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いや、バイエルンは勝負強い・・チャンピオンズリーグ準決勝、レアル・マドリードvsバイエルン・ミュンヘン(0-1)・・(2001年5月2日、水曜日)


いや、もの凄い「勝負マッチ」でした。チャンピオンズリーグ、準決勝。レアル・マドリード対バイエルン・ミュンヘン。

 鳥肌がたつくらいに緊迫した、世界トップの「戦術的な発想」のぶつかり合い。結局はバイエルンが、エウベルの「一発」を守りきったという展開でしたが、そのためだけにマドリードへ飛び、スタジアム観戦する価値のある試合でした。

 試合は、ホームのレアルが全体的には押しているものの、「フラットスリー」システムのバイエルン守備ブロックを崩しきれず、たまに繰り出すバイエルンの鋭いカウンターに冷や汗をかく・・という展開ではじまります。

 バイエルンの「フラットスリー」は、最終勝負シーンでの「ブレイク・タイミング」という視点で、日本代表の「やり方」とは、ちょっと違います。要は、ラインを積極的には上げず、「試合の流れ」のなかでのオフサイドトラップもかけない・・、またブレイクのタイミングが「比較的」早く、一度でもマンマークへ移行したら(ある時点で、それぞれの選手のマークが決まったら)、最後まで、本当に最後まで忠実マークをつづけるということです。彼らの「マンマーク」の強さは抜群でした。

 まあとはいっても、この試合はレアルのホームゲームですからね。バイエルンは、「より」守備的なゲーム戦術で試合に臨んでいたということなんでしょう。

 それでもレアルは、20分を過ぎたあたりから、バイエルンの堅守に「穴」をあけはじめます。たまには「個人勝負」で・・、そして「組織的な攻め」でも・・

 まずフィーゴが、二人をかわす中央突破から、ズバッ!というシュートを放ちます。これは、バイエルンのスーパーGK、オリバー・カーンにとっては「イージー」なシュートだったのですが、その数分後には、例によってのラウールの「抜けだし」をベースに、何度かレアルが決定的なシュートチャンスを作り出します。

 ラウールは、常に、オフサイドラインの「ギリギリ」のところで、決定的スペースへの「飛び出し」を狙いつづけています。もちろん、周りのパサーたちも(この「たち」というのがスゴイ!・・レアルでは、誰もがパサーになれるし、決定的なパスのレシーバーになれる!!)、ラウールの「抜けだし(決定的フリーランニング)」のタイミングを「あうんの呼吸」で分かっているのです。いや、素晴らしい。

 その一つ。前半29分のシーン。ラウールの「決定的スペース狙う猛禽類の鋭さ」が光り輝きます。彼は、「パサーの一人」であるフィーゴが、左サイドでパスを「受けそうになった」瞬間から、完璧に「ウラ」を狙った動きをしていましたからネ。それも、コースを変え、ペースを変えて「タイミング」を測りながら。いや、素晴らしい。最後は、「その時点」でマークしていたリンケと「すれ違い」ながら、オフサイドになるかならかいかのギリギリのタイミングで決定的スペースへ抜け出してしまいます。リンケは「オフサイドだ!!」って手を挙げていたけれど、アレは違う。いや、鳥肌が立ちましたよ。それでも、GKのカーンのアタックアクションを巧みに外したシュートは、わずかに、ほんの僅かに、バイエルンの右ポスト際を外れてしまいましたけれどネ。

 そのすぐ後の31分。これまた、血沸き肉踊る「オフサイドラインのせめぎ合い」。左サイドで、マクマナマンがボールを持った瞬間、中央のグティーがアクションを起こします。ボールを見てしまっていたリンケの「背後」から、その「眼前」を通り、決定的スペースへ抜け出したのです。もちろんリンケは置き去り。その瞬間、「行かれてしまった!」と感じたリンケが、ガッ!と、止まります。結局グティーは、マクマナマンからのパス出しタイミングが紙一重で遅れたためにオフサイドになってしまいましたが、バイエルンのフラットスリーが破られそうになった瞬間ではありました。

