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立派なハイレベルサッカーを魅せたスロベニア、でも・・スペイン対スロベニア(2-1)・・一つ上のレベルを見せつけたユーゴと、最後まで諦めない「パワーと粘り」のノルウェー・・ユーゴスラビア対ノルウェー(1-0)・・(2000年6月19日、月曜日)


今大会屈指の「驚きチーム」、スロベニア。この試合でも、ユーゴスラビア戦の内容がフロックではないことを立ち上がりから証明します。とにかく自信にあふれた「高い次元のサッカー」。気持ちの良いことこの上ない・・。それも相手はスペインなんですヨ!(なんて、ブランドイメージ先入観で書いちゃって・・)

 ただそんな「ある期待」に、開始早々、水をさされてしまいます。スペインの「稀代の才能」、ラウールが、ペナルティーエリアのちょっと外側から放ったスーパーシュートが、スロベニアのゴール左上隅に「ドカン!」と飛び込んでしまったのです。スペイン右サイドバック、サルガドが放った「ロングシュート」が、相手ディフェンダーに当たり、それがラウールの足元付近に転がったところを、「才能」がすかさず左足で叩いたのです。まあとにかく素晴らしいゴールではありました。

 さてここから。このゴールが、「心理・精神的」に、スペイン、そしてスロベニアにどのように影響してくるのか・・

 ここからスペインが落ち着いたゲームを展開します。やっと本領を発揮してきた?! 彼らのボールの動きは、スムーズで、そして素早く、広い。ワンタッチでパスを回すのですが、その「タッチ」から「パス」までが早いのです(もちろんダイレクトを織り交ぜながら)。対するスロベニアは、やはり旧ユーゴスラビア系、ワンプレー、ワンプレーに「個人の才能レベルの高さ」は感じさせますが、ちと遅い・・。だから、もう負けられない(気合い十分の)スペイン守備に、ことごとく引っかかってしまいます。

 ということで、基本的には、「ゲーム全体をコントロール」するスペインに対し、まだ「必殺のカウンター狙い」にするのかどうか・・はっきりしないスロベニア。これは、ちと問題だゾ・・、なんてスロベニアに「ほんのチョット」肩入れしている湯浅は、彼らの戦術的な問題点を見ていました。それにしても、スペインのサッカーは小気味よい。第一戦のノルウェー戦では、カッタるかった(という印象が強い)ボールの動きが、この試合では見違えてしまって・・。また、私が好きな、バレンシアの「メンディエータ」も先発していますし・・

 展開は変わらず、時間だけが過ぎていきます。ただ徐々に、スペインの「守備のタイミング」を身体で感じてきたスロベニアのボールの動きも活発になってくる。そして、一度、二度と、決定的なシュートのカタチも作ります。対するスペインは、攻め込みはしますが、最後のところで、スロベニアの忠実な「読みベース」守備に潰されてしまって・・。わずかに、ラウールの放った左足のシュート、また、後半早々のヘディングシュートが目立つくらい。試合は(たしかにスペインが押し気味ではありますが)、膠着状態に陥ります。とはいっても、仕掛けなしの「守りの降着」ではなく、攻め合い、仕掛け合いの膠着状態ですから、見ている方にとっては面白いことこのうえない・・

 そして後半12分。やってくれました・・スロベニア! 自陣深いところでボールを奪い返し、そのまま最前線の(後半に交代出場した)オステルツへ、ズバッという正確なタテパスを通してしまいます(こんなパスの発想自体に彼らのレベルの高さを感じる・・)。オステルツは、そのままダイレクトで、バックアップしているザホビッチへ・・。そこから、左サイドにオーバーラップするルドニャへ(この流れるようなカウンターでのボールの動きがたまらなく快感!!)。そして最後はルドニャからのグラウンダーのセンタリングを、スロベニアの二人のフォワードと、戻ってきたスペインのディフェンダーが交錯して触る・・。そしてコロコロとボールがスペインゴールの左サイドに転がり込んでいく・・。いったい誰のシュートだったんだ?! その後のVTRで、それが「またまた」ザホビッチであることが確認されました。

 スペインの複数のチームから、ザホビッチに対して「大金オファー」がきているということなんですが(もちろんこの大会の活躍を見て)、そんな「サッカー・ドリーム」も、「ハングリー」なスロベニア選手たちの「極限モティベーション」の糧なんです。

