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準々決勝一日目・・「最後」は横綱相撲・・ポルトガル対トルコ(2-0)・・イタリアのツボにはまってしまって・・イタリア対ルーマニア(2-0)・・(2000年6月25日、日曜日)


いや、試合開始から、互いに攻め合い、仕掛け合うアクティブな展開。どちらか一方が(例えばトルコが・・)守ってカウンターを狙う、などというゲーム戦術ではなく、はじめから互いに攻め合うのです。

 これこそ準々決勝の醍醐味。準決勝以降では「戦術の方が強調」されてしまうのが常ですからね。本当におもしろい展開です。侮るなかれ・・トルコ。とはいっても、中盤の構成力、最後の「仕掛けレベル」では、やはりポルトガルに一日の長を感じます。そのベースは、技術、戦術能力という「個人のチカラ」。それと、全員に共通した「戦術イメージ」ということです。

 それでも徐々に、実力差に準じた展開に・・。ポルトガルがゲームを支配し、トルコが、必殺のカウンターを狙う・・。トルコの守備は、コンベンショナルな「スリーバック」。これはドイツ仕込みですかネ。トルコとドイツは、社会的にもサッカー的にも関わりがかなり深いですからね。それに、中盤での「マンオリエンテッド」な守備のやり方も「ドイツ的」といえないこともないし・・。

 トルコは、ある程度までは「マークの受け渡し」はしますが、ポルトガルの仕掛け段階では、キッチリとした「マンマーク」へスムーズに移行します。その「メリハリの効いた切り替え」は、ベルギー戦で証明済み。そして危険なカウンターを仕掛けていく・・

 対するポルトガルは、ルイ・コスタ、フィーゴを中心に、前線のジョアン・ピント、ヌーノ・ゴメスが、ココゾ!のフリーランニングをくり返します。そして、「ショート・ショート」だけではなく、中盤の「スペースつなぎ」ドリブル、素早いダイレクトパスやロングパスなどを織り交ぜます。彼らの「攻撃の変化のレベル」は、たしかに優勝を狙えるレベルにある・・。それでも、トルコの守備は、固い、固い・・

 圧倒的に「変化に富んだ攻撃」をくり返して攻め込むポルトガル。でもトルコ守備は堅牢そのものですから、どうしても決定的なチャンスを作り出せません。逆に、前半25分、後方からのオギュンのフリーキックから、ハカン・シュキュールに決定的なヘディングシュートを放たれてしまいます。これは「内容的」にも、「勝負的」にもエキサイティングな試合になる・・やはり大きな大会では「準々決勝」が一番の見所ってえことか・・

 ここで、互いに全力をぶつけ合うという準々決勝にありがちなドラマが・・。前半29分、ポルトガルゴール前でヘディングを競り合った、ポルトガルのフェルナンド・コウトと、トルコのアルバイが交錯し、ともに倒れ込んだのですが、そこで、アルバイがコウトを殴ってしまったのです。アルバイは「気づかれない・・」と思ったのでしょうか・・

 それでもレフェリーはしっかりと見ていました。すぐに「レッドカード」。こんなところにも、トルコの経験のなさがにじみ出ていたりして・・

 たしかにアルバイは、コウトにのし掛かられてヘディングの競り合いに負けてしまいましたが、そんなことで手を出すなんて・・。それがチームの致命傷になってしまうことを意識しなかったとしか言いようがありません。チームに対する「希薄な責任感」・・。そんなところにも「浅い経験」が見て取れるのです。

 そしてここからの試合の展開が、これまた「予想通り」になってきます。一人多いことで、「心理的な余裕」の出たポルトガルの「プレーテンポ」が遅くなり、逆に危機感いっぱいのトルコの守備が、より先鋭化されていったのです。

 展開は完全に互角。それにしてもポルトガルの「ボールの動き」に、急に精彩がなくなってしまって・・。逆にトルコの攻めは、個人のチカラが十二分に生かされるという効果的なものになっていきます。面白いモノです。10人のトルコは、どうしても各ステーションでのボールのキープ時間が長くなってしまうのですが、そこに集まってきたポルトガル選手「たち」をいなし、素早く次へ展開してしまうものですから、その「次のゾーン」で、ポルトガル守備が「薄い」ということになってしまうのです。これは面白い試合展開になりそうだ・・