 ラウールとグティーは、本当に危険な存在です。こんな一瞬の「駆け引き」の繰りかえし。本当に鳥肌が立つじゃありませんか。

 ここで私は考えました。「日本代表とスペイン戦でも、フラットスリーに溶け込んでいる相手トップ選手に、タイミング良く飛び出されてしまったシーンがあったな。例えば、前半のサルバ、後半のホセ・マリとか・・。マークしていたのは、両シーンともに上村だったっけな・・。もちろんバイエルンでさえも、こんなマークミスはあるわけだし、フラットラインシステムには、そんな危険因子(一瞬の集中切れ・・ボールウォッチング!)と引き替えにしても余りある効果はあるんだけれど・・。フム・・」。

 次は前半の37分。今度は、ペナルティーエリア際の右サイドでボールを持ったエルゲラが、最終勝負の起点(パサー)になります。

 ルックアップ。その瞬間、ゴール前、左サイドにいたグティーが、決定的スペースへ飛び出したのです。マークしていたのは、バイエルンの右サイドバック、サニョール。「オフサイドだ!」と手を挙げますが、本当にギリギリのタイミングで、グティーが抜けだし、バイエルンGK、オリバー・カーンの「眼前」で、エルゲラからの「ラスト・ピンポイントセンタリング」に追いついてしまいます。

 チョン! 軽くボールを流すことで、ゴール左サイドを狙おうとするグティー。ただグティーの伸ばしきった左足は、ほんのちょっとのところでボールに触れず、結局ボールは、力無く、バイエルンゴールの、左ポストを外れていってしまいました。

 何度か、決定的スペースを使われてしまったバイエルンでしたが、「攻められっぱなし」だったわけではなく、チームリーダーのエッフェンベルク、ショル、サリハミジッチ、エウベル等を中心に、カウンター攻撃やフリーキックから、危険なチャンスメイクを魅せていました。そして前半を終わってみれば、シュート数(枠内、枠外)では互角の展開。基本的には、しっかり守ってカウンターというバイエルンの「アウェー戦術」がうまく機能していたとも言える前半の内容だったのです。

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 そして後半・・

 まず後半3分。バイエルンのフリーキックから、右サイドのサニョールにボールがわたります。まったくフリーなことで余裕をもってルックアップするサニョール。その瞬間、レアルのゴール前でアクションを起こしたバイエルンの選手がいました。サリハミジッチが、スパッ!と、ニアポストスペースへ飛び出したのです。そこへサニョールから、ピタリのタイミングでの「ラスト・クロス」を送りこまれます。最後は、レアルGK、カシージャスが、ギリギリのタイミングで、サリハミジッチの「足もと」へ飛び込んで防ぎましたが、後半最初の決定的チャンスを作ったのは、アウェーのバイエルンだった・・私の脳裏には、そんなイメージが強烈に焼き付いたものです。

 ただレアルも、すぐに盛り返します。

 直後の後半7分、今度はレアルが決定的なチャンスを迎えたのです。中盤の深いところまで下がってボールをもったフィーゴから、最前線のラウールへタテパスが通ります。コントロールし、すぐに横のグティーへ「ボールを動かす」ラウール。この瞬間、バイエルンの最終ラインの「横のバランス」が完全に崩れます。一番左サイドにいたマクマナマンがまったくフリーになってしまったのです。その瞬間グティーが、タテへ走り込むマクマナマンへ、スルーパスを出し、マクマナマンがフリーシュートへ入ります。ただそのシュートは、バイエルンのスーパーGK、カーンが、左手だけで止めてしまって・・。100%のチャンスだったのに。フ〜〜!