 さて試合は「1-1」。後半14分になるところです。そしてまたエキサイティングシーンが・・

 攻め上がるスロベニアの勢いを逆手にとったスペインの素早い攻撃が実を結んだのです。まず左サイドでのメンディエータ。彼には、ちょっと「パスが遅いナ・・」なんて思っていたんですが、そのメンディエータが、持ち味である「中盤での勝負ドリブル(スペースをつなぐドリブル)」を決め、スロベニア選手三人を外して(抜き去って)、最後は、逆の右サイドで上がっていたエチェベリアへの素晴らしいスルーパスを決めてしまったのです。エチェベリアは、勇気を振り絞ってシュート!! それがスロベニアゴールの右隅へ・・勝ち越しゴ〜〜ル!!

 いや、素晴らしい攻撃でした。ボールを回すことに気をつかいすぎ、うまくチャンスを作り出せなかったスペイン。ただ最後は、メンディエータの「危険な賭け」が大成功のキッカケになったんです。中盤から、それも相手三人を相手にドリブル勝負を仕掛けたんですから・・。コーチとしては「頭が痛い部分(悩む部分)」でもあるのですが、サッカーでは、「組織と個人の優れたバランス」というのが「普遍的な概念」ですから・・

 ただここから試合は、俄然「熱」を帯びてきます(もちろんスロベニアにとってですよ!)。まず16分、スロベニアのフリーキックからの決定的なヘディングシュート。21分のスロベニア。コーナーキックからのこぼれ球を、これまたザホビッチが、20メートルはあろうかという正確なカーブシュートを放ちます。この二本ともに、スペインGKが、素晴らしいセーブで防ぎましたが、この時間帯は、完全にスロベニアのものでした。

 その後も素晴らしい内容の仕掛け合いが続きます。そして守備的選手を交代出場させるスペインベンチ。逆に、攻撃選手をどんどんと投入するスロベニア。そんな秘術を尽くした試合は、結局このまま、スペインの「2-1」で終了してしまいます。

 確かに負けはしましたが、この試合でもスロベニアは、彼らのサッカーが「世界レベル」であることを如実に証明しました。内容的にもサポートしたくなるスロベニア。ノルウェーとの最終戦が楽しみではありませんか・・

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 さて次は、ユーゴスラビア対ノルウェー・・

 こちらも、最初から両チームが持ち味を出し合っちゃって・・。最初の二分間、まずノルウェーがフリーキックからのヘディング勝負でチャンスを作り、そのすぐ後には、ユーゴが、ストイコピッチの左サイドの突破から、これまた決定的なチャンスを作り出してしまいます。これは面白い試合になる・・

 そして7分、ユーゴの先制ゴールが決まります。右サイドでのフリーキック。てっきりピクシーが蹴るのかと思ったら、先に左利きのドルロビッチが、素早くゴール前へセンタリングを入れます。それをミロシェビッチが、マークする相手の身体を押さえながら、右足のインサイドを使ってバックヒール気味に「曲芸シュート」を決めてしまったのです。

 この一点は大きい。これでノルウェーも「前へ」いかなければならなくなりましたからネ。この前の試合。スペイン戦のように「耐えて、耐えて、決勝ゴールを・・」という「机上の計画」が崩れてしまった瞬間でもありました。

 こうなったら、もう「クリエイティビティー能力」では数段上のユーゴがペースを握るのも当然。どちらかというと「前へ」急ぐノルウェーに対し、ユーゴは、例によって「スーパー・ピクシー(ストイコピッチのことですヨ!)」を中心に(ホンモノの実効ある攻撃のコアとは彼のこと!!)、「組織」と「個」がハイレベルでバランスした華麗な組み立てから、どんどんとチャンスをクリエイトしてしまいます。

 ミヤトビッチが、ミロシェビッチが、決定的なシュートのチャンスを迎える・・。同じタイプの「スロベニア」も良いチームですが、やはりユーゴの方が、より「洗練」されているように感じます。それにしても「ピクシー」。ミヤトビッチとかユーゴピッチとか、「世界」で活躍するスターたちの、彼に対する「畏敬の念」は本当にレベルを超えています。ピクシーの、ユーゴ国内での「社会的・歴史的ポジションの高さ」を、心底、実感する湯浅なのです。

