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準々決勝二日目・・「やっと」本来のチカラを取り戻したオランダ・・オランダ対ユーゴスラビア(6-1)・・フランスらしい「辛勝」でした・・フランス対スペイン(2-1)・・(2000年6月26日、月曜日)


オランダ対ユーゴスラビア・・

 「これはグレートマッチになる!」

 最初の二分間の両チームのプレーを見て、すぐにそう確信しました。両チームともに、技術、戦術的なレベルが高いことは周知。ただそれに「心理・精神的」な部分が大きく加味され、両チームのプレーから、完璧に「持てる力を100パーセント出し切る」という姿勢をヒシヒシと感じるのです。

 ベルカンプが、中盤でパスを出した瞬間、「アッ、ミスパスだ。ヤツらにインターセプトされる!」と感じます。そして実際にユーゴ選手にインターセプトされてしまうのですが、その瞬間には、既に10メートルは戻って守備に入ってしまうのです。そして、最初にマークしたユーゴ選手を、ボールがないところでマークし続ける・・

 オランダのボールの動きは、予選リーグから比べれば「格段」にスピードアップしています。ボールがないところでの動き、そして、各ステーション(各選手)の「次の展開」に対する意識の高さ(つまり、ボールタッチからの展開を素早く!という意識の高さ)・・、そのバランスが絶妙なのです。

 対するユーゴも、ピクシー(ストイコピッチ)を中心に、気力・迫力十分なサッカーを展開します。観客の9割はオランダファン(地元だからアタリマエ)。それでも、「世界の才能集団」である彼らのプレーに気後れは感じません。

 試合は、全体的にはオランダペースで進みますが、最初の決定的チャンスを作り出したのはユーゴでした。前半15分のことです。

 最後方から、最前線のミロシェビッチにパスが通ります。例によってのスムーズな天才的トラップ。そしてどんどんと、オランダ守備の重鎮、フランク・デブールへ向けて、ドリブルで突っかけていきます。そして、フランクが当たらざるを得ない「間合い」まで迫った瞬間、彼の「左足の魔法」が炸裂。スパッと、フランクを抜き去り、カバーにきたスタムをあざ笑うかのように、後方から上がってきていたミヤトビッチへラスト横パスを通してしまったのです。

 決定的場面! フリーのミヤトビッチが、オランダペナルティーエリア中央でシュート体勢に入ったんですからネ。たしかに最後は、ミヤトビッチのシュートが、オランダGK、ファン・デルサールに「奇跡的」に防がれてしまいましたが、この決定的チャンスは、オランダにとっては大きなショック(つまり大いなる刺激!!)だったに違いありません。

 その一分後には、タテパスを、ユーゴのペナルティーエリア内でトラップしたベルカンプが、ユーゴディフェンダーの背後に回り込んでシュート!! これまた「決定的」な場面ではありました。また19分、ベルカンプがワンタッチとラップからのドリブルで相手を抜き去ってシュート!20分には、ダビッツが、ベルカンプとの素晴らしいタイミングの「ワンツー」を決めて抜けだし、フリーシュート! フ〜〜

 オランダの中盤における「守備の集中タイミング」を見ているだけで、ワクワクさせられてしまいます。そして、徐々にオランダの勢いが、ユーゴの「才能」を呑み込んでいく・・そんな雰囲気が出てきた前半29分。オランダが、勢いを、本当にゴールに結びつけてしまいます。

 左サイドから、最前線のクライファートの足元へタテパスが出ます。ワンタッチでコントロールし、横にいたベルカンプへ素早くつないで、そのままタテへ走り抜けるクライファート。そこへ、これまた「夢のように正確なラストパス」が、ベルカンプから送り込まれたのです。そのパスは、正確に、クライファートをマークするユーゴディフェンダーの頭を越えていました。ユーゴGKは、完全に飛び出しのタイミングを失しています。そして、そのたユーゴGKの「鼻先」で、チョンとボールをプッシュするクライファート。