 トルコは、自信を持ちはじめていました。「よし、いいテンポだ。ポルトガルのボールの動きは遅いし、これだったら次が読めるからな。アイツらの攻めは詰まり気味だから怖くない。それに比べて、オレたちの攻めも大したもんじゃないか・・。ボールはしっかりキープできるし、相手を集めておいてからの展開も悪くない・・」ってな具合でしょうか。

 ただそんな「自信」が裏目に出た?! 前半43分のことです。例によってポルトガルの攻め(ここではCK)を「余裕をもってはね返し」、よし、攻め上がるぞ・・という展開になります。ただそこで、一瞬のスキを突かれてしまったのです。

 (トルコの)左サイドで競り合いになり、こぼれ球をポルトガルに拾われてしまいます。トルコ選手たちの重心は、自信(ちょっと過信気味?!)ベースの、「前へ」・・。トルコ最終守備ラインも上げ気味の状態になっています。

 ここでボールを拾った、右サイドのフィーゴ。一瞬のルックアップで、「間髪を入れず」に、ピンポイントのセンタリングをゴール前へ送り込みます。狙うは、ゴール前で決定的なフリーランニングをしていたヌーノ・ゴメス。彼は、こぼれ球をフィーゴが拾った瞬間には、トルコストッパー、ファティーの「視線のウラ」へ開き、そこからトルコゴール前の決定的スペースへ爆発ダッシュを決めていたのです。スパッ・・フィーゴの「ピンポイント」が、ヌーノの頭にピタリと合います。そしてダイビングヘッドで放たれたボールが、トルコゴールの左サイドに吸い込まれていきます・・先制ゴ〜〜ル!!!

 考えてみれば、ポルトガルが、このヌーノ・ゴメスの「決定的フリーランニング」に何度助けられたことか・・(イングランド戦でのゴールなど・・)。ジョアン・ピントが「引きつけ役」で、ヌーノが「ウラスペース仕掛け人」ってな「グッド・コンビネーション構図」も伺い知ることが出来る、一瞬の「ウラ取り」ゴールではありました。フ〜〜、素晴らしい。これで、主体的に攻め上がらなければならなくなったトルコ。ポルトガルにとっては願ってもない展開になったな・・

 ・・ってなことを思っていた前半のロスタイム。これも一瞬のスキを突いて、トルコがPKを奪ってしまいます。フェルナンド・コウトが、トルコのアリフを引っかけてしまったのです。

 ただキッカーは、倒された当の本人、アリフ・・。「PKを取ってやったゾ・・」という興奮冷めやらない選手が、そのままPKを蹴る・・ちょっと問題かも・・。でもアリフはそれくらい素晴らしい選手で、チーム内で信頼されているんだろうな・・なんて思ったものなのですが・・。でも蹴られたPKが甘いコースに飛んでしまい、ポルトガルGKに完璧にセーブされてしまう・・

 このPKが決まっていれば、展開は「トルコの罠」といったものになるに違いなかったのに・・ふーむ残念。

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 後半はもう完全にポルトガルのペース。しっかりと守り、確実な「攻撃の流れ」を作り出していきます。ボールの動きも「再び」スムーズなものになっていきます。対するトルコも、高いスキルを駆使して攻め上がろうとはしますが、いかんせん、落ち着いてしまったポルトガルの守備を相手にしなければなりませんから・・

 そして、案の定・・といった追加ゴールが入ってしまいます。後半10分のこと。右サイドでボールをもったフィーゴが、トルコのディフェンダーを振り切る勝負ドリブルを成功させます。そして、そのまま持ち込むことでトルコ最終守備ラインを「ニアポスト側」へ引きつけ、トルコゴールのファーサイドへ入り込んでいた「ウラ取り名人」、ヌーノ・ゴメスへ、「ソフトタッチ」のラストパスを送ったのです(トルコゴール前を横切るラストパス!)。

 そしてここからは、もう完璧にポルトガルペース。何度もシュートチャンスを作り出します。はじめて「10人対11人」であることを実感させられてしまって・・。サッカーの「心理的なメカニズム」って、ホントに面白いですよネ・・なんて・・

 主力選手たちが、イタリア、スペインなど、プロリーグの「ブランドネーション」で「勝負へのこだわり感覚」を発展・深化させ、「イメチェン」に成功したポルトガル。完全に優勝候補です。

