湯浅健二の「J」ワンポイント


1999年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第七節(1999年9月11日)

アントラーズvsレッズ(2−1)

レビュー

 レッズは、永井がケガをしているということで、ボランチに(忠実・堅実な中盤守備という意味で)土橋を入れ、ペトロヴィッチをチャンスメーカーに据えます。

 対するアントラーズは、ジーコが戻り、「自分たちのサッカー」に対する自信を取り戻しつつあります。

 上り調子のアントラーズ。負けられないレッズ。非常に興味をそそる対戦です。

 レッズでは、両サイドバックは除き、「スリーライン」の「タテのポジションチェンジ」が見られるのか・・それがテーマです。相手の守備を「驚かし、ビビらせる」ために欠かせない「攻撃の意図」。全体的に「後ろ髪を引かれる」ような、消極的・アナタ任せのプレー姿勢では、今のレッズが置かれている「心理的な悪魔のサイクル」を断ち切ることはできないのです。

 立ち上がり、アントラーズの「戦術的・心理的に堅実で大胆」なサッカーに対し、レッズのプレーからは、まだまだ「リスク・チャレンジ」の姿勢が感じられません。ア・デモス監督は、「いまレッズの選手たちに最も重要なことは、自信を取り戻すことだ・・」と試合前のインタビューで言っていたということですが、自信を取り戻すためには、「自分主体の仕掛け」が欠かせないのに・・(たとえ失敗しても、ヤレル!という確信を得ることが出来るハズ・・スタートラインの「トライ」も見えないのでは・・)

 対するアントラーズの攻撃は、ジーコという「心理的な後ろ盾」をベースに、数週間前とは格段に違う「(自信・確信をベースにした)リスク・チャレンジ」を魅せます。

 後方からのフリーキックの場面で、最前線のマジーニョを追い越してしまう相馬。中盤での攻撃の起点が出来た瞬間に、二列目から、最前線の柳沢を追い越し、レッズゴール前の「決定的スペース」を狙う小笠原・・

 内容的に、かなりのレベル差を感じる・・。残念ながら、それが私の第一印象でした。

 そんなことを感じていた前半15分。レッズのデモス監督が、ボランチの土橋を外し、攻撃的ミッドフィールダー、福永を入れ、ペトロをボランチの位置に下げます。彼も、ゲーム展開が良くないと感じていたということでしょう。このような早い段階の交代は、チームの不安をつのってしまう・・、逆にチームに対する大いなるポジティブ刺激として作用する・・、どちらに転ぶか分からないという監督の賭けでもあります。今回の「戦術的な交代」は、今の「不安増幅状態」のレッズにとってどちらにころぶ・・?!

 ただ試合展開は、交代という「刺激」がポジティブに作用したレッズのプレーの流れが良くなってきます。中盤の守備が、ペトロと石井を中心に、よりアクティブになり(かなりマークがタイトになり、早い段階でアントラーズの攻撃の芽をつぶすことができるようになってきた・・)、攻撃でも、後方からのペトロや石井、両サイドの山田、城定などの押し上げも活発になってきます。

 逆にアントラーズでは、13分にマジーニョが肉離れで退場してしまったことも大きく影響しているのでしょう。徐々に「足元サッカー」になっていってしまいます。ビスマルクが出場停止ということで、主力外国人の二人を欠いてしまったアントラーズ。この展開では、「やっぱり外国人頼り?!」なんて揶揄されてしまう・・

 それでも、「決定的な仕掛け」では、アントラーズに一日の長があると感じます。

 ある程度まではアクティブに攻め上がるレッズ。それでも、明らかなタテのポジションチェンジも見えず仕舞い・・ということで、最後の瞬間での「仕掛け」がカッタるい・・。また、サイドで「攻撃の起点」ができたときでも、ラスト・センタリングを待つ中央の選手たちに「アクション」がまったく見られません。決定的になる! と、誰でも感じる瞬間でも、決定的なフリーランニングが出てこない・・これでは・・

 逆にアントラーズ。まあ数える程度でしたが、「ココゾ!!」の瞬間における、長谷川、柳沢、はたまた二列目の小笠原、熊谷、阿部などの「仕掛けフリーランニング」には、「絶品」のニオイがあります。「パスの出し手と受け手」との「イメージ・シンクロ」レベルの高さの証明といったところ。さて、後半は・・

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 後半、10分を過ぎたあたりから、攻守にわたり、「内容」的にアントラーズがレッズを圧倒しはじめます。特に、アントラーズの左サイド(相馬)を軸にした攻撃が効果的。また、小笠原、阿部、そして熊谷の効果的な攻撃参加など、どんどんとレッズを押し込んでいきます。

