湯浅健二の「J」ワンポイント


2017年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第31節(2017年10月29日、日曜日)

 

とても良くなっている長澤和輝と、まだまだ「様子見」の矢島慎也というテーマも取り上げました・・(サンフレッチェvsレッズ、0-1)

 

レビュー
 
お〜〜っ!!

そのとき、感嘆の雄叫びが口をついた。

後半のワンシーン・・

レッズ柏木陽介が、サンフレッチェ柏好文にボールを奪われた。

次の瞬間・・

柏木陽介が、ドリブルで押し上げる柏好文を、まさに鬼の形相のフルスプリントで追いかけ、チームメイトとの協力で、柏好文によるチャンスメイクをブッ潰したのだ。

・・そう、それだよ・・そんなギリギリの意志のプレーこそが、チームに勇気を与えるんだっ!・・

心のなかで、そんなことも叫んでいたっけ。

この試合、たしかにレッズは、チカラ(チーム総合力)の差を感じさせはした。でも・・

そう、サンフレッチェが、レッズをギリギリまで追い詰めたんだよ。

それは、「降格リーグ」でサバイバル戦を闘うサンフレッチェが、キャプテンで絶対的リーダーの青山敏弘のケガにもかかわらず、ものすごい集中力で、最後の最後まで、ギリギリの局面デュエルをブチかましつづけたからに他ならなかった。

またそこには・・

だからこそ浦和レッズが、本当の意味でとても強いチームであるコトを体感し、再認識できた・・という視点もあった。

そして・・

そう、その「チームとしての強さ」の、もっとも大事なファクターが、冒頭で表現した、柏木陽介による爆発的な「意志の闘い」に象徴されていたっちゅうわけさ。

レッズの強さ・・

もちろんバックボーンには、攻守にわたるチームコンセプトが高質だという側面もある。

どのようなサッカーをやるのかという共通理解がチームのなかでしっかりとシェアされ、それをベースに、攻守にわたる個々のイメージング内容が、しっかりとシンクロしている。