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 さて次は、イタリア対ルーマニア。

 試合は、立ち上がりから膠着状態といった展開になります。互いに守備を厚くしているものですから、どうしても決定的チャンスを作り出すことが出来ないのです。

 それでも「展開力」という面では、ルーマニアの方が上。個々の技術がしっかりしているからなのですが、それにしてもハジの運動量が・・。一人でもこんな選手がいた場合、チーム戦術自体を大きく変えなければなりません。ルーマニアのイエネイ監督は、素晴らしい試合だった「イングランド戦」から(ハジは出場停止だった)、再びハジを入れる「チーム戦術」に戻しました。私は、「ウイニングチーム・ネバー・チェンジ」という大原則を踏襲した方が・・なんて思っていたのですが。

 それでも流石にバルカンのマラドーナ。ボールを持てば、「球出しの起点」として抜群のクリエイティビティーを発揮します。それでも、以前のように、夢のような突破ドリブルをミックスしながらの「崩しの起点」・・という面では、完全に衰えてしまっています。そして、もちろんまったく守備はしない・・どうなんですかネ・・

 そんなことを思っていた前半32分。それまで、ルーマニアゴール前まで迫れずにいたイタリアが、フリーキックから、スンナリと先制ゴールを奪ってしまいます。

 フリーキックからのこぼれ球が、「密集地帯」の後方にポジショニングしていたフィオーレの目の前に落ちます。間髪を入れず、フィオーレが、最前線の決定的スペースにいるトッティーへ浮き球のパスを通します。それを胸で止めて、スパッとゴールへ流し込んだのです。

 このシーンで面白かったのは、新しい「オフサイドルール」が効力を発揮したゴール・・ということ。フィオーレが、浮き球のタテパス(ラストパス)を出した瞬間、最前線には(つまりオフサイドポジションに)コンテが残っていたのです。それでも、フィオーレからのパスが出た瞬間、コンテは「オレ、知らないヨ。プレーにゃ、関係ないヨ・・」と、ゆっくりとジョギングで戻っていたのです。ということで「新ルール」ではノーオフサイド!

 フィオーレの抜群のラストパスと、コンテの「クレバーな判断」、そしてトッティーのゴールゲッター感覚が「重なり合って」生まれた先制ゴールではありました。

 それにしても、イタリアの真骨頂が存分に発揮された場面ではありませんか。ワンチャンスを「集中」して逃さず決める・・。「オレたちには、相手守備を完璧に崩してゴールを挙げるチカラはないから、とにかくワンチャンスを逃さないぞ!!」なんてネ・・。

 でも私は、彼らがバランス良く上がれば、確実に、ポルトガルやオランダ、はたまたフランスなどが展開する「魅力的で強い」サッカーが出来るとは思うんですが・・。それでも彼らは、あくまでも「勝ちにこだわる」サッカー。伝統・・?!・・ですかネ・・

 その後の前半34分には、後方からの一発ロングパスをフリーで受けたハジが、ポストシュートを放ちますが、全体的な流れは、もう完全にイタリアのものです。このシーンでのハジですが、とにかく「動かない」から、まったくフリーになっていた・・?! それもクレバーな戦術だと言われれば、否定はできませんが、このチームでは、ハジの才能が「まだ」レスベクトされている(敬意が払われている)ということなんでしょう。そうでなければ、チームは既に「崩壊」の憂き目を・・

 そして「全体的な流れ」を象徴するイタリアの追加ゴールが、前半43分に決まります。右サイドでルーマニアが大きくクリアします。そのボールを、イタリアの守備選手がヘディングで、前にいるアルベルティーニへ。一瞬、アルベルティーニが、スッと前の状況を確かめ、そしてダイレクトで、最前線のインザーギへタテパスを通してしまいます。まったくフリーのインザーギが、「世界の落ち着き」で、最後は、右足のインサイドで、ルーマニアゴール右隅を陥れました。

 このシーンで、ラストパスを出したアルベルティーニにボールが通ったとき、インザーギの周りにいたルーマニアの最終ラインが、ちょっとラインを上げました。「オフサイドトラップ」のつもりだったんでしょうね。ルーマニア右サイドバックが、彼らが作った「オフサイドライン」よりも、5メートルは後方に残ってしまっていたのに・・。