 それまでの「クリエイティブな闘う姿勢」が、そのまま完璧なカタチで結実した・・といった先制ゴールではありました。素晴らしい・・

 その後は、少しゲームが落ち着いた・・というか、ユーゴが、オランダの勢いの凄さに、「これは今日はダメかもしれない・・」なんて、ちょっと弱気になっている心理を感じていました。またオランダの「中盤守備」にも、少し落ち着いてきた(勢いが衰えた)雰囲気を感じます。それまでの、相手を(心理的に)押し込んでしまうことを主な目的とした「世界トップのダイナミズム守備」が、「次の読み」を主体にした効率守備へ・・?! とはいっても、それも、ユーゴの攻撃に、勢いと、危険な臭いが失われていった結果だったのかも・・。サッカーの「相対性理論メカニズム」・・ってか〜〜

 ただ、そんな効率サッカーの雰囲気が出てきても、オランダのプレーには、予選リーグのような「停滞」を感じません。落ち着いた雰囲気の中にも、攻守の勝負所における「メリハリ」を感じるのです。その中心にいるのが、中盤の底にポジションする、コクとダビッツ、上がり目のベルカンプ。そして前半最後の時間帯の二点目のシーンでは、ダビッツが「台風の目」になります。

 ユーゴ陣内深くまで、相手を追いかけて守備に入っていたことで、かなり前線にポジショニングしていた(左サイド、タッチライン際にいた)ダビッツの「前の」スペースにパスが通ります(つまりダビッツは、ボールに触る前からルックアップで最前線を見ている!!)。

 こんな状況ですから、ダビッツがボールに触る前の段階で、既に最前線のクライファートが爆発ダッシュのスタートを切っているのは当然! ただこのクライファートの爆発ダッシュの「コース取り」が秀逸でした。

 まず、ダビッツから離れるように右サイドへダッシュし、そして急激に、中央タテ方向へコースを変えたのです。日本代表監督、フィリップ・トルシエは、そのボールがないところでの動きを「ウェーブ」なんて呼んでいますが、まあ「アタリマエ」の、変化に富んだフリーランニングではあります。ユーゴ中央のストッパーの目は、どうしてもボールを支配するダビッツに注がれてしまって・・

 この瞬間、クライファートは、ユーゴ守備陣にとっては「消えて」しまったのかもしれません。タテへ超速ダッシュで抜け出るクライファートの「足元前のスペース」へ、ダビッツから、本当に「測ったような」ラストパスが出されたことは言うまでもありません。最後は「落ち着いて」右足でプッシュするクライファート。追加ゴ〜〜ル!!

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 後半、私はユーゴの「巻き返し」に期待を寄せていたのですが、やはり・・というか、彼らにはもうエネルギーが残っていなかったようです。前半同様に、大勢ではゲームを支配されてしまうユーゴ。とにかく、ダビッツ、ベルカンプによる、中盤での「攻守にわたるダイナミズム」ばかりが目立ってしまって・・

 そして後半5分。オランダが三点目を決めます。これもクライファート。これで彼のハットトリックがパーフェクト!!

 オランダ、ベルカンプのフリーキックのシーン。最初のゴール前へのボールは、ユーゴGKがパンチングで逃れましたが、それが直接、右サイドのボスフェルトにわたります。迷わず勝負して、ユーゴの精神的支柱、ピクシーを抜き去り、これまた「忠実」にゴール前のニアポストのスペースへ走り込んでいたクライファートへ・・チョンと触り、ゴ〜〜ル!!!

 それは、(この試合のプロセスにおける!)ユーゴの凋落を象徴するシーンではありました。ユーゴの精神的支柱であるピクシーが抜きされて上げられたラストパスでしたからネ・・残念・・

 そのゴールの後、ピクシーがベンチに退きましたが、それでも私は彼に、心からの大拍手を送っていました。「アナタは素晴らしい、歴史に残る素晴らしい選手だ。アナタのような天才が、物理的な限界まで、まさに最後の最後まで、攻守にわたって闘う姿勢を貫き通したのだから・・」と・・

