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ドイツ便り・・その(3)・・(2001年7月10日、火曜日)


昨日(国際会議初日)の「クローズド・パーティー」は、本当に楽しいものになりました。同じテーブルについたのは、現役の「アルバニア代表チームの監督」。いま「2002」の地域予選で、ドイツ、イングランド、フィンランドといった強豪国と戦っている最中です(もう予選突破は不可能になってしまいましたが・・)。

 アルバニアの人口は300万人足らず。もちろんモンテネグロやコソボにも数百万人のアルバニア人はいますがネ。また原資も限られているから、自国のリーグを発展させたり、ユースを強化するのもままならない・・。とはいっても、そこそこのサッカーは展開するんですよ(このことは、スカパーで、彼らの予選マッチを見た方々は、同じように感じたに違いない!?)。先日おこなわれたイングランドやドイツとのホームゲームでは(地域予選=公式戦)、内容的に大きく劣ることなく、立派なゲームを展開しました。イングランド、ドイツは、それこそ四苦八苦の体で勝利をおさめたのです。

 アルバニア代表の選手たちは、全員が、ドイツ(一部の下位チームや二部リーグクラブ)やオーストリア、はたまたイタリアやギリシャのリーグでプレーしているということです。たしかに「全体的なキャパ」は小さいけれど、そこはやはりヨーロッパ。サッカーが、社会的に確固たるポジションを形作っているというわけです。

 同じテーブルには、グルジア代表チームのコーチや、イランサッカー協会のお偉方、はたまたギリシャのサッカー関係者などもいて、サッカーのハナシに花が咲くこと。やはりサッカーは、人類史上、最強の「異文化接点」なのです。

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 ところで「リヌス・ミケルス」(彼については、ドイツ便り「2」を参照してください)。会いましたよ。また彼は、ケルン当時のことも覚えていて、「そうそう、あのとき、何度か、ものすごく背が高い日本人(わたしの伸長は190センチ!)と話したことを覚えているよ。とにかく、ドイツ語がうまいヤツだなあ・・、なんていう印象が残っているんだけれど、そうか、あの日本人はキミだったか・・」なんてネ。こちらも嬉しくなって、ワールドカップや、オランダが優勝したヨーロッパ選手権のことなど(私も、当時のソビエトとの決勝を、その舞台になったミュンヘンのオリンピックスタジアムで観戦していましたからネ)、どんどんとハナシが弾んでしまいました。とはいっても、こちらの「立場」を話しましたから、1974年ドイツワールドカップ当時の「ヨハン・クライフとの関係」については、深くは突っ込めませんでしたがネ。「まあ、今度アムステルダムのオレの家までいらっしゃい。そこで、酒でも飲みながらゆっくりと話してあげるから」・・ということでした。

 そこで、これまた「ドイツ便り-2」で書いた、文芸春秋ナンバービデオシリーズで発売される「五秒間のドラマ」のことを話したんですよ。当時のオランダチームの秘密は、才能のある選手たちに「攻守にわたるチームプレー」をやらせたこと、全体的なポジショニングバランスを、選手たち自身が常に考えながら積極的にプレーしていたこと(極端にいえば、フィールドプレーヤー全員が、全員守備、全員攻撃を完璧にこなしていた!=クライフも、最終ラインまで戻って守備につく等というシーンが頻発していた!)、攻撃的なオフサイドトラップを多用したこととボールを奪い返した者が常に攻撃の最終シーンまで絡んでいったこと、そして彼らがダンフットボールの扉を開き「サッカーの歴史」を動かしたこと等々、とうとうと語ってしまって・・。それも、当の「演出家」本人に対して・・。後から考えたら、ちょっと冷や汗ものではありました。

 でも彼は、余裕をもって、「へ〜〜、なかなか奥深くまで分析したな・・。そのビデオは是非オレのところに送ってくれよな」なんて、例のダミ声で・・。「あの」リヌスが・・。フ〜〜

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 その他にも、UEFAのテクニカルコミティー委員や、元のチェコスロバキア代表監督で、その後もヨーロッパ各国の強豪クラブ(最近では、スコットランドのグラスゴー・レインジャース)の監督を歴任したベンゲローシュ氏、はたまたフランスサッカー界の重鎮で、現在はヨーロッパサッカーコーチ連盟でも委員を務める「アーネスト・ジャッキー」氏(彼は、フランスのユース養成システムを作り上げただけではなく、フランスのコーチ養成コースの責任者も歴任した人物で、アーセン・ベンゲルも、彼の教え子だそうで・・)など、本当に多くの「レジェンド」たちと「奥深い」ディスカッションをすることができました。

