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コンフェデカップ(2)・・苦しみ抜いた日本代表を救った小野伸二・・日本代表vsカナダ代表(3-0)・・(2001年5月31日、木曜日)


やっと、やっと、カナダとの本来のチカラの差が明確にみえてきました。そうです、日本チームが、後半に連続ゴールを挙げてからのことです。

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 「ビシッ!!」

 前半11分。中央で「タメ」た中田から、左サイドスペースへ上がった小野へ、ベストタイミング、ベストコースのラストパスが出ます。小野は、迷わずダイレクトシュート!

 この直後には、ペナルティーエリア際でパスを受けた西沢が、二人をかわしてフリーシュート!

 この二本とも、相手GKの正面に飛んでしまったのですが、そのとき私は、「それだよ! それをしっかり決めておかなくちゃ!!」と叫んでしまって・・。というのも、それまでの10分間、しっかりと守ってカウンターという、予想されたカナダのゲーム戦術が、本当にうまく機能しそうな雰囲気を放っていたからです。

 そして案の定、その後は、もう完全にカナダのペース(もちろんボールのキープ率は日本の方が上なんですヨ)。特に左サイドからオーバーラップしてくるブレナンに、何度も決定的なセンタリングを上げられてしまいます。伊東が、上村が、何度も抜き去られてしまって・・。チェックのやり方が安易に過ぎると怒り心頭でした。相手が抜きにかかっているのですから、それを予測した「体勢」をとっていなければならないのに・・。特に上村のプレーからは、フラットのポジショニングや一対一の勝負だけではなく、相手のパスを予測したインターセプトチャレンジの姿勢も感じません。そして何本かのパスミス・・。たしかに、彼の調子が悪いことは目立っていました。

 だから上村と中山の交代(前半36分)には、その基本的なアイデアも含めて「アグリー」でした。カナダ中盤は守備偏重だったから、調子の悪い上村を外し、攻撃を一人増やそうという発想に対して・・(戸田は、上村のポジションに入っている・・そしてそこでも良いプレーを展開!)。でも、その交代が、「最初の数分間」裏目に出そうになってしまいます。

 守備的ミッドフィールダーが一人減った日本代表の中盤のポジショニングバランスが、ちょっと不安定になってしまったのです。要は、トップから中盤に下がった森島、そして中田、はたまた両サイドの伊東、小野が、「次の守備」でのバランスを考えずに攻め上がり過ぎてしまったということです。守備的なポジションに入っているのは、もう稲本一人しか残されていないのに・・。そしてそのことで、中盤の「ある程度」高い位置でボールを奪われてカウンターを食らってしまう。もっとも大きなピンチは、40分。右サイドの攻めから正確なセンタリングが上げられます。戸田が、ギリギリのところでヘディングでクリア・・。直後には、コーナーキックから、デボスのフリーヘディングシュートを浴びてしまう・・。はたまた、決定的なスルーパスまで出されてしまう・・。フ〜〜

 カナダは、日本チームの「戦術変更」を巧みに突いてきたのです(まあそれも、日本チームのボールの動きが緩慢だったからに他なりませんが・・)。

 ちょっと気が重くなった前半のゲーム展開ではありました。

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 「いや、本当に難しい。ある程度チカラがあるチームが、本気になって守りに入ってきたら、こちらから仕掛けていき、そのブロックを崩してゴールを奪うのは至難のワザなんだよ。もちろん、マークする相手を常に抜き去ってしまうような絶対的な天才がいればハナシは別だけれどネ・・。そんなゲーム展開になったら、こちらもカウンターを警戒する確実な守備ブロックを組むことで落ち着いて対処し、とにかく高い位置でボールを奪い返す状況に絞り込んだカウンターを強烈に意識させたり、セットプレーに賭けるしかないよナ・・」

 ドイツに行くたびに、そんな話題が必ず出てきます。人数をかけてしっかりと守り、ココゾのカウンターを仕掛けてくる(ある程度のチカラがある)相手との対戦は、常に厳しいものになる・・ということです。この試合も、まさにそんな展開。スリーバックにスイーパー・・、堅実なサイドバック・・、基本ポジションが下がり気味で、中田や森島、はたまた両サイドバックに対し、早い段階からガチガチの忠実マークをする中盤選手たち・・。

 そして、ゲームが進むプロセスでの、選手たちの「自信の高揚」をベースにした吹っ切れた押し上げ。それが、危険なカウンター攻撃を生み出すのです。

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 後半も同様の展開。これは難しいゲームになる・・。誰もがそう感じていたに違いありません。

 たまには、中盤において「ある程度フリー」でボールを持つ日本選手は出てくるのですが、そこからは例外なく展開パスしか出ない・・。もし中田だったら、そんなチャンスを逃さず、迷いのないドリブル勝負を仕掛けていくんでしょうが、彼に対しては、主にベントが、忠実&ハードなマーキングなのです。また、ボール周りのスペースへ「後方から」入り込んでくるサポートアクションも目立たない・・。これでは、相手守備ブロックの穴を突いていく素早い展開など望むべくもありません。