 これが、「フラットライン守備システム」でオフサイドトラップを仕掛けるときの盲点なんですヨ。ラインコントロールは、自然に最終ラインを上げる状況、また少し「落ち着いた展開」で、相手が(最終ライン後方の決定的スペースを)ロングパスを狙うような状況でのみ行わなければなりません。「試合が早く流れているなか」で、ライン全員が一体となって「人為的」にオフサイドトラップを仕掛けるのは本当に難しいんです。新ルールもありますしね。ですから、トラップを仕掛けるのは、自分が最後方であると確認できている個人が瞬間的に上げるなど、本当に限られたシチュエーションだけなのです。

 アッと、もう一つ気づいたことがあります。インザーギの、シュートモーションに入っていくプロセスでの「呼吸」です。まったくフリーでトラップした彼が、何度も、「頬を膨らませる」ように息を吐いていたのです。これも彼の「決定力」の秘密なのでしょう。世界のストライカーは、こんな、自分なりの「心理的なテクニック」が、「体感」として身体に染み付いているものなのです。

 日本チームの「決定力の低さ」がかなり話題になっていますが、それは、「高い意識」をもってシュートトレーニングをしていないことの証明。だから、トレーニングでのゴールが「本物の体感」というレベルまで引き上げられない。またシュート体勢に入ったときの「自分なりのコツ」も掴めない・・。日本の選手諸君には、このインザーギのシュート場面を、もう一度ビデオで見直して欲しいものです。

 さて、これで試合の大勢は決してしまいました。

 後半14分。倒れたハジが、「演技」だったとして二枚目のイエローをもらい退場になってしまいましたが、アレは、確かに、走るハジの、振り上がっていた左足が、追いかけるイタリア守備、ザンブロッタの左足に「ほんの」ちょっと「接触」してバランスを崩したものでした。だからハジの怒りも分かるのですがネ・・。

 これは、昨日の「J・セカンドステージ第一節」でもありました。フロンターレ対アビスパ戦です。そこでも「演技」として、フロンターレフォワードの鈴木にイエローが出されたのですが、それはまったくのミスジャッジ。完全に、フロンターレのフォワード、鈴木が、引っかけられていたのです。

 レフェリーには、「演技を厳しく取るように・・」という指示が出されていたということで、彼らがちょっと「過敏」になり過ぎているのかも・・。サッカーはどんどんと進歩していますから、これからのレフェリーのジャッジングは難しくなる一方ではあります。たしにか「レフェリーのミスジャッジもドラマのうち」ではありますが、ちょっと人為的な(アンフェアな)「ドラマ」になり過ぎるのでは問題。オーバーレフェリーや、レフェリー二人制度など、改善策を模索しているFIFA(国際サッカー連盟)には、早急な対応が求められます。

 ハジの退場の後、怒り心頭に発してガンガン攻めまくるルーマニア。対するイタリアは、例によってゴール前に「カンヌキ」を掛けてしまう守備で、ルーマニアの攻めをことごとくはね返し、危険なカウンターを仕掛ける・・といった展開。後半21分には、「中盤のバランサー」、アルベルティーニからの「バカウマ・タイミング」のタテパスが、インザーギに通り、例によっての「頬を膨らませる呼吸法」で爆発シュート! 右ポストに当たってしまいます。

 このまま試合は終了したのですが、最後に一つだけ。

 それは、「攻撃の才能」について。イタリアでは、試合が決着した後に登場したデル・ピエーロ、オランダではセードルフ、そしてフランスではジョルカエフ。彼らは問題を抱えています。「天才の憂鬱」ってな具合何ですが、彼らに共通するのは、攻守ともに「ムダ走り」が少なすぎるというもの。攻撃では、「確実」にボールが回されてくる状況でしか走らないし(組み立て段階でのボールへの寄りやスペースへのフリーランニングが少なすぎる・・など)、ボールをもったらこねくり回して「チームの攻撃リズムを崩す」。また守備でも、チェイシングが消極的なだけではなく、ボールがないところでの守備が緩慢だから、守備ブロックにとっては邪魔なだけの存在になってしまう(最後までマークについてこないから、結局その相手選手がフリーになってしまう・・など・・)。

 彼らにはもう「覚醒」はないんですかネ・・。それも監督の「心理マネージャー」としてのウデが試される部分なんですが・・。例えば、ユヴェントス当時のリッピが、ジダンを「覚醒」させたなど・・

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 さてこれで、準々決勝第一日目は、総合力で勝るチームが勝利を収めるという「順当な結果」に終わりました。さて今日の、フランス対スペイン、ユーゴスラビア対オランダはどうなる・・?? 期待しようではありませんか。




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