 まあ、このことについては、また機会を改めて・・

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 さて国際会議の二日目。最初の講演者は、ホルスト・アルマン氏(ホーエンハイム大学所属)。初日に講演した、フライブルク(ドイツ・ブンデスリーガ一部チームで、今シーズンは六位で終了=2001-2002シーズンのUEFAカップ出場クラブ)の監督、フォルカー・フィンケですが、アルマン氏の講演は、フィンケが話したことを「補填」するような内容になりました。テーマは「サッカーにおけるスピードとパワーのトレーニング」。

 要は、スピードアップし、スペースが狭くなっている現代サッカーでは、選手たちは少なくとも一試合のうちに、12-14キロは走る・・、フルスプリントは、そのうちの25-30パーセントまでに高まっている(1980年の初頭では15パーセントくらいだった)・・、だからこそ、スピード(フルスプリント持久力)やパワーの増強が必要だ・・、そのために、できる限り科学的なアプローチで、選手たちのフォーム(心理・精神的&生理学的なコンディションのこと)を管理しなければならない・・なんていうことです。

 フォルカーとアルマン氏は、しっかりとビデオを準備していました。特にフォルカーは、生理学をベースにしたコンディショントレーニングを粘り強くつづけ(もちろん常に血液を採取するなど!)、大きな成果を挙げています(比較的小規模なフライブルクを一流チームと言えるまでに押し上げた!)。ビデオで綴られた、彼の「地道な努力」に対して大拍手です。

 フォルカーの講演ですが、内容は多岐にわたっているし、フライブルク大学の生理学研究所と協力して実施しているコンディショントレーニング(コンディションテスト)は、本当に専門的(生理学的)なことなので、ここでは細部までレポートしませんが、当たり前のこと(基本的なこと)を、我慢強く、地道につづけることが、最後には大きな実を結ぶ・・という「歴史が証明している正論」を、改めて認識した次第。

 もちろん彼は、ボールを使った戦術的なトレーニングでも、効果的にスピード持久力やパワーを上げる工夫を凝らしています(効果的な「無酸素」戦術トレーニング)。そのプロセスを通じ、戦術的なトレーニングでは、「3対3」、「4対4」において、血液中の「ラクタート(乳酸)値」がもっとも高まる・・、選手たちに「数字の情報」を与えることは、彼らにとっても大きなモティベーションになる・・、苦しいスピード持久力トレーニングでは、常にペアを組ませ、互いにモティベートさせたり、指示を出し合うことによって、選手たちの「自分主体の意識」を大きく高揚させることができる・・、トレーニングの内容を常にビデオにおさめ、それを選手たちに見せることで、「より効果的な情報(選手たちにとってのポジティブな刺激!)」を与えることができる・・等々の「経験に裏打ちされた自分なりの真実」を積み重ねていったというわけです。

 でも、二日目のアルマン氏による、スピードとパワートレーニングの理論については、異論・反論・オブジェクションが百出してしまって・・(もちろんティータイムの『行間ディスカッション』ですよ!)。ヨーロッパ連盟の専任コーチなどは(名前は伏せますが・・)、「一日目のフォルカーの講演は、実践的な内容だったから評価できるが、今日の学者のトレーニング理論には納得できないネ。アイツは、サッカーを知らないんだろ。サッカーは、ものすごく多くのファクターが錯綜するボールゲームだから、ヤツの言うことを鵜呑みにして、そちらにウエイトを置いたトレーニングを実践することは逆に危険だな」・・なんてネ。

 まあ、要は「バランス」がもっとも重要なファクターだということです。その「学者さん」が強調した「理論的なファクター」ももちろん重要・・、ただ、そればかりで選手たちのコンディションパフォーマンスが格段に向上することもあり得ない・・、だからこそ、より「科学的に計画された」、「目的が明確」な戦術トレーニングが大事だということでしょう。

 それについては、アルマン氏の後に講演した、ゲロー・ビーザンツ(一昨年まで、ドイツプロコーチ養成コースの校長・・日本の「S級ライセンス」特別インストラクターとして何度も来日!・・わたしの恩師でもあります)の講演内容が参考になります。テーマは、「実践的なトレーニングによる、スピード持久力とパワーのアップ」。

 ゲローは、自身の豊富な経験に裏打ちされた「目的が明快な戦術トレーニング方法(要はボールを使ったコンディショントレーニング)」を多数紹介するなかで、「たしかに、生理学的なパフォーマンスアップに特化したコンディショントレーニングも大事だが、それと、複合的な戦術トレーニングとのバランスが大事だ。たとえばウエイトトレーニングをやった後には、常にボールを使ったゲーム形式のトレーニングで、生理的(心理的)な意味でのバランスをとる必要がある・・といった具合にネ・・」

 いや、内容のある一日ではありました。

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 明日は、現役のブンデスリーガ監督が多数参加するパネルディスカッションもあります。昨年も盛り上がりました。興味深いんだナ・・これが・・




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