 その後、クライファートがこの試合における自身の4点目となるゴールを決め、後半32分、後半45分には、オーフェルマルスが、オランダの5点目、6点目となるゴールを決めます。それに対しユーゴは、ロスタイムに入り、ミロシェビッチが1点を返すにとどまりました。

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 この試合は、オランダ「蘇生」の試合だったとすることができるでしょう。彼らが、フランスワールドカップ当時の、「組織と才能のバランス」がとれたサッカーを展開できるようになったのです。「才能」たちは、予選リーグの試合内容を、「これではダメだ・・」と感じていたことは確か。そして、ライカールト監督のもと、自分たちのサッカーを見つめ直したと思うのです。

 このゲームでは、全員が、まず「チームのためにプレー」しました。特にベルカンプの、攻守にわたる「クリエイティブな積極プレー」には目を見張らされました(もちろんリーグでも彼の積極プレーは光っていましたが・・)。ダビッツ、コク、ゼンデン、オーフェルマルス、クライファート、そして最終守備ライン。さまに全員が、チームとしてプレーしていたのです。

 「世界の才能」たちが、覚醒し、積極的に(自らの自覚をベースに?!)一つにまとまったオランダ。これは強い! =================

 さて、フランス対スペイン・・

 この試合も、プティーがケガで(?!)出場できません。ということで、フランスチームの「骨格」ともいえるダブルボランチには、デシャンとビエラが入ります。そしてその前の「真ん中のタテ軸」に、「フランス攻撃のクリエイター」、ジダンと、最前線でワントップを張るアンリが構え、彼らの周りで、ジョルカエフとデュガリーがプレーするといった布陣です。

 ただ私の目には、ジョルカエフが、うまく機能していない・・と映りました。彼の、攻守にわたる「絡み」に、世界トップで勝ち進むために必要な「自分主体の積極性」が感じられないのです。

 前にも書きましたが、この中盤ポジションの選手たちには、攻守にわたり、まず「自分から仕事を探す・・」という積極的な姿勢が求められます。それが、特にジョルカエフの姿勢が不十分だと感じるのです(このことは既に何度も書きましたが・・)。確かにボールを持ったら良いプレーをします(ちょっと持ちすぎの感も!)。ただそこに至るまでの「ボールがないところでのプレー」が緩慢。「もっと寄れ!」、「今だ、前のスペースへ抜けろ!」、そして「何故そこを予測して守備に入らないんだ!」・・なんて何度叫んだことでしょう。

 基本的な「チーム総合力」では、スペイン以上のものをもっているフランスだと確信している湯浅ですから、どうしてもフラストレーションがたまってしまって・・

 そんな消極姿勢もあり、ゲームは、立ち上がりからスペインが支配します。それでも、守備が強いフランスですから、そうは簡単に崩されるシーンは出てきません(ラウールのハイレベルなフリーランニングで、一度だけフリーシュートを打たれた・・)。

 ただ先制ゴールはフランスが挙げてしまいます。前半32分、フリーキックを、ジダンが直接決めたのです。素晴らしいカーブシュート。目の覚める一発だったのですが、この一発で、ジョルカエフも目を覚まして欲しい・・なんて思っていました。

 ただその後も、試合ペースが上がってこないフランス。このまま「1-0」で・・なんて消極的な姿勢なんでしょうか。ジョルカエフのプレーも緩慢そのもの。そして36分。中盤でのマークが甘いことで、フリーのアルフォンソに「起点」を作られ、フランス守備ブロックが、中央に集中したところを、逆の左サイドでフリーになっていたムニティスにパスを通されてしまいます。

 チェックが遅れるチュラム。迫力ドリブルでフランスゴールに迫るムニティス。ただ最後は、チュラムが追いついてきたことで、ちょっと切り返したムニティスでしたが、そこにチュラムの足が出て「引っかけ」られてしまったというわけです。PK!!

 メンディエータが、落ち着いてゴール右サイドへ・・同点ゴ〜〜ル!!

 ただ前半も残り時間が少ない43分。フランスが勝ち越しゴールを決めます。決めたのは「ジョルカエフ」!!