 ペースを握られてしまったレッズ。逆に、攻守にわたってプレーがどんどんと消極的になっていきます。

 ここなんです、「サッカーは、もっとも顕著な心理ゲーム」だという根拠は。相手のアクティブなプレーに、攻撃がうまくいかず、うまくいかないから攻めがもっと消極的になっていく。また守備も、「読みベースの守り(インターセプト狙い=守備でのリスクチャレンジ)」の「受け身の姿勢」がチーム全体の雰囲気を支配してしまう・・。

 それには、サッカーが「不確実要素テンコ盛り」ということも大きく作用します。バスケットボールのように、「ある程度は、攻撃最後のシーンまでいく・・」わけではありませんからね。攻撃の途中で、変なカタチでボールを奪い返されてしまうことがアタマにイメージされはじめたらもう止まらない・・っていうのがサッカーなんですヨ。

 逆に、うまくいっている方のチームのプレーは、どんどんとアクティブになっていきます。それはそうです。相手守備がうまくいかないことで、自分たちの「攻撃の仕掛け」のほとんどが、自分たちの「良いイメージ」通りに運んでしまうんですからネ。そして「自信・確信レベル」が格段に向上し、攻撃がよりアクティブになるだけではなく、守備も、より「攻撃的」に、読みベースのリスクチャレンジを仕掛けていく・・ってな具合なんです。

 そんなレッズの「悪魔のサイクル(逆に相手チームにとっては『ポジティブ・サイクル』)」を断ち切るのは容易ではありません。チーム全体に「沈滞ムード」が漂っている・・。そんなネガティブな雰囲気を好転させるためには、本当に「冷や汗が出て、鳥肌が立つ」くらいのリスクに、繰り返しチャレンジしていかなければならないのです。

 でもそんなことを思っていた矢先、このゲームが「神様が演出するシナリオなきドラマ」ってな様相を呈してしまいます。

 後半25分のこと。レッズが、本当に「ワンチャンス」をモノにして先制ゴールを挙げてしまったのです。まさにそれは、センタリングを中央へ送り込んだ城定とシュートを決めた福田による「起死回生」の一発。さて、ドラマがはじまった・・

 その後、福田まで交代させて「守りきる戦術」に切り替えるレッズ。彼らのゴール前には、まったくといっていいほど決定的スペースはできません。それでも、ビックリするくらいの「落ち着き」で攻め込むアントラーズ。落ち着いていた・・といったのは、自ゴール前を厚く守るレッズの守備に対し、焦って「早すぎるタイミング」で放り込むなどといった愚鈍なことはせず(放り込んでも、「レッズ守備陣の壁」はまったく崩れませんからネ)、しっかりと中盤でボールを動かし、レッズゴール前の「本当に針の穴」というチャンスを狙い続けるのです。

 そしてそんな彼らの「我慢」が実ります。後半43分のこと。大活躍の左サイドバック、相馬から、前の「サイド・スペース」へ走り抜ける平瀬へ、ベストタイミングのタテパスが出ます。そのパスをしっかりと止め、二人のレッズディフェンダーを引きつけながら、レッズゴール前のファーサイドの『スペース』へ現れた熊谷に合わせます。素晴らしいセンタリング、素晴らしいヘディングシュート。

 相手がゴール前を固めてきたら、ロングシュートや、サイドからの正確なセンタリングが有効・・そんなセオリー通りの攻撃。素晴らしい。ゴール前を固めすぎていたレッズ。その守備ブロックの前には、逆に危険なスペースができていましたし、サイドから攻めることで、相手守備陣をサイドへ「広げ」られますからネ・・

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 レッズの、「守り切れるかも・・」という希望をうち砕く熊谷の同点シュート。ペトロヴィッチの退場劇。延長では、たしかにレッズにも惜しいチャンスはありましたが、内容的には、柳沢から熊谷、そして小笠原とわたった決勝ゴールは「順当・・」ということでした。

 レッズの「試合内容」について、先々週に「Yahoo Sports 2002 Club」で発表したコラムの内容はまだ生きている・・と感じました。彼らの「後ろ髪を引かれるサッカー」。何とか、全てを吹っ切り、自信と確信を取り戻すために(もちろん戦術的なクレバー・バックアップをベースに・・)、ぶっ倒れるまで「仕掛け」続けて欲しいモノです。

 彼らは、もう十分に「追い込まれて」いるハズなんですから・・



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