発は、そんな、ウクライナのクリエイティビティーが結晶したゴールだったというわけです。

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 たしかにドイツは、素晴らしい「ダイナミズム」を見せつけました。それは、「やはりドイツは強い・・」という印象を世界中に与えたに違いありません。それでも、彼らに「才能」が欠けていることも確かな事実。

 ここで、先週号のサッカーマガジンで発表した文章の最後の一節を引用しましょう。

 『・・とはいっても、まだボクは希望を捨てていない。ドイツ代表は、残されたゲーム戦術はこれしかない・・というところまで追い詰められた。逆にそれは、ゲームのやり方について統一された意志を深く浸透させ、一人の例外もない極限の集中を最後まで持続させるための理想的な心理環境だと考えることもできる。いまの彼らに美しいサッカーなど望むべくもないが、少なくとも彼らは、最後の瞬間まで、闘う姿勢を失わない・・はずだ・・。とにかくまず、2002ワールドカップ本大会への参加条件だけは死にものぐるいで確保して欲しい。そして本大会が終わった時点で、何らかの新しい風(異質)を導入するなど、ドラスティックに、新たな体制づくりに取り組んで欲しい。そう、本国での2006ワールドカップへの希望をつなぎ止めるために・・。反面教師としてもボクを育ててくれたドイツサッカーに対してだけは、どうしてもナイーブになってしまう筆者なのである・・』

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 闘う「姿勢」が充実していれば、かなり「強いサッカー」は展開できるドイツ。

 「ドイツ的な勝負強さ」だけは、まだ失っていなかったことに対して、ちょっと安心した湯浅でした。これで、12月1日に、韓国のプサンまで出かけていく(W杯の、オフィシャル組み合わせ抽選会のことですよ!)モティベーションが出来た・・。あ〜〜良かった・・。

 これから湯浅は、ブラジルの最終戦を観ます。もし何か発見したら、それも「後で」レポートしようと思っています。とはいっても、まずその前に「スポナビ」の原稿を上げなければ・・。

 では・・

 




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