 中盤から、ビエラがドリブルで上がります。どんどんと上がります。結局そのドリブルで、スペイン守備ブロック「全員」が引きつけられてしまいます。最後は、ボールを持つビエラと、そのすぐ前にいるアンリの周りを、六人のスペイン守備選手たちが「取り囲む」状態になってしまいます。ただ逆の右サイドには、「太平洋」のようなスペースが広がってしまって・・

 そしてそこに、ビエラの中盤からのドリブル勝負には、「最初は」まったく絡もうとする態度を見せていなかった(完璧に傍観者になっていた)ジョルカエフが、「アッ、そこがチャンスだ!」と、全力で走り込んだのです。ビエラからのパスを正確にトラップし、右足の爆発シュート!!

 それでも私は、ジョルカエフのプレー態度には、まったく納得していませんでした。ビエラが「クリエイト」した決定的な状況は(スペイン守備ブロックのゾーンバランスを、たった一人で完璧に崩してしまった!)、「誰でも」、「当然」走り込む状況。決してそれは「自分主体」のアクティブなフリーランニングとは言い難いものです。それでも、ゴール右上角に叩き込んだ、最後のシュート「だけ」は見事でしたが・・。フランスは、こんな彼の「一発」に期待しているんでしょうかネ・・。それでも、ゲーム全体の「流れのなか」での彼の貢献度は・・????

 その勝ち越しゴールのシーンですが、また別の見方もできます。ジョルカエフが、少しずつ(ジョギング程度のスピードで)前進しながら「傍観」していたから、スペイン守備ブロックが、「ビエラのサイド」に集中した・・という考え方です。その意味では、クレバーな、「走り込みのタメ」ということになるのですが、それでも湯浅は、とにかくまずビエラのドリブルに絡むように素早く「寄り」、そこからの爆発ダッシュで、右サイドのスペースへ抜けるべきだったと思うんですよ。そうすれば、ドリブルするビエラのプレーのオプションが増え、また違った「チャンス」も作り出せたと思いますからネ。私にとってのジョルカエフのゴールは、(意図のない)単なる偶然の「漁夫の利」だったと思うんです。

 言い過ぎですかネ・・。ジョルカエフほどの「才能」だから、「世界サッカー」にとっても本当に惜しい・・と思うんですよ。

 その後は、例によって「変化」のないショート、ショートをくり返すスペインの攻撃を、しっかりと受け止め、カウンターを仕掛けていくフランス・・といった展開が続きます(それでもたまに見せる放り込みや、フリーキックなどのセットプレーではチャンスになりそうな雰囲気アリ・・)。

 スペインは、もっとロングボールを使うべき! ユーゴ戦では、大成功を収めたではないか。「ショート・ショート・ロング」という攻めの変化が、フランス守備の組織に「亀裂」を作り出せるかもしれないのに・・

 それでもスペインは粘りに粘り、残り数分というところでPKを得ます。フランスGK、バルテズが、攻め上がっていたアベラルドを倒してしまったのです。極限のテンション・・。その中で蹴られたラウールのPKは、無情にもバーを越えてしまって・・

 そして、最後の最後には、スペインのセンタリングを、ウルサイスがフリーのヘディングシュート・・またまたバーを越えてしまって・・そしてタイムアップ。

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 私は、フランスの試合内容には納得できないでいます。それでも準決勝まできました。たぶんそれには、フランスワールドカップでの優勝という「心理的バックアップ」があったからに違いないと思う湯浅です。

 パラグアイとの接戦(ブランのゴールデンゴール勝ち)、イタリアとのPK戦での勝利、そしてクロアチア戦でのチュラムの(奇跡ともいえる)同点&勝ち越しゴール・・。そんな苦しい戦いの末の優勝が、彼らを「心理・精神的」に強くした(勝利への確信レベルを極限まで引き上げた!)と思うのです。

 次の、ポルトガル戦が楽しみで仕方がありません・・

 ちょっと付かれ気味の湯浅・・文章がハチャメチャなところも・・ご容赦アレ・・。ということで「ヨーロッパ選手権の速報レポート」でした。




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