 幸いなことに、日本の最終ラインと中盤ブロックが落ち着いきを取り戻していましたから、前半の中盤過ぎの時間帯のような、バランスの崩れを突かれたピンチは見られなくなっていました。また、中田と小野が、例によっての「自分たち主体」のポジションチェンジを繰り返していましたから、日本選手たちのマインドは、まだまだ「前向き、積極的」だと感じられました。「とにかく、カナダの守備ブロックが(疲れと集中レベルの低下から)バランスを崩しはじめるまで耐えるしかないな・・」。そんなことを思ったものです。

 そんな重苦しい展開がつづいていた後半11分。飛び出しました。小野のスーパーフリーキックゴール・・。だからというわけではないのですが、この試合での小野は、ここ一ヶ月以上つづいてきた「レッズでの好調」をそのまま維持していたということを強調したいと思います。もちろん三点目の、森島へのラストパスも見事(もちろん森島の走り抜けも含めて・・)!

 小野は、「受け身の姿勢のゲームメーカー」から、中盤での「使い、使われる」というメカニズムに対するしっかりとした理解を基盤に、自ら積極的に仕事を探す・・という「正しいプレー姿勢」に大きく発展したのです。そのことについては、数週間前にアップした「イサイズ・スポーツ・2002クラブ」のコラムを参照してください(トップページにリンクボタンあり・・タイトルは「ゲームを楽しみはじめた小野伸二」・・だったと思います)。

 そして小野のゴールの3分後、日本が追加ゴールを決めます。粘りのキープと、状況をしっかりと判断したラスト・サイドチェンジパスを送り込んだ中山ゴン・・、森島のスペースへの走り込み・・、そして西沢の素晴らしいダイビングヘッド・・。各選手の特徴が生かされたゴールではありました。

 そしてここから、冒頭に書いたような「ゲーム戦術に捕らわれ過ぎない」展開へと、ゲームの流れが変容していきます。積極的に攻め上がるカナダ。そしてだからこそ、彼らとの本来の「チカラの差」が明確に見えはじめたというわけです。

 最後に一つだけ気になったことを・・

 全体的には、日本代表のラインコントロールはうまく機能していたのですが(・・というよりも、ラインを構成しているシーンで、相手にチャレンジを受けるシーンがあまりにも少なすぎた!?)、たまに繰り出す「オフサイドトラップ」が、ちょっと不安定だと感じたのです。

 たしかに、相手のトップや二列目が、日本の最終ラインを追い越して決定的スペースへ「飛び出そうとしている」状況で、相手の「球出しタイミング」を明確に読んで、スパッと「ラインの戻りをストップする」ことで、その選手をオフサイドにしてしまう「最終勝負でのラインコントロール」はうまく機能していました。私が言っているのは、「より能動的」にオフサイドを取りにいく、つまり、相手のフリーキックやロングパス、はたまた短いスルーパスなどの状況で、最後の瞬間に、スッとラインを上げる「明確なオフサイドトラップ」の連動性に、ちょっと不安定さを感じたということです。チト危ないな・・そんなことを感じたのです。まあそれについては、次の試合を見てみることにしましょう・・

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 苦しみながらも(耐えながらも)、最後はコンフェデカップ初戦に快勝をおさめた日本代表。次の相手は、「手負い」のカメルーンです(ブラジル戦で、前半の決定的チャンスを決められず、逆に後半のシュート機会を確実に決められて「2-0」の敗戦・・勝ち方を知っているブラジルに拍手!)。たしかに「ボールの動き(組織プレー)」というポイントでは、まだまだ課題を抱えてるカメルーンですが、高い個人能力をうまく活用するという面では確かに超一流(個人勝負シーンへの持ち込み方がうまい!)。強いチームです。

 発展途上の日本チームにとって、願ってもない「状況」になったではありませんか。フランス戦、スペイン戦とつづいた(かなり)本気の世界トップチームへの挑戦・・。それは、今の日本チームにとって、理想的な「課題発見の旅」なのです。

 次の試合は、確実に「ホンモノの闘い」になります。組織的に守り、組織的に攻めるというチームコンセプトで戦う日本チーム。カメルーンのボールの動きは、フランスとは比べものにならないくらい緩慢ですから、「読みプレス」もある程度は機能するでしょうし、そこから(高い位置から)素早く攻め込むというシーンも作り出すことができるに違いありません。とはいっても守備では、とにかく勝負所で「一対一」の状況をつくられないことが肝心だということです(まあ、当たり前ですが・・)。この試合での日本チームは、カナダ戦とはかなり違う「ゲーム戦術」で臨むことになるでしょう。スペイン戦のときのような、相手のチーム戦術や、高い個人能力を念頭に置いた「現実的な戦術」で・・

 そんな、(相手のタイプや総合力に対して)臨機応変の「ゲーム戦術」で戦わなければならないことも、日本チームにとっての大きな学習機会なのです。




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