 でもその直後の後半9分、「唐突」に、バイエルンが先制ゴールを決めてしまいます。その顛末は・・

 エッフェンベルクの左サイド後方からのフリーキックを、ロベルト・カルロスが大きくクリアします。もちろんレアル選手たち全員が押し上げます。ただそのクリアボールが、バイエルンの最終守備ラインのリンケ(だったと思うのですが・・)によってヘディングで跳ね返され、誰も触れずに、レアル最終守備ラインの「ウラの決定的スペース」へ飛んでしまったのです。そこへ最初に飛び出していたのは、「何かを感じていた」に違いないバイエルンのストライカー、ブラジル代表のエウベル。迷わず、左足を一閃! 蹴られたボールは、レアルGK、カシージャスのセービングした手を「すり抜けて」レアルのゴールの左隅へ飛び込んでいったのです。

 一瞬、静まりかえるスタジアム。それは、(試合展開からすれば)本当に「唐突なゴール」ではあったのですが、まあそれもサッカーですから・・

 その後の後半11分。今度はレアルが決定的チャンスを迎えます。左サイドからの攻めで、サービオにボールを預けて中央へ動いたマクマナマンへ、そのサービオから、ベストタイミングのラストスルーパスが通ったのです。まったくフリーでシュートを放つマクマナマン。ただそれも、バイエルンGK、カーンによって、ギリギリのところではじき出されてしまいます。また直後の13分には、右サイドのフィーゴからの芸術的なピンポイントセンタリングが、コーナーキックのために上がっていたエルゲラのアタマに、ピタリと合います。ヘディングシュート!! ただボールは、わずかにゴールバーの上を越えていってしまう・・。フ〜〜

 息をもつけぬ緊迫したゲーム展開になってきた・・

 でもそこからは、守備を強化した(一点リードしたことで集中力が極限まで高まった)バイエルンが、レアルの攻撃を完璧に押さえ込んでしまいます。前述した、数々のレアルのチャンスは、そこで書いたとおり、「ボールがないところでのスペースのせめぎ合い」での、バイエルン選手たちの一瞬の「集中切れ」が主な原因でした。ただドイツクラブの猛者たちは、そんな「心理的な部分」までも、試合中に矯正してしまったのです。

 人数がいれば、互いに譲り合ったりして、逆に「守備ラインの穴」が大きくなってしまうものなのですが、バイエルン守備は、そこにかけた人数に比例して強くなっていきました。それも、「多国籍軍」であるにもかかわらず・・。強いはずです。

 そしてゲームはそのままタイムアップ。(多国籍軍であるにもかかわらず!!)ドイツ伝統の「勝負強さ」を存分に発揮したバイエルン・ミュンヘンが、アウェーでの貴重な「勝ち点3」を挙げたというハイテンション・マッチでした。

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 それにしても、バイエルンの「首尾一貫したゲーム運び」には、シャッポを脱がざるを得ません。エッフェンベルクやショル、はたまたサリハミジッチなどの「基本的な攻撃要員」が見せつづけた「実効ある」守備参加も、感動モノでしたからネ。

 でも次の試合では(ミュンヘンのホームゲーム!)、バイエルン中盤の「攻守にわたるコア」、エッフェンベルクが出場停止です。チームの「自信ソース」でもある彼の不在が、どのような影響をチーム全体に与えるのか、そんな「心理戦争的な側面」でもゲームを観察しようと思っている湯浅なのです。

 攻めなければならないレアル・・、逆にそのことでカウンターチャンスが増えるバイエルン・・(!?)。いやいや、レアルは、とにかくまず守備を安定させるようなステディーな戦いを展開しながら、ここぞ!のワンチャンスを狙おうとするに違いありません。彼らには、針の穴のようなワンチャンスを作りだし、そしてフィニッシュできるだけの「才能」が揃っていますからネ。それが、現実的な「ゲーム戦術」だということです。

 ア〜〜、いまから楽しみで仕方ない・・




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