 それにしても、「組織プレー」と「個人勝負プレー」が、本当に「華麗」にバランスしたユーゴの攻めの、なんと美しいことか・・。相手が「テクニック」で劣るノルウェーだから目立つ?! そうかもしれませんが、ピクシーの、相手守備を釣り出すドリブル、勝負ドリブル、キープ(タメ)のドリブル、そして夢のようなサイドチェンジロングパスや、ロングラストパス、はたまた短いコンビネーションからのスルーパス・・、ア〜〜美しい。

 ノルウェーも、ユーゴのチカラを体感しているのでしょう、前半の半ばころから、また、しっかり耐えてワンチャンスを・・というゲーム戦術に戻ったように感じます。最終守備ライン、中盤守備を堅牢にしようとする意図を感じるのです。それでも、ユーゴの「才能オフェンス」の発想レベルは、ノルウェーの「守備での読み」をかなり上回っています。もちろんピクシーを中心にネ・・

 スパッ、スパッという音がするくらい、鋭く、素早いパス回しから、相手守備の薄い部分(人数が揃っていない部分)で「攻撃の起点」を作りだし、そこから再び決定的なコンビプレーにチャレンジしたり、ドリブル勝負を仕掛けていきます。また、勝負のロングパスやサイドチェンジのパスも・・。これはもう「快感」としか表現のしようがありません。もうこれは「レベルの差アリアリ」といった様相を呈してきます。

 それでも粘るノルウェー。後半10分には、右サイドを駆け上がるミュクランのセンタリングを、最後はフロがヘディングシュート!惜しい・・。フム、ホントに面白い展開になりはじめた・・。ノルウェーも、パワーサッカーで反撃を開始しはじめたんです。でも逆に、ユーゴにとっては「カウンター」の大チャンス。カウンターは、基本的には「才能ベース」ですから、ユーゴにとっては願ってもない展開?!

 ただ、後半25分を過ぎたあたりからは、もうノルウェーの完璧なパワープレー。こうなったら、いくらユーゴでも、勢いで押されてしまいます。押されるというのは、心理的な部分も含めてですから、カウンターに必要な、後方からの全力押し上げもままならなくなる・・、そしてカウンターも決まらなくなる・・。ノルウェーが押し込み続ける・・。もうこれは「肉弾戦」という様相を呈してきます。

 美しくはありません。それでも、これもサッカー。サッカーは、ある意味では殴り合いのケンカのようなもの。このような肉弾戦では、気合いポテンシャルの高い方が勝つのです。

 ユーゴは、ミヤトビッチに代わって入った期待の若手、「ケズマン」が、入ってきますが、グランドに立って3分後、ミュクランに対して、本当にバカなファール(ミュクランがボールを蹴った後に、彼の足目がけて飛び込んでしまった!)を犯して退場。ケズマンは、「ロナウドのスピードと、オーウェンのテクニックを備えた逸材」と言われているようですが、それに一つ付け加えなければ・・、「ユーゴ伝統のホットテンパーもしっかりと継承してる・・」ってネ。

 最後の時間帯・・手に汗握る「肉弾戦」・・ノルウェーのカリューがフリーシュート!・・僅かにユーゴゴールを右に外す・・中盤でヘディングで競り合った選手たちが血を流して治療される・・身体全体を使った「つかみ合い」の競り合い・・ギリギリのマーク合戦・・ギリギリのチャージ合戦・・フ〜〜〜

 そして「1-0」のままタイムアップ。全体的としては「順当」なユーゴの勝利ではありましたが、ノルウェーの、最後の最後まで続いた「自分主体」の粘り腰にも感動させられた湯浅でした。

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 これで、グループCの混戦模様は、もっとカオスに・・

 ユーゴが「勝ち点4」。スペインとノルウェーが「勝ち点3」。そしてスロベニアが「勝ち点1」。最終戦は、ユーゴ対スペイン、そしてスロベニア対ノルウェー(両試合いともに、日本時間で、水曜日2500時キックオフ)。全チームに、予選リーグ突破の可能性が残されています。

 チーム総合力からすれば(これを順当・・って言うんですかネ)、ユーゴスラビアとスペインなんでしょうが・・。これは見逃せない・・またまた寝ずの夜が・・




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