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「仕掛け」つづけた日本代表・・日本代表vsブラジル代表(0-2)・・(1999年3月31日)

この試合は、(ビビリ、気圧されたりすることでの消極プレーなど)心理・精神要素にほとんど左右されず、純粋に、「身体的」「技術的」「戦術的」な「実力の差」が出た試合でした。つまり、世界との最後の「出し切った実力差(僅差になっている?!)」による敗戦というわけです。その意味では、非常に「意義深い」貴重なゲームだったとすることができそうです。

 試合後の日本代表チームには、サポータースタンドから「ブーイング」が浴びせかけられました。私は、思わず心の中で「気にするナ! キミ達は立派な闘いを披露したんダ!!」と叫んでいました。

 確かに負けはしました。ただ日本代表は、ほんの一瞬の微細なプレーに勝負のカギが隠されていることを実感するなど、「学習内容の濃い」勝負を体感しました。彼らは、「2002」につながる貴重な経験を積んだのです。

 これまでの日本代表は、世界トップクラスのチームと対戦する場合、いつも「ゲーム戦術(対戦相手、その試合の目的に応じた特別なチーム戦術)」に、必要以上に左右され過ぎる傾向がありました(それって責任転嫁?!)。守備的なサッカーで、まったく積極的な見せ場を作り出せないままに惜敗・・、攻撃的に過ぎ、バランスを崩したサッカーで大敗・・などなど。

 それが、この試合での日本代表の勇者たちは、攻守に関する基本的なチーム内の決まり事である、「チーム戦術」だけをベースに、グランド全体で「バランスのとれた」積極的なサッカーを展開したのです。そこには、「ビビリ」「後のことを考えた消極性」など微塵も感じられません。選手、一人ひとりが自信と責任感をもって、「攻守の目的達成」のために全精力を傾注して「リスクにチャレンジ」し続けたのです。素晴らしい試合でした。

 ビビッたり、不安になったり、確信がもてなかったりなど、心理・精神的に充実していなければ、確実に自分の実力の半分も出し切ることはできません。

 だから、カチカチのゲーム戦術で選手たちの自由を奪えば奪うほど、心理・精神的なプレッシャーが大きくなってしまうことの方が多いというわけです(もちろん、ケースバイケースで必要なゲーム戦術を導入するのは当然ですがネ・・)。ブラジル代表にくらべれば、選手個々の実力で劣っている日本代表チームですが、この試合での彼らは、「心理的・精神的呪縛」から解き放たれたかのように、存分に自分たちの持てるチカラを十二分発揮したのです。結果は敗戦でしたが、この試合の「内容」がもたらした「自信(確信)」は、何よりも貴重な財産になったと思います。

 私は、今日のようなポジティブなコノテーション(言外に含蓄される意味)を持つ試合は、最近では(昨年の)アンダー23、対アルゼンチン戦くらいしか覚えがありません。あのゲームは、実際のチャンスを比べれば、敗戦になってもおかしくない内容でしたが、若き日本代表選手たちは、最後の最後まで「仕掛け(リスクチャレンジし)」つづけ、そして、勝利という「何ものにも代えがたい自信」を勝ち取りました。

 同様にこのブラジル戦は、日本のサッカーの「本当の実力」が確実にレベルアップしていることを「実感」できる試合でもあったのです。

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 試合ですが、特に後半は、ブラジルも調子を上げ、本気の勝負! という展開になりました。それは、日本代表の「実力の高さ」に、彼らが本気にさせられた・・といった方が正しい表現のように感じます。そして負けじと押し返す日本代表。素晴らしい・・。

 とはいっても、ブラジルとの「出し切った実力」の差は火を見るよりも明らか。それは、攻めよりも、むしろ守備において顕著でした。ブラジルは、スター揃いの攻めばかりが注目されますが、本来彼らは、守備の強いチームです。彼らの攻めにおける「ファンタジア」は、強固な守備があってこそ表現できるものなのです。

 四人で構成する最終守備ライン、フラビオ・コンセイソンとエメルソンのダブルボランチ、守備にも大車輪の活躍を見せる攻撃的ハーフ、ジュニーニョとリバウド。彼らの、ボールを中心にした「次のターゲットの絞り込み」、素晴らしいスピードとパワー、そしてクレバーな「アタック」には、何度も感嘆のため息をつかされたものです。

 そして彼らの「組織」と「個人」がうまくバランスした攻撃・・。試合開始当初は、「こねくり回し」によるボールの動きの停滞が目立っていましたが、それも時間の経過とともに大幅に改善されていきます。それは彼らが「チームになりつつある」ことの証明だったわけですが、一つの試合の中でも「成長」してしまう(本来のハイクオリティーサッカーに戻った?!)ブラジル代表の底力に、舌を巻いたものです。