でも、そのコンセプトは、あくまでもアタマのなかでの理解にしか過ぎない。

そう、そのコンセプトに命を与えるのは、選手たちの意志なんだよ。

_______

ドイツのサッカー史に燦然と輝くスーパープロコーチ、故ヘネス・ヴァイスヴァイラーが、私に、こんなコトを言った。

・・いいか、よく聞け・・

・・戦術理論のディスカッションとか、優れたトレーニング方法とか、そんなモノにうつつを抜かしているのは、ろくなヤツらじゃない・・

・・オマエは、人間の心理・精神的なメカニズムに思いを巡らせ、トライ&エラーで体感し、自分のモノにしなきゃいけない・・

・・カッコいい(カッコ良く聞こえる!?)戦術理論を、滑らかな口調で吹聴しているコーチ連中の多くは、グラウンドじゃ大した仕事ができないヤツ等なんだよ・・

・・たしかに戦術は大事だし、トレーニングも大事だ・・

・・でも、それは、誰がベンチに座っているか、誰がトレーニングをやらせているのかで、何倍も、その実効レベルに違いが出てくるモノなんだ・・

・・イレギュラーするボールを足で扱うっちゅう不確実なサッカーだからこそ、選手たちの意志こそが雌雄を分ける(唯一の!?)決定的なファクターというわけだな・・

さて・・

ということで今日は、冒頭で表現した柏木陽介の「意志のプレー」を、彼の中盤パートナーとなるべき若手&中堅選手たちのプレーコンテンツと見比べてみようと思ったわけサ。

対象になる選手は、言わずと知れた長澤和輝、そして矢島慎也。

私は、「ダゾン」しながら、彼らのプレーに・・、いや、そこで爆発すべき意志のコノテーション(言外に含蓄される意味)に、目を凝らしていた。

そう、ボールがないところで攻守ハードワークの量と質や局面デュエルの内実などなど。

そして思った。

彼らは、まだまだ甘い。

たしかに、攻守にわたって、長澤和輝がパフォームする「意志のコンテンツ」は、とても良くなっていると思う。

でも、まだまだ足りない。

前節のガンバ戦は、そのコラムで書いたとおり、長澤和輝のプレーはとても良かった。

でも、2試合つづけて先発したこの試合では、「失敗したくない・・このチャンスを失いたくない・・!?」という守りの意識が目立ち過ぎていた・・と思う。

だから、ボールに触る頻度だけじゃなく(パスを呼び込む動きが緩慢!?)、ポールを持ってからのリスクチャレンジ姿勢にも、陰りが見えていた。

攻撃でチャンスの流れを感じたら、とにかく、積極的にバランスを崩していかなきゃいけない。

タテへの仕掛けチャレンジパス&ムーブ&ダイレクトコンビネーション&(相手を引き出す!)走り抜けるフリーランニング・・等など。

ここで言うバランスとは、もちろん、ポジショニングバランスのことだよ・・念のため。

そのディスカッションについては、チャレンジではなく、例によっての「逃げの横(バック)パス」ばかりが目立っていた矢島慎也にも言える。

彼は、チーム内のポジショニングバランスを意識しているのだろうけれど、攻撃でも、守備でも、勝負所じゃ、誰もが、積極的にバランスを崩していかなきゃいけないんだよ。

また彼の場合は、守備でも、課題が山積みだ。

「マークの受け渡しを指示する・・」なんて10年早い。

矢島慎也の場合は、整ったポジショニングバランスから、もっと積極的に「人を見るマーキング」に入っていかなきゃダメなんだよ。

そう、自軍の最終ラインまでも追い越してしまうような、最終勝負のマーキングなどなど・・

もちろんソレは、相手パスレシーバーに対する(≒パスを出させる間合いという視点も含めた!)勝負のマーキングとも言える。

それがあれば、もっと頻繁に、有利な体勢で(!)局面デュエルに入ってけるだろうし、ボール奪取からショートカウンターをリードするような勝負プレーだって出来るようになるはずさ。

でも、ポジショニングバランスを過度に(!?)意識する矢島慎也は、そんな、バランスを崩すようなマーキングをしたら、空いたスペースを相手に使われてしまう・・なんて、ワケの分からないコトを言うんだろうな。

たしかに、その視点もある。でも今の彼の場合は、とにかく、積極的にバランスを崩していくような「勝負プレー」の方を、より強く意識しなきゃいけないんだよ。

そんな、とても微妙なディスカッションにこそ、サッカーの本質メカニズムが潜んでいるんだ。

チームのなかに、そんな「覚醒したイメージング」が浸透していれば、矢島慎也による、強烈な意志ベースの積極アクションで空いてしまったスペースは、ごく自然に、チームメイトが埋めてくれるものなのさ。

逆に、バランスを崩すような、矢島慎也の「忠実でしつこいマンマークの動き」があったからこそ、周りが、次のボール奪取勝負を狙いやすくなる・・とも言えるわけだ。

要は、サッカーの試合では、攻守にわたって「様子見」になってしまうコトこそが、限りない罪だということが言いたかった。

相手にシュートをブチかまされる・・っちゅう最終勝負の瞬間に、何人の選手が、そのシュートをブロックするために「最後の半歩」を伸ばし切れるか・・

それがテーマだということさ。

そう、ヘネス・ヴァイスヴァイラーが言ったようにね。

とにかく、とても良くなっている長澤和輝と、まだまだ「様子見」に過ぎている矢島慎也には、柏木陽介と武藤雄樹のハードワークを(意志の内実を)ジックリと観察し、そこから学んで欲しいと思っている筆者なのであ〜る。

へへっ・・




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最後に「告知」です。

どうなるか分からないけれど、まだ、連載をつづけています。

一つは、選択したテーマを深める「The Core Column」

そして、もう一つが、私の自伝、「My Biography」

自伝では、とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書きましょうかね。そして、もしうまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れて立ち上げた新ビジネス」や「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。

ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、できる限りアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・と思っている次第。

もちろん、トピックスのトップページに「タイトル」をレイアウトしましたので、そちらからも入っていけます。

まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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