 この試合での彼らのサッカーは、時差ボケ、気候変化、グランドコンディションの違いなどなどの「マイナス要素」テンコ盛りだった韓国戦とは、比べものにならないくらい高質なものだったに違いありません。それもこれも、同様に(レベル差はあったにしても・・)高質だった日本代表のサッカーが誘因になったことは言うまでもありません。

 ちょっと「負けた」日本代表を誉めすぎでしょうか・・。イヤ私は、この試合での彼らのサッカーには、結果とは関係のない、素晴らしく高密度の「ポジティブ・コノテーション」が詰め込まれていたと思うのです。

 中田ですが、最初、フラビオ・コンセイソン、エメルソンに、ハードな「受け渡しマーク」をされ、本来のチカラを出せなかった彼でしたが、それも、時間の経過とともに改善されていきます。無理をせずシンプルにパスを回すところ。ちょっとタメるところ。ドリブルや決定的パスなどで勝負を仕掛けるところ。(周りの味方とのイメージシンクロのレベルが上がるにしたがって)どんどんと彼のプレーにメリハリがついてきます。そして前半、半ば過ぎからの彼の活躍はもう世界レベル。ブラジル代表も舌を巻いたに違いありません。

 ボランチの田坂と名波も、大車輪の活躍でした。彼らの労を惜しまないチームプレーに拍手喝采です。また井原、秋田、斉藤で構成する最終守備ラインも、ラインコントロールだけではなく、最後の勝負の瞬間におけるマークの受け渡し、ポジショニングなども、全体的にはうまく機能していました。

 ただやはり相手はブラジル。ある程度強固な日本の守備ブロックではありましたが、それでも何度かは、日本選手達の「イメージ」を超えるタイミング、方向へのコンビネーションや、フリーランニング、スルーパスを決められてはいましたがネ・・。

 井原と交代した森岡ですが、(ちょっととまどい気味だった)最初の数分間を除けば、合格点を与えられるプレーぶりだったと思います。落ち着きを取り戻した後からは、何度か、ブラジルがどちらかのサイドにパスを回したにも関わらず、「その次」の逆サイドに「事前に」入り込むなどの「予測ベース守備」までも魅せていました。

 ただ攻撃陣には、作り出したチャンスの「薄さ」も含め、不満が残りました。相手は、世界のブラジルですから、そうそう簡単には突破させてくれるはずはないのですが・・。それでも、最後まで果敢に攻め続けた姿勢は賞賛に値します。この試合での彼らは、「世界のカベ」の厚さを、フランスワールドカップ同様、実感させられたに違いありません。

 世界を相手にするときには、例えば三人目のフリーランニングまでも意識した「イメージ準備」が必要だということです。一人のフリーランニング(パスを受ける動き)、一本のスルーパスで破られるほど彼らの守備ラインは弱くはないのです。

 中田からのパスを受けるために、戻り気味のフリーランニングをする中山。その瞬間、逆サイドでは、中山から中田へのダイレクトのバックパス。そしてそのパスを受けた中田からのダイレクトでのスルーパスを意識して、全力で決定的フリーランニングをスタートする相馬・・。そんな攻めのイメージが必要なのです。

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 ビビッたりせず、純粋に「出し切った実力差(僅差?!)」で敗れた日本代表。私は、真の実力が向上していることを実証した彼らを、(結果にかかわらず)誇りに思います。そして、彼らの際限のないリスクチャレンジを、「攻撃的」にモティベートしたトルシエ監督も高く評価します。

 リスクチャレンジのないところに進歩もない・・それが今回の試合のキーポイントでした。

 リスクチャレンジ・・。それは「仕掛け」とも呼ばれますが、両チームがギリギリの限界状態で仕掛け合った素晴らしい試合だったからこそ、日本代表が、実践的な「学習と評価機会」を得ることが出来たのであり、逆に、本当の意味の実力で、確実に伸びていることも実証できたのです。

 蛮勇ではないリスクチャレンジ(優れた判断力と決断力をベースにした勇気ある実行力)のないところに進歩はない・・、それは勝負の世界に限らず、どんなビジネスセクターでも通用する普遍的な概念なのです。

 これから彼らには、「ゲーム戦術」をより強く意識しなければならないホンモノの勝負が待っています。そこで「実力を出し切る」ために、今日のような制限の少ないフレンドリーマッチでの、実力を出し切った「リスク・チャレンジ」によるポジティブな体感が生かされることを願って止